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A氏の日常
AM06:00
起床。何年ぶりか、部屋に雪が降っている。今日は雪の日か。
弟たちが勝手に部屋の中で雪だるまを作っている。何が、可愛くできたから雪だるまあげるね、だ。まったく、失礼な奴らだ。雪だるまを作るなら、一言断るのが礼儀だろうに。一応の礼儀として受け取っておいた。ガチガチに硬い。これの原材料は本当に雪なのだろうか?
とりあえず、屋根を壊さないように厳重注意をしたが、きっとわかっていないだろう。学校から帰ってくる頃には家を胴体にした雪だるまのできあがりだ。ここは思い切って、兎の屋根だったのを熊の屋根にすべきかもしれない。
そうすれば、弟たちも幾分か静かになるだろう。その代わり新巻鮭を週に一回買ってこなければいけないが。静寂をとるか、懐の金をとるか・・・。難しい問題だ。
しかし寒い。今日はTシャツを着ていこう。
AM06:30
着替えついでに、学校の準備もしていたら、朝食が三分も遅れてしまい、おかげでお茶が拗ねてしまった。仕方がないので心無いお世辞を言ってみるが、歯が浮いてしまったらしい。お茶の温度が変わらない。
それにしても冷めたお茶だ。
母にゴミ出しを頼まれた。今日のゴミは燃えるごみだったので丁重に辞退させていただいた。やつらは手荒に扱うと燃えだすから始末に悪い。ついでに弟たちが部屋で遊んでいた事を話すと、ぷりぷりと怒りながら、二階へ上がった。きっとゴミ出しは弟たちがすることになるだろう。
安心して朝食を続けようとしたら、ご飯が冷たい。まったく、何故こうもご飯たちは皆、母の味方なのだろうか。作ってもらった恩さ!と海苔が言う。
お前は既製品だろうが。
AM07:30
そろそろ家を出る。今日は晴れているから、そこかしこで、いい大人やらが飛びながら歩いている。今年の流行りらしい。
浮かれた連中だ。鴨やらアヒルやらの靴を履くくらいなら、もぐらの靴の方がましだ。
……すぐに土に潜ってなくなるが。
突き抜けるような空色の自転車にまたがる。小さい頃から乗っているから、そろそろ買い換えた方がいいのだろう。しかし、この自転車以上乗り心地がいい自転車があるとは思えない。それを伝えたら、文字通り真っ赤になってしまった。
帰りに、夕日と区別がつけばいいのだが。
AM08:10
学校に到着。下駄箱の靴たちがばさばさと五月蠅い。
これだから流行というのはキライだ。もっと個性を大事にするべきで、皆が履いているから自分も履く、ではなく、どんなにデザインや機能性がなくても、自分の気に入った物を買って使うべきだ。 と、教室にいくまでの道中にあった友人に熱弁を奮うと、お前もそのサンショウウオのTシャツは流行っているヤツじゃないかといわれた。
冗談ではない、このTシャツは流行る前に買ったのだ。つまり、このTシャツは流行の先端をいきているのであるっ!そう語ると、結局流行モン着るんじゃん言われた。あいつも相変わらず口が減らないヤツだ。こっちはこのやりとりで口の三分の一が減ってなんだか負けた気分になる。くそ、イーブンだ。そう言い張ったら、生ぬるい目が返ってきた。口だけでは飽き足らず、目も減らないとは。
前言撤回、やはり勝てる気がしない。
AM08:30
担任が教室に入ってくる。急いで友人とやっていた蜂のチェスをしまった。担任は、どうやら蜂に刺されたことがあるらしく、たてがみというたてがみを逆立て、ヒステリックにチェスを踏み潰す。チェスの蜂は刺さないのに。
しかし残念だ。もう少しで女王蜂を完封できたというのに。まぁいい。次は絶対に勝つ。そう宣言すると、お前のそういうとこかわいいよなと言われた。気持ち悪かったので正直に気持ち悪いと進言すると、お前のそういうノリ悪いとこがかわいくないよなといわれた。うん、それでいい。同性から言われても嬉しくない。
担任が出欠をとっている。今世間では腹痛が流行っているらしい。クラスの中でも、ぽつぽつといないヤツがいる。軟弱なやつらめ。
AM08:50
授業が始まる。さて、寝るか。
PM00:30
目が覚める。授業は終わっていた。なんということだ、一時間目から四時間目まで寝てしまった。何故誰も起こしてくれないのか。冷たい友人たちだ。白々しく、あ、起きた?などという。わざとか?
まぁいい。いつもの事だ。体育をサボれたのはむしろ喜ばしい事だろう。
ちょうどお昼の時間。家から持ってきたお弁当を食べよう。少しの期待を込めてお弁当箱を開くと、大嫌いなりんごのバター炒めが入っていた。静かにお弁当を閉じる。
あぁ、今日は買い弁の日だったそうだったさて買って来ようそうしよう。
お弁当箱から意気地なし!と聞こえた気がするが、きっと気のせいだ。
PM01:15
午後の、授業と言う名の戦闘のゴングが鳴り響いた。
PM01:25
たった一問を間違えただけで、猫を持って廊下に立ってなくてはいけないのは、理不尽以外のなにものでもないと思う。
PM03:10
HRが終わった。今日はこれで晴れて自由の身だ。外は冬晴れで、校庭には、晴れで浮かれた蛙がぴょこぴょこ飛び跳ねていた。踏まれないか冷や冷やしながら行方を見送る。
友人に、今日このあと遊ばないかと誘われる。うっかりYESと答えそうになるが、そういえば、家の屋根を新しく変えることを思い出し、丁重にお断りを申した。友人はいたく残念そうに、(本人曰く、別に残念ではないそうだ。まったく、嘘が下手なヤツだ。)じゃ、また明日な、と手を交差した。こっちも手を交差し返す。
あいつの変な挨拶の仕方はどうにかならないのか。
PM03:40
屋根を買うには、懐の具合がよろしくなかったので銀行に寄る。なぜ家の事なのに自分のバイト代をださなくてはいけないのだろうか。ついため息が飛び出た。全ては弟たちが悪いのだ。あの悪餓鬼、どうにかならないものか。
今月はあまり贅沢できないな、と、残高金額を確認して必要分を引き出す。
さて、どこの屋根屋で買おうかと物思いにふけっている時、覆面を被り、手に大量のライオンを持った男四人組みが押し入ってきた。
何事だ、と状況を整理する間もなく、動くな、手を上げろ!と叫んだ。何が起きた、と思う前に、どうすればいいんだよ、と思うほうが強い。とりあえず周りの人と同じように手をあげておく。
手を上げて、ああ、強盗なのかと理解した頃には、銀行内の全ての人の首筋に、ライオンの牙がむいていた。変な事をしたら迷わずがぶりといかれるだろう。
なんということだ。屋根を買う時間がなくなってしまう。
男たちは興奮状態らしく、言葉がまるで呪文のようでなんと言っているかわからない。銀行の役員のシマウマさんに、ペリカンのカバンを何度も振りながら突き出しているのを見ると、金を入れろ言っているのだろう。シマウマさんはパニックになってしまっていて、見事に話が噛み合っていない。どちらも興奮状態だ。どちらが先に冷静になるのだろう。
先に冷静になれたのはシマウマさんであった。意図を理解すると、あわてて近くにあったお金をかきあつめペリカンの口の中に放り込む。ペリカン自体が己の役割を理解していなかったらしく、中々口を開けなくて少し苦労したようだが。
それだけでも遊ぶ金くらいはあっただろうに、強盗たちは金庫の金も全部寄越せと言っ てきた。いらん欲を出したな、と思ったが、ここは空気を読んで口にチャックをしておいた。しまった、これでは叫び声もあげられない。しょうがないので半分チャックを閉め、半分は開けておいた。よし、これで大丈夫。
例によって、シマウマさんがご指名され、銀行の偉い人であろう人から鍵を受け取り、奥の方へ消えて行った。監視を付けなくて平気なのだろうかと思ったが、シマウマさんの首筋にもライオンがいたことを思い出し、そしてシマウマさんが変な気を起こさないことを祈った。目の前で大自然の法則を見るのは勘弁願いたい。
少し経って、シマウマさんが慌てた顔で戻ってきた。手ぶらだ。どうしたことかと、周りの人も強盗も目を見張ったが、よく考えてみるとシマウマさんは手ぶらだから戻ってきたのだ。
つまり、お金を入れるべきペリカンがいない為。
強盗は、シマウマさんが恥ずかしそうに、あの、お金を入れるのはどちらに?と聞いたときに初めて気づいたらしく、やや気まずいのを威勢で誤魔化しながらあたらしいペリカンをカバンから出した。一体どのように入っていたのか気になる。
さっさと行って来い!と怒鳴られ、笑いそうになっていた顔が再びおびえた顔に変わり、ぱからっぱからっと急いで奥の方へ走っていった。
多少のぽかをしたものの、強盗の手口は計画的だったのだろう。鋭い叫び声で動きを止め、叫ぶと同時にライオンを放つそのタイミング、ライオンの調教、ペリカンの用意。
だが、はじめの叫び声のデメリット、周りの店にまで聞こえるという事が、強盗にとっては最悪に、銀行側にとっては幸運に、警察を呼ぶ事になったのだろう。遠くからサイレンの音が聞こえた。
願わくば、通報者がシマウマさんでは絶対にありませんように。
強盗たちはあからさまに動揺するが、ペリカンが返ってこない。この期に及んで欲深い強盗だ。ここで諦められたら、きっと捕まらなかったに違いない。意外と抜けているな、という感想だ。
警察が、ドラマのように、犯人に告ぐ!ここは完全に包囲した!速やかに人質を解放し、自首しなさい!と、機械を通じて拡張された声で宣言する。犯人は、なにか要求をするのか、舌打ちをしながらも、窓から通信用インコを警察に放り投げた。インコはばさばさと、色とりどりの羽を撒き散らしながら警察の元へと、健気に飛んでいく。
インコが警察の手に止まった時、やっとペリカンに詰め込めたのか、シマウマさんが戻ってきた。よかった、生きていた。ペリカンの口がでこぼこしているのは、お札をいれたからだろう。はち切れたりしないだろうか。それだけが心配だ。少しだけお札がはみ出ているのはご愛嬌にしておこう。
シマウマさんは何が起きているのが分からないといった風にしていたが、窓から見える警察の車に安堵の表情が見えた。
これで、助かると。
人質にとって嬉しい事が、強盗側に楽しい訳がなく、安堵の空気が充満してくるのと比例して強盗たちの不機嫌さが尖って刺さる。痛々しい空気だ。
しかし、安心を拭えるわけがなく、高校生くらいだろうか、すずめの女の子二人組みが、うっかり口を滑らせてしまった、これで助かるね! と。
ライオンの牙はその丁寧に手入れしてある羽に、ゆっくりと深々と突き刺さった。
女の悲鳴は好きではない。
女は、不幸に叫ぶのではなく、幸せに叫んでいてほしいから。
当然ながら、強盗たちはほれみろという表情を見せるのかと思った。それをまた脅しの道具に使うのかとうんざりした。
しかし、強盗たちは滴る血を見て、羽に深く刺さる牙を見て、目をひん剥きあからさまに動揺した。そして言った。話が違う、と。いいや、違わないさ。覆面の一人が言う。まぁこうなっちゃぁ覆面の意味が無いわな、と覆面を脱ぎ捨てた下には、ライオンの顔があった。人質を見張るライオンの親玉なのだろうか。
強盗の一人が言う。
おい、お前は誰だ、と。
ライオンは答えた。
ああ、ライオンだ、と。
強盗の一人が言う。
おい、ハイエナはどこにいった?と。
ライオンは全員で答えた。
ああ、あの昼飯の話か?と。
この野郎!と、強盗の一人が果敢にも飛び掛る。しかし、百獣の王に叶うわけがなく、あっさりとねじ伏せられていた。はなせ畜生!返せよ、俺の親友を返せよ!
じたばたと抵抗するも、そんなことは起こっていないかのように、他の強盗に、インコ貸してくんない? と手を出す。がたがたと震えながら渡されたインコに、喋りかける。
メーデメーデ、聞こえますか警察さん?
あぁ、聞こえる。用件はなんだ?
ほかの強盗どもを渡しますので、私だけは助けてください。
どういうことだ?
仲間を売ると言っているのです。
警察と淡々と交渉しているライオンの目を盗んだわけではないのだが、結果的にそうなってしまったのはしょうがない。すずめの止血をしようと動いた時、完全にこちらに目を向けていないのに、鋭い獰猛な声が動きを止めさせた。動くな! 何している?
止血をします、と、想像以上に冷静な声が出た事に驚きながら、動け動けと手足に指令を必死に送り、なんとかもう一度動き出した。清潔なガーゼや包帯などもっていなかったから、体育用に、と思っていたスポーツタオルをキツく締めた。すずめの女の子は、ぼろぼろ涙を流しながら、ありがとうございますと、ごめんなさいを連呼していた。気にするなと返した声が、多少ぶっきらぼうになったのは多めに見て欲しい。やはり、余計な事をいいやがってという気持ちは隠せない。
おい、終わったならさっさと離れろ。ライオンが言った。言われずとも離れている。話は終わったらしく、腕を組んで、入り口をじっと眺めていた。
時間だけが過ぎる。
突然、ライオンが低い声で怒鳴った。さぼるな!と。すると、シマウマさんに牙をむいていたライオンが慌てて姿勢を正した。人質を見張るライオンはまだまだ子供なのだろうか、人質の影に隠れて欠伸をしているやつもいるようだ。子供になんてことをさせているのだ、このライオンは。冷徹という言葉がしっくりくる。そして、この子供たちは自分のしている事がわかっているのだろうか。
ライオンはあいもかわらず入り口を凝視する。
まったく、こんな貧弱な高校生にどうしろというのだ。
PM05:50
警察とは交渉決裂したのか、警察が条件を飲んだのかはわからないが、強盗の立てこもりは未だ続いていた。
こんな真剣なところで申し訳ないのだが、どうしても尿意が先程からつのっていた。昼間に、お金がないからと、無料なのを良い事に水を何杯もお代わりしたからだろうか。まずい。なにがまずいかって膀胱がまずい。どうするべきなのだ、いったい。警察はなにをしている?
PM05:56
だめだ、もうトイレの事しか考えられない。なんでこんなに遅いのだ警察は。これだから税金を無駄に使っているやら勤務怠惰がマスコミで叩かれるのだ。早くトイレに行きたい。冷や汗をかいてきた。だめだこれ以上の我慢はしてはいけない。理性より本能が勝った瞬間である。もう叫びに近い声で、ライオンにトイレに行くと宣言した。ライオンはどうでもよさげに、早く行って来い、五分だ。と言った。
正直そんな声は聞いていなかった。もう鞄の中からタオルを探すのも面倒くさい。カバンごと持っていこう。
……ふぅ。なんとか高校生としての尊厳は守る事ができた。
しかし、さすが銀行だ。トイレが、学校とは比べ物にならないくらい綺麗で、水道も自動式、洋式の個室はウォシュレット完備である。
手を洗って、鞄の中のハンドタオルを探る。どこにあるかわからないのはもう既に仕様なのだと言い聞かせ、ごそごそと探していると、鞄のポッケがやけに濡れている。嫌な予感がしてポッケを探ると、朝に弟たちからもらった雪だるまだった。あいつら何時の間に。顔をしかめると、腕時計のアラームが鳴る。もう4分過ぎたのか、急がねば。
PM06:00
なんとか五分以内に戻れた。
フロアに戻ると、なんだかライオンたちの様子がおかしい。なんというか、気がそぞろだ。右を見て、左を見て、また右を見て、と思えばいきなり上を見たりする。肩に乗っているライオンも、目を輝かせて左右を見る。
何が起きているのだ?
窓の外を見ると、警察の方々が、4、5人で持たなければ持てないような巨大なねこじゃらしを数本、通常の二倍くらいの大きさのねこじゃらしは全員が装備して、一心不乱に降っていた。なんじゃこりゃ?
そう疑問に思うのが先だったか、ガラスの割れる音が先だったかわからない。フロアには、何個かの手榴弾を細長くしたようなものが投げ込まれた。爆弾か!?ライオンが我に返って警戒するが、ぷしゅぅぅっと、回収するよりさきに、それは白い煙を吐き出した。一番近くにいた子供ライオンがごろにゃんと、まるで酒を飲んで酔ったように、平衡感覚を無くし床に落ちる。どうにか立とうとしているらしいが、千鳥足のようにふらふらしている。
またたびだ!!
人質を捕まえていた子供ライオンが次々床に落ちていく。その効果はライオンにも及んだらしく、酔ってたまるか、と歯軋りを強くしているが、床に膝を突いてしまっている。
ああ、これでやっと終わるのか、と思ったあたり、なんだかんだいって神経を磨り減らしていたようだ。安堵のため息をついた。
終わってたまるか!
急に怒声が響いた。肩膝を床についていたライオンが、再び立ち上がり、近くにいたシマウマさんに向かって走る。
思い通りにさせては、いけない。
いつの間にか鞄から弟たちがくれた雪だるまの残骸が手にあった。
まるで初めからその為にあったかのように、そうする為のものかのように、投げた雪だるまは、ライオンの顔面に吸い込まれるように命中する。そのときの隙を狙ったかのように、強盗が三人がかりで押さえ込んだ。
まったく。大人なのだから、大人の都合に子供を巻き込まないで欲しい。
警察が強盗たちを連行していく後姿を見て、心の底からそう思った。
さぁ、帰宅しよう。
ちょっと君、いいかな?
……はい?
PM08:45
警察からの事情徴収をしていたら、結局こんな時間になってしまった。こんな時間になってしまったら、コウモリだって外に出ない。早く帰りたい気持ちを、なぜ警察は汲んでくれないのだろうか。漢字と空気の読めない大人にだけはなりたくない。
そういえば事情徴収ですっかり忘れてしまった事がある気がするのだが……。
……そうだ、今日は屋根を買いに行く為にお金をおろしたのであった。おろしたお金が無駄ではないか! これだから大人になりたくないとアリからハチの若者にまで言われているのだ。その原因の一端は大人にあることを自覚してほしい。かもしれない。
PM09:05
なんとか夕飯の時間には間に合った。玄関のチャイムを押す。この瞬間は、まるで自分が他人のように感じて少し楽しい。チャイムを押してから気づいた。屋根が壊れていない。てっきり、屋根はなくなるものだと思っていたから、意表をつかれた。何時までも子供じゃいられないのさ、とチャイムがいう。いつも大人ではいられないのに、理不尽なのだな、と答えておく。
玄関がおかえり、と扉を開けてくれた。
ただいま、と返しながら玄関をくぐる。弟たちがおかえり!と叫んだ。うるさい。まったく、調節をきかせられるほど大人ではないらしい。はいはい、と適当にあしらっておいた。
居間に入ると、丁度夕飯が準備されたところだった。今日は遅かったわね、なにか変な事でもあったの?と母がいう。少し考えて、特に、何も。と言ってから、今日一日を結論付ける。
普通だったよ。
起床。何年ぶりか、部屋に雪が降っている。今日は雪の日か。
弟たちが勝手に部屋の中で雪だるまを作っている。何が、可愛くできたから雪だるまあげるね、だ。まったく、失礼な奴らだ。雪だるまを作るなら、一言断るのが礼儀だろうに。一応の礼儀として受け取っておいた。ガチガチに硬い。これの原材料は本当に雪なのだろうか?
とりあえず、屋根を壊さないように厳重注意をしたが、きっとわかっていないだろう。学校から帰ってくる頃には家を胴体にした雪だるまのできあがりだ。ここは思い切って、兎の屋根だったのを熊の屋根にすべきかもしれない。
そうすれば、弟たちも幾分か静かになるだろう。その代わり新巻鮭を週に一回買ってこなければいけないが。静寂をとるか、懐の金をとるか・・・。難しい問題だ。
しかし寒い。今日はTシャツを着ていこう。
AM06:30
着替えついでに、学校の準備もしていたら、朝食が三分も遅れてしまい、おかげでお茶が拗ねてしまった。仕方がないので心無いお世辞を言ってみるが、歯が浮いてしまったらしい。お茶の温度が変わらない。
それにしても冷めたお茶だ。
母にゴミ出しを頼まれた。今日のゴミは燃えるごみだったので丁重に辞退させていただいた。やつらは手荒に扱うと燃えだすから始末に悪い。ついでに弟たちが部屋で遊んでいた事を話すと、ぷりぷりと怒りながら、二階へ上がった。きっとゴミ出しは弟たちがすることになるだろう。
安心して朝食を続けようとしたら、ご飯が冷たい。まったく、何故こうもご飯たちは皆、母の味方なのだろうか。作ってもらった恩さ!と海苔が言う。
お前は既製品だろうが。
AM07:30
そろそろ家を出る。今日は晴れているから、そこかしこで、いい大人やらが飛びながら歩いている。今年の流行りらしい。
浮かれた連中だ。鴨やらアヒルやらの靴を履くくらいなら、もぐらの靴の方がましだ。
……すぐに土に潜ってなくなるが。
突き抜けるような空色の自転車にまたがる。小さい頃から乗っているから、そろそろ買い換えた方がいいのだろう。しかし、この自転車以上乗り心地がいい自転車があるとは思えない。それを伝えたら、文字通り真っ赤になってしまった。
帰りに、夕日と区別がつけばいいのだが。
AM08:10
学校に到着。下駄箱の靴たちがばさばさと五月蠅い。
これだから流行というのはキライだ。もっと個性を大事にするべきで、皆が履いているから自分も履く、ではなく、どんなにデザインや機能性がなくても、自分の気に入った物を買って使うべきだ。 と、教室にいくまでの道中にあった友人に熱弁を奮うと、お前もそのサンショウウオのTシャツは流行っているヤツじゃないかといわれた。
冗談ではない、このTシャツは流行る前に買ったのだ。つまり、このTシャツは流行の先端をいきているのであるっ!そう語ると、結局流行モン着るんじゃん言われた。あいつも相変わらず口が減らないヤツだ。こっちはこのやりとりで口の三分の一が減ってなんだか負けた気分になる。くそ、イーブンだ。そう言い張ったら、生ぬるい目が返ってきた。口だけでは飽き足らず、目も減らないとは。
前言撤回、やはり勝てる気がしない。
AM08:30
担任が教室に入ってくる。急いで友人とやっていた蜂のチェスをしまった。担任は、どうやら蜂に刺されたことがあるらしく、たてがみというたてがみを逆立て、ヒステリックにチェスを踏み潰す。チェスの蜂は刺さないのに。
しかし残念だ。もう少しで女王蜂を完封できたというのに。まぁいい。次は絶対に勝つ。そう宣言すると、お前のそういうとこかわいいよなと言われた。気持ち悪かったので正直に気持ち悪いと進言すると、お前のそういうノリ悪いとこがかわいくないよなといわれた。うん、それでいい。同性から言われても嬉しくない。
担任が出欠をとっている。今世間では腹痛が流行っているらしい。クラスの中でも、ぽつぽつといないヤツがいる。軟弱なやつらめ。
AM08:50
授業が始まる。さて、寝るか。
PM00:30
目が覚める。授業は終わっていた。なんということだ、一時間目から四時間目まで寝てしまった。何故誰も起こしてくれないのか。冷たい友人たちだ。白々しく、あ、起きた?などという。わざとか?
まぁいい。いつもの事だ。体育をサボれたのはむしろ喜ばしい事だろう。
ちょうどお昼の時間。家から持ってきたお弁当を食べよう。少しの期待を込めてお弁当箱を開くと、大嫌いなりんごのバター炒めが入っていた。静かにお弁当を閉じる。
あぁ、今日は買い弁の日だったそうだったさて買って来ようそうしよう。
お弁当箱から意気地なし!と聞こえた気がするが、きっと気のせいだ。
PM01:15
午後の、授業と言う名の戦闘のゴングが鳴り響いた。
PM01:25
たった一問を間違えただけで、猫を持って廊下に立ってなくてはいけないのは、理不尽以外のなにものでもないと思う。
PM03:10
HRが終わった。今日はこれで晴れて自由の身だ。外は冬晴れで、校庭には、晴れで浮かれた蛙がぴょこぴょこ飛び跳ねていた。踏まれないか冷や冷やしながら行方を見送る。
友人に、今日このあと遊ばないかと誘われる。うっかりYESと答えそうになるが、そういえば、家の屋根を新しく変えることを思い出し、丁重にお断りを申した。友人はいたく残念そうに、(本人曰く、別に残念ではないそうだ。まったく、嘘が下手なヤツだ。)じゃ、また明日な、と手を交差した。こっちも手を交差し返す。
あいつの変な挨拶の仕方はどうにかならないのか。
PM03:40
屋根を買うには、懐の具合がよろしくなかったので銀行に寄る。なぜ家の事なのに自分のバイト代をださなくてはいけないのだろうか。ついため息が飛び出た。全ては弟たちが悪いのだ。あの悪餓鬼、どうにかならないものか。
今月はあまり贅沢できないな、と、残高金額を確認して必要分を引き出す。
さて、どこの屋根屋で買おうかと物思いにふけっている時、覆面を被り、手に大量のライオンを持った男四人組みが押し入ってきた。
何事だ、と状況を整理する間もなく、動くな、手を上げろ!と叫んだ。何が起きた、と思う前に、どうすればいいんだよ、と思うほうが強い。とりあえず周りの人と同じように手をあげておく。
手を上げて、ああ、強盗なのかと理解した頃には、銀行内の全ての人の首筋に、ライオンの牙がむいていた。変な事をしたら迷わずがぶりといかれるだろう。
なんということだ。屋根を買う時間がなくなってしまう。
男たちは興奮状態らしく、言葉がまるで呪文のようでなんと言っているかわからない。銀行の役員のシマウマさんに、ペリカンのカバンを何度も振りながら突き出しているのを見ると、金を入れろ言っているのだろう。シマウマさんはパニックになってしまっていて、見事に話が噛み合っていない。どちらも興奮状態だ。どちらが先に冷静になるのだろう。
先に冷静になれたのはシマウマさんであった。意図を理解すると、あわてて近くにあったお金をかきあつめペリカンの口の中に放り込む。ペリカン自体が己の役割を理解していなかったらしく、中々口を開けなくて少し苦労したようだが。
それだけでも遊ぶ金くらいはあっただろうに、強盗たちは金庫の金も全部寄越せと言っ てきた。いらん欲を出したな、と思ったが、ここは空気を読んで口にチャックをしておいた。しまった、これでは叫び声もあげられない。しょうがないので半分チャックを閉め、半分は開けておいた。よし、これで大丈夫。
例によって、シマウマさんがご指名され、銀行の偉い人であろう人から鍵を受け取り、奥の方へ消えて行った。監視を付けなくて平気なのだろうかと思ったが、シマウマさんの首筋にもライオンがいたことを思い出し、そしてシマウマさんが変な気を起こさないことを祈った。目の前で大自然の法則を見るのは勘弁願いたい。
少し経って、シマウマさんが慌てた顔で戻ってきた。手ぶらだ。どうしたことかと、周りの人も強盗も目を見張ったが、よく考えてみるとシマウマさんは手ぶらだから戻ってきたのだ。
つまり、お金を入れるべきペリカンがいない為。
強盗は、シマウマさんが恥ずかしそうに、あの、お金を入れるのはどちらに?と聞いたときに初めて気づいたらしく、やや気まずいのを威勢で誤魔化しながらあたらしいペリカンをカバンから出した。一体どのように入っていたのか気になる。
さっさと行って来い!と怒鳴られ、笑いそうになっていた顔が再びおびえた顔に変わり、ぱからっぱからっと急いで奥の方へ走っていった。
多少のぽかをしたものの、強盗の手口は計画的だったのだろう。鋭い叫び声で動きを止め、叫ぶと同時にライオンを放つそのタイミング、ライオンの調教、ペリカンの用意。
だが、はじめの叫び声のデメリット、周りの店にまで聞こえるという事が、強盗にとっては最悪に、銀行側にとっては幸運に、警察を呼ぶ事になったのだろう。遠くからサイレンの音が聞こえた。
願わくば、通報者がシマウマさんでは絶対にありませんように。
強盗たちはあからさまに動揺するが、ペリカンが返ってこない。この期に及んで欲深い強盗だ。ここで諦められたら、きっと捕まらなかったに違いない。意外と抜けているな、という感想だ。
警察が、ドラマのように、犯人に告ぐ!ここは完全に包囲した!速やかに人質を解放し、自首しなさい!と、機械を通じて拡張された声で宣言する。犯人は、なにか要求をするのか、舌打ちをしながらも、窓から通信用インコを警察に放り投げた。インコはばさばさと、色とりどりの羽を撒き散らしながら警察の元へと、健気に飛んでいく。
インコが警察の手に止まった時、やっとペリカンに詰め込めたのか、シマウマさんが戻ってきた。よかった、生きていた。ペリカンの口がでこぼこしているのは、お札をいれたからだろう。はち切れたりしないだろうか。それだけが心配だ。少しだけお札がはみ出ているのはご愛嬌にしておこう。
シマウマさんは何が起きているのが分からないといった風にしていたが、窓から見える警察の車に安堵の表情が見えた。
これで、助かると。
人質にとって嬉しい事が、強盗側に楽しい訳がなく、安堵の空気が充満してくるのと比例して強盗たちの不機嫌さが尖って刺さる。痛々しい空気だ。
しかし、安心を拭えるわけがなく、高校生くらいだろうか、すずめの女の子二人組みが、うっかり口を滑らせてしまった、これで助かるね! と。
ライオンの牙はその丁寧に手入れしてある羽に、ゆっくりと深々と突き刺さった。
女の悲鳴は好きではない。
女は、不幸に叫ぶのではなく、幸せに叫んでいてほしいから。
当然ながら、強盗たちはほれみろという表情を見せるのかと思った。それをまた脅しの道具に使うのかとうんざりした。
しかし、強盗たちは滴る血を見て、羽に深く刺さる牙を見て、目をひん剥きあからさまに動揺した。そして言った。話が違う、と。いいや、違わないさ。覆面の一人が言う。まぁこうなっちゃぁ覆面の意味が無いわな、と覆面を脱ぎ捨てた下には、ライオンの顔があった。人質を見張るライオンの親玉なのだろうか。
強盗の一人が言う。
おい、お前は誰だ、と。
ライオンは答えた。
ああ、ライオンだ、と。
強盗の一人が言う。
おい、ハイエナはどこにいった?と。
ライオンは全員で答えた。
ああ、あの昼飯の話か?と。
この野郎!と、強盗の一人が果敢にも飛び掛る。しかし、百獣の王に叶うわけがなく、あっさりとねじ伏せられていた。はなせ畜生!返せよ、俺の親友を返せよ!
じたばたと抵抗するも、そんなことは起こっていないかのように、他の強盗に、インコ貸してくんない? と手を出す。がたがたと震えながら渡されたインコに、喋りかける。
メーデメーデ、聞こえますか警察さん?
あぁ、聞こえる。用件はなんだ?
ほかの強盗どもを渡しますので、私だけは助けてください。
どういうことだ?
仲間を売ると言っているのです。
警察と淡々と交渉しているライオンの目を盗んだわけではないのだが、結果的にそうなってしまったのはしょうがない。すずめの止血をしようと動いた時、完全にこちらに目を向けていないのに、鋭い獰猛な声が動きを止めさせた。動くな! 何している?
止血をします、と、想像以上に冷静な声が出た事に驚きながら、動け動けと手足に指令を必死に送り、なんとかもう一度動き出した。清潔なガーゼや包帯などもっていなかったから、体育用に、と思っていたスポーツタオルをキツく締めた。すずめの女の子は、ぼろぼろ涙を流しながら、ありがとうございますと、ごめんなさいを連呼していた。気にするなと返した声が、多少ぶっきらぼうになったのは多めに見て欲しい。やはり、余計な事をいいやがってという気持ちは隠せない。
おい、終わったならさっさと離れろ。ライオンが言った。言われずとも離れている。話は終わったらしく、腕を組んで、入り口をじっと眺めていた。
時間だけが過ぎる。
突然、ライオンが低い声で怒鳴った。さぼるな!と。すると、シマウマさんに牙をむいていたライオンが慌てて姿勢を正した。人質を見張るライオンはまだまだ子供なのだろうか、人質の影に隠れて欠伸をしているやつもいるようだ。子供になんてことをさせているのだ、このライオンは。冷徹という言葉がしっくりくる。そして、この子供たちは自分のしている事がわかっているのだろうか。
ライオンはあいもかわらず入り口を凝視する。
まったく、こんな貧弱な高校生にどうしろというのだ。
PM05:50
警察とは交渉決裂したのか、警察が条件を飲んだのかはわからないが、強盗の立てこもりは未だ続いていた。
こんな真剣なところで申し訳ないのだが、どうしても尿意が先程からつのっていた。昼間に、お金がないからと、無料なのを良い事に水を何杯もお代わりしたからだろうか。まずい。なにがまずいかって膀胱がまずい。どうするべきなのだ、いったい。警察はなにをしている?
PM05:56
だめだ、もうトイレの事しか考えられない。なんでこんなに遅いのだ警察は。これだから税金を無駄に使っているやら勤務怠惰がマスコミで叩かれるのだ。早くトイレに行きたい。冷や汗をかいてきた。だめだこれ以上の我慢はしてはいけない。理性より本能が勝った瞬間である。もう叫びに近い声で、ライオンにトイレに行くと宣言した。ライオンはどうでもよさげに、早く行って来い、五分だ。と言った。
正直そんな声は聞いていなかった。もう鞄の中からタオルを探すのも面倒くさい。カバンごと持っていこう。
……ふぅ。なんとか高校生としての尊厳は守る事ができた。
しかし、さすが銀行だ。トイレが、学校とは比べ物にならないくらい綺麗で、水道も自動式、洋式の個室はウォシュレット完備である。
手を洗って、鞄の中のハンドタオルを探る。どこにあるかわからないのはもう既に仕様なのだと言い聞かせ、ごそごそと探していると、鞄のポッケがやけに濡れている。嫌な予感がしてポッケを探ると、朝に弟たちからもらった雪だるまだった。あいつら何時の間に。顔をしかめると、腕時計のアラームが鳴る。もう4分過ぎたのか、急がねば。
PM06:00
なんとか五分以内に戻れた。
フロアに戻ると、なんだかライオンたちの様子がおかしい。なんというか、気がそぞろだ。右を見て、左を見て、また右を見て、と思えばいきなり上を見たりする。肩に乗っているライオンも、目を輝かせて左右を見る。
何が起きているのだ?
窓の外を見ると、警察の方々が、4、5人で持たなければ持てないような巨大なねこじゃらしを数本、通常の二倍くらいの大きさのねこじゃらしは全員が装備して、一心不乱に降っていた。なんじゃこりゃ?
そう疑問に思うのが先だったか、ガラスの割れる音が先だったかわからない。フロアには、何個かの手榴弾を細長くしたようなものが投げ込まれた。爆弾か!?ライオンが我に返って警戒するが、ぷしゅぅぅっと、回収するよりさきに、それは白い煙を吐き出した。一番近くにいた子供ライオンがごろにゃんと、まるで酒を飲んで酔ったように、平衡感覚を無くし床に落ちる。どうにか立とうとしているらしいが、千鳥足のようにふらふらしている。
またたびだ!!
人質を捕まえていた子供ライオンが次々床に落ちていく。その効果はライオンにも及んだらしく、酔ってたまるか、と歯軋りを強くしているが、床に膝を突いてしまっている。
ああ、これでやっと終わるのか、と思ったあたり、なんだかんだいって神経を磨り減らしていたようだ。安堵のため息をついた。
終わってたまるか!
急に怒声が響いた。肩膝を床についていたライオンが、再び立ち上がり、近くにいたシマウマさんに向かって走る。
思い通りにさせては、いけない。
いつの間にか鞄から弟たちがくれた雪だるまの残骸が手にあった。
まるで初めからその為にあったかのように、そうする為のものかのように、投げた雪だるまは、ライオンの顔面に吸い込まれるように命中する。そのときの隙を狙ったかのように、強盗が三人がかりで押さえ込んだ。
まったく。大人なのだから、大人の都合に子供を巻き込まないで欲しい。
警察が強盗たちを連行していく後姿を見て、心の底からそう思った。
さぁ、帰宅しよう。
ちょっと君、いいかな?
……はい?
PM08:45
警察からの事情徴収をしていたら、結局こんな時間になってしまった。こんな時間になってしまったら、コウモリだって外に出ない。早く帰りたい気持ちを、なぜ警察は汲んでくれないのだろうか。漢字と空気の読めない大人にだけはなりたくない。
そういえば事情徴収ですっかり忘れてしまった事がある気がするのだが……。
……そうだ、今日は屋根を買いに行く為にお金をおろしたのであった。おろしたお金が無駄ではないか! これだから大人になりたくないとアリからハチの若者にまで言われているのだ。その原因の一端は大人にあることを自覚してほしい。かもしれない。
PM09:05
なんとか夕飯の時間には間に合った。玄関のチャイムを押す。この瞬間は、まるで自分が他人のように感じて少し楽しい。チャイムを押してから気づいた。屋根が壊れていない。てっきり、屋根はなくなるものだと思っていたから、意表をつかれた。何時までも子供じゃいられないのさ、とチャイムがいう。いつも大人ではいられないのに、理不尽なのだな、と答えておく。
玄関がおかえり、と扉を開けてくれた。
ただいま、と返しながら玄関をくぐる。弟たちがおかえり!と叫んだ。うるさい。まったく、調節をきかせられるほど大人ではないらしい。はいはい、と適当にあしらっておいた。
居間に入ると、丁度夕飯が準備されたところだった。今日は遅かったわね、なにか変な事でもあったの?と母がいう。少し考えて、特に、何も。と言ってから、今日一日を結論付ける。
普通だったよ。
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異世界に行ってたとか言うんだが。
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