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凶行
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「牢の女がお前に話があると言っている」
ザザはトラッカーにそう言われて騎士棟まで来た。
「おい、連れてきたぞ。話せ」
鉄格子の前に立つザザの視界に捕まえられたときのまま、着替えもしていないケリーの汚臭が鼻をついた。
尋問を理由に牢に留められているケリーは痩せこけ髪も浮浪者のようになっている。それでもその瞳に意志を感じたザザは湧き上がる怒りのまま鉄格子を拳で殴った。大きな音にケリーは体を跳ねさせ床に倒れる。
「お…い…」
トラッカーはザザの行動に目を丸くしながらもひしゃげた鉄格子に戦慄いた。 ザザはケリーに背を向け足早に離れた。
「待って!話が!子爵令嬢のことよ!!行かないで!フェリシア様のことも話す!レイモンド様のことも!話していないことが!」
必死に留めようとするケリーの言葉を無視したザザは走り出したい衝動を耐えるために強く拳を握り締める。目立たぬように足早に邸に向かう途中、ダダを見かけ口笛を鳴らして呼ぶ。
「…どうした?」
ザザの異様な雰囲気になにかを感じたダダは隣を歩きながら尋ねる。
「自由に動けるようにしておけ…姿を誤魔化せ…エルマリアの部屋に来い」
「…わかった」
ダダはここまで怒りを露わにするザザを見たことがなかった。険しい眼差しがつり上がり、歯を食い縛る頬は力み、首筋の血管は浮き上がり太い腕は微かに震えていた。
ザザから離れたダダは準備のために足早に向かう。
エルマリアの部屋の扉は鍵がかけられていた。ザザは聞こえる小さな喧騒に扉の握りを掴んで力を込めて無理やり回して壊した。取れた握りを戻し、薄く扉を開けて身を滑らせると居室の荒らされた形跡を見て寝室へ駆けた。
寝室の扉も同じように鍵がかけられザザが壊して中へ入ると上半身を剥かれたカイナの上に男が跨がり、拳を振り上げているところだった。 ザザは手加減もせずに男を蹴り上げ飛ばし、寝台で襲われているエルマリアに向かった。
「誰だ!?おま…」
エルマリアの口を押さえてドレスの中に手を入れまさぐっていた男はザザを認めた瞬間、首が反転していた。
「あんたたち…」
突然入ってきた二人の男は扉の鍵を閉め私たちに近づく。声を上げようとしたカイナに一人の男が飛び出して髪を掴み腹を殴った。
私が声を上げればよかったのに体が震えて立ち尽くすだけで迫る男の手を逃れるために寝室へ向かったのに髪を掴まれて寝台に引きずられた。
男は私を寝台に投げて覆い被さってきた。
「お前が悪いんだぞ…フェリシア様の幸せを奪うなんて…傷つけようとするなんて」
男は私の口を手で覆って、片方の手はドレスをめくり上げた。足に触れる気味の悪い男の手に暴れても、乱暴に秘所に触れて下着を掴まれた。
怖くて悔しくて気持ち悪くて涙が溢れる。ぼやける視界に男の顔が消えて頭だけ見えた。私を押さえる手も消えて跨がっていた男も消えた。
「エルマリア」
「や…や…」
「エルマリア」
「さわ…ら…」
やっと出せた声は情けないほど震えて小さかった。
「エルマリア」
止まらない涙が近づいた唇に吸われて、焦げ色の瞳と顔に走る傷痕を見つけた。
「ザ…ザ…」
「エルマリア」
「ザ…ザ…」
「ああ…」
ザザの腕が体に巻き付き私を抱き締めた。
「扉の鍵を壊した。声を上げると人が来る…耐えろ」
私はザザの体に顔を埋めて声を殺して泣いた。 泣いている間、体が浮いてザザに抱き上げられているとわかってもしがみついて泣いた。
「ザザ」
カイナの声に下を見ると使用人服を破られたカイナの上半身に目を奪われる。
「う…」
床に倒れていた男の呻く声に体が跳ねてしまった。
「エルマリア、目を閉じろ」
言葉通りに目を閉じてザザの胸に顔を向けると何かが折れる音とカイナの小さな悲鳴が聞こえた。
「カイナ、エルマリアに見せたくない。この男にタオルをかけろ…上だけでいい」
カイナの動く音が聞こえる。
「エルマリア」
私はザザを見上げる。近くにある焦げ色の瞳が真剣に見つめている。
「ザザ…カイナの…」
「見たのか?」
私は頷く。破られた服の合間から見えたカイナに乳房がなかった。
「こいつは男だ」
ザザはそう言って私の頬を伝う涙を舌で舐めた。
「カ…カイナ」
「エルマリア様…ごめ…んなさい」
カイナの弱々しい声に視線を向けると涙を流しながら私を見上げていた。
急に冴えてきた思考に洗濯下女の給金は下男より多いことが頭を過った。
「エルマリア、準備する。カイナ、誰が見張っているのかわからん…着替えはあるか?」
「向かいの部屋に…」
「タオルを抱いて出ろ。着替えたら金目の物を持て…全てだ」
「旦那様を呼ばないと…」
「カイナ、エルマリアはこの邸から出ていく」
「シモンズへ…?」
「戻らん…首都を離れる…いいか…よく聞け…お前の給金袋の中に俺の金貨を足してある」
私は驚いてザザを見上げる。ザザはカイナを見ていた。
「ザザ…?」
焦げ色の瞳が動いて私を見た。
「金はいらん…」
ザザの視線が私から扉に移り人の気配に体が強ばる。そんな私をザザの手のひらがなだめるように撫でる。
「ダダ」
ザザの声に扉に視線を移すと上級使用人の男性服を身につけカツラを被って変装したダダが大きな箱を持って寝室に入ってきた。
「…なんだよ…これ…」
「エルマリアを襲った。その箱はなんだ?」
「エルマリア様に届け物…って誤魔化すために持ってるだけだ…」
「誰か見たか?」
「ああ…下級使用人が二、三人うろついていたから叱って離したけど」
なぜダダが来るの?ザザが頼んだ?
「エルマリア、簡素な服に着替えるぞ。ダダ、その箱を置いて裏口に荷馬車を用意しろ」
「待てよ。そんな簡単に…」
「野菜屋の荷馬車が来る日だ…配達人を昏倒させて縛っておけ…俺が乗る」
「ザザ…エルマリア様を拐う気か?」
「そうだ」
ザザの言葉に驚いて見上げると焦げ色の瞳が見ていた。真剣な瞳が見ていた。
「そうだ…拐う」
また涙が溢れる。恐怖の涙じゃない…こみ上がる感情が熱い。
「カイナ、準備しろ…家の近くで下ろす…夜中前に…女の楽園に来い」
「カイナも連れていくの?」
「女の楽園で変装する…お前と俺が夫婦でカイナと弟妹は子供だ」
こんな状況なのにザザの発想に笑ってしまう。
「ふふっ無理があるわ」
「エルマリア…こいつに情があるだろ…置いていくと気にするだろ」
確かにそうよ。この状況を知られたら騒ぎどころじゃない。侯爵にはせめて父の計画を教える手紙でも書きたかったけど…そんな時間はなさそうだわ。ここで侯爵を呼べば私の警護が厳しくなる…今しかないのね。
「カイナ、巻き込んだわ…ごめんなさいね…でも…」
「エルマリア様、行きます…一緒に」
カイナに手を伸ばし殴られて少し腫れた頬に触れる。
「ええ…」
「ダダ、カイナの荷物を荷馬車に積め。向かいの部屋に俺の荷物がある。その中の宝飾品を寝台にいる男の服に入れてくれ。他は残していい」
「本気かよ…ザザ」
ダダの言いたいことはわかるわ…ザザは追われる…罪人として追われる…
「ああ…エルマリアと共にいるためだ」
ザザはトラッカーにそう言われて騎士棟まで来た。
「おい、連れてきたぞ。話せ」
鉄格子の前に立つザザの視界に捕まえられたときのまま、着替えもしていないケリーの汚臭が鼻をついた。
尋問を理由に牢に留められているケリーは痩せこけ髪も浮浪者のようになっている。それでもその瞳に意志を感じたザザは湧き上がる怒りのまま鉄格子を拳で殴った。大きな音にケリーは体を跳ねさせ床に倒れる。
「お…い…」
トラッカーはザザの行動に目を丸くしながらもひしゃげた鉄格子に戦慄いた。 ザザはケリーに背を向け足早に離れた。
「待って!話が!子爵令嬢のことよ!!行かないで!フェリシア様のことも話す!レイモンド様のことも!話していないことが!」
必死に留めようとするケリーの言葉を無視したザザは走り出したい衝動を耐えるために強く拳を握り締める。目立たぬように足早に邸に向かう途中、ダダを見かけ口笛を鳴らして呼ぶ。
「…どうした?」
ザザの異様な雰囲気になにかを感じたダダは隣を歩きながら尋ねる。
「自由に動けるようにしておけ…姿を誤魔化せ…エルマリアの部屋に来い」
「…わかった」
ダダはここまで怒りを露わにするザザを見たことがなかった。険しい眼差しがつり上がり、歯を食い縛る頬は力み、首筋の血管は浮き上がり太い腕は微かに震えていた。
ザザから離れたダダは準備のために足早に向かう。
エルマリアの部屋の扉は鍵がかけられていた。ザザは聞こえる小さな喧騒に扉の握りを掴んで力を込めて無理やり回して壊した。取れた握りを戻し、薄く扉を開けて身を滑らせると居室の荒らされた形跡を見て寝室へ駆けた。
寝室の扉も同じように鍵がかけられザザが壊して中へ入ると上半身を剥かれたカイナの上に男が跨がり、拳を振り上げているところだった。 ザザは手加減もせずに男を蹴り上げ飛ばし、寝台で襲われているエルマリアに向かった。
「誰だ!?おま…」
エルマリアの口を押さえてドレスの中に手を入れまさぐっていた男はザザを認めた瞬間、首が反転していた。
「あんたたち…」
突然入ってきた二人の男は扉の鍵を閉め私たちに近づく。声を上げようとしたカイナに一人の男が飛び出して髪を掴み腹を殴った。
私が声を上げればよかったのに体が震えて立ち尽くすだけで迫る男の手を逃れるために寝室へ向かったのに髪を掴まれて寝台に引きずられた。
男は私を寝台に投げて覆い被さってきた。
「お前が悪いんだぞ…フェリシア様の幸せを奪うなんて…傷つけようとするなんて」
男は私の口を手で覆って、片方の手はドレスをめくり上げた。足に触れる気味の悪い男の手に暴れても、乱暴に秘所に触れて下着を掴まれた。
怖くて悔しくて気持ち悪くて涙が溢れる。ぼやける視界に男の顔が消えて頭だけ見えた。私を押さえる手も消えて跨がっていた男も消えた。
「エルマリア」
「や…や…」
「エルマリア」
「さわ…ら…」
やっと出せた声は情けないほど震えて小さかった。
「エルマリア」
止まらない涙が近づいた唇に吸われて、焦げ色の瞳と顔に走る傷痕を見つけた。
「ザ…ザ…」
「エルマリア」
「ザ…ザ…」
「ああ…」
ザザの腕が体に巻き付き私を抱き締めた。
「扉の鍵を壊した。声を上げると人が来る…耐えろ」
私はザザの体に顔を埋めて声を殺して泣いた。 泣いている間、体が浮いてザザに抱き上げられているとわかってもしがみついて泣いた。
「ザザ」
カイナの声に下を見ると使用人服を破られたカイナの上半身に目を奪われる。
「う…」
床に倒れていた男の呻く声に体が跳ねてしまった。
「エルマリア、目を閉じろ」
言葉通りに目を閉じてザザの胸に顔を向けると何かが折れる音とカイナの小さな悲鳴が聞こえた。
「カイナ、エルマリアに見せたくない。この男にタオルをかけろ…上だけでいい」
カイナの動く音が聞こえる。
「エルマリア」
私はザザを見上げる。近くにある焦げ色の瞳が真剣に見つめている。
「ザザ…カイナの…」
「見たのか?」
私は頷く。破られた服の合間から見えたカイナに乳房がなかった。
「こいつは男だ」
ザザはそう言って私の頬を伝う涙を舌で舐めた。
「カ…カイナ」
「エルマリア様…ごめ…んなさい」
カイナの弱々しい声に視線を向けると涙を流しながら私を見上げていた。
急に冴えてきた思考に洗濯下女の給金は下男より多いことが頭を過った。
「エルマリア、準備する。カイナ、誰が見張っているのかわからん…着替えはあるか?」
「向かいの部屋に…」
「タオルを抱いて出ろ。着替えたら金目の物を持て…全てだ」
「旦那様を呼ばないと…」
「カイナ、エルマリアはこの邸から出ていく」
「シモンズへ…?」
「戻らん…首都を離れる…いいか…よく聞け…お前の給金袋の中に俺の金貨を足してある」
私は驚いてザザを見上げる。ザザはカイナを見ていた。
「ザザ…?」
焦げ色の瞳が動いて私を見た。
「金はいらん…」
ザザの視線が私から扉に移り人の気配に体が強ばる。そんな私をザザの手のひらがなだめるように撫でる。
「ダダ」
ザザの声に扉に視線を移すと上級使用人の男性服を身につけカツラを被って変装したダダが大きな箱を持って寝室に入ってきた。
「…なんだよ…これ…」
「エルマリアを襲った。その箱はなんだ?」
「エルマリア様に届け物…って誤魔化すために持ってるだけだ…」
「誰か見たか?」
「ああ…下級使用人が二、三人うろついていたから叱って離したけど」
なぜダダが来るの?ザザが頼んだ?
「エルマリア、簡素な服に着替えるぞ。ダダ、その箱を置いて裏口に荷馬車を用意しろ」
「待てよ。そんな簡単に…」
「野菜屋の荷馬車が来る日だ…配達人を昏倒させて縛っておけ…俺が乗る」
「ザザ…エルマリア様を拐う気か?」
「そうだ」
ザザの言葉に驚いて見上げると焦げ色の瞳が見ていた。真剣な瞳が見ていた。
「そうだ…拐う」
また涙が溢れる。恐怖の涙じゃない…こみ上がる感情が熱い。
「カイナ、準備しろ…家の近くで下ろす…夜中前に…女の楽園に来い」
「カイナも連れていくの?」
「女の楽園で変装する…お前と俺が夫婦でカイナと弟妹は子供だ」
こんな状況なのにザザの発想に笑ってしまう。
「ふふっ無理があるわ」
「エルマリア…こいつに情があるだろ…置いていくと気にするだろ」
確かにそうよ。この状況を知られたら騒ぎどころじゃない。侯爵にはせめて父の計画を教える手紙でも書きたかったけど…そんな時間はなさそうだわ。ここで侯爵を呼べば私の警護が厳しくなる…今しかないのね。
「カイナ、巻き込んだわ…ごめんなさいね…でも…」
「エルマリア様、行きます…一緒に」
カイナに手を伸ばし殴られて少し腫れた頬に触れる。
「ええ…」
「ダダ、カイナの荷物を荷馬車に積め。向かいの部屋に俺の荷物がある。その中の宝飾品を寝台にいる男の服に入れてくれ。他は残していい」
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ダダの言いたいことはわかるわ…ザザは追われる…罪人として追われる…
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