8 / 58
コーヒーとCEOの秘密 (完)
8
しおりを挟む
彼は困った顔をして、「収益なんて上がると思うか?」
「どうでしょうか。大学、高校野球など参考にされてみては」
「余計わからないね。事業化するというのか?」
「前会長はそれをお望みなのでは。そうそう、以前ご一緒した時、仰ってましたわ」
いつもの嫌味ったらしい態度が失せた。彼は野球に全く興味がないらしい。三津子は野球チームを擁護するというよりは彼に反発するために口論を繰り返した。それから随分とやりとりして、遂に彼はこう言った。
「……君に任せよう。父とじっくり話し合ってくれ」
「結論がどう出ても先ほどの条件は有効ですか?」
「……好きにしたまえ」
「ありがとうございます」
三津子は礼をして退室した。
数歩廊下を進んで小走りになる。
(やったーー、私、いちぬけするわ。ごめんなさい、白本さん)
いきなり運が開けたようだ。
仕事帰り、社屋近く西新宿の居酒屋に立ち寄った。前祝いだ。
「赤石さんじゃないですか」
カウンターで一人で飲んでいると前の職場の後輩男性に声をかけられた。「関矢くん」
「大変なんですって? 会長の周辺」
「ええ、まあ」
関矢は三津子の隣へ座るとビールを注文した。店内でだべってるお疲れモードの社会人とは目の輝きが違う、そうゴツくないがまだまだ気に溢れた若手社員だ。
「聞くところによるとお若い方だとか?」
みんな知らないのだ。
日頃働くオフィスの最上階にあんな氷結CEOがいるなんて夢にも思わないだろう。
あの男の存在は殆どの社員に知らされておらず、未だHPにも記載されていない。
大体数千人いる本社の社員で会長はおろか社長の顔すら判別できる人間の方が少ない。
「……赤石さん、エリートコース約束されたようなものですね」
「どうかしら。結構な試練よ」
話しながらあの男の顔を思い浮かべる。憮然とした顔、嫌そうに眉をしかめたところ、あの仏頂面がもはや標準になってしまって、他の表情が浮かばない。笑った顔なんて見たことがない。彼の笑顔なんてどうでもいいが、笑っているところを見れるものなら見てみたい……ふと、興味が湧いた。
「ねえ、面白い企画書たててみない?」
三津子の前職は戦略本部経営企画課ーー。
敢えて命題を難しく設定してみるのも落とし甲斐がある。
(なんでもいいわ、笑顔を導き出すのよ。裏をかくのもありね)
「は? うちの野球チームのしゅうえきか?」
「出来ないかしら。他と連携なんてとれないの?」
「うーーん………前の会長が熱心に応援されてましたよねえ。でもバブルの頃の話でしょ……」
「運営費はほぼ補填よね?」
「あとは大口の寄付ですかね」
「寄付か…。あ、そうそう、関矢くん、S物産の引き受け関わってたわよね」
「え? ええ……」
後輩は訳もわからず付き合わされた。もちろん三津子のおごりで、ほぼ空論ではあるものの…それは24時閉店まで続いた。
「どうでしょうか。大学、高校野球など参考にされてみては」
「余計わからないね。事業化するというのか?」
「前会長はそれをお望みなのでは。そうそう、以前ご一緒した時、仰ってましたわ」
いつもの嫌味ったらしい態度が失せた。彼は野球に全く興味がないらしい。三津子は野球チームを擁護するというよりは彼に反発するために口論を繰り返した。それから随分とやりとりして、遂に彼はこう言った。
「……君に任せよう。父とじっくり話し合ってくれ」
「結論がどう出ても先ほどの条件は有効ですか?」
「……好きにしたまえ」
「ありがとうございます」
三津子は礼をして退室した。
数歩廊下を進んで小走りになる。
(やったーー、私、いちぬけするわ。ごめんなさい、白本さん)
いきなり運が開けたようだ。
仕事帰り、社屋近く西新宿の居酒屋に立ち寄った。前祝いだ。
「赤石さんじゃないですか」
カウンターで一人で飲んでいると前の職場の後輩男性に声をかけられた。「関矢くん」
「大変なんですって? 会長の周辺」
「ええ、まあ」
関矢は三津子の隣へ座るとビールを注文した。店内でだべってるお疲れモードの社会人とは目の輝きが違う、そうゴツくないがまだまだ気に溢れた若手社員だ。
「聞くところによるとお若い方だとか?」
みんな知らないのだ。
日頃働くオフィスの最上階にあんな氷結CEOがいるなんて夢にも思わないだろう。
あの男の存在は殆どの社員に知らされておらず、未だHPにも記載されていない。
大体数千人いる本社の社員で会長はおろか社長の顔すら判別できる人間の方が少ない。
「……赤石さん、エリートコース約束されたようなものですね」
「どうかしら。結構な試練よ」
話しながらあの男の顔を思い浮かべる。憮然とした顔、嫌そうに眉をしかめたところ、あの仏頂面がもはや標準になってしまって、他の表情が浮かばない。笑った顔なんて見たことがない。彼の笑顔なんてどうでもいいが、笑っているところを見れるものなら見てみたい……ふと、興味が湧いた。
「ねえ、面白い企画書たててみない?」
三津子の前職は戦略本部経営企画課ーー。
敢えて命題を難しく設定してみるのも落とし甲斐がある。
(なんでもいいわ、笑顔を導き出すのよ。裏をかくのもありね)
「は? うちの野球チームのしゅうえきか?」
「出来ないかしら。他と連携なんてとれないの?」
「うーーん………前の会長が熱心に応援されてましたよねえ。でもバブルの頃の話でしょ……」
「運営費はほぼ補填よね?」
「あとは大口の寄付ですかね」
「寄付か…。あ、そうそう、関矢くん、S物産の引き受け関わってたわよね」
「え? ええ……」
後輩は訳もわからず付き合わされた。もちろん三津子のおごりで、ほぼ空論ではあるものの…それは24時閉店まで続いた。
1
あなたにおすすめの小説
妖狐の嫁入り
山田あとり
恋愛
「――おまえを祓うなどできない。あきらめて、俺と生きてくれ」
稲荷神社の娘・遥香(はるか)は、妖狐の血をひくために狐憑きとさげすまれ、ひっそり生きてきた。
ある日、村八分となっている遥香を探して来たのは怨霊や魔物を祓う軍人・彰良(あきら)。
彼は陰陽師の名門・芳川家の男だった。
帝国陸軍で共に任務にあたることになった二人だったが、実は彰良にもある秘密が――。
自己評価は低いが芯に強さを秘める女が、理解者を得て才能を開花させる!
&
苦しみを抱え屈折した男が、真っ直ぐな優しさに触れ愛を知る!
明治中期風の横浜と帝都を駆ける、あやかし異能ロマンス譚です。
可愛い妖怪・豆腐小僧も戦うよ!
※この作品は、カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
運命の番より真実の愛が欲しい
サトウミ
恋愛
田舎娘のゾーイは龍族の王子・シャウロンの『運命の番』だった。
ロマンチックな恋を夢見るゾーイは『運命の番』であるシャウロンと会えるのを楽しみにしていた。
しかし、シャウロンはゾーイに対して素っ気ない。
運命の番だからといって、必ずしも愛し合う関係だとは限らないらしい。
それを悟ったゾーイは、シャウロンのもとから去ることを決意した。
婚約破棄されるはずでしたが、王太子の目の前で皇帝に攫われました』
鷹 綾
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間――
目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。
そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。
一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。
選ばれる側から、選ぶ側へ。
これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。
--
まだまだこれからだ!
九重
恋愛
温泉が大好きなOLの暖(うらら)。今日も今日とて山奥の秘湯にひとり浸かっていたのだが……突如お湯が流れ出し、一緒に流されてしまった。
気づけば異世界で、なんと彼女は温泉を召喚した魔女の魔法に巻き込まれてしまったらしい。しかもそこは、異世界でも役立たずとされた病人ばかりの村だった。――――老いた関節痛の魔女と、腰を痛めた女騎士。アレルギーで喘息持ちの王子と認知症の竜に、うつ病のエルフなどなど――――
一癖も二癖もある異世界の住人の中で、暖が頑張る物語。
同時連載開始の「勇者一行から追放されたので異世界で温泉旅館をはじめました!」と同じプロローグではじまる物語です。
二本同時にお楽しみいただけましたら嬉しいです!
(*こちらのお話は「小説家になろう」さまサイトでも公開、完結済みです)
将来の嫁ぎ先は確保済みです……が?!
翠月 瑠々奈
恋愛
ある日階段から落ちて、とある物語を思い出した。
侯爵令息と男爵令嬢の秘密の恋…みたいな。
そしてここが、その話を基にした世界に酷似していることに気づく。
私は主人公の婚約者。話の流れからすれば破棄されることになる。
この歳で婚約破棄なんてされたら、名に傷が付く。
それでは次の結婚は望めない。
その前に、同じ前世の記憶がある男性との婚姻話を水面下で進めましょうか。
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?
綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。
相手はとある貴族のご令嬢。
確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。
別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。
何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる