世界一の治癒師目指して頑張ります!

睦月

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旅立5

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「うめえー!」
「このトマトのスープも美味いな。干し肉を入れた時はどうなることかと思ったが…」
「えへへ、なんとかなって良かったです。」

ピクニックシートの上に並べられた料理は、男達がわらわらと群がりあっという間になくなりそうだ。香織はチラリと後ろを振り返った。

(『ビースト』の人達、全然食べてない。この輪に入り込めないのかな…)

香織はスープを三人分取り分けると、アレクシスに手伝ってもらい塩味の肉と一緒に『ビースト』の元に運んだ。

「あの、皆さんの分です。どうぞ。」
「あ、あの、あの…俺達は、残りもので…」
「あの食べっぷりを見るに、残りませんよ。この肉、スパイスは使わないで塩だけで焼きましたから。皆さん用なんです。是非食べてください。」
「…あ、ありが、とう…」
「いいえ、たくさん食べてくださいね。」

香織はそれだけ言うと、さっさとその場を離れた。人間に苦手意識があるのなら、香織がいつまでもあの場にいては彼らが落ち着いて食べられない。『夜明けの星』の元に戻ると、口いっぱいに肉を頬張ったエドワードと目が合った。エドワードは急いで口の中のものを飲み込むと、香織に話しかけた。

「ありがとな、カオリ。」
「いいえ、折角頑張って作ったんですから皆に食べてもらわないと。お味はどうですか?」
「すげーうまい!」
「良かったです。味薄くないですか?」
「いや、丁度いいぜ。」
「塩スープと干し肉ばかりだと塩分過多ですからね。うま味やスパイスを効かせれば薄味でも結構いけますよね。」
「塩取りすぎたらいけないのか?」
「血圧上がりますよ。」
「血圧ってなんだ?高いといけないのか?」
「え?うーん…色々な病気の原因になりますから…冒険者業が続けられなくなったり、最悪死にますね。」
「マジかよ!?聞いたことないぞ。」
「うーん…」

香織はこっそり診察魔法で彼らの血圧を調べた。

(げげ、ジェイスさん以外は皆150台…立派な高血圧じゃん。)

「私が見た限り、ジェイスさん以外は血圧高めですね。塩分は控えた方がいいですよ。少し気をつけるだけで寿命が伸びるんですから。」
「長生きの秘訣といったところか…確かに冒険者は短命が多いからな。戦闘中に命を落とすのは勿論だが、引退後も突然死ぬ奴が多い。カオリの言うことも間違っていないのかもしれない。」

この世界は医学が全くと言っていいほど進んでいない。どんな病気でも、治療法は回復魔法ただひとつ。病名など必要ないのだ。
しかし故に、病気を予防すると言う発想も生まれない。治療費を払えず命を落とす者もいる。治療を受ける間も無く死亡する者もいる。だというのに、予防を研究する者が現れることはなかった。神より授かりし魔法を盲信した結果だろう。

(回復魔法だって、原因がある程度分かってた方が絶対に魔力効率が良いのに…闇雲に全身に魔法かけるだけじゃ治せるものも治せないよ。)


「まあこればかりは個人の自由ですから好きにしたらいいですよ。私は食生活を改善した方がいいと思いますけどね。」
「いや、参考になった。確かに保存食は塩が効いている物が多いからな。冒険者が塩分を取りすぎているのは事実だ。」
「難しい話はよくわかんねえけどよ、カオリと一緒に旅してたら塩分過多の心配はいらねーな!」
「まあ、そうなりますね。でも色々作るならもう少し調味料が欲しいところですね。」
「トルソンの街なら売ってるんじゃないか?色々見てみるといい。案内しよう。」
「ありがとうございます!」


食事の後、食器類を魔法で簡単に片付ければ、後はまったりタイムだ。各々好きに休んでいると、キースが立ち上がり装備を整え始めた。

「見回りしてくる。」
「いってらっしゃーい!」

野営地を出て行くキースを香織は不思議そうに見送った。

「なんかキースさん大人しくなりましたね?」
「ああ…アレクにボロ負けしたからな。」
「?」
「護衛のリーダーをかけて試合をしたんだ。腕が治ったアレクにあいつが勝てるわけがないからな。しばらくは大人しくしてるんじゃないか?」
「なら安心ですね。」
「あんまり油断するんじゃないぞ。」
「はい。」

陽もすっかり落ち、辺りは真っ暗だ。焚火が香織達を優しく照らしている。それまで香織の前で一度も喋らなかったジェイスが、口を開いた。

「…カオリ。」
「!?は、はい、なんでしょう?」
「あのテント、魔力、感じる…」
「あ、分かるんですか?流石ですね。」
「鍋にも、何かしてた…」
「ああ、あれは鍋を密閉して煮込み時間を短縮してたんですよ。テントの魔力は結界ですね、悪意のある人を弾くんです。」
「…聞いたことない…」
「おいおい、魔法馬鹿のジェイスが知らない魔法なんてあったのかよ。カオリ、どんなマイナーな魔法使ったんだよ…」
「えっと、自分で作りました。」
「!?普通は作れない…」

そう、香織は簡単に魔法を作っているが、普通は作れないのだ。これはあの神からもらったスキルのなせる技なのだから。しかし香織はずっと疑問に思っていた。本当に香織にしか新しい魔法は作れないのだろうか?魔法というのは想像力だ。この世界の人々は新しい魔法など作れないと思い込んでいるだけではないのか、と。


「うーん、でも、じゃあ今ある魔法って誰が作ったんですか?魔法を作れる人がいなければ、色々な種類の魔法なんて存在しませんよね?」
「…確かに。でも魔法は神がもたらす特殊な力。普通の人間が干渉できる事じゃない。」
「そもそもその考えが間違っているんじゃないかと思うんですよねえ。」
「?」
「魔力というのは自分自身の力じゃないですか。魔法の発動を神様に頼る必要は本当はないのでは?」
「…魔法というのは、決められた文言に魔力を乗せて神に捧げることで神から力を借り、超常的な現象を引き起こすことを言う。カオリの話が真実なら、魔法の定義がそもそも間違っていることになる。カオリはどうやって魔法を発動させているんだ?」
「すげえ…俺ジェイスがこんなに喋ってるの見たことねえよ…」
「えっと…私は自分の力を信じているので、求める結果を過程や原理も含めて細かくイメージして発動させてますね。長々しい詠唱がなくても発動しましたよ?」
「そんな馬鹿な…」
「魔法は想像力だと思うんです。だから神様が力を与えてくれるって強く信じることで魔法を発動させること自体は間違ってはいないと思います。その方がより多くの人が魔法を使える。何をどうすればその現象が起きるのか、詳しく知らなくても使えるんですから。」
「…神への信仰がなくとも、魔法は使える…?」
「一応断っておきますけど、神様の存在を否定しているわけではないですよ。ただ、魔法に関しては、神様から力を借りなくても自分の力だけで使えるって事です。」
「…」

それきり黙ってしまったジェイスを見て、香織は今までの発言を後悔した。

(やっぱり本当の事言うのはマズかったかな!?異教徒だとか言って迫害されたらどうしよう?この世界に魔女狩りある?)
『マスター、落ち着いてください。魔女狩りは存在しません。』
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