会長にコーヒーを☕

シナモン

文字の大きさ
5 / 153
1話 会長にコーヒーを

しおりを挟む
 ああ~。眠い。キモすぎる隣の男。
 まともに見たことないけども。見れないよね、あれじゃ。
 電車の中で立ってるのに睡魔に襲われる私。
 ……やっぱ帰りに本屋回るのは時間がもったいないわ。本屋にいかなくても済む方法。ここはひとつ聞いてみよう……。
「あの、すみません」
「ん?」
 朝の挨拶のとき、いきなり会長に申し出る。
「ここのPCでお料理のサイト見てもいいですか?」
 ってズバリ。
 ちょっと面食らったような顔が返ってきた。
「――あ、すみません。どうせ作るんだったらおいしいものが作りたいなと思いまして」
「……いいけど。そんなに凝った物作らなくていいよ」
「は、いえ、メニューの参考、というか。毎日同じ物を出すわけにはいかないんで」
 なるほど、という具合に一回頷くと会長は、
「PCの使用については構わないが。そういうつもりならこれを使ってくれ」
 すっと胸の内ポケットを探る。
「え?」
 出されたものを見て私は目が飛び出そうになった。
「材料費がかかるだろう? とりあえずこれを使って」
 え―――?
 って、これ、ブラックカードじゃん!
「あ、あの? どうして、これって」
「何だ? いいから持っていなさい」
 ――マジ?
 アメックスセンチュリオンカード。はじめてみる。今までのバイト経験でも見たことない。
「……こ、これ。使えるんですか? その、スーパーとかで」
 これってどんどんお金使わなきゃいけない幻のエグゼクティブカードでしょ?
 そんなカードできゅうりとかレタスとかショボイもん買ってもいいの?
 せめてtakas○imayaカードとかだったら使いやすいのに。近いし。
 ってそんな問題じゃない!
 そもそも他人にカードをポンと渡すなんてマジ? この人、頭ヘーキ?
「使えるはずだが? サインは要らない」
 平然と。そうですか。
「……あのー。でも私カードとかあんまり使いたくないんですけど」
 こ、こわいよ。そんなの使って何か言われたりしたら。変なオッサンにあとつけられたりしたら……どうすんの?
「そうか。現金の方がよければそちらにするが。いちいち面倒じゃないか?」
 ――いや、そうじゃなくって。
 材料費ったってまだ9000円以上残ってるんですけど?
 これであと10日はいけると思ってるんですが。
「ま、君が使いやすい方がいいだろう。じゃあこれを使いなさい」
 と、また万札を出される。
 ――じゃなくって、札束!?
 えぇー――?
 ちょっと、給料分くらいない? コレ。
 何でこんなのがすっと出てくるの?
 驚いて声も出ない私。
「―――足りなくなったらまた言って。給料日までの分だ。来月分から基本給に上乗せさせておくから」
 ――は? なんつった、今。
 上乗せ?
「……話はそれでいいかな。席に戻って」
「は。い、いえ」
 お金が受け取れない私。
 お店辞めてからは札束自体見たことなかったりして。給料出てもすぐ使っちゃうし。
「で、でも、これはもらい過ぎじゃ……。ランチ作るくらいでそんなにもらっても……」
 うろたえてやっと言う。謙虚だ。さすが貧乏人……。
「どうかな? 昼食の相場はよく知らないが、外食すると4、5万するんじゃないのか。ここに運ばせればもっとするように思うが」
 えっ?
 耳を疑うお言葉。
 しごまん?
 そんな当たり前のように言わないで下さいよ。
「メニューにもよるが、まず人件費がね」
 ―――は。もしかして。
 初日のランチもそんな高かったの?
 確かにめちゃくちゃ美味かったけど、5000円くらいかと思った。個室で値段出てなかったし……。
 何この貧富の差―――!?
「だから君が専念するというのならそれ相応に払わなければならないだろう。店の料理人を雇っても金は払うしな」
 ちょっと、私はケータリング要員ですか?
「……あ、でも、そんなたいそうなものは作れないし。やっぱりもらいすぎかなって。それにそれならプロの料理人さんを雇った方がいいんじゃ……」
「外部の人間を入れるのは嫌なんだ」
 キッと睨まれる。
 ……外部のって。
 私もつい4ヶ月前までは外部の人間だったんですけど?
「こんな時勢だからな、用心するに越したことはない。君たちは知らないかもしれないが、社内に盗聴器や盗撮の類がないかどうかいつもチェックさせているんだよ。出入りを完全に防ぐことは不可能だからな。それに社の人間にしても信用できない」
「そ、そうですか。私……。余計なことを言ってすみません。何か、でしゃばった真似を」
 しがないカフェの店員だってのに。マジどこにでもいる。料理人扱いされるなんてとんでもない。
「いや。してもらえるなら私もその方が助かるんだ。君に言われてそう思ったんだよ。業務が増えるんだから給与も増す。当然だろう?……妥当な金額を調べさせて給与に上乗せするよ。」
「はあ……」
 信じられない、この人。
 上乗せってそんな大した物作ってないのに。
 私が買ってきたパンなんて100円だよ?
 一食当たり500円もかかってないよ?
 この人の金銭感覚どうなっちゃってるの。
 すごいこの差。
 この人にとっては『1ヶ月1万円生活』の方が夢のまた夢なんだ……。
  って寂しい例えだ。ハハ。
「それはとりあえずとっておきなさい」
「は、はあ」
 こんな『なんちゃってランチ』でこんなにお金もらえちゃうなんて。
 いいの?
「……でもまだいいです。無くなってからで」
「そうか? なら早めに言うように」
「はい」


 ぶっとび! の金銭感覚。でもまあお許しが出たので私は早速PCを開いた。
 途中一回のブレークタイム、ランチタイムを挟んでレシピサイトを回る。
 『カフェ メニュー ブランチ』
 その検索項目だけで無数のサイトがヒットするのだからきりがなく。
 昨日まで会長を見たりして過ごしたゆったりとした時間があっという間に過ぎていった。
 ランチのメニューはサーモンと野菜の生春巻き、アボガドスープ。
 そして、お昼過ぎ。私は昨夜作ったスイーツをコーヒーとともに彼のデスクへ運ぶ。
 ―――本日のスイーツ。いちじくのフィナンシェ。
 どう? これ。実は私が食べたかったってのもあるけど、『フィナンシェ』=『資本家』ってあの人にぴったりじゃない? そんな思いつきで作った一品でもある。
 お出しするとちょっと『コレ何?』みたいな顔されたけど、ひょいと口の中に。小さな一口サイズってところがミソなのよね。試食感覚で食べやすいっしょ?
 で、ランチともどもめでたく完食。やっぱこれが一番ウレシ―よね。
「……こういうもの食べるの初めてだよ」
 コーヒー飲んだ後言われる。
「そうなんですか? デザートに出てきません?」
 ――コース料理とかの。もっと凝った物が出てきそうだけど?
「デザートか。チーズくらいしか食べたことないな。あと果物とか」
 え、チーズってデザートなの? 初めて知った。
 ……つくづくこの人と私って感覚違うのね。
「そういえばすんなり口に入るな。君は本当に器用だね。金のことは遠慮せずに言いなさい」
 とまた言われて。
 ――めちゃくちゃ気前よくない?
 さっきはびっくりしたけど、何故か嫌な感じしなかったし。金持ちってこと見せ付けてるって感じでもなかった。
 マジこんな簡単メニューで30万以上の給料もらえちゃうんだ?
 超ラッキ―――――!! 生きてて良かった!
 しかも会長のお許しつきでネットまで出来て――。
 ネット……。
 ところで色んなサイト見てるうちに私はあることを思いついた。
「あの」
「何?」
「えっと、あの、予備室に移ってPCしてもいいですか? じっくり作り方マスターしたいんで」
「構わないが。だがあの部屋のPCは古いよ。多分win2000で止まってるんじゃないかな。ソフトもインストールしなおさないと」
「あ、いえ。ここのノート持って行っていいですか?」
「……いいよ。配線の仕方わかる?」
「はい、何となく。お店でちょっといじってたんで。HP作ったりとか」
「そうか。では好きにしなさい」
「はい。ありがとうございます」
 ――ヤッター。
 私は給湯室と入り口を挟んで反対側にある予備室に移ってノートPCを接続した。
 予備室……要するに秘書の部屋だろうか。そこの机に元々置いてあるノートPCは確かに古い感じのするデザインで、きっとずっと使われてなかったんだな……そう私に連想させた。
 ――マジで誰も長続きしなかったの? こんな楽なのに。
 そう思うけど、私だってまだ序の口だ。この先何があるかわからない。
 30万プラスαのために気をひきしめていかないと!
 で、何でここに篭ったかというと、ネット見てるうちに私もサイトを作りたくなったのだ。
 ノートパッドで整理するのっていいんだけど、どうも味気ないって言うか。他人に見てもらうとかは別として、もっと動きのあるページにしたいなって。
 ホムペ。
 カフェでもやってたしね。
 他のバイトの子と一緒に店のブログを作っていた。
 メニューの写真を撮ってアップしてコメントつけるって作業自体はとっても楽しかったけど、忙しくって毎日更新とはいかなくて。
 でもここだと時間はたっぷりある。
 ――なにやってんの、私。ここ会社よ?
 そう思いつつ指が勝手に動いて。
 ――あ。ここのPC使うと会社からだってのがばれちゃうかな?
 ……会長はネットサーフはいいって言ったけど、ホムペ立ち上げるのはどうだろう?
 聞くのはチョット恥ずかしいな。
「―――何故?」
 って言われそう。
「えーと、ついでに料理のサイト作りたいんです」
 こんなこと言ったら変な顔されるか。
 色々あさった末、ブログにしようかな……という結論に落ち着く。
 ……ちょっと考えた後、画像のアップと書き込みが携帯でできるところを選ぶ。閲覧だけここのPC使わせてもらおう、と。
 まぁ~、やばくなったらすぐに閉じればいっか。
 そんな軽い気持ちで。
 ――HN何にしよっかな~。タイトルは? 会長の名前出すのまずいよね……。
 呼ばれないのをいいことに、ああでもない、こーでもないと頭ひねって。
 携帯で撮ってた本日のメニュー画像を送って。
 できたー。


*しあわせおひるごはん*

プロフィール
kofi(コフィ)♀。元カフェ店員。現在わけあってとあるvip様専属でお料理を作ってます☆ただメニュー載せるだけじゃつまんないので、残さず食べてもらえたら更新しようかと。。。どうぞよろしく♪


 ……結局カフェの時のタイトルいじっただけ(漢字→ひらがな)。ちょっと恥ずかしいけど、ダサめな方が検索されにくそうでいいじゃん? もちろん職種テキトーにぼかして。
 まー、問題は中身ですヨ。『ぜーんぶ残さず』ってところがポイント。
 料理残されたらそこでストップ。そのくらいの覚悟で作らないとね、何たって月給30万超だから。超よ、超! マジらっっっきぃぃ―――……。


 ―――目指せ年収500万突破。頑張れ、私!
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?

長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。 王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、 「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」 あることないこと言われて、我慢の限界! 絶対にあなたなんかに王子様は渡さない! これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー! *旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。 *小説家になろうでも掲載しています。

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...