上 下
9 / 52
コーヒーとCEOの秘密

9

しおりを挟む
「なぜウチの女性社員は制服を着ている者と私服の者に分かれているんだ」

 とある午後。

「総合職と一般職の違いですわ。強制ではありませんが、概ね一般職の社員は制服着用です」
「くだらんな。撤廃したらどうだ。ついでに茶汲み制度もなくせばいい」

 あら、ご自分から仰ってくれたわ。

 ーー君はいつも違う服を着ているな。

 珍しく業務外の突っ込みをされたと思ったら今頃気付いたらしい。
 会長室周辺で言えば秘書は制服、三津子は私服である。

「……各部署自主性に任せるとなってますが、流石に来客の際はそうもいきませんでしょう。大抵はベテランの事務員が担当してるはずですが」

「そうか。私に出す分は無くしていいぞ。だだっ広い部屋で効率も悪かろう」

「伝えておきますわ」

 コーヒーを出すな、ではなくてひと口でも口をつければ済む話でしょう、まったく……。

 頑固な男ね。誰に似たのかしら。前会長は人当たりの良い大らかな紳士だったのに。

 などと、次次と雑言が湧いてくる。

 会話一つとってもどうしてこんなに切羽詰まったように感じるのだろう。


「…前会長とお会いすることになりましたわ。すっかりお元気そうですのね」

 彼の父親は騒動以来体調を崩し、一時は入院もしていた。

「ああ。……どうやら私の意向は却下されそうだな。……仕方ない」

 もう先を読んでるの? 回転の速いこと。

「まだわかりませんわ。……本当はプロのチームを持ちたかったと言われてましたが」

「よしてくれ。完全に私の構想外だ」

「ええ、もちろんですわ。プロの球団は不可侵ですから」

 何度か球場で一緒に観戦したことがある。
 派手な応援が名物でもある都市対抗試合だった。
 前会長は目を輝かせて『球団オーナーになってみたいものだねえ』口にされていたのをよく覚えている。
 その前会長の熱意に反比例して目の前の男のテンションの低いこと。

「ただ、企業名=チーム名な点はある意味社会人野球みたいなものですわ」
「そうかね。そういう話はぜひ父と交わしてくれ」
「ええ、そのつもりです」

 野球部の存続と同じくらい気になることがある。
 s物産の残党だ。
 s物産は化学加工部門の一部を切り離し、我が社が受け持つこととなった。
 常に大掛かりな設備投資を必要とする部署を捨てるなんていかにもs物産らしい。
 所属の社員のうち使えそうな営業事務職従事者は他部署に転属、数名の研究者が我が社の工場兼ラボに転職した。
 ライバル社の研究者を引き取ったことになる。

(……産業スパイなんてことはないでしょうね)

 特殊加工の先端技術部門である。
 完全に切り捨ててしまったのだろうか。それとも…技術を盗んで他社に売り込む……なんてことになりはしないだろうか。
しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

毒花令嬢の逆襲 ~良い子のふりはもうやめました~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:130,832pt お気に入り:2,206

会長にコーヒーを

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:56pt お気に入り:1,202

貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:204,234pt お気に入り:12,097

処理中です...