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第二話 無理やり。でも悪くない。
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黒い羊の角を生やした男の子が続けて言う。濃い紫の目がらんらんと光っていた。
「なに、そう悪い話でも無い。毎日戦いに明け暮れるわけでも意思の通わん魔物たちと関わり続けるわけでもないんじゃ。部屋は城に大きなものを用意するし、食事だって三食おやつ付きで出す。武器や防具も経費で揃えられるんじゃ。超ホワイトな話じゃろう?」
何を言ってるんだこの人は。討伐相手にそう言われても湧いてくるのは疑念と殺意だけに決まっている。
「待ってください。」
唖然としていた男が割り込んできた。敵の前だというのに困惑を隠す気配も無い。
「素性のはっきりしない人間を仲間にするなんてどういう風の吹き回しですか。強い魔物なら他に沢山いるでしょう?」
「お前さんより強いのは少ないと思うが・・・。それに人間だからいいのだ。世界征服のために、昼の世界を知るものは必要だろう?情報は時に力を凌駕する。」
「そうはいいますけどね・・・結局あんたは面白そうな人間を誘いたいだけでしょう?」
「仮にそうじゃったら不満か?理由より結果をってお前さんよく言うじゃないか。」
「先に言い出したのは魔王様ですよ!?」
「そうじゃったかのう?」
二人の会話を聞いていると、不快だと感じていたはずの自分の心が揺らいでいることに気づく。凶悪だと言われていた魔王も、魔王軍もたいして人間と変わらないように・・・否、ただの人間より情のある存在に思えた。少なくとも、私に対して竜の目を持つ化け物ではなく、強い人間として接してくれている感じがしたのだ。でも。
「だから辞めときましょうって。裏切られたらどうすんですか。」
「そのときは消し炭にするまでよ。」
「突然の脳筋発言辞めてくれます?」
魔王軍を討伐すれば、私はまた価値のある存在になれる。認めてもらえる。存在を肯定できる。その為になら私は。剣を握り直し、その白い首を裂きにいく。
「おっと。」
一瞬血を散らせたように見えたその首は傷一つなくつながっていた。赤い魔力が私の刃を押し返している。
「若者は血気盛んじゃのう。昔のディアを見ているようじゃ。」
一瞬男の方を見た魔王は、すぐに魔法を展開する。詠唱も無しに高濃度の魔力が練られていた。
「お前さんは力の差を分かっとらん。・・・いや、頭では分かっているけど身体がってやつか。」
剣を弾くと、魔王は血のようなオーラを右手のひらから腕に伝わせていく。柔らかく、鋭い不思議な魔力だった。
「私は魔王軍になんか入らない。主の命に従うのみだ。」
魔王がなにか見えたように目を光らせる。
「それで死んだとしてもか?魔王が綺麗ごとをと言われるかもしれんが、死んだら何もかもしまいじゃよ?」
ニヤニヤ上から笑いやがって・・・おまえに私の何が分かるんだ!家族にも捨てられ、力以外の存在価値を失った奴隷の悲観が、どれだけ戦っても認められず蔑まれるだけの日常の絶望がお前に分かる訳がない!いや、分かられてたまるか!感情がこれまでになく昂っていた。
『二度とその目を見せないで頂戴。あんたなんか生むんじゃなかった・・・!』
『何度言ったら分かるんだ!この出来損ないが!』
『ごめんなさい、次はちゃんと_!』
『気持ちわりい目。』
『やだこっちみてる!』
『竜の目を持つならせめて強くならなきゃ。そうじゃなかったら何の意味も・・・!』
『消えてくんねえかな。』
『所詮化け物だしね。』
『お前のために言っている。』
『よく生きてられるよね。』
『こんなに勝った、沢山殺した。これで価値のある存在になれた?』
『こっわ、やっぱこいつイカれてるよ。』
『まあ人間じゃねえもんな。』
『・・・疲れた。誰か助けて。』
『言い訳はやめろ。』
『戦うことしか出来ないんだから。』
『だってそもそも害獣だし。』
・・・
『生まれてきて・・・ごめんなさい。』
・・・
『誤れば済むとでも思ってんの?』
・・・
聞いた、吐き出した言葉の断片が走馬灯のように駆け巡る。怒りと、焦燥と、嫉妬と・・・感情のままに剣をふるった。しかし。魔王は斬りかかった剣をオーラで絡み取り、そのまま遠くへぶん投げた。まずい。一瞬視線を外したその瞬間、魔王は左手で私の首を掴み木の幹に叩きつけた。そして右手のオーラを眼前に持ってくる。剣も取られ丸腰になった今、そのオーラは『死』そのものに見えた。
首に『死』を近づけ、魔王はニタリと笑った。
「お前さんは強い。じゃがワシよりは圧倒的に弱い・・・もう一度だけ言うぞ。部屋は城に大きなものを用意するし、食事だって三食おやつ付きで出す。武器や防具も経費で抑えられるんじゃ。」
そこで魔王は一息つき、まっすぐに私の目を見た。
「お前さんは既に凄く価値のある存在じゃ。自分で気づいてないだけでな。お前さんが魔王軍に来たら、価値も幸せもくれてやる。くだらん主は捨て、ワシのにな仲間になればいい。」
さらに『死』が近くなる。荒い息が魔力に触れていた。
「最後の勧誘じゃ。『はい』か『いいえ』で答えろ。・・・お前さん、価値と幸せの為、魔王軍に入らんか?」
自分でも驚くくらい。するっと声がでた。『元』主のことなど忘れたように。頭ではなく、体が新しい人生を求めていた。どうしようもなく。
「はい。」
答えると『死』が遠ざかり、魔王が微笑むのが見えた。そして宙に浮いた私の意識は・・・暗闇へと落ちていった。
「なに、そう悪い話でも無い。毎日戦いに明け暮れるわけでも意思の通わん魔物たちと関わり続けるわけでもないんじゃ。部屋は城に大きなものを用意するし、食事だって三食おやつ付きで出す。武器や防具も経費で揃えられるんじゃ。超ホワイトな話じゃろう?」
何を言ってるんだこの人は。討伐相手にそう言われても湧いてくるのは疑念と殺意だけに決まっている。
「待ってください。」
唖然としていた男が割り込んできた。敵の前だというのに困惑を隠す気配も無い。
「素性のはっきりしない人間を仲間にするなんてどういう風の吹き回しですか。強い魔物なら他に沢山いるでしょう?」
「お前さんより強いのは少ないと思うが・・・。それに人間だからいいのだ。世界征服のために、昼の世界を知るものは必要だろう?情報は時に力を凌駕する。」
「そうはいいますけどね・・・結局あんたは面白そうな人間を誘いたいだけでしょう?」
「仮にそうじゃったら不満か?理由より結果をってお前さんよく言うじゃないか。」
「先に言い出したのは魔王様ですよ!?」
「そうじゃったかのう?」
二人の会話を聞いていると、不快だと感じていたはずの自分の心が揺らいでいることに気づく。凶悪だと言われていた魔王も、魔王軍もたいして人間と変わらないように・・・否、ただの人間より情のある存在に思えた。少なくとも、私に対して竜の目を持つ化け物ではなく、強い人間として接してくれている感じがしたのだ。でも。
「だから辞めときましょうって。裏切られたらどうすんですか。」
「そのときは消し炭にするまでよ。」
「突然の脳筋発言辞めてくれます?」
魔王軍を討伐すれば、私はまた価値のある存在になれる。認めてもらえる。存在を肯定できる。その為になら私は。剣を握り直し、その白い首を裂きにいく。
「おっと。」
一瞬血を散らせたように見えたその首は傷一つなくつながっていた。赤い魔力が私の刃を押し返している。
「若者は血気盛んじゃのう。昔のディアを見ているようじゃ。」
一瞬男の方を見た魔王は、すぐに魔法を展開する。詠唱も無しに高濃度の魔力が練られていた。
「お前さんは力の差を分かっとらん。・・・いや、頭では分かっているけど身体がってやつか。」
剣を弾くと、魔王は血のようなオーラを右手のひらから腕に伝わせていく。柔らかく、鋭い不思議な魔力だった。
「私は魔王軍になんか入らない。主の命に従うのみだ。」
魔王がなにか見えたように目を光らせる。
「それで死んだとしてもか?魔王が綺麗ごとをと言われるかもしれんが、死んだら何もかもしまいじゃよ?」
ニヤニヤ上から笑いやがって・・・おまえに私の何が分かるんだ!家族にも捨てられ、力以外の存在価値を失った奴隷の悲観が、どれだけ戦っても認められず蔑まれるだけの日常の絶望がお前に分かる訳がない!いや、分かられてたまるか!感情がこれまでになく昂っていた。
『二度とその目を見せないで頂戴。あんたなんか生むんじゃなかった・・・!』
『何度言ったら分かるんだ!この出来損ないが!』
『ごめんなさい、次はちゃんと_!』
『気持ちわりい目。』
『やだこっちみてる!』
『竜の目を持つならせめて強くならなきゃ。そうじゃなかったら何の意味も・・・!』
『消えてくんねえかな。』
『所詮化け物だしね。』
『お前のために言っている。』
『よく生きてられるよね。』
『こんなに勝った、沢山殺した。これで価値のある存在になれた?』
『こっわ、やっぱこいつイカれてるよ。』
『まあ人間じゃねえもんな。』
『・・・疲れた。誰か助けて。』
『言い訳はやめろ。』
『戦うことしか出来ないんだから。』
『だってそもそも害獣だし。』
・・・
『生まれてきて・・・ごめんなさい。』
・・・
『誤れば済むとでも思ってんの?』
・・・
聞いた、吐き出した言葉の断片が走馬灯のように駆け巡る。怒りと、焦燥と、嫉妬と・・・感情のままに剣をふるった。しかし。魔王は斬りかかった剣をオーラで絡み取り、そのまま遠くへぶん投げた。まずい。一瞬視線を外したその瞬間、魔王は左手で私の首を掴み木の幹に叩きつけた。そして右手のオーラを眼前に持ってくる。剣も取られ丸腰になった今、そのオーラは『死』そのものに見えた。
首に『死』を近づけ、魔王はニタリと笑った。
「お前さんは強い。じゃがワシよりは圧倒的に弱い・・・もう一度だけ言うぞ。部屋は城に大きなものを用意するし、食事だって三食おやつ付きで出す。武器や防具も経費で抑えられるんじゃ。」
そこで魔王は一息つき、まっすぐに私の目を見た。
「お前さんは既に凄く価値のある存在じゃ。自分で気づいてないだけでな。お前さんが魔王軍に来たら、価値も幸せもくれてやる。くだらん主は捨て、ワシのにな仲間になればいい。」
さらに『死』が近くなる。荒い息が魔力に触れていた。
「最後の勧誘じゃ。『はい』か『いいえ』で答えろ。・・・お前さん、価値と幸せの為、魔王軍に入らんか?」
自分でも驚くくらい。するっと声がでた。『元』主のことなど忘れたように。頭ではなく、体が新しい人生を求めていた。どうしようもなく。
「はい。」
答えると『死』が遠ざかり、魔王が微笑むのが見えた。そして宙に浮いた私の意識は・・・暗闇へと落ちていった。
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