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第四章:全国との戦い

第60話:大会開始

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「ここかい………」

 今、立川南高校麻雀部は立っているのは神奈川県・横浜市にあるイベント会場『クラブネクスト横浜』の前。
 県内でも中規模のこのホール会場が、今回の大会の決勝会場だ。

「ほー………。それなりにデカい会場でやるんだな」

「そそ。普段はライブ会場とかだけどね。ただ、中はゴキブリ出るって噂だから。虫が苦手な人は気を付けて」

 あっけらかんと答える綾乃だが、虫の類は一切ダメな小百合は瞬時に青ざめる。

「ちょ、ちょっと………。本当ですか部長!?」

「こんな事でウソを言ってどうすんのさ。っていうかひょっとして小百合ちゃん、虫とか全部ダメ系?」

(ゴキブリなんて得意な奴いねぇだろ………)

 2人で盛り上がっている小百合と綾乃を後目に、和弥は会場へと急いだ。

◇◇◇◇◇

「………おーおー。色んな学校が集まってるもんだな」

 地区予選を勝ち抜き、ここに辿り着いた64の代表校。早速各校の部長や顧問が入口で早速手続きを開始している光景に、ある種の感動すら覚える和弥である。

「は、入りましょう竜ヶ崎くん」

 虫が怖いのか、和弥の後ろに隠れるようについてくる小百合。小百合は本当に感情や精神状態が態度や表情に出やすい。

(どうにも委員長本人はポーカーフェイスを気取っているようだが。こういうトコは正直だな)

「すいませーん! 西東京代表立川南高校ですっ!!」

 受付に対し、周囲も引くぐらい元気な声を出す綾乃。隣の龍子も苦笑いしている。
 これまでの綾乃の態度を見ていると、天然とは思えない。やはり明らかに計算しているのであろう。綾乃の能天気な振舞いには、小百合も少々複雑な思いをしてきた。
 少ししてカウンターの奥から、真っ白く染まった髪を角刈りにした、小柄な老人が出てきた。

「よう、龍子。先生になったって噂は本当だったのかい」

「………これはこれは。お久しぶりです丸子まるこさん。ところでここには何の用事で?」

 いきなり龍子に声をかけてきた、杖をついて少々弱々しいすら感じる老人。

「何って、麻雀見に来たに決まってるだろう。今は一般人カタギの身分だしな」

(なるほど、元あっちの世界の方って訳か)

 父・新一の件もある。余計に自分が関わる事はない。和弥がそう思った刹那。

「おう。待てや兄ちゃん」

「ん?」

 振り向くと見た事もない、ドレッドヘアーのいかにも品性のなさそうな少年である。少なくともこんな男は和弥の知り合いにはいない。

「オメー、竜ヶ崎和弥やろ。竜ヶ崎新一の息子の。ワイは大阪府代表桐生学園の竹田清ってモンや」

(………………)

 桐生学園。確かにAゾーンにその名前はあった。立川南が勝ち上がれば2回戦目で対戦するはずだ。

「オメーのオトンの噂、大阪の麻雀界まで響いてたで?」

「………そうかい。でも俺には関係ねぇ話だな」

 足早に去ろうとした和弥だったが、後ろから竹田が肩を掴んで引き止める。

「まあまあ待てや。開会セレモニーの後、すぐにワイらの試合やで。ちょっと見とけや」

「………時間があったら暇つぶしに…」

 しかし、そこに割って入って来たのは綾乃である。

「うんうん、優勝候補の桐生学園の噂は聞いてるよ! 見学させてもらうから!」

 正直桐生学園など下馬評にも上がっていない。綾乃なりの社交辞令なのは、容易に想像出来た。

「お、ワイらそんなに注目されとったんか! こら頑張らへんとな!!」

 そう言って竹田は、意気揚々と去っていく。

「馴れ馴れしい奴だな。俺さっさと休憩したいんだが。そこまでして見る価値ある連中なのかよ先輩?」

 吐き捨てるように呟く和弥だが、綾乃の意見は違ったようだ。

「そんな事言わずに。2回戦目で当たるかもだし」

 こうして和弥を始め立川南麻雀部は開幕セレモニーの後も残り、そのまま桐生学園の試合を見学する事になった。
 

「ツモ! 一発なら裏見なくても一緒やな! 4,000・8,000! 終了ラストや!」

 いきなり大将の竹田が倍満をツモる。桐生学園が2回戦進出を決めた瞬間だった。

(なるほど。あの捨て牌じゃ七対子チートイだの混一色ホンイツだのバレバレだ。だったら字牌待ちの意味はない。一枚も見えてない七索で待ったってワケか………)

 竹田の打ち筋を確認した和弥は、その場を後にした。
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