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第三章:地区予選へ
第41話:辞退の理由
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ついに始まった地区予選
初日、紗枝が苦戦したが今日子、由香、小百合のポイントはプラス。
そして大将戦。全員モニターが設置された控室で、大将戦での和弥の闘牌を見守る事にあった。
勿論今回は“控え”である綾乃、顧問の龍子も一緒である。
「東1局から振り込んだりしないでしょうね、あの男」
嫌味ったらしく今日子が呟く。
(………部長じゃなく、北条さんが外れるべきなのに………)
しかし、小百合は今日子の言葉など気にも留めない。なぜなら和弥の実力を信じているからだ。
東1局、起家は和弥。ドラは三筒。
早くも8巡目、早くも聴牌となる。
「ロン」
安めの三萬だが、赤入りなので親満直撃。
モニター室で見ていた今日子以外───小百合、由香、紗枝、そして綾乃は安堵する。
「あの見かけから想像出来ないくらい冷静だよね、竜ヶ崎くんって。あたしなら絶対リーチしちゃうよあれ!」
「本当に凄いです、竜ヶ崎先輩!」
由香と紗枝は、和弥の親満に大喜びだ。
紅帝楼で実際打ったことのある小百合と綾乃も、これには同意見だった。
(………喧嘩している時も。麻雀を打ってる時も。竜ヶ崎くんって“戦っている時”は、一切の感情を捨て去っているみたいに感じるわ………)
(全国大会終わったら、またこの子とガチ勝負したいなぁ………)
ただ一人、今日子だけはムスッとした表情を崩さなかったが。
南4局。
「ツモ。500・300」
結局和弥がトップを守り切り、地区予選一回戦は立川南のダントツトップに終わった。
どう見ても「20世紀で時間の止まったヤンキー」にしか見えず、最初は明らかに和弥を小馬鹿にしていた感のあった他校の生徒だが、その隙のない麻雀に、対戦校はうなだれる。
挨拶のあと、立川南麻雀部は会場を後にした。
「今日は皆、本当に良く頑張ってくれた。では解散」
龍子が部員たちに声をかける。和弥と小百合が一緒に校門を出た。
由香、今日子、紗枝の3人は自宅が同じ方向にあるらしく、揃って帰っていく。
◇◇◇◇◇
「ねぇ、竜ヶ崎くん。昨日の話の続き…いいかしら?」
「なんだ?」
突然、小百合が足を止めた。和弥も立ち止まって振り返る。
2人はまるで恋人のような距離感だ。いや、事実この2人は付き合っているわけではないのだが……風が吹いた。小百合の黒髪がさらさらと流れる。
その美しい髪を耳にかけながら、小百合は言葉を続けた。
しかし次の瞬間には表情を引き締める。これから話す事は誰にも聞かれたくないのだろう。
少し悩んだ後、思い切って口を開いたのだ。
「昨日のこと………部長が自らメンバー外れた理由。貴方は気が付いていたんでしょう?」
「ああ、それか。何となく思っていたがな。この前紅帝楼で対局してハッキリ分かった。自分が足手まといになるって自覚あるんだろ」
「えっ!?」
小百合には信じられない言葉だった。綾乃の強さは小百合も理解はしているつもりだからだ。
(竜ヶ崎くんが言うなら間違いないのだろうけど……)
「で、でもそんなハズは……!」
「まあまあ、聞けって委員長」
小百合の言葉を遮り、和弥は話を続ける。小百合には頷くしか選択肢がない。和弥の話をさえぎってはいけないと思ったからだ。
「確かに先輩は強い。けどな、あの人の麻雀はデータを収集しなくちゃいけない麻雀だ。もっとハッキリ言えば、同じ面子で最低1回戦以上やって数字に出る麻雀だ」
(………………)
小百合には和弥の物言いというか表現は、イマイチ分かりづらい。
「最初の半荘は見…完全に捨ててデータ収集に徹してんだよ、あの人。それで俺のように視線や癖を把握する」
「え………」
衝撃的な和弥の台詞だった。自分達の前では綾乃はそんな素振りは、今まで一度も見せたことがないからだ。
「さらに言えば、あの人もツモった牌をどこに入れたか、どこから切ったかを完全に把握している。俺も記憶力はいい方って自覚あるが、あの人はそれ以上だ。
………瞬間記憶能力とか映像記憶能力って言われてるヤツだろ」
「で、でもそれなら……」
でもそれなら尚更───と小百合は思った。しかし和弥は小百合の言葉を遮る。
「選手権の団体戦は半荘2回ごとに先鋒・次鋒・中堅・副将・大将ごとに面子が変わる。最初の半荘は捨ててデータ収集に徹するあの人には、明らかに不利だ」
確かにその通りだった。しかし、だ。
いくら綾乃でもその不利なデータ収集だけで勝てるとは思えない。ならば………綾乃の本当の実力とは?
小百合は益々気になってくる。
そんな小百合の心中を知ってか知らずか、和弥はゆっくりと口を開いたのだ。
初日、紗枝が苦戦したが今日子、由香、小百合のポイントはプラス。
そして大将戦。全員モニターが設置された控室で、大将戦での和弥の闘牌を見守る事にあった。
勿論今回は“控え”である綾乃、顧問の龍子も一緒である。
「東1局から振り込んだりしないでしょうね、あの男」
嫌味ったらしく今日子が呟く。
(………部長じゃなく、北条さんが外れるべきなのに………)
しかし、小百合は今日子の言葉など気にも留めない。なぜなら和弥の実力を信じているからだ。
東1局、起家は和弥。ドラは三筒。
早くも8巡目、早くも聴牌となる。
「ロン」
安めの三萬だが、赤入りなので親満直撃。
モニター室で見ていた今日子以外───小百合、由香、紗枝、そして綾乃は安堵する。
「あの見かけから想像出来ないくらい冷静だよね、竜ヶ崎くんって。あたしなら絶対リーチしちゃうよあれ!」
「本当に凄いです、竜ヶ崎先輩!」
由香と紗枝は、和弥の親満に大喜びだ。
紅帝楼で実際打ったことのある小百合と綾乃も、これには同意見だった。
(………喧嘩している時も。麻雀を打ってる時も。竜ヶ崎くんって“戦っている時”は、一切の感情を捨て去っているみたいに感じるわ………)
(全国大会終わったら、またこの子とガチ勝負したいなぁ………)
ただ一人、今日子だけはムスッとした表情を崩さなかったが。
南4局。
「ツモ。500・300」
結局和弥がトップを守り切り、地区予選一回戦は立川南のダントツトップに終わった。
どう見ても「20世紀で時間の止まったヤンキー」にしか見えず、最初は明らかに和弥を小馬鹿にしていた感のあった他校の生徒だが、その隙のない麻雀に、対戦校はうなだれる。
挨拶のあと、立川南麻雀部は会場を後にした。
「今日は皆、本当に良く頑張ってくれた。では解散」
龍子が部員たちに声をかける。和弥と小百合が一緒に校門を出た。
由香、今日子、紗枝の3人は自宅が同じ方向にあるらしく、揃って帰っていく。
◇◇◇◇◇
「ねぇ、竜ヶ崎くん。昨日の話の続き…いいかしら?」
「なんだ?」
突然、小百合が足を止めた。和弥も立ち止まって振り返る。
2人はまるで恋人のような距離感だ。いや、事実この2人は付き合っているわけではないのだが……風が吹いた。小百合の黒髪がさらさらと流れる。
その美しい髪を耳にかけながら、小百合は言葉を続けた。
しかし次の瞬間には表情を引き締める。これから話す事は誰にも聞かれたくないのだろう。
少し悩んだ後、思い切って口を開いたのだ。
「昨日のこと………部長が自らメンバー外れた理由。貴方は気が付いていたんでしょう?」
「ああ、それか。何となく思っていたがな。この前紅帝楼で対局してハッキリ分かった。自分が足手まといになるって自覚あるんだろ」
「えっ!?」
小百合には信じられない言葉だった。綾乃の強さは小百合も理解はしているつもりだからだ。
(竜ヶ崎くんが言うなら間違いないのだろうけど……)
「で、でもそんなハズは……!」
「まあまあ、聞けって委員長」
小百合の言葉を遮り、和弥は話を続ける。小百合には頷くしか選択肢がない。和弥の話をさえぎってはいけないと思ったからだ。
「確かに先輩は強い。けどな、あの人の麻雀はデータを収集しなくちゃいけない麻雀だ。もっとハッキリ言えば、同じ面子で最低1回戦以上やって数字に出る麻雀だ」
(………………)
小百合には和弥の物言いというか表現は、イマイチ分かりづらい。
「最初の半荘は見…完全に捨ててデータ収集に徹してんだよ、あの人。それで俺のように視線や癖を把握する」
「え………」
衝撃的な和弥の台詞だった。自分達の前では綾乃はそんな素振りは、今まで一度も見せたことがないからだ。
「さらに言えば、あの人もツモった牌をどこに入れたか、どこから切ったかを完全に把握している。俺も記憶力はいい方って自覚あるが、あの人はそれ以上だ。
………瞬間記憶能力とか映像記憶能力って言われてるヤツだろ」
「で、でもそれなら……」
でもそれなら尚更───と小百合は思った。しかし和弥は小百合の言葉を遮る。
「選手権の団体戦は半荘2回ごとに先鋒・次鋒・中堅・副将・大将ごとに面子が変わる。最初の半荘は捨ててデータ収集に徹するあの人には、明らかに不利だ」
確かにその通りだった。しかし、だ。
いくら綾乃でもその不利なデータ収集だけで勝てるとは思えない。ならば………綾乃の本当の実力とは?
小百合は益々気になってくる。
そんな小百合の心中を知ってか知らずか、和弥はゆっくりと口を開いたのだ。
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