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名もなき村2
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「申し訳ない!」
「うひゃっ」
急に村長が声を張り上げたので、香織は驚いて小さく飛び上がった。何事かと振り向くと、村長が深々と頭を下げている。
「あなたの実力を疑ってしまい本当に申し訳なかった。気分を害したのなら、この通りいくらでも謝罪する。だからしばらくの間、この村に滞在してはもらえないだろうか。アデナの様に治療を必要としている者がまだいるんだ。滞在場所や費用はこちらが負担するから…」
「えっと、このような見た目ですので、誤解されるのは慣れています。元々しばらく滞在させてもらう予定でしたし。それよりもそんな好待遇でよろしいのですか?」
「ああ。元よりこの村には宿なんて洒落た物はないからな、ここに滞在するなら誰かの家に世話になる必要がある。ワシの家に泊まっていくといい。息子家族と同居しているから不自由はないはずだ。」
「じゃあお言葉に甘えて…よろしくお願いします。」
ーーーーーーーーー
「えっと、カオリです。しばらくの間お世話になります。家事とか、なるべく手伝いますので…」
「あらやだよ、お客様にそんな事させられないさね!アンタはゆっくりして頂戴。長旅で疲れたろう?この辺に他の村はないからね。」
「あ、ありがとうございます。」
村長宅に戻り、取り敢えずと最初に紹介されたのが、村長息子の妻であるサリサだ。村長の妻は数年前に他界しており、それ以来彼女は一人でこの家を切り盛りしているのだという。
30代くらいだろうか、サリサは艶やかな黒髪を後ろで一つにまとめ、薄紫のシンプルなワンピースにエプロンを締めている。やや吊り目がちで整った顔をしているが、豪快に笑うその姿は親しみやすい。少しふくよかな身体に大きな胸。強い母性を感じさせるサリサに、香織は緊張がほぐれていくのを自覚した。
「困ったことがあったら、取り敢えずサリサに聞くといい。」
そう言い残し、村長は村役場に戻って行った。
「今すぐ客間に案内したいところなんだけど、客なんて滅多に来ないからねえ。ちょいと埃が溜まってるだろうから、パパッと掃除してくるよ!その間はこの村でも見ておいで。とは言ってもこんな寂れた村、何も面白いものはないんだけどね!」
「あ、はい…お手数おかけします。」
「アンタその歳で随分としっかりしてるじゃないか!うちの息子もアンタと同じくらいなんだけどね、いつまでも子供で…」
「えっと、息子さんはおいくつなんですか?」
「12さね!」
「私は15歳です、成人してます。」
「おやまあ、すまないね。小さいからまだまだ子供だと…。まあ、歳なんて関係ないさね!優秀な治癒師だって話じゃないか。期待してるよ!」
「が、頑張ります。」
「じゃあほら、行っといで。村の奴らも興味津々だよ!」
サリサに急かされ、香織は家を出た。見た目も態度も、ジ○リの肝っ玉母ちゃんそのものだ。ある種の感動を覚えながら、香織は改めてこの村を見渡した。
煉瓦造りの壁に、赤い三角屋根。メインの通りにも煉瓦が敷き詰められ、丸い模様を描いている。家々の間には小川が流れ、その周りには色とりどりの花が咲いている。
(ヨーロッパの、田舎の村って感じ…。アイが小さな村って言ってたから掘建て小屋みたいな家が並んだ貧しい村とかだったらどうしようかと思ったけど、杞憂だったみたい。好きだなあ、こういう雰囲気。)
「ねえ、アナタ。」
「あ、はい?私…ですか?」
「そうよ!ねえアナタ旅人なんでしょう?どこから来たの?なにしに来たの?」
すっかり観光気分でプラプラと歩いていた香織は、突然背後から声をかけられた。振り返ると、赤毛のおさげの少女が目をキラキラさせながらズンズンと近づいて来る。
「え?えーっと…」
「王都の方から来たの?都会ってどんな感じ?女の子一人で旅するなんて危なくないの?魔物出た?盗賊いた?あとあと…」
「ちょっとアン!ストップストップ!その子困ってるから!」
「え?あ、ごめん!つい気になりすぎて…」
「い、いえ…」
アンと呼ばれた少女は顔の前で両手を合わせて申し訳なさそうに笑った。アンは癖のある赤毛を赤いリボンで二つ結びにしており、鼻の上に散りばめられたソバカスが良く似合っている。
この村の伝統衣装なのか、村の女性は皆同じような格好をしている。白いブラウスにチロルワンピース。腰には白いエプロンを巻いている。アンはふんわりとしたオフショルダーのブラウスに腰をきゅっと閉めた赤いチロルワンピースを着ていた。スカートやエプロンの裾に施されたカラフルな刺繍が可愛らしい。
「ごめんなさい、この子外の世界に興味津々で…。私はリラ。こっちのうるさいのが妹のアンよ。よろしくね。」
アンの後ろからひょこっと顔を出したのは、アンとは対照的に艶やかなストレートの赤髪を肩に流した落ち着いた印象の少女だ。首まであるブラウスに深緑のワンピースが彼女の印象とマッチしている。
「よ、よろしくお願いします。カオリです。」
「カオリって言うのね!よろしく!カオリはいくつなの?女の子一人で旅なんて危なくない?あ、私は14歳でお姉ちゃんは16歳よ!」
「15歳です。魔法の心得があるので、特に危ないこともなくここまで来れました。」
「やっぱり!私達と同じくらいじゃないかなって思ったのよ!カオリ、私達お友達になりましょう?だから敬語もいらないわ!あ、この村宿ないのよ、うち泊まる?そういえばここには何しに来たの?」
「えーっと、村長さんのお宅にお世話になることになっていて…私そろそろ戻らないと。私は治癒師だから、修行の旅ってところかな。」
「え!?ち、治癒師なの!?あのねあのね、実はお母さんが…」
「アン!ちょっと落ち着きなさい。香織が引いてるわよ。ごめんカオリ、実は母の具合が良くなくて…。できればちょっと診てもらいたいの。もちろんお代は出すし、時間がある時でいいわ。治らなくても、少しでも良くなれば…」
「うひゃっ」
急に村長が声を張り上げたので、香織は驚いて小さく飛び上がった。何事かと振り向くと、村長が深々と頭を下げている。
「あなたの実力を疑ってしまい本当に申し訳なかった。気分を害したのなら、この通りいくらでも謝罪する。だからしばらくの間、この村に滞在してはもらえないだろうか。アデナの様に治療を必要としている者がまだいるんだ。滞在場所や費用はこちらが負担するから…」
「えっと、このような見た目ですので、誤解されるのは慣れています。元々しばらく滞在させてもらう予定でしたし。それよりもそんな好待遇でよろしいのですか?」
「ああ。元よりこの村には宿なんて洒落た物はないからな、ここに滞在するなら誰かの家に世話になる必要がある。ワシの家に泊まっていくといい。息子家族と同居しているから不自由はないはずだ。」
「じゃあお言葉に甘えて…よろしくお願いします。」
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「えっと、カオリです。しばらくの間お世話になります。家事とか、なるべく手伝いますので…」
「あらやだよ、お客様にそんな事させられないさね!アンタはゆっくりして頂戴。長旅で疲れたろう?この辺に他の村はないからね。」
「あ、ありがとうございます。」
村長宅に戻り、取り敢えずと最初に紹介されたのが、村長息子の妻であるサリサだ。村長の妻は数年前に他界しており、それ以来彼女は一人でこの家を切り盛りしているのだという。
30代くらいだろうか、サリサは艶やかな黒髪を後ろで一つにまとめ、薄紫のシンプルなワンピースにエプロンを締めている。やや吊り目がちで整った顔をしているが、豪快に笑うその姿は親しみやすい。少しふくよかな身体に大きな胸。強い母性を感じさせるサリサに、香織は緊張がほぐれていくのを自覚した。
「困ったことがあったら、取り敢えずサリサに聞くといい。」
そう言い残し、村長は村役場に戻って行った。
「今すぐ客間に案内したいところなんだけど、客なんて滅多に来ないからねえ。ちょいと埃が溜まってるだろうから、パパッと掃除してくるよ!その間はこの村でも見ておいで。とは言ってもこんな寂れた村、何も面白いものはないんだけどね!」
「あ、はい…お手数おかけします。」
「アンタその歳で随分としっかりしてるじゃないか!うちの息子もアンタと同じくらいなんだけどね、いつまでも子供で…」
「えっと、息子さんはおいくつなんですか?」
「12さね!」
「私は15歳です、成人してます。」
「おやまあ、すまないね。小さいからまだまだ子供だと…。まあ、歳なんて関係ないさね!優秀な治癒師だって話じゃないか。期待してるよ!」
「が、頑張ります。」
「じゃあほら、行っといで。村の奴らも興味津々だよ!」
サリサに急かされ、香織は家を出た。見た目も態度も、ジ○リの肝っ玉母ちゃんそのものだ。ある種の感動を覚えながら、香織は改めてこの村を見渡した。
煉瓦造りの壁に、赤い三角屋根。メインの通りにも煉瓦が敷き詰められ、丸い模様を描いている。家々の間には小川が流れ、その周りには色とりどりの花が咲いている。
(ヨーロッパの、田舎の村って感じ…。アイが小さな村って言ってたから掘建て小屋みたいな家が並んだ貧しい村とかだったらどうしようかと思ったけど、杞憂だったみたい。好きだなあ、こういう雰囲気。)
「ねえ、アナタ。」
「あ、はい?私…ですか?」
「そうよ!ねえアナタ旅人なんでしょう?どこから来たの?なにしに来たの?」
すっかり観光気分でプラプラと歩いていた香織は、突然背後から声をかけられた。振り返ると、赤毛のおさげの少女が目をキラキラさせながらズンズンと近づいて来る。
「え?えーっと…」
「王都の方から来たの?都会ってどんな感じ?女の子一人で旅するなんて危なくないの?魔物出た?盗賊いた?あとあと…」
「ちょっとアン!ストップストップ!その子困ってるから!」
「え?あ、ごめん!つい気になりすぎて…」
「い、いえ…」
アンと呼ばれた少女は顔の前で両手を合わせて申し訳なさそうに笑った。アンは癖のある赤毛を赤いリボンで二つ結びにしており、鼻の上に散りばめられたソバカスが良く似合っている。
この村の伝統衣装なのか、村の女性は皆同じような格好をしている。白いブラウスにチロルワンピース。腰には白いエプロンを巻いている。アンはふんわりとしたオフショルダーのブラウスに腰をきゅっと閉めた赤いチロルワンピースを着ていた。スカートやエプロンの裾に施されたカラフルな刺繍が可愛らしい。
「ごめんなさい、この子外の世界に興味津々で…。私はリラ。こっちのうるさいのが妹のアンよ。よろしくね。」
アンの後ろからひょこっと顔を出したのは、アンとは対照的に艶やかなストレートの赤髪を肩に流した落ち着いた印象の少女だ。首まであるブラウスに深緑のワンピースが彼女の印象とマッチしている。
「よ、よろしくお願いします。カオリです。」
「カオリって言うのね!よろしく!カオリはいくつなの?女の子一人で旅なんて危なくない?あ、私は14歳でお姉ちゃんは16歳よ!」
「15歳です。魔法の心得があるので、特に危ないこともなくここまで来れました。」
「やっぱり!私達と同じくらいじゃないかなって思ったのよ!カオリ、私達お友達になりましょう?だから敬語もいらないわ!あ、この村宿ないのよ、うち泊まる?そういえばここには何しに来たの?」
「えーっと、村長さんのお宅にお世話になることになっていて…私そろそろ戻らないと。私は治癒師だから、修行の旅ってところかな。」
「え!?ち、治癒師なの!?あのねあのね、実はお母さんが…」
「アン!ちょっと落ち着きなさい。香織が引いてるわよ。ごめんカオリ、実は母の具合が良くなくて…。できればちょっと診てもらいたいの。もちろんお代は出すし、時間がある時でいいわ。治らなくても、少しでも良くなれば…」
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