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第二章:いざ、5人揃って
第18話:1対3
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全員久我崎高校内に入るとスリッパに履き替え、久我崎麻雀部の部室に向かう。
「立川南も綺麗だけど、ここも綺麗だねー」
大理石のような廊下に、由香も思わず関心する。
「まあ、久我崎は元々お嬢様学校だったからね。校長や理事長もヤリ手だし、保護者もみんな超一流揃いよ」
麗美が自慢げに言う。どうやら学校の事は熟知しているようだ。
部室の前に来ると、麗美はノックもせずにドアを開ける。中では9人の部員が既に準備を始めていたようだ。立川南と同じように空き教室を使っているが、雀卓は2台だ。
男子が4人、女子が5人だった。一人の男子を除いて、全員久我崎の制服を着ている。
その唯一私服を着た茶髪の男子生徒が、今日子をジッと見ていた。
その視線に気づいた今日子。
「………あれ。ひょっとしてKyokoさん?」
「あ、はい。そうですけど」
その瞬間、男は大喜びする。
「やっぱり! いつも動画見てますよ! 俺、『グリーンかりんとう』です!」
「………………うそおおおおおっ!? グリかりさん、久我崎の生徒だったの!?」
今日子の驚き方は尋常ではない。
しかし和弥も小百合も由香も綾乃も、そして龍子も。『グリーンかりんとう』なんて知らない人物だ。
ということは、今日子のプレイしているゲーム『鳳凰荘』関連の人間なのは、安易に察しが付く。全員今日子から目を背けていたが、頼みもしないのに今日子はその茶髪の男子生徒を、立川南の麻雀部員の前に連れて来た。
「みんなに紹介するね。このグリーンかりんとうさん!『鳳凰荘』でまだ3人しかいない天上位の一人!」
予想通りだった。今日子にとっては雲の上の人かも知れないが、他の部員達にはどうでもいい話である。
「あ……どうも。ここの副部長やってます、筒井吾郎です。『鳳凰荘』ってゲームじゃグリーンかりんとうってハンドルネーム使ってます」
その男の喋り方は、どこか歯切れの悪いものだった。ただ、今日子に紹介されまんざらでもない、という表情をしている。
「グリかりんとうさんの強さはね、あたしが保証する! これまで5回打ったけど一度も順位上回れなかったんだから! マジで天上位は伊達じゃないよ!」
(オメー程度、そりゃ誰だって勝てるだろ………)
2度打って今日子の雀力を知っている和弥は、心底呆れていた。
「さて、そろそろいいかな?」
龍子が4人の前に立ち、パンパンと手を叩いた。
「私達は今日、東東京地区の強豪である、久我崎とトレーニングマッチにきたんだ。おしゃべりをしに来たんじゃないぞ?」
まるで保護者のように4人に促す龍子だった。どうやら久我崎の生徒も立川南が今年団体戦に出る事は知っているらしく、少し険しい顔をしていた。
ただ、逆に「舐めてる」といった空気はない。仮にも強豪校である久我崎とトレマにきたのだ。「単に5人揃った」というだけではない、自信があるのだろう。
「おっと、そうだった! ごめんなさいねみんな! よし、早速打ってみようか。ルールは立川南に合わせるよ?」
「うーん、それでもウチが雀卓2卓にそれぞれの部員が2名づつだとしても、ウチが一人余っちゃうねえ」
自分から騒いでおきながら自己完結する今日子に、大袈裟に腕を組んだポーズを取る綾乃。
「じゃあ、俺が終わった卓に入るぜ先輩。そちらさん余った6人のウチ、3人が入って構わないぜ?」
声の主は案の定、和弥だった。
「へえ……。1対3でもOKつまり、ってこと?」
「まーね」
ここで少し和やかなムードになった、と綾乃が思ったが甘かった。
「じゃあその時グリかりさん入ったら? この人、伝説の雀士の息子らしいから」
今日子の余計な一言が入る。場の空気が凍り付いたようだった。
(自分じゃ竜ヶ崎くんに勝てないからって、さらに段位の上の人に倒してもらう気なのね北条さん………)
(ちょっとぉ! どっちの味方なのよ今日子!?)
内心憤った小百合と由香だが、綾乃と麗美の印象は全く違っていた。
(ほうほう。1対3の逆境でどれだけできるのか…)
(お手並み拝見と行こうかな)
和弥からすれば、このトレマは単なる余興と考えていた。来た目的も、麗美と打つためである。
しかし、こうなっては話は違う。
同じ立川南の麻雀部員でありながら、今日子は和弥に惨めな姿を晒させる気満々なのだ。
相手が何であろうと関係ない。ただ自分を選んでくれた小百合と綾乃と龍子に、恥をかかせない事だけを考えていた。
「じゃあそうしようか!」
麗美と目があった綾乃は、和弥の申し出を受ける事にした。
「立川南も綺麗だけど、ここも綺麗だねー」
大理石のような廊下に、由香も思わず関心する。
「まあ、久我崎は元々お嬢様学校だったからね。校長や理事長もヤリ手だし、保護者もみんな超一流揃いよ」
麗美が自慢げに言う。どうやら学校の事は熟知しているようだ。
部室の前に来ると、麗美はノックもせずにドアを開ける。中では9人の部員が既に準備を始めていたようだ。立川南と同じように空き教室を使っているが、雀卓は2台だ。
男子が4人、女子が5人だった。一人の男子を除いて、全員久我崎の制服を着ている。
その唯一私服を着た茶髪の男子生徒が、今日子をジッと見ていた。
その視線に気づいた今日子。
「………あれ。ひょっとしてKyokoさん?」
「あ、はい。そうですけど」
その瞬間、男は大喜びする。
「やっぱり! いつも動画見てますよ! 俺、『グリーンかりんとう』です!」
「………………うそおおおおおっ!? グリかりさん、久我崎の生徒だったの!?」
今日子の驚き方は尋常ではない。
しかし和弥も小百合も由香も綾乃も、そして龍子も。『グリーンかりんとう』なんて知らない人物だ。
ということは、今日子のプレイしているゲーム『鳳凰荘』関連の人間なのは、安易に察しが付く。全員今日子から目を背けていたが、頼みもしないのに今日子はその茶髪の男子生徒を、立川南の麻雀部員の前に連れて来た。
「みんなに紹介するね。このグリーンかりんとうさん!『鳳凰荘』でまだ3人しかいない天上位の一人!」
予想通りだった。今日子にとっては雲の上の人かも知れないが、他の部員達にはどうでもいい話である。
「あ……どうも。ここの副部長やってます、筒井吾郎です。『鳳凰荘』ってゲームじゃグリーンかりんとうってハンドルネーム使ってます」
その男の喋り方は、どこか歯切れの悪いものだった。ただ、今日子に紹介されまんざらでもない、という表情をしている。
「グリかりんとうさんの強さはね、あたしが保証する! これまで5回打ったけど一度も順位上回れなかったんだから! マジで天上位は伊達じゃないよ!」
(オメー程度、そりゃ誰だって勝てるだろ………)
2度打って今日子の雀力を知っている和弥は、心底呆れていた。
「さて、そろそろいいかな?」
龍子が4人の前に立ち、パンパンと手を叩いた。
「私達は今日、東東京地区の強豪である、久我崎とトレーニングマッチにきたんだ。おしゃべりをしに来たんじゃないぞ?」
まるで保護者のように4人に促す龍子だった。どうやら久我崎の生徒も立川南が今年団体戦に出る事は知っているらしく、少し険しい顔をしていた。
ただ、逆に「舐めてる」といった空気はない。仮にも強豪校である久我崎とトレマにきたのだ。「単に5人揃った」というだけではない、自信があるのだろう。
「おっと、そうだった! ごめんなさいねみんな! よし、早速打ってみようか。ルールは立川南に合わせるよ?」
「うーん、それでもウチが雀卓2卓にそれぞれの部員が2名づつだとしても、ウチが一人余っちゃうねえ」
自分から騒いでおきながら自己完結する今日子に、大袈裟に腕を組んだポーズを取る綾乃。
「じゃあ、俺が終わった卓に入るぜ先輩。そちらさん余った6人のウチ、3人が入って構わないぜ?」
声の主は案の定、和弥だった。
「へえ……。1対3でもOKつまり、ってこと?」
「まーね」
ここで少し和やかなムードになった、と綾乃が思ったが甘かった。
「じゃあその時グリかりさん入ったら? この人、伝説の雀士の息子らしいから」
今日子の余計な一言が入る。場の空気が凍り付いたようだった。
(自分じゃ竜ヶ崎くんに勝てないからって、さらに段位の上の人に倒してもらう気なのね北条さん………)
(ちょっとぉ! どっちの味方なのよ今日子!?)
内心憤った小百合と由香だが、綾乃と麗美の印象は全く違っていた。
(ほうほう。1対3の逆境でどれだけできるのか…)
(お手並み拝見と行こうかな)
和弥からすれば、このトレマは単なる余興と考えていた。来た目的も、麗美と打つためである。
しかし、こうなっては話は違う。
同じ立川南の麻雀部員でありながら、今日子は和弥に惨めな姿を晒させる気満々なのだ。
相手が何であろうと関係ない。ただ自分を選んでくれた小百合と綾乃と龍子に、恥をかかせない事だけを考えていた。
「じゃあそうしようか!」
麗美と目があった綾乃は、和弥の申し出を受ける事にした。
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