97 / 113
第五章:絶対に負けられない戦い
第94話:宣戦布告
しおりを挟む
「頼んだぞ。じゃ、私は記者にそう伝えてくる」
龍子は控室から出て行った。そして代わりに入って来たのは、意外な人物であった。
「ベスト8進出おめでとう、竜ヶ崎くん」
そこには手を挙げて爽やかに挨拶する、陵南渕高校主将・発岡恵である。
「あンたか……どうも」
恵は和弥と、そして小百合が座っている席の向かいに座ると、小百合に軽く会釈した。
「西浦さんも、ベスト8進出おめでとう。さすがに去年のU-16総合チャンピオンは違うね」
「……どうもありがとうございます。でも私、今年は個人は赤ドラルール一本に絞ってますので…」
「そうか。まあ、私も今回は個人戦に力を入れているの。君がどんな麻雀を打つか楽しみにしてるよ、竜ヶ崎くん」
恵は優しい笑顔を見せるが、小百合は素っ気なく会釈を返すだけ。
「それを言いにわざわざここに来たのか。義理堅いな案外」
和弥のその一言に、恵は笑って答える。
「フフ……竜ヶ崎くん。ベスト8は私と同卓だよ。よろしくね」
そう言うと恵は立ち上がり、控室を後にしようとする。
「どうやら個人戦の方は、ベスト8でバイバイになりそうだな」
声の主は和弥だった。
「どうして? あなたが敗退するから?」
恵は不敵な笑みを浮かべたまま、控室を後にする。
やや、重い沈黙が訪れる立川南控室。
「まあ、言ってくれるじゃんか……まあ、その前に団体戦だがな」
全く悪びれた様子のない和弥。
龍子は恵が帰った後、再び和弥に話しかける。
「一応言っておく。彼女は去年の個人戦U-17の総合準優勝だぞ」
「ふーん………。陵南渕は優勝候補の一角って聞きましたが。あんま団体戦は拘ってないように見えますね」
それ以上は何も言わずに、和弥は立ちあがる。
「まあ、今年はオーダーも大幅変更してるからな。それに………お前に自覚がないだけだ。『あの竜ヶ崎新一の息子が参加している』って、結構噂になっているぞ」
「同い年じゃなく。先生みたいに実際にオヤジと戦った人からも、そう言われてみたいですね」
和弥はそう答えると、控室のドアを開け出て行った。
◇◇◇◇◇
「竜ヶ崎くん!」
後ろから声がする。鈴の音のような凛とした響き。振り返ると案の定、追いかけて来た小百合だった。
「委員長か。明日も同じ時間集合なのは聞いてるよ」
「違うわ。そんな事じゃない」
少々考えたような小百合だったが、意を決したように和弥に問いかける。
「本当は嫌々………協力してくれてるの?」
和弥も同様に少々間を置いたが。深呼吸するように息を吸い、答えた。
「そんな事ねぇよ。確かに最初はボランティアのつもりだった。けどな。せっかくの夏休みにこんな事してるんだ。だったら勝たないと。それに…」
「それに?」
意外な和弥の返事に、少々驚く小百合である。
「挑まれた勝負を無下に断るなんて、よっぽど失礼ってもんだろ。久我崎の部長さんだけじゃねえ、陵南渕の部長さんも正面切って喧嘩ふっかけてきたんだ。男も女も関係ねぇよ。相手が誰であろうが、勝負を挑んでくるなら喜んで受けて立つさ」
和弥は最後に微かに笑みを浮かべ、こう言った。
「その上で返り討ちにして、叩き潰す――それだけだ」
その言葉を最後に、和弥はポケットに手を突っ込み、会場から姿を消した。
(お爺様に大勝負の代打ちを頼まれた時の竜ヶ崎新一さんも、こんな感じだったのかしら………)
母・双葉が結婚後も新一のことをずっと忘れなかった理由。今ならはっきり分かる。
小百合はずっと和弥の事を考えていた。
意識しだすと、どんどん意識していく。最早和弥のことが完全に、頭から離れなくなっていった。
そんな和弥の決意を聞かされ、小百合は胸中複雑であった。
(竜ヶ崎くん……貴方は……私の事はどう思っているの?)
龍子は控室から出て行った。そして代わりに入って来たのは、意外な人物であった。
「ベスト8進出おめでとう、竜ヶ崎くん」
そこには手を挙げて爽やかに挨拶する、陵南渕高校主将・発岡恵である。
「あンたか……どうも」
恵は和弥と、そして小百合が座っている席の向かいに座ると、小百合に軽く会釈した。
「西浦さんも、ベスト8進出おめでとう。さすがに去年のU-16総合チャンピオンは違うね」
「……どうもありがとうございます。でも私、今年は個人は赤ドラルール一本に絞ってますので…」
「そうか。まあ、私も今回は個人戦に力を入れているの。君がどんな麻雀を打つか楽しみにしてるよ、竜ヶ崎くん」
恵は優しい笑顔を見せるが、小百合は素っ気なく会釈を返すだけ。
「それを言いにわざわざここに来たのか。義理堅いな案外」
和弥のその一言に、恵は笑って答える。
「フフ……竜ヶ崎くん。ベスト8は私と同卓だよ。よろしくね」
そう言うと恵は立ち上がり、控室を後にしようとする。
「どうやら個人戦の方は、ベスト8でバイバイになりそうだな」
声の主は和弥だった。
「どうして? あなたが敗退するから?」
恵は不敵な笑みを浮かべたまま、控室を後にする。
やや、重い沈黙が訪れる立川南控室。
「まあ、言ってくれるじゃんか……まあ、その前に団体戦だがな」
全く悪びれた様子のない和弥。
龍子は恵が帰った後、再び和弥に話しかける。
「一応言っておく。彼女は去年の個人戦U-17の総合準優勝だぞ」
「ふーん………。陵南渕は優勝候補の一角って聞きましたが。あんま団体戦は拘ってないように見えますね」
それ以上は何も言わずに、和弥は立ちあがる。
「まあ、今年はオーダーも大幅変更してるからな。それに………お前に自覚がないだけだ。『あの竜ヶ崎新一の息子が参加している』って、結構噂になっているぞ」
「同い年じゃなく。先生みたいに実際にオヤジと戦った人からも、そう言われてみたいですね」
和弥はそう答えると、控室のドアを開け出て行った。
◇◇◇◇◇
「竜ヶ崎くん!」
後ろから声がする。鈴の音のような凛とした響き。振り返ると案の定、追いかけて来た小百合だった。
「委員長か。明日も同じ時間集合なのは聞いてるよ」
「違うわ。そんな事じゃない」
少々考えたような小百合だったが、意を決したように和弥に問いかける。
「本当は嫌々………協力してくれてるの?」
和弥も同様に少々間を置いたが。深呼吸するように息を吸い、答えた。
「そんな事ねぇよ。確かに最初はボランティアのつもりだった。けどな。せっかくの夏休みにこんな事してるんだ。だったら勝たないと。それに…」
「それに?」
意外な和弥の返事に、少々驚く小百合である。
「挑まれた勝負を無下に断るなんて、よっぽど失礼ってもんだろ。久我崎の部長さんだけじゃねえ、陵南渕の部長さんも正面切って喧嘩ふっかけてきたんだ。男も女も関係ねぇよ。相手が誰であろうが、勝負を挑んでくるなら喜んで受けて立つさ」
和弥は最後に微かに笑みを浮かべ、こう言った。
「その上で返り討ちにして、叩き潰す――それだけだ」
その言葉を最後に、和弥はポケットに手を突っ込み、会場から姿を消した。
(お爺様に大勝負の代打ちを頼まれた時の竜ヶ崎新一さんも、こんな感じだったのかしら………)
母・双葉が結婚後も新一のことをずっと忘れなかった理由。今ならはっきり分かる。
小百合はずっと和弥の事を考えていた。
意識しだすと、どんどん意識していく。最早和弥のことが完全に、頭から離れなくなっていった。
そんな和弥の決意を聞かされ、小百合は胸中複雑であった。
(竜ヶ崎くん……貴方は……私の事はどう思っているの?)
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
8
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる