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第四章:全国との戦い

第57話:カウンターパンチ

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 その後の東3局はあっさり流れ、東4局トンラス。和弥の親である。
 ドラは三萬。
 

 和弥の配牌は、ツモ次第では伸びていきそうだ。
 まずは字牌から落としていくが、字牌切りのセオリーは鳴かれたくない牌から切ること。
 自分の手牌が腐っている時は絞っていくが、この牌姿ならまずチュンから切る。

(最終形としては、タンピンと234の三色までいきたいトコだな………)

 捨て牌の一段目ぐらいまでいくと、大体他家の動向がわかるものだ。
 対面の西家───恵の捨て牌が明らかに異様である。序盤から中張チュンチョン牌を連打し、字牌が出てきたのは五牌目だ。
 帯公九チャンタか、国士無双か、はたまた七対子チートイツか。しかし単純に中張牌ばかりが集まった、贅沢な早いメンツ手も考えられる。
 勿論脇の綾乃と麗美もケアしていくが、最優先に警戒していくのは恵だ。
 ツモが進んでいくと、9巡目。
 三色は消えたが、ドラの三萬が重なりテンパイという理想な形である。
 

(よし、ここはダマでOKだ………)

 筒子ピンズが雀頭になったらリーチだったが、ダマで11,600ピンピンロクなら十分と、和弥はリーチを自重した。
 が、しかし10巡目。
 警戒していたその恵から、二索を切ってのリーチが入る。

(チ…。対面も張りやがったか。萬子マンズの上だな…)

 序盤は変則手ぽかった恵の捨て牌が、二段目からは明らかに手役を狙ったホーになっていた。
 単純に早い手だったのだろう。
 だが、和弥もここでオリる気はない。恵の捨て牌には二・五筒がない以上、他の2人の現物切り狙いも期待出来ないが、恵がこれから掴んでくれる可能性もある。
 牌を切る度にクスクスと笑いながら、まるで挑発するかのように和弥を見つめる恵。

(無関心な顔しなくていいよ。キミがダマテンな事くらいお見通しだって)

 綾乃と麗美すらも、まるで眼中にないと言わんばかりに。
 その綾乃と麗美は、少々長考が多くなる。
 ここからはもうマクり合い、和弥と恵の一騎打ちだ。振り込むか、ツモるか、それとも流局か。恵の手は明らかに満貫以上だろう。ここで振りこもうものなら、先ほどのハネ満の意味が無くなる。
 だが、和弥の鼓動は最高に高鳴っていた。
 恐怖からではない。母を亡くした時、そんな感情はどこかに消え去っていたのだから。

『負けても悔しいだけで済む麻雀なんて打つ意味はないと思っていた俺が、わざわざ部活麻雀に入ったのは………』

 自身が麻雀部に入部する決意をした理由を、またここで噛み締める。

『麻雀は全体をデザインしていくゲーム。オーラスが終わった時点で100点でも多い人間が勝者なんだから。一局のみに熱くなっちゃ駄目』

 昔、秀夫から教えられた麻雀の心得だ。しかし、父・新一にはこんなことも言われた。

『ゲームだろうが、スポーツだろうが、ビジネスだろうが。その勝負の一瞬一瞬に本気になれない奴には勝機は訪れない。勝者とは敗北をどこまでも拒否し続けた人間がなれるもんだ』

 和弥にとっては両者とも“師”である。そしてどちらも的を得た意見だ。
 ならば伝説のアクション俳優ブルース・リーが生み出した総合格闘術・截拳道ジークンドーの極意である「戦いは流れる水のようなもの。状況に応じて常に変化せよ」に従うのが一番だ。
 その後も淡々と局は流れていき、形式テンパイの為か慌てて恵の七索を鳴く綾乃。
 おかげで海底ハイテイツモは恵になった。海底牌をツモりながら念入りに確認する恵。
 あぁ、ツモられたな、と和弥はツモ宣言前に自分の手牌を伏せる。
 結果は和弥の予想通り。恵のリー・タン・海底ツモ・三色のハネ満。
 

 ハネ満親っかぶりを、そっくりそのままやり返されてしまった。しかもアガリ牌の二筒は固められている。
 だが、ここから形勢を逆転出来るのが、麻雀の面白さでもあるのだ。
 和弥はノンシュガーのカフェ・オレを一口だけ飲む。

(まだまだ。勝負はこれからだ)
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