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ジャガイモさん太郎とタマネギ野郎
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あるところにジャガイモさん太郎がおりました。
町の人たちはジャガイモさん太郎のことを無敵の男だと言います。あまたのつわものどもがジャガイモさん太郎に勝負をいどんだものの、誰も勝ったことがないというのです。
実は、この町にはもう一人、最強と呼ばれている男がいます。それはタマネギ野郎です。どんな相手でも必ず倒してしまうという評判です。
ある日のことです。ジャガイモさん太郎が道を歩いていると、ちょうど反対側からタマネギ野郎が歩いてきました。二人は道の真ん中で、はちあわせになりました。
「お前はジャガイモさん太郎だな。」
「そういうお前はタマネギ野郎だな。」
「勝負だ!」
戦いが始まりました。なぜ戦うのかって?
二人に戦う理由を聞くのはやぼというものです。まず最初に攻撃をしかけたのは、タマネギ野郎です。
「くらえ、玉ねぎの汁!」
タマネギ野郎の体がパカっと割れたかと思うと、苦い汁が飛び出しました。
「ぐわあ!涙が止まらない!」
ジャガイモさん太郎の目からドバドバと涙が流れました。
「いつまでもやられてたまるか。くらえ、ジャガイモの汁!」
今度はジャガイモさん太郎の攻撃です。ジャガイモさん太郎の体が半分に割れ、中から白いでんぷんの汁が飛び出しました。さっきの玉ねぎ野郎の技にそっくりです。
「ぐわあ!ちょっとベタベタするー!」
玉ねぎ野郎は急いで手を洗いました。
そのあと、激しい戦いがくり返されました。気がつくと、夜になり、また気がつくと、夜が明けていました。二人とも疲れ果て、傷だらけでしたが、まだ決着はついていません。
二人は残った力をかき集めて、最後の攻撃をくり出そうとしました。
その時です。
「待てーい!」
いつのまにか二人の間に、杖をついたおじいさんが立っていました。
このおじいさんは何者なのでしょう?ジャガイモさん太郎とタマネギ野郎が本気で戦っているところに平気で入っていくなんて、ただ者ではありません。
「もしかして。」
「この声は。」
二人は夢の世界に入ってしまったのか、目覚めた世界にいるのか、わからなくなってしまいました。それを確かめるために、お互いのほっぺたをつねり合ったりもしました。
「へんしん。ニン!」
お腹にひびいてくるような声とともに、おじいさんの体は白い煙に包まれました。煙の中からニンジンのニンジャが現れました。
二人は声を合わせて叫びました。
「お師匠さまー!」
そうです。このニンジンのニンジャは二人の師匠、すなわち先生だったのです。名前は『ニンじい』といいます。
「お前たち、どっちが強いか争っておったのか?まだまだ修行が足らんのう。『戦いとはつねに自分との戦いじゃ。』とあれほど言っておいたのに。」
二人はハッと気がつきました。強いとは人よりも強くなることではありません。今の自分よりも強くなることなのです。二人は無敵だの、最強だのとちやほやされて、いい気になっていたのです。
二人は泣きながら叫びました。
「お師匠さまー!」
「さあ、二人とも、イチから修行のやり直しじゃ!」
「勘弁してくださーい!」
「はじめるぞい!あれを作るぞ、ちょうどブタコもきておるわい。」
「ブタコさんってことは、、、もしかして、あれですかあ?勘弁!勘弁!」
「おひさしぶりね。二人とも。少しは強くなったかしら?」
ブタのブタコさんはジャガイモさん太郎とタマネギ野郎のアネ弟子です。かわいいけれど、とっても強いのです。ブタコさんは二人に向かって、かわいらしくウインクをしました。
ニンじいは背中の刀を抜きました。キラリと銀色の光がきらめきます。
さすがお師匠様です。なんとも手際よく、ジャガイモ、タマネギ、ぶた肉を食べやすい大きさにしてしまいました。最後に自分の体もきざんでいきます。
「いでよ!ナベさん!それから三兄弟もな。」
雲のかなたから、大きなずんどう鍋のナベさんがクルクル回りながら近づいてきました。ナベさんは無口なのでほとんどしゃべることはありません。
「突入じゃ!」
みんな、ナベさん目がけて一目散に飛んでいきます。
いつのまにかナベさんの上に茶色の雲がかかっています。茶色の雲の正体はおさけ、しょうゆ、みりんの三兄弟です。
「今日はどしゃぶりだー!」
三人は力を合わせてナベさんの中に調味料の雨を降らせました。
ナベはグツグツと煮えてきました。しばらくするとほっこりするような、しょうゆとみりんのおいしそうな匂いがただよってきます。
「仕上げじゃ。タケグシン。」
やってきたのは竹串サムライのタケグシンです。ジャガイモさん太郎が最も苦手な相手です。
「勘弁してー!」
ジャガイモさん太郎は必死で逃げようとしますが、タケグシンには遠慮がありません。
「御免。」
ぷすぷすと、柔らかくなったジャガイモさん太郎の体を何度も刺していきます。ジャガイモさん太郎の顔は半べそになっています。
「火が通っているな。完成でござる。」
ひと仕事終えたタケグシンは、竹やぶの中へ帰って行きました。
「できたてあつあつの絶品肉じゃがの完成じゃ。さあ、みんなで食べるのじゃ。」
「いただきまーす!」
「を!を!を!うんまーい!」
みんな、夢中になってむさぼり始めました。町の人たちもわれ先にとお箸をのばします。お行儀もへったくれもありません。お鍋いっぱいの肉じゃがは、あっというまに、あとかたもなくみんなのおなかに消えていきました。
ジャガイモさん太郎とタマネギ野郎の目から涙がこぼれました。
それを見た町の人たちは、もう二人のことを無敵だとか最強だとか、うわさをすることはありませんでした。
町の人たちはジャガイモさん太郎のことを無敵の男だと言います。あまたのつわものどもがジャガイモさん太郎に勝負をいどんだものの、誰も勝ったことがないというのです。
実は、この町にはもう一人、最強と呼ばれている男がいます。それはタマネギ野郎です。どんな相手でも必ず倒してしまうという評判です。
ある日のことです。ジャガイモさん太郎が道を歩いていると、ちょうど反対側からタマネギ野郎が歩いてきました。二人は道の真ん中で、はちあわせになりました。
「お前はジャガイモさん太郎だな。」
「そういうお前はタマネギ野郎だな。」
「勝負だ!」
戦いが始まりました。なぜ戦うのかって?
二人に戦う理由を聞くのはやぼというものです。まず最初に攻撃をしかけたのは、タマネギ野郎です。
「くらえ、玉ねぎの汁!」
タマネギ野郎の体がパカっと割れたかと思うと、苦い汁が飛び出しました。
「ぐわあ!涙が止まらない!」
ジャガイモさん太郎の目からドバドバと涙が流れました。
「いつまでもやられてたまるか。くらえ、ジャガイモの汁!」
今度はジャガイモさん太郎の攻撃です。ジャガイモさん太郎の体が半分に割れ、中から白いでんぷんの汁が飛び出しました。さっきの玉ねぎ野郎の技にそっくりです。
「ぐわあ!ちょっとベタベタするー!」
玉ねぎ野郎は急いで手を洗いました。
そのあと、激しい戦いがくり返されました。気がつくと、夜になり、また気がつくと、夜が明けていました。二人とも疲れ果て、傷だらけでしたが、まだ決着はついていません。
二人は残った力をかき集めて、最後の攻撃をくり出そうとしました。
その時です。
「待てーい!」
いつのまにか二人の間に、杖をついたおじいさんが立っていました。
このおじいさんは何者なのでしょう?ジャガイモさん太郎とタマネギ野郎が本気で戦っているところに平気で入っていくなんて、ただ者ではありません。
「もしかして。」
「この声は。」
二人は夢の世界に入ってしまったのか、目覚めた世界にいるのか、わからなくなってしまいました。それを確かめるために、お互いのほっぺたをつねり合ったりもしました。
「へんしん。ニン!」
お腹にひびいてくるような声とともに、おじいさんの体は白い煙に包まれました。煙の中からニンジンのニンジャが現れました。
二人は声を合わせて叫びました。
「お師匠さまー!」
そうです。このニンジンのニンジャは二人の師匠、すなわち先生だったのです。名前は『ニンじい』といいます。
「お前たち、どっちが強いか争っておったのか?まだまだ修行が足らんのう。『戦いとはつねに自分との戦いじゃ。』とあれほど言っておいたのに。」
二人はハッと気がつきました。強いとは人よりも強くなることではありません。今の自分よりも強くなることなのです。二人は無敵だの、最強だのとちやほやされて、いい気になっていたのです。
二人は泣きながら叫びました。
「お師匠さまー!」
「さあ、二人とも、イチから修行のやり直しじゃ!」
「勘弁してくださーい!」
「はじめるぞい!あれを作るぞ、ちょうどブタコもきておるわい。」
「ブタコさんってことは、、、もしかして、あれですかあ?勘弁!勘弁!」
「おひさしぶりね。二人とも。少しは強くなったかしら?」
ブタのブタコさんはジャガイモさん太郎とタマネギ野郎のアネ弟子です。かわいいけれど、とっても強いのです。ブタコさんは二人に向かって、かわいらしくウインクをしました。
ニンじいは背中の刀を抜きました。キラリと銀色の光がきらめきます。
さすがお師匠様です。なんとも手際よく、ジャガイモ、タマネギ、ぶた肉を食べやすい大きさにしてしまいました。最後に自分の体もきざんでいきます。
「いでよ!ナベさん!それから三兄弟もな。」
雲のかなたから、大きなずんどう鍋のナベさんがクルクル回りながら近づいてきました。ナベさんは無口なのでほとんどしゃべることはありません。
「突入じゃ!」
みんな、ナベさん目がけて一目散に飛んでいきます。
いつのまにかナベさんの上に茶色の雲がかかっています。茶色の雲の正体はおさけ、しょうゆ、みりんの三兄弟です。
「今日はどしゃぶりだー!」
三人は力を合わせてナベさんの中に調味料の雨を降らせました。
ナベはグツグツと煮えてきました。しばらくするとほっこりするような、しょうゆとみりんのおいしそうな匂いがただよってきます。
「仕上げじゃ。タケグシン。」
やってきたのは竹串サムライのタケグシンです。ジャガイモさん太郎が最も苦手な相手です。
「勘弁してー!」
ジャガイモさん太郎は必死で逃げようとしますが、タケグシンには遠慮がありません。
「御免。」
ぷすぷすと、柔らかくなったジャガイモさん太郎の体を何度も刺していきます。ジャガイモさん太郎の顔は半べそになっています。
「火が通っているな。完成でござる。」
ひと仕事終えたタケグシンは、竹やぶの中へ帰って行きました。
「できたてあつあつの絶品肉じゃがの完成じゃ。さあ、みんなで食べるのじゃ。」
「いただきまーす!」
「を!を!を!うんまーい!」
みんな、夢中になってむさぼり始めました。町の人たちもわれ先にとお箸をのばします。お行儀もへったくれもありません。お鍋いっぱいの肉じゃがは、あっというまに、あとかたもなくみんなのおなかに消えていきました。
ジャガイモさん太郎とタマネギ野郎の目から涙がこぼれました。
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