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第三章:地区予選へ

第30話:混乱

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「こんにちはー」

 紗枝を入れてこれから打とうかという時に、数日ぶりに今日子が顔を出した。

「………あら、久しぶりね北条さん。病欠かと思ったわ」

 悪びれた様子もない今日子に、思わず皮肉を言い放つ小百合。

「別に。鳳凰荘の大会があっただけよ。大体そこの男だって毎日は顔出さないじゃん」

 和弥を指さし、平然とした態度で言い返す今日子。言われるのは想定内だったのだろう。

(や、やっぱり部に入るの辞めようかな……)

 意気消沈する紗枝に、綾乃が明るくフォローを入れる。

「大丈夫! そのうち楽しくなってくるから」

「あ、はい……」

 問題は今日子もきたせいで、6人となってしまった事である。

「じゃあ私が抜けるていいかしら。中野さんの打ち筋を見てみたいし」

「じゃあ、私も抜けるね」

 初戦は小百合と綾乃が抜ける事になった。

「あの……西浦先輩は去年のU-16のチャンピオンなんですよね」

 後ろで見ている小百合に、紗枝が不安そうに尋ねる。

「ええ。知っていたなんて光栄だわ」

「は、はい! よろしくお願いします!」

 こうして1回戦目が開始される。起家チーチャは今日子。ドラは和弥の風牌である西シャ
 和弥にはひどい腐った配牌が入った。

(これは勝負出来る手じゃないわ。手なりで打って危険な局面なら普通にオリる手よね…)

 綾乃は心底思った。ところが……。和弥は平然とチュンを切った。

「ぽ、ポンッ!」

 早々と中を鳴く今日子。

「ちょっと今日子。親が早々と一鳴き?」

 北家の由香は驚くが、今日子が躊躇ちゅうちょなく切った牌がペーなのを見て、和弥は即座に悟った。

(早くも壊れたな………。単なる焦った仕掛けだ。
 多分中の対子があっただけで、こいつの手は俺の手と同じくらいバラバラだろう)

 結局この局は由香と紗枝が聴牌テンパイだが、和弥と今日子はノーテンに終わる。
 一方の今日子は、まだ和弥の実力を認められずにいた。

(こ、この程度の男、鳳凰荘にはいくらでもいるわ………)

 東2局一本場。
 親は紗枝で、ドラは三索である。和弥の配牌はまたしてもパッとしない。

(相変わらず冷えきった配牌だな。結構結構)

 ゆっくりと、和弥は第一ツモに手を伸ばした。
 手も良くないし、この局はまずは様子見……と思った和弥だったが。
 紗枝が捨てた四筒を、下家の由香がポンしたのだ。
 続いて六筒が切られていく。

(赤五の周りは死に面子になったか………)

 普段は両面カンチャン受けは序盤では捨てない和弥だが、早々に赤五筒を切った。

「あ、アカですよ?」

 憮然とした表情で、紗枝は和弥に尋ねてきた。

「赤だろうが何だろうが。いらねぇもんは切るさ」

 さらに下家の由香のポンで、必要牌がどんどん流れ込んでくるようになる。

(張った。丁度いい感じで赤五筒が引っ掛けになってくれたな)

「リーチ」
 

(え……安全牌がないっ……!?)
 

 内心パニックになりかけ、捨て牌選択に迷いまくっている今日子に、和弥は痛烈な嫌味を放った。

「もう10秒は経過してんぞ。『下手な考え休むに似たり』って知らねぇのか十段さん?」

 自分が無様な態度を晒しているのが分かったのだろう。
 仕方なく今日子は、スジである八筒を切った。

「ロン」

 和弥は手牌をパタリと倒す。

「リーチ・一発・三色・ドラ1…」
 

 裏ドラ表示牌をめくった。

「裏は無し。8,000」

 点棒を払う今日子の顔は、若干青ざめているようにも見える。
 将棋や囲碁と同じく、長考がマナー的に良くないのは紗枝も聞いてはいた。
 とはいえ、今の今日子は10秒も考えていない気がする。
 これまでも和弥の対局する姿には小百合も、まるで獲物を狙う鷹や鷲のような冷酷さを感じていた。
 ただ、目の前で和弥より在籍の長い今日子にここまでの侮辱的な態度を取られたら、部長なら普通に怒りそうなものだが。
 不思議な事に綾乃は、和弥の挑発じみた口撃にも何も言おうとしない。

「ロン。タンヤオのみの1,000点。終了ラストだな」

 その後も和了アガり続け、1回戦目は和弥のトップに終わった。

「に、2回戦目いくわよ………」

「いや、もういい」

 点棒を集めなおす今日子を後目に、和弥は席を立った。

「これ以上あンたと打っても単に時間の無駄だ。かえって勘が鈍る」

「ちょっと、どういう意味よそれっ!?」

 台を叩きつけるように立ち上がる今日子の怒鳴り声に、部室内は一瞬シーンとなった。

「委員長」

 しかし無視するように、小百合を呼ぶ和弥。突然呼ばれた小百合も驚いてた。

「な、何かしら?」

 和弥はそのまま小百合が座った椅子に座った。

「交代だ。今度は俺が中野を見る」
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