~〘合体師〙~最強スキルの記憶無し転生者

あずさん

文字の大きさ
1 / 1
第一章

プロローグ

しおりを挟む
暗く狭い自宅の自室で、藤堂封斗はこの世に別れを告げようと、自殺の準備を始めていた。

「後は、コレを杭に引っ掛けるだけか」

ボソッと独り言を言いながら、麻縄を部屋の高い場所の壁に指しておいた杭に固く結び付ける。

思えば、散々な人生だった。

溜息をいくらしても逃げる幸せなど無いくらい、幸の薄い人生だった。

封斗は自分の記憶を遡り、自分の人生を改めて振り返る。


ーー俺は、小さい頃から良くお人好しと呼ばれていた。

優しくて、良い子だと周りの大人に褒められていた。

それは、当然周りの皆もそのように感じていたようで、俺の事を良いやつと思う奴も結構いたはずだ。

そして、その良いやつという認識は、段々と周りに固定されていった。

だけど、それがいけなかったんだろう。

周りの思い込みから、新しい学校に来ても口コミで広まり、その良いやつのレッテルは留まることがなかった。

だから、俺はそのレッテルを守るために必死に努力した。

周りに合わせまくったし、困ってる奴がいたら金も貸した。

どんな事があっても笑って許した。

そうした人生は、自分にとって虚しいだけだった。

貸した金は帰ってこず、少しでも催促するようなら

「調子に乗るな」



「殺すぞ」

などの暴言を吐かれ、時には暴力も振るわれた。

それでも周りは俺を良いやつだと思っていたから、そんな俺をいじめるやつなどいないと勝手に思い込んでいた。

おれは、自分にとって無益なことをして、自分にとって害のあるものを背負っただけだったのだ。

どれだけ尽くそうと

どれだけ必死になって足掻こうと

周りは俺の事をそういうやつだと思っているから、誰も何も言いやしない。

そこまで来て、やっと俺は気づいたのだ、自分の本心に。

今まで騙し続けた、己の心に。

見返りが欲しいわけでも無かった。

気に入られたいとも思っていなかった。

ただ、分かってほしかったのだ。

本当の自分を。

弱くてちっぽけな、でも、一応自分の意思を持って、レッテルや周囲の評価に縋りたくない、自分のことを。

でもそれに気づくには、余りに傷つき過ぎたのかもしれなかったーー





ーーそして、今に至る。

もう封斗は、縄の輪に首を入れていた。

不思議だ、もう死ぬというのに、心がとても穏やかだ。

手足の震えもない。

これまでの生活で、生物的な本能すら失ってしまったのだろうか。

そんなふざけたことを考えながら、ゆっくりと足を振り上げーー


「ごめんね、母さん、父さん。
先に逝くよ。」


ボソッとつぶやいて、フッと足場から飛び降りた。

ほぼ同時に、顔が張る感覚に襲われた。

耳がツーンとする。

でも、自然と苦しくなかった。

意識とともに、段々と視界が霞んでゆく。

そして、途切れゆく意識の残り火が、後少しで消えるというときに、少しだけ気になった。

死んだら、どうなるのだろう。


まぁ、何でもいいかと、既に喋れなくなった封斗は、心の中でつぶやいた。

こうして、藤堂封斗の17年という短い人生は、終止符を打たれたーー






ーー筈だった。

‹封斗視点›

「んん……あれ?俺生きてる?」

なんだ、自殺に失敗しちまったのか。

ポリポリと頭を掻いたあと、俺は霞んだ視界をハッキリさせるために目をこすって、しぱしぱと目を閉じたり開いたりした。

そして、一回ゆっくりと目をとじて、カッと目をかっ開いた。

「……んん?」

あれ?俺寝ぼけてんのか?

俺の部屋とは全く違う場所に居るんだが、どこだ?

「もう一回開けてみるか…」

今度は力強く目を瞑って、大きく息を吸い込んだ。

そしてーー

「そりゃっ!」

思っきり目を開けた。

「って、変わるわけねぇよな…」

元気のいい掛け声をかけてみても、結局状況は変わらなかったようだ。

見渡す限り、黒、黒、黒。

足元も真っ黒で、いっそ浮いているんじゃないのか?と錯覚もした。

周りには人の気配もない。

俺だけの空間。

真っ黒だが、どこか明るく、決して暗闇ではない場所。

そんなこの空間の中で頭に浮かんだ言葉、それはーー


「ここ、死後の世界とか?」

瞬間、背後から『ドンッ!』という物音と、ものっすごい風圧が押し寄せてきた。

「うぉぉ!?」

数メートルほど吹き飛んで、俺は壁に背中を打ちつけた。

「カッ……」

少しの間呼吸が出来ず咳き込んだが、それでも不思議と痛みは無かった。

そのことが、改めて死を実感させた。

数秒咳き込んだ後、俺はさっき物音がした方向に視線を向けた。

「お主がこの度ここに送られてきた藤堂封斗か?」

そこに居たのは、黄金の玉座に座る、狐面を顔につけ、9本の狐の尻尾をうねらせながら神々しいオーラを放つ、大人びた女性だった。

「えーっと、確認までに聞きますけど、どちらさまでしょうか?」

やべえやべえ、つい敬語になっちまった。
余りにも突拍子のない出来事だったもんだからまだ飲み込めてないし、まーいいか。

「ん?見たら分かるじゃろう?神じゃ」

「ですよねー」

はぁ、やっぱりか。
だよなー、何か厳かなオーラを放ってるし、明らかに人のものじゃないものついてるし。

「では、貴方は僕をどうしに来たんですか?地獄天国の審判か何かなんですか?」

取り敢えず、一番気になることを聞いておこう。

俺が生前気になってたことでもあるしな。

俺の問に対して、神はゆっくりと口を開きーー

「んなわけ無いじゃろ、儂はお主を異界に転生させるために来たのじゃ。
貴様程度の短い人生で天国地獄へ行けるとおもうなど、自惚れるな、たわけ」

この神めっちゃバリバリ喋るな…

最後の方割と悪口言われてた気がするけど、問題はそこじゃない。

「い、異界に転生?」

「そうじゃ、転生じゃ。
じゃ、早速転生させてしまうとするか「ちょちょ、ちょっと待って下さい!」の……なんじゃ?」

異世界に転生だって?冗談じゃない!

俺はもう無になりたいんだ。

こんな記憶捨て去って、存在ごと消えてなくなっても構わないのに。

勝手に転生なんかさせようとしやがって……

何とかやめてもらえるように頼んでみるか。

「あ、あのですね、僕はもう消えてしまいたいのですよ。もう一回人生を送ったところでどうせ同じような結果になるに決まってるんです。なのでやめていただけませんか?」

さて、言いたいことは言った。
流石にここまで言ったら考慮してくれーー

「ならぬ」

「ーーへ?」

「お主が転生したく無いのも、どうしてなのかもだいたいわかってはおる。」 

「ならなんで…」

聞き返した俺に、神は、数秒間をおいて話し始めた。

「じゃがな、お主の魂は、余りにも危険なのじゃ。」

「……は?」

「とても強大な力を秘めているのじゃが、それが良くない方向に不安定にのびているのじゃ。
故に、お主は転生してその方向と安定感をもとに戻さねばならぬ。」

なんだか良くわからないが、俺には関係ない話というのは分かった。

だから、俺は抗った。

何度も何度も何度も何度も、それはこうだと反論をし続けた。

しかし、向こうも一向に引きはしなかった。

そしてーー

「お主は異界に転生させる。
これはもう揺るぎ無いのじゃが、それではお主がちと可哀想でな、何か一つ役立つ力を与えておこう。その代わり、何かを犠牲にせい。」

俺は、その問に即答した。
抗えない転生に、絶対に引き継ぎたくないもの。それはー

「じゃあ、名前以外の記憶で」

長く続いた討論は、互いが妥協する結果に終わった。

客観的に見れば、神の勝利のようなものだが。

「では、ゆくぞ?」

「いつでも」

俺が返答すると同時に、神は何か詠唱を始めた。

「○○□▶■☆◀◁▽▼□▶♢♧♤□❖✞✟✡✫✬✪✤✚✙❖▶△★!!」

神の原語的なやつなのだろうか、全く聞き取れなかった。

そして、その詠唱が終了した刹那、俺の足元が眩い閃光をはなちはじめ、徐々に五感と四肢、肉体の感覚が消えていった。

最後に神がつぶやいたようだが、全く聞こえなかった。

そして、俺の肉体は、完全に崩壊したーーー













    フギャー、フギャー……


「う、生まれたぞ!やった!元気な男の子だ!頑張ってくれたなーリリィ!おおー!ははっ!」

ーー誰?

「えぇ、もうクタクタ……レイ、子供をこっちに……あぁ、これが私の……よろしくね…私の可愛い坊や…」

ーーここは?

「よーし、この子の名前は、ヴィルだ!宜しくなーヴィル!」

ーー違う

ーー俺は封斗、藤堂封斗

フギャー!フギャー!

「あらあらどうしたのかしら、名前が気に入らないのかなぁ?」

フギャー、フギャー……フギ………スゥ

「おお、よく眠っている、この子はきっと世界最高の冒険家になるぞー」

「ふふっ、そうねぇ」

こうして、親バカ夫婦の元に、藤堂封斗、改めヴィルが生まれたのであった。

記憶ほぼなし異世界世界生活、スタート!
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

政略結婚の意味、理解してますか。

章槻雅希
ファンタジー
エスタファドル伯爵家の令嬢マグノリアは王命でオルガサン侯爵家嫡男ペルデルと結婚する。ダメな貴族の見本のようなオルガサン侯爵家立て直しが表向きの理由である。しかし、命を下した国王の狙いはオルガサン家の取り潰しだった。 マグノリアは仄かな恋心を封印し、政略結婚をする。裏のある結婚生活に楽しみを見出しながら。 全21話完結・予約投稿済み。 『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『pixiv』・自サイトに重複投稿。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

処理中です...