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第1話-目覚めた奴ら
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足早に塔内部を進む。開け放たれた扉を通る。
応接室には、いくつもの仕切りがあった。職員とどこかのギルドの担当が打ち合わせをしていた。会話の妨げにならないように通路を抜けると、一人の職員が近づいてくる。
「トーマス。これ、頼まれてた資料だよ」
ローブを羽織ったエルフが紙の束を差し出してきた。ここ最近に発生したゲーム内での問題をまとめてもらってたんだ。
ちなみに、トーマスっていうのは僕が操作しているキャラクターの名前だ。ゲーム内では本名で呼ばないのがルール。
お礼を言って資料を受け取り、ざっと目を通し……。
眩冒。
気がつくと、僕は床に膝をついていた。エルフが僕の体を支え、倒れるのを防いでくれていた。
「大丈夫か? 連日の残業で寝てないんだろう」
「平気さ。こんなの屁でもない」
問題があるのは僕じゃない。
「僕が眩冒を起こしたのは、信じられないほどの珍事件が資料に書き連ねてあったからさ。しかも、書いてある事案のいくつかは実際に見てきたんだよ。スカーレット市内でね」
エルフの青年は、僕の肩を叩き去って行った。かける言葉が見つからなかったのだろう。
まあ、落ち込んでいる場合じゃない。発生した問題に対して、早急に手を打たないと。
呼吸を整えながら、突きあたりの魔導昇降機に乗る。行先は、関係者以外立ち入り禁止の四階。
振動が一切しない昇降機は目的地に到着した。扉が開くと見慣れた景色、そこは塔の職員たちの詰所だった。
広く清潔な室内。資料や装備が無秩序に置かれた机が並ぶ。職員たちが眠い目をこすりながら魔導端末に向かい、青筋を浮かべて受話器に叫んでいた。
欠伸を噛み殺した職員が僕の横を抜けていく。フラフラとした足運びで昇降機の方へと歩いていった。
僕も欠伸を堪えながら詰所の奥に進む。突きあたりの扉を開け、中に入る。
個人で使用するには少し広めの部屋、トーマスのオフィスに人だかりができていた。
「おはよう」
挨拶を交わしながら人混みを抜ける。
振り返ると様々な種族の職員たちが私語を慎み、上司である僕の口が開くのを待っていた。
早朝会議を始める前に仕事を二つ。まずは、小人の僕が職員と目線の高さをあわせるため、机の上に飛び乗る。
あともう一つ。左手首に巻いた細い腕輪の装飾に触れ、メニュー画面を呼び出す。項目の中からオプションを選択し、みんなの頭上で天使の輪よろしく、点灯する「NPC」の文字を非表示にする。気が散って仕方が無かったんだ。
「よし、聞いてくれ。タクシー運転手ギルドは知っているよね?」
職員たちは、それぞれ頷いたり目配せしている。知らない者はいないのだろう。何しろ渦中に在る団体なのだから。
タクシー運転手ギルドは、スカーレット市内で旅客運送業を営んでいる労働者により設立された、という設定の団体だ。
彼らが駆るのは、“魔導車”と呼ばれる魔法を動力源とした特殊車両。特定の場所へのワープ機能が実装されてないミグラトリ―には、必要不可欠な移動手段だった。
魔導車の他にも魔導列車や魔導船があり、プレイヤーが乗組員の職に就くことも可能だ。ただし、事故防止のため半自動式の運転機能が搭載されており、好き勝手な運転はできない。
そのためか、人気職業ランキングで輸送業は下から数えた方が早い。ついでに言うと、タクシー運転手ギルドの構成員の九割以上がNPCだ。
鋭い人なら、すでに嫌な予感がしてるんじゃないかな。
「現実世界での午前七時五十二分、タクシー運転手ギルドは正式にストライキに入った」
僕の言葉で騒然となる室内。
無理もない。プログラムに過ぎないゲームキャラクターたちが開発者に謀反を起こすなんて、誰でも耳を疑う。
が、僕は両目ではっきりと見たんだ。スカーレット市内の道路に一台もタクシーが走っていない、という現実を。
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お気に入りへの登録ありがとうございます。
これからも頑張ります。
応接室には、いくつもの仕切りがあった。職員とどこかのギルドの担当が打ち合わせをしていた。会話の妨げにならないように通路を抜けると、一人の職員が近づいてくる。
「トーマス。これ、頼まれてた資料だよ」
ローブを羽織ったエルフが紙の束を差し出してきた。ここ最近に発生したゲーム内での問題をまとめてもらってたんだ。
ちなみに、トーマスっていうのは僕が操作しているキャラクターの名前だ。ゲーム内では本名で呼ばないのがルール。
お礼を言って資料を受け取り、ざっと目を通し……。
眩冒。
気がつくと、僕は床に膝をついていた。エルフが僕の体を支え、倒れるのを防いでくれていた。
「大丈夫か? 連日の残業で寝てないんだろう」
「平気さ。こんなの屁でもない」
問題があるのは僕じゃない。
「僕が眩冒を起こしたのは、信じられないほどの珍事件が資料に書き連ねてあったからさ。しかも、書いてある事案のいくつかは実際に見てきたんだよ。スカーレット市内でね」
エルフの青年は、僕の肩を叩き去って行った。かける言葉が見つからなかったのだろう。
まあ、落ち込んでいる場合じゃない。発生した問題に対して、早急に手を打たないと。
呼吸を整えながら、突きあたりの魔導昇降機に乗る。行先は、関係者以外立ち入り禁止の四階。
振動が一切しない昇降機は目的地に到着した。扉が開くと見慣れた景色、そこは塔の職員たちの詰所だった。
広く清潔な室内。資料や装備が無秩序に置かれた机が並ぶ。職員たちが眠い目をこすりながら魔導端末に向かい、青筋を浮かべて受話器に叫んでいた。
欠伸を噛み殺した職員が僕の横を抜けていく。フラフラとした足運びで昇降機の方へと歩いていった。
僕も欠伸を堪えながら詰所の奥に進む。突きあたりの扉を開け、中に入る。
個人で使用するには少し広めの部屋、トーマスのオフィスに人だかりができていた。
「おはよう」
挨拶を交わしながら人混みを抜ける。
振り返ると様々な種族の職員たちが私語を慎み、上司である僕の口が開くのを待っていた。
早朝会議を始める前に仕事を二つ。まずは、小人の僕が職員と目線の高さをあわせるため、机の上に飛び乗る。
あともう一つ。左手首に巻いた細い腕輪の装飾に触れ、メニュー画面を呼び出す。項目の中からオプションを選択し、みんなの頭上で天使の輪よろしく、点灯する「NPC」の文字を非表示にする。気が散って仕方が無かったんだ。
「よし、聞いてくれ。タクシー運転手ギルドは知っているよね?」
職員たちは、それぞれ頷いたり目配せしている。知らない者はいないのだろう。何しろ渦中に在る団体なのだから。
タクシー運転手ギルドは、スカーレット市内で旅客運送業を営んでいる労働者により設立された、という設定の団体だ。
彼らが駆るのは、“魔導車”と呼ばれる魔法を動力源とした特殊車両。特定の場所へのワープ機能が実装されてないミグラトリ―には、必要不可欠な移動手段だった。
魔導車の他にも魔導列車や魔導船があり、プレイヤーが乗組員の職に就くことも可能だ。ただし、事故防止のため半自動式の運転機能が搭載されており、好き勝手な運転はできない。
そのためか、人気職業ランキングで輸送業は下から数えた方が早い。ついでに言うと、タクシー運転手ギルドの構成員の九割以上がNPCだ。
鋭い人なら、すでに嫌な予感がしてるんじゃないかな。
「現実世界での午前七時五十二分、タクシー運転手ギルドは正式にストライキに入った」
僕の言葉で騒然となる室内。
無理もない。プログラムに過ぎないゲームキャラクターたちが開発者に謀反を起こすなんて、誰でも耳を疑う。
が、僕は両目ではっきりと見たんだ。スカーレット市内の道路に一台もタクシーが走っていない、という現実を。
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