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第一章:麻雀部への勧誘

第7話:名刺代わりの親ッパネ

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トン1局。和弥の起家チーチャでスタート。ドラは三筒。

(中々軽い手が入ったな)

 和弥は配牌ハイパイ三向聴サンシャンテンである。しかし4巡目。

「リーチ!」

 早くも今日子が先制リーチを仕掛けてきた。和弥がツモって来たのは三萬である。

「………」

 一瞬だが、今日子を含めた対局者全員が真顔になる。和弥の打牌選択は何と、ドラの三筒だったからだ。

「い、一発目にドラ捨てる、普通………? アンタ実は素人とかだったりする?」

 今日子は呆れながらも、作り笑いを浮かべた表情で訪ねる。

「いや通るんだろ? 実際ロン宣言もぇじゃねえか」

 後ろで見ていた綾乃も、この打牌には少々驚いていた。

(私なら現物の二筒を切って三筒は雀頭ジャントウ固定だけど………。何か理由があるのかな?)

 しかし和弥がドラを強打したのは、やけくそでもヤマカンでも何でもない。

(その捨て牌で早いリーチだ。典型的な七対子チートイだろ。この女がホウレン草とかってゲームの十段だってんなら、多少なりと麻雀は知ってる訳だ。だったらドラ単騎はない。第一打がドラ表な以上、ドラはあったとしても対子なはずだ)

 6巡目。和弥は山に手を伸ばす。

(それにドラを雀頭に固定すると、五・八索と一・四萬しか入り目がないだろ。
 こっちなら五・六・七・八索に一・ニ・三・四・五・六萬でテンパイだ。一・四萬以外ならタンピンがつく)

 ツモ牌を確認すると、二萬だった。

(ほら来た)

 これで雀頭が出来上がる。

「追っかけリーチ」

 リーチ棒を置くと同時に『リーチデス』という電子音が部室に鳴り響き、今度は今日子の顔が引きつったのが分かった。
 その今日子が一発で掴んだのは、八索である。

「どうしたんだ? ツモアガリじゃないならさっさと捨てろよ」

 苦虫を噛み潰したような表情で、今日子はそっと八索をホーに置いた。

「ロン。メンタンピン・一発・ドラ1…」

 裏ドラを確認する和弥。裏ドラ表示牌は六索。すなわち七索である。

「裏も一丁。18,000インパチだな」

 いきなりの親ッパネ放銃である。18,000点を和弥に払いながら、なるべく無表情を装っているつもりの今日子。
 が、開始早々親ッパネを振り込み気が動転しているのは小百合、由香、そして綾乃と誰の目にも明らかだった。

(やるじゃん、この子………。確かに見え見えの七対子だったとはいえ、自信を持ってかけたリーチをかわされ、逆に和了アガられる………。
 しかも1,000点や2,000点の安い手じゃないから、余計に心にキテるだろうね今日子ちゃん………)

 和弥の連荘レンチャンとなり、トン1局一本場。ドラは一筒。

「ロン。5,800ゴッパの一本場で6,100。十段さんが飛んで終了ラストだな」

 またも今日子が振り込んでしまい、1回戦目は5分足らずで終了してしまった。

(北条さん、かなり動揺しているわね………。あの捨て牌で索子ソーズの上を捨てるなんて………。竜ヶ崎くんは2巡続けてツモ切り。冷静なら聴牌テンパイ気配に気づくでしょうに)

 小百合も、冷たい視線を今日子に送らざるを得なかった。

「りゅ、竜ヶ崎くん。カフェ・オレのお替りはいる?」

 流石に今日子の怒りが爆発寸前なのが分かったのだろう。間をおくかのように、綾乃がコーナーに置かれたカップを回収する。

「いただきます」

 カップに注がれた新しいカフェ・オレを一口飲みながら、和弥は悔しさのあまり怒りに震える今日子に確認を取った。

「どうするんだ? 動画にして配信するんだろ? 2回戦目行くか?」

「と、当然でしょっ!」

(うーん。鮮やかすぎて、この対局だけじゃ実力は計れないなあ………)

 部長として部員の長所・短所は把握しておきたい。良い部分は伸ばし、不味い部分は矯正していかなくてはならない。全国の強豪校のトッププレイヤーに立ち向かうには、中途半端な強さでは通用しないのだ。
 どうしたものか、と悩んでいる綾乃を見て小百合が察したのだろう。

「部長。今度は私が見学して構わないでしょうか?」

「えぇ、交代しましょ。私も実際に彼と対局してみたかったし」

 かくして綾乃のゲーミングチェアには、今度は小百合は座る事になった。
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