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第一章:麻雀部への勧誘
第8話:圧勝
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2回戦目の東1局。ドラは二萬。
小百合が抜けた対面には綾乃が座り、今度は先ほど和弥に飛ばされた今日子が起家でスタート。
7巡目。早くも和弥の一向聴。
(三索ツモ………。567の三色を考えて、普通は三筒切りだけど…。三筒切りなら受け入れは四七萬・五八筒・二五八索の7種)
一体和弥がどうするのかを小百合も興味深く後ろから見ていたが、和弥が選択したのは打・四萬だった。
(なるほど………四萬切りなら、受け入れは三四五八筒・ニ三四五六七八索の11種。
七萬はすでに2枚見えているし、北条さんは萬子染め。持たれてる可能性が高いわ。竜ヶ崎くんは私と同じ、牌効率重視派なのね)
「發ポンッ!!」
対面の綾乃がすかさず、上家の今日子の發を鳴いた。
次に和弥がツモったのは三筒だった。これで雀頭が完成し聴牌する。
(ナイスポン。タテに伸びてくれた。三筒残して正解だったぜ)
迷わずリーチにいく和弥。
「リーチ」
「あらら。余計な事しちゃったかな………」
綾乃は若干だが、苦笑いを浮かべた。愚形待ちだが彼女もテンパイである。
ノミ手だが退くべきかどうか。
(まだ東1局だし、ラス親は私。ここは無理する場面じゃないね)
綾乃は一応静観の構えを取った。
しかし2巡後───
「ツモ」
競り勝ったのは三面待ちの和弥だった。裏ドラを確認すると、表示牌は三索。すなわち裏ドラは四索である。
「メンタンピン・ツモ・赤1。裏も乗って3,000・6,000」
投げ捨てるように、6,000点分の点棒を和弥の前に置く今日子。
一つ一つの仕草が和弥に“情報”を提供していくのに、対局者たちは気が付いてなかった。
「アンタ、さっきからタンピン系ばっかりね。他の役を知らないの?」
「でもハネ満なのは事実だろ」
和弥は表情一つ変えず、ハネ満分の点棒を無造作に雀卓の点棒用引き出しにしまい込む。
(ホウレン草とやらの十段って割には、時代遅れなこと言ってんなこのデカパイ女………。赤有りなんて役より好形待ちかどうかだろうが)
どうやら今日子には小百合も同じような感情を持っているようで、今日子の“負け惜しみ”に小百合も顔を顰めた。
「………三色よりも、三面張優先なんだ。あたしならその手は三色狙っていくけどねー」
手牌を収納口に落としながら、上家の由香もボヤいた。
(だからそんな前衛的な麻雀に興味ねぇよ………。今のハネ満で、まずは先制パンチ成功だな)
東2局。ドラは七索。親は和弥である。
「ポン」
開始早々の和弥の白の一鳴きに、対局者は全員少々驚いた表情を浮かべた。
「チー」
今度は七・八萬の両面塔子を構わず九萬チーである。
「も、もう両面鳴きなの。焦ってるのアナタ?」
しかし焦っているのは、和弥以外の3人の対局者だった。
(もう2メンツ晒し!? )
(リーチリーチうるさいこの男、こんな早仕掛けもするのっ!?)
そして7巡目。
「ツモ。白・ドラドラ・赤。4,000オール」
「両面を鳴きとか、ヌルイ麻雀も打つんだねアナタ。あたしならその手こそ、面前でじっくり仕上げるけど」
「そうかい」
今日子の挑発にも、和弥は興味無さそうに点棒をしまった。
(バーカ。その俺の麻雀に毟られっぱなしなのはテメェらだろう。鳴いても親満確定なんだ。さっさと仕上げるに限るだろうが)
南1局。卓から競り上がる牌を見ながら、和弥は確信する。
(対面の部長さん以外の2人の雀力は完全に分かった。金賭けた麻雀だったら狩り放題なのにな)
その後も和弥の独走状態が続いた。
「ツモ。700・1,300」
リーチをかけていたラス親の綾乃が一瞬渋い顔になった。間違いなく、トップ逆転の足掛かりになる一手を張っていたのだろう。
危険牌を掴んだらオリるつもりだったが、何とかピンヅモ・ドラ1で蹴る事が出来た。
「………あと30分だね、最終下校時間まで。どうする? 今日はこれでお開きにしておく?」
「俺はもう上がらせてくれ。帰る支度とかすりゃ、30分なんてとっくに過ぎるだろうし」
初対決で和弥に手ひどく負けた今日子は、納得していないかのように和弥を睨みつける。『鳳凰荘』の十段であるプライドを傷つけられ、相当な屈辱であったようだ。
その今日子の視線に気づいたのであろう。しかし和弥はこの手の敗者に、労いの言葉などかけるつもりはない。
「あンた、ホウレン草とやらで俺のオヤジなんていいとこ五段とかぬかしやがったな?
オヤジで五段なら、あンた本当は二級くらいだろ?」
「ふざけないでっ! アナタに鳳凰荘で十段になるのがどれだけの事か………」
思わず椅子から立ち上がった今日子だが、和弥は見向きもせず学生服の第2ボタンを閉め直す。
「そうか。あンた程度で十段になれるとか、よほどヘボしかいないゲームなんだな」
立川南の麻雀部の部室内が、ここまで空気が悪くなったのは設立以来初めての事だった。
「ま、まあまあ、2人とも」
慌てて仲裁に止める綾乃。しかしお構い無しに帰ろうとする和弥を、もう一人止める人物がいた。
「待って竜ヶ崎くん。帰る前に一つだけ教えてくれないかしら?」
椅子から立ち上がった小百合である。
小百合が抜けた対面には綾乃が座り、今度は先ほど和弥に飛ばされた今日子が起家でスタート。
7巡目。早くも和弥の一向聴。
(三索ツモ………。567の三色を考えて、普通は三筒切りだけど…。三筒切りなら受け入れは四七萬・五八筒・二五八索の7種)
一体和弥がどうするのかを小百合も興味深く後ろから見ていたが、和弥が選択したのは打・四萬だった。
(なるほど………四萬切りなら、受け入れは三四五八筒・ニ三四五六七八索の11種。
七萬はすでに2枚見えているし、北条さんは萬子染め。持たれてる可能性が高いわ。竜ヶ崎くんは私と同じ、牌効率重視派なのね)
「發ポンッ!!」
対面の綾乃がすかさず、上家の今日子の發を鳴いた。
次に和弥がツモったのは三筒だった。これで雀頭が完成し聴牌する。
(ナイスポン。タテに伸びてくれた。三筒残して正解だったぜ)
迷わずリーチにいく和弥。
「リーチ」
「あらら。余計な事しちゃったかな………」
綾乃は若干だが、苦笑いを浮かべた。愚形待ちだが彼女もテンパイである。
ノミ手だが退くべきかどうか。
(まだ東1局だし、ラス親は私。ここは無理する場面じゃないね)
綾乃は一応静観の構えを取った。
しかし2巡後───
「ツモ」
競り勝ったのは三面待ちの和弥だった。裏ドラを確認すると、表示牌は三索。すなわち裏ドラは四索である。
「メンタンピン・ツモ・赤1。裏も乗って3,000・6,000」
投げ捨てるように、6,000点分の点棒を和弥の前に置く今日子。
一つ一つの仕草が和弥に“情報”を提供していくのに、対局者たちは気が付いてなかった。
「アンタ、さっきからタンピン系ばっかりね。他の役を知らないの?」
「でもハネ満なのは事実だろ」
和弥は表情一つ変えず、ハネ満分の点棒を無造作に雀卓の点棒用引き出しにしまい込む。
(ホウレン草とやらの十段って割には、時代遅れなこと言ってんなこのデカパイ女………。赤有りなんて役より好形待ちかどうかだろうが)
どうやら今日子には小百合も同じような感情を持っているようで、今日子の“負け惜しみ”に小百合も顔を顰めた。
「………三色よりも、三面張優先なんだ。あたしならその手は三色狙っていくけどねー」
手牌を収納口に落としながら、上家の由香もボヤいた。
(だからそんな前衛的な麻雀に興味ねぇよ………。今のハネ満で、まずは先制パンチ成功だな)
東2局。ドラは七索。親は和弥である。
「ポン」
開始早々の和弥の白の一鳴きに、対局者は全員少々驚いた表情を浮かべた。
「チー」
今度は七・八萬の両面塔子を構わず九萬チーである。
「も、もう両面鳴きなの。焦ってるのアナタ?」
しかし焦っているのは、和弥以外の3人の対局者だった。
(もう2メンツ晒し!? )
(リーチリーチうるさいこの男、こんな早仕掛けもするのっ!?)
そして7巡目。
「ツモ。白・ドラドラ・赤。4,000オール」
「両面を鳴きとか、ヌルイ麻雀も打つんだねアナタ。あたしならその手こそ、面前でじっくり仕上げるけど」
「そうかい」
今日子の挑発にも、和弥は興味無さそうに点棒をしまった。
(バーカ。その俺の麻雀に毟られっぱなしなのはテメェらだろう。鳴いても親満確定なんだ。さっさと仕上げるに限るだろうが)
南1局。卓から競り上がる牌を見ながら、和弥は確信する。
(対面の部長さん以外の2人の雀力は完全に分かった。金賭けた麻雀だったら狩り放題なのにな)
その後も和弥の独走状態が続いた。
「ツモ。700・1,300」
リーチをかけていたラス親の綾乃が一瞬渋い顔になった。間違いなく、トップ逆転の足掛かりになる一手を張っていたのだろう。
危険牌を掴んだらオリるつもりだったが、何とかピンヅモ・ドラ1で蹴る事が出来た。
「………あと30分だね、最終下校時間まで。どうする? 今日はこれでお開きにしておく?」
「俺はもう上がらせてくれ。帰る支度とかすりゃ、30分なんてとっくに過ぎるだろうし」
初対決で和弥に手ひどく負けた今日子は、納得していないかのように和弥を睨みつける。『鳳凰荘』の十段であるプライドを傷つけられ、相当な屈辱であったようだ。
その今日子の視線に気づいたのであろう。しかし和弥はこの手の敗者に、労いの言葉などかけるつもりはない。
「あンた、ホウレン草とやらで俺のオヤジなんていいとこ五段とかぬかしやがったな?
オヤジで五段なら、あンた本当は二級くらいだろ?」
「ふざけないでっ! アナタに鳳凰荘で十段になるのがどれだけの事か………」
思わず椅子から立ち上がった今日子だが、和弥は見向きもせず学生服の第2ボタンを閉め直す。
「そうか。あンた程度で十段になれるとか、よほどヘボしかいないゲームなんだな」
立川南の麻雀部の部室内が、ここまで空気が悪くなったのは設立以来初めての事だった。
「ま、まあまあ、2人とも」
慌てて仲裁に止める綾乃。しかしお構い無しに帰ろうとする和弥を、もう一人止める人物がいた。
「待って竜ヶ崎くん。帰る前に一つだけ教えてくれないかしら?」
椅子から立ち上がった小百合である。
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