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第五章:絶対に負けられない戦い

第103話:再戦

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(やれやれ。忘れてたぜ………)

 会場に入った和弥は、個人戦・完全競技ルールのベスト8の対局表を見てウンザリした。
 またも発岡恵がいるからである。

(このトーナメントだと、決勝は今度は花澤麗美か。まさか既に脱落してしまったとかないよな……?)

「よっ! 新一さんの息子さん。無事勝ち上がったって訳ね」

 いや、それはない。仮にも綾乃の親友で、自分の父親の花澤組の代打ちまでしている彼女が、ベスト16あたりで落ちるワケがない。とはいえ、それが起こりえるのが麻雀───とも言えるのだが。
 別に心配しているのではない。

「立川南を優勝させる」

 こんな啖呵を切った以上、強敵は少ないに越したことはない。しかし、和弥の不安はすぐに打ち消された。

「よっ! 新一さんの息子さん。無事勝ち上がったって訳ね」

「あンたか。他の対戦表を確認しようと思ったが。今日この場に来てる限り、そんな必要もないか」

 相変わらず不敵な笑みを浮かべる麗美。

「やぁやぁ、ハナちゃん。ここにいるってことは、無事に勝ち残ったってことだね。ひとまずおめでとうって感じかな?」

 後ろからの声の主は、和弥の想像通り綾乃だった。

「よく言うわね綾乃。もしそんな事を本当に思っていたのなら悲しくなるわ」

 勿論和弥も、これが綾乃の本心でないのは分かっている。

(まぁいい。相手が誰だろうと、俺は勝つだけだ)

「先輩。俺、控室に行ってますから」

 麗美の顔も見ず、控室に向かおうとする和弥。その時だった。

くん! 決勝で会おうねっ!」

 声の主は麗美だった。

(………考えてみりゃ。初めて名前で呼ばれたような気がしたな)

「ああ」

 軽く手を上げる和弥だった。

◇◇◇◇◇

「よう」

「こんにちは竜ヶ崎くん」

 赤ドラ入りルールに参加する3人。小百合、由香、今日子は表情が固い。
 ………やっぱり、そういうプレッシャーがあるのだろうか?

「緊張してないね和弥クンは」

「したってしゃーないだろ。半荘5回戦の勝負なんだし」

 由香の質問に平然と答える和弥。ジムでキックボクシングの全日本ランカーにスパーリングを挑まれた日の方が、遥かに緊張したものである。

「そちらこそ大丈夫なのか? なんだかガッチガチに見えるんだが?」

 初めての全国大会である由香と今日子はともかく、昨年のU-16個人部門覇者である小百合までもが、凄まじく緊張しているように見えた。

「………」

 こういう時は、なんと声をかけていいのか分からない。

 立ちあがったのは龍子だった。

「ここまで来たら、私からは何もいう事はない。団体戦も個人戦も頑張ってくれ。それだけだ」

「そうですね」

 龍子のいう通りである。ここまで勝ち上がってきた高校ばかりだ。弱い高校などある訳がない。

『完全競技ルール・準々決勝の出場選手は受付にお越し下さい』

 アナウンスが鳴り響いた。

「行ってきます」

 ゆっくりと立ちあがった和弥は、ドアを開けて出ていく。
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