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10話 誰にも言えない
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「どうだ、何かわかったか」
「う…ん」
弟が何か始めたらしいということはわかっていた。
自宅に戻らず、籠っている…らしい。
それが数日続いて久しぶりに会長室に戻ってきた。
「…警察が動いているというのは本当らしいな」
…やることはやっている、詳しい内容は後日わかるだろう―――。
真相を突きとめようにも、そこで行き詰まる。
もどかしいが、映画のようにスパイを潜り込ませる、または自力で何とかするということもできず、ただ事情を知る身内内で言葉を交わすくらいだった。
「お前がうらやましいよ」
「え?」
今日は出勤してきている高広とは、いれば一緒にランチをしている。と言っても出来合いのサンドイッチやバーガーが主体だが。
兄弟そろって食には無頓着…兄は好き嫌い多めで扱いが難しいと言えば難しい。
この頃は大目にオーダーして秘書室に届けることもしている。
もっと早くにこんな振る舞いをしていたら、周囲とこじれることもなかったんだな…つくづく会長は思うのであった。出張の際の土産物は欠かしたことはないが、そもそも出張自体が少ない。
数年間のいざこざが少しでも和らいでいたかもしれない。会食の好き嫌いは譲れないにしても。
「さらっと行動できて、異性だろうが嫌みなく誘える。突然家を訪ねて旅行に誘うなんてな…」
「俺にはできない」
残念そうな声に高広はギクッとして、卵サンドを皿に置いた。「いや、あ、あれは…そんなつもりじゃないし、何も考えてないからそう見えるだけであって…」笑ってごまかそうとする。ハッキングに長ける彼はもうずっと前から香苗の実家の住所を知っていた。島根県松江市八雲町ーーー…。
「しゃ、喋るだけならすぐにできるよね」
「…泊りがあっても?」
「うーん…」
…そういうのじゃないから。だって、色気がないし。そういう関係。…と高広は思うが言わなかった。
間が開くと落ち込むのを防ごうと会話してるのが痛いほどよくわかっている、逆に明るくなりすぎても言葉が続かなくて困ってしまう。
「俺なんかいらないかもな。このところそう実感する。何をシャカリキになってたんだろう、俺は。もっといろんな可能性があったはずだ」
あの樫木に指摘されるとは。冷静に言葉を組みなおしたら、自分の判断が正しかったかどうかあいまいになる。
内容も衝撃ながら、さすがに並じゃない人生をくぐりぬけてきた重みがあった。
「でもそんなこと言ってたら、あいつに会ってなかったかもしれねえじゃん」そんなスマートな付き合い方ができていたら。
「……俺と会うような羽目になったから、こうなったんだ」
「そんなこと言っても仕方ないよ」
「そうなんだが」
そこに行きつくわけか…高広は息を漏らす。
どんなに緑川が明るい言葉で励まそうと、兄の心を救ってやることはできない。
相当落ち込んでいる。今までにないほど。
今までの自分を否定する程。
こんなこと、はじめてだ。
食事だけでなく、目に言えない何か…
兄のスカスカだった心の隅々が
香苗という存在で埋まってしまったのだろうか。
「待つしかないかなあ…」
おそらく香苗はこの関東近辺にいるはずだ。
(怪しげな島はあるんだよなあ…でもなあ)
「よりによってあいつがなあ…なんでだろう」
どこの者による犯行か高広は知らない。
プロの仕業…ということは闇バイトというよりも限りなくアングラな影もちらつく。
そのような輩と香苗が結びつかないのだった。
(あいつが好意でしたことが誰かの癇に障ったとか?)
逆恨みや勘違いから憎悪を募らせ、恐ろしい復讐劇に発展する…今の社会では普通にあり得る話だ。
「兄さん、今さらマヤさんや他の誰かとやり直そうとは思ってないよな?」
「あるわけないだろう」
唐突に現われたエリザベスが引っかかったので、確認をしてみるに、それは言い切ってもよかった。兄はそういう性質ではない。香苗への思いは弟から見ても今までのケースと違った。
「う…ん」
弟が何か始めたらしいということはわかっていた。
自宅に戻らず、籠っている…らしい。
それが数日続いて久しぶりに会長室に戻ってきた。
「…警察が動いているというのは本当らしいな」
…やることはやっている、詳しい内容は後日わかるだろう―――。
真相を突きとめようにも、そこで行き詰まる。
もどかしいが、映画のようにスパイを潜り込ませる、または自力で何とかするということもできず、ただ事情を知る身内内で言葉を交わすくらいだった。
「お前がうらやましいよ」
「え?」
今日は出勤してきている高広とは、いれば一緒にランチをしている。と言っても出来合いのサンドイッチやバーガーが主体だが。
兄弟そろって食には無頓着…兄は好き嫌い多めで扱いが難しいと言えば難しい。
この頃は大目にオーダーして秘書室に届けることもしている。
もっと早くにこんな振る舞いをしていたら、周囲とこじれることもなかったんだな…つくづく会長は思うのであった。出張の際の土産物は欠かしたことはないが、そもそも出張自体が少ない。
数年間のいざこざが少しでも和らいでいたかもしれない。会食の好き嫌いは譲れないにしても。
「さらっと行動できて、異性だろうが嫌みなく誘える。突然家を訪ねて旅行に誘うなんてな…」
「俺にはできない」
残念そうな声に高広はギクッとして、卵サンドを皿に置いた。「いや、あ、あれは…そんなつもりじゃないし、何も考えてないからそう見えるだけであって…」笑ってごまかそうとする。ハッキングに長ける彼はもうずっと前から香苗の実家の住所を知っていた。島根県松江市八雲町ーーー…。
「しゃ、喋るだけならすぐにできるよね」
「…泊りがあっても?」
「うーん…」
…そういうのじゃないから。だって、色気がないし。そういう関係。…と高広は思うが言わなかった。
間が開くと落ち込むのを防ごうと会話してるのが痛いほどよくわかっている、逆に明るくなりすぎても言葉が続かなくて困ってしまう。
「俺なんかいらないかもな。このところそう実感する。何をシャカリキになってたんだろう、俺は。もっといろんな可能性があったはずだ」
あの樫木に指摘されるとは。冷静に言葉を組みなおしたら、自分の判断が正しかったかどうかあいまいになる。
内容も衝撃ながら、さすがに並じゃない人生をくぐりぬけてきた重みがあった。
「でもそんなこと言ってたら、あいつに会ってなかったかもしれねえじゃん」そんなスマートな付き合い方ができていたら。
「……俺と会うような羽目になったから、こうなったんだ」
「そんなこと言っても仕方ないよ」
「そうなんだが」
そこに行きつくわけか…高広は息を漏らす。
どんなに緑川が明るい言葉で励まそうと、兄の心を救ってやることはできない。
相当落ち込んでいる。今までにないほど。
今までの自分を否定する程。
こんなこと、はじめてだ。
食事だけでなく、目に言えない何か…
兄のスカスカだった心の隅々が
香苗という存在で埋まってしまったのだろうか。
「待つしかないかなあ…」
おそらく香苗はこの関東近辺にいるはずだ。
(怪しげな島はあるんだよなあ…でもなあ)
「よりによってあいつがなあ…なんでだろう」
どこの者による犯行か高広は知らない。
プロの仕業…ということは闇バイトというよりも限りなくアングラな影もちらつく。
そのような輩と香苗が結びつかないのだった。
(あいつが好意でしたことが誰かの癇に障ったとか?)
逆恨みや勘違いから憎悪を募らせ、恐ろしい復讐劇に発展する…今の社会では普通にあり得る話だ。
「兄さん、今さらマヤさんや他の誰かとやり直そうとは思ってないよな?」
「あるわけないだろう」
唐突に現われたエリザベスが引っかかったので、確認をしてみるに、それは言い切ってもよかった。兄はそういう性質ではない。香苗への思いは弟から見ても今までのケースと違った。
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