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第五章:絶対に負けられない戦い
第93話:祝福
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ブラックアウト。航空用語で巨大なGがかかって、特に音速戦闘機のパイロットが心臓より上にある脳に血液が供給できなくなり、完全に視野を失う症状を指す。
こうなるとパイロットは目を瞑ってコックピットに座っているも同じで。パニック状態になる事が多い。
「麻雀に限らず生きていれば、何かしら想定外のミスは起きる。自分にミスはなくても、人のミスに巻き込まれて抜き差しならない状況に陥る事だってある。そういう“ブラックアウト”に陥った時、いかに冷静に、次の最善の行動が出来るか、が大事だよ」
いつぞや秀夫に言われたセリフである。
その言葉を噛み締めながら、個人戦もベスト8出場を決めた和弥は控室に戻って来た。
「お帰りなさい竜ヶ崎くん!」
「和弥クンがベスト8であたしも鼻が高いよっ!」
「は~………。さすがにあれは、あたしも認めざるを得ないわ」
「凄い、凄いです! 竜ヶ崎先輩!」
扉を開け控室に入ると、小百合、由香、そして今日子に紗枝までも笑顔を和弥を迎える。
今まで以上に“偶然の結果”ではない何かを感じる勝利だった。それに人に祝福されて『嬉しくない』と突っぱねるほどのヘソ曲がりでもない。
「あんがとよ。でもお前らもベスト8いけたんだろ?」
体をひねってポキポキと鳴らし、椅子に座る和弥。
「あー。紗枝ちゃんが……」
後ろに座っていた綾乃が、気まずそうに割って入って来た。
「すいません、私……」
申し訳なさそうに詫びる紗枝。
「そっか………。まあ中野はあと2年ある。これからだろ。頑張れ」
紗枝はまだまだこれからの打ち手だ。
和弥にとって麻雀や喧嘩などの完勝─――それは他の3人をハコにしてのトップ、役満や大きな手を連発する。喧嘩でも相手を骨折させる、などではない。世の中には「負けを認めなければ負けではない」「こっちはまだギブアップしていない」を大義名分に、『負けを認めない奴』は大勢いる。
ならばどうする? 相手の精神を粉々に突き崩し、粉砕して2度と勝てないと思わせる。破壊ではない、心の破滅。それこそが和弥が選んできた方法だ。『丸々一週間かかってもコイツには勝てない』と闘争心をへし折る。上っ面では愛想笑いを浮かべても、心ではそう思って来た。
しかし、今の純粋な紗枝に、そんな事を教える必要はないだろう。
「竜ヶ崎。お前に雑誌の取材が来てるんだが。どうする?」
扉越しに誰かと話していた龍子が、振り返って和弥に尋ねた。
「断ってください。俺は有名になりたい訳じゃないので」
「………分かった。断っておくよ」
「ちょっと竜ヶ崎くん!」
綾乃が何か言おうとしたが、それを龍子が制する。
「いいんだよ綾乃。確かに取材は竜ヶ崎が嫌なら受けないつもりだったんだが。ただ………」
和弥が裏で食っていくつもりなので、あまり表に出たがらないのは龍子も分かっている。第一麻雀部に入部してくれた事自体、奇跡に近いのだから。
「ただ? なんです?」
こほん、と咳払いをする龍子。
「優勝後のコメントはどうしても欲しいんだそうだ」
(優勝後……?)
その一言に、和弥の頭に電撃が走る。つまり決勝も勝って優勝する事を前提で「その後に取材を受けてくれ」という事だ。何とも気の早い話である。
「考えておきます」
こうなるとパイロットは目を瞑ってコックピットに座っているも同じで。パニック状態になる事が多い。
「麻雀に限らず生きていれば、何かしら想定外のミスは起きる。自分にミスはなくても、人のミスに巻き込まれて抜き差しならない状況に陥る事だってある。そういう“ブラックアウト”に陥った時、いかに冷静に、次の最善の行動が出来るか、が大事だよ」
いつぞや秀夫に言われたセリフである。
その言葉を噛み締めながら、個人戦もベスト8出場を決めた和弥は控室に戻って来た。
「お帰りなさい竜ヶ崎くん!」
「和弥クンがベスト8であたしも鼻が高いよっ!」
「は~………。さすがにあれは、あたしも認めざるを得ないわ」
「凄い、凄いです! 竜ヶ崎先輩!」
扉を開け控室に入ると、小百合、由香、そして今日子に紗枝までも笑顔を和弥を迎える。
今まで以上に“偶然の結果”ではない何かを感じる勝利だった。それに人に祝福されて『嬉しくない』と突っぱねるほどのヘソ曲がりでもない。
「あんがとよ。でもお前らもベスト8いけたんだろ?」
体をひねってポキポキと鳴らし、椅子に座る和弥。
「あー。紗枝ちゃんが……」
後ろに座っていた綾乃が、気まずそうに割って入って来た。
「すいません、私……」
申し訳なさそうに詫びる紗枝。
「そっか………。まあ中野はあと2年ある。これからだろ。頑張れ」
紗枝はまだまだこれからの打ち手だ。
和弥にとって麻雀や喧嘩などの完勝─――それは他の3人をハコにしてのトップ、役満や大きな手を連発する。喧嘩でも相手を骨折させる、などではない。世の中には「負けを認めなければ負けではない」「こっちはまだギブアップしていない」を大義名分に、『負けを認めない奴』は大勢いる。
ならばどうする? 相手の精神を粉々に突き崩し、粉砕して2度と勝てないと思わせる。破壊ではない、心の破滅。それこそが和弥が選んできた方法だ。『丸々一週間かかってもコイツには勝てない』と闘争心をへし折る。上っ面では愛想笑いを浮かべても、心ではそう思って来た。
しかし、今の純粋な紗枝に、そんな事を教える必要はないだろう。
「竜ヶ崎。お前に雑誌の取材が来てるんだが。どうする?」
扉越しに誰かと話していた龍子が、振り返って和弥に尋ねた。
「断ってください。俺は有名になりたい訳じゃないので」
「………分かった。断っておくよ」
「ちょっと竜ヶ崎くん!」
綾乃が何か言おうとしたが、それを龍子が制する。
「いいんだよ綾乃。確かに取材は竜ヶ崎が嫌なら受けないつもりだったんだが。ただ………」
和弥が裏で食っていくつもりなので、あまり表に出たがらないのは龍子も分かっている。第一麻雀部に入部してくれた事自体、奇跡に近いのだから。
「ただ? なんです?」
こほん、と咳払いをする龍子。
「優勝後のコメントはどうしても欲しいんだそうだ」
(優勝後……?)
その一言に、和弥の頭に電撃が走る。つまり決勝も勝って優勝する事を前提で「その後に取材を受けてくれ」という事だ。何とも気の早い話である。
「考えておきます」
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