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旅立11
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香織はエドワードの隣に座り、すでに飲み干されていたスープの器を覗き込んだ。
「スープ、お味はどうでした?」
「美味かったぞ!でも骨のスープの方が美味かったな。」
「じゃあお昼楽しみにしていてくださいね!」
香織もパンをちぎってスープに浸し、口に入れた。牛乳の優しい味が空っぽの胃に染みる。具材も柔らかく、キャベツはトロトロだ。熱々のスープを火傷しないように慎重に飲んでいると、『ドラゴンスレイヤー』のテントの入口が開かれた。
「キース。起きたか。どうだい、少しは落ち着いた?」
「ああ…なんとか。俺は…」
「昨晩は錯乱していたからジェイスが眠らせたんだ。まずは食事をして、それから少し話をしよう。ジミーとケリーも起こしてくれるかい?」
「ああ…少し待ってろ。」
キースがテントに入りしばらくすると、ジミーとケリーも気怠そうに起きてきた。昨晩のことを思い出した彼らは、香織の姿を見つけると顔色を悪くし、サッと目を逸らした。
精神的に疲弊はしているものの、食欲はきちんとあるようで、キース達はスープとパンをあっという間に平らげた。
それを見守っていたサイモンが口を開いた。
「調子はもう良さそうだね。じゃあ少し馬車の中で話をしようか。カオリも同席してくれるかい?大事な話なんだ。」
「あ、はい。」
「い、嫌だ!あいつが一緒なら俺は応じない。」
「そんな事言わないでくれ。君に拒否権はないんだ。これは命令だからね。」
「ぼ、僕も嫌だ!サイモンだけなら…」
「さあ、早く入るんだ。君たちは契約違反を犯したんだから、被害者と共に話を聞くのは当然だろう?あまり我が儘を言うようなら、君達をここに置いて行くしかないけど?」
「くっ…」
彼らは渋々馬車に乗り込んだ。サイモンと香織も後に続く。
「さて、まずはカオリから話を聞かせてもらえるかい?無理しなくていいからね。」
「は、はい。えっと…トイレの帰りにキースさんに遭遇して、野営地まで送ってもらう途中で押し倒されました。馬乗りのまま腕を捻られ、マントも剥ぎ取られました。その後は気絶してしまったのか、次に気がついたら野営地に寝かされていました。」
「そうか…怖かっただろう。話してくれてありがとう。」
「いえ…」
「な、何言ってんだよ…!お前、お前が…っ、ギャアアア!!痛い!いだい!!!」
「キース、またか…これでは話もできない。カオリ頼めるかい?」
「は、はい。『鎮静』」
「い、いたい、いたい…」
「キース、落ち着いたか?あの夜何があったんだ?」
「俺は…俺は、何も知らない、俺は…痛い、痛いんだ。話そうとすると、玉が…」
「ケリーとジミーは…」
「ひぃ!ご、ごめんなさい!ごめんなさい!だから、痛くしないで!」
「話にならないな…うーん、まるでカオリに怯えているような…」
「え?わ、私ですか?」
(どうしようー!流石にここまで怯えられたら犯人は私ですって言ってるようなものだよ!)
『お任せください。今から私の言うことをそのまま復唱してください。』
(う、うん。)
「えっと…彼らは何か幻覚を見たのではないでしょうか…私は確かに魔法の腕には自信がありますが、彼らほどの冒険者を3人相手にして勝てる自信はありません。…あと、手口も意味わからないと言いますか…」
「そうだよねえ。キース達はその実力があるから護衛に雇ったんだし。カオリが一人で勝てる相手ではないと思うんだ。」
「あ、あれが幻覚だったと言うのですか!?私達は確かにっ、アアアァア!!!」
「えっと…なんかすいません、『鎮静』」
「いた、いたい…痛い…」
鎮静をかけても鎮痛ではないから痛みが消えることはない。キースもケリーも、叫ぶことで痛みを逃すことも出来ず、取り乱し気絶することも叶わず、ただただその痛みに耐えていた。二人の惨劇を間近で見ていたジミーが、怯えた眼のまま口を開いた。
「ぼ、僕達…僕達、本当に幻覚を見たのかも…ねえ、そうなんでしょう?だって僕達がカオリ一人に負けるわけないもん。」
「そうですね、キースさんが一人でも抵抗できませんでしたから。」
「そ、そうだよね…だとしたら、僕達は魔物かなにかに襲われたって事?」
「誰もその姿を目撃してませんが、その可能性が高いのではと皆さん言っていました。」
「そ、そう…悪いけど、僕達もその姿は見てないよ。きっとカオリの姿を借りた魔物だったんだ…」
「仲間の幻覚を見せて攻撃する魔物…かなりの脅威だね。新種の魔物だとするなら、トルソンの街に着いたらギルドに報告する必要があるね…」
「ぼ、僕達、ちゃんと証言するよ。」
『どうやらジミーは痛みのカラクリに気がついているようですね。』
(じゃあジミーに任せておけば一安心かな。)
「さて、君達の身に起きた悲劇には男として同情するけど、カオリを襲った事はまた別問題だ。幸い未遂で終わったけど、僕の取引相手に手を出した事に変わりはない。契約違反だ。それ以前に犯罪だし。『ドラゴンスレイヤー』はトルソンの街で解雇する。」
「う、うん。分かったよ。」
「話は以上だ。もう戻って良いよ。出発までにはまだ少し時間があるから、それまで休むと良い。」
「うん…ほら、キース、ケリー、行くよ。」
「痛い、歩くと響く…」
「テントで寝てて良いから!とにかく早く出るよ!」
「痛いんですが…」
ジミーはキースとケリーを馬車から引きずり下ろしてテントに帰っていった。
「…ふう。」
ジミー達が退室したのを見て、香織は脱力した。
「悪かったね、わざわざ同席してもらって。」
「いえ、必要な事でしたから…大丈夫です。あの、護衛減っちゃいましたけどこれからどうするんですか?」
「うーん、トルソンの街で募集してみるけど、決まるかな…キース達の二の舞は避けたいから人柄も見たいけど知らない街の冒険者だからなあ、人となりもわからないしね。最悪、今のメンバーで王都に帰る事になるかもしれない。」
「えっと、それ危なくないですか?」
「馬車が3台もあると3パーティは必要なんだけど…まあ仕方がないよね。」
「そうですか…」
「スープ、お味はどうでした?」
「美味かったぞ!でも骨のスープの方が美味かったな。」
「じゃあお昼楽しみにしていてくださいね!」
香織もパンをちぎってスープに浸し、口に入れた。牛乳の優しい味が空っぽの胃に染みる。具材も柔らかく、キャベツはトロトロだ。熱々のスープを火傷しないように慎重に飲んでいると、『ドラゴンスレイヤー』のテントの入口が開かれた。
「キース。起きたか。どうだい、少しは落ち着いた?」
「ああ…なんとか。俺は…」
「昨晩は錯乱していたからジェイスが眠らせたんだ。まずは食事をして、それから少し話をしよう。ジミーとケリーも起こしてくれるかい?」
「ああ…少し待ってろ。」
キースがテントに入りしばらくすると、ジミーとケリーも気怠そうに起きてきた。昨晩のことを思い出した彼らは、香織の姿を見つけると顔色を悪くし、サッと目を逸らした。
精神的に疲弊はしているものの、食欲はきちんとあるようで、キース達はスープとパンをあっという間に平らげた。
それを見守っていたサイモンが口を開いた。
「調子はもう良さそうだね。じゃあ少し馬車の中で話をしようか。カオリも同席してくれるかい?大事な話なんだ。」
「あ、はい。」
「い、嫌だ!あいつが一緒なら俺は応じない。」
「そんな事言わないでくれ。君に拒否権はないんだ。これは命令だからね。」
「ぼ、僕も嫌だ!サイモンだけなら…」
「さあ、早く入るんだ。君たちは契約違反を犯したんだから、被害者と共に話を聞くのは当然だろう?あまり我が儘を言うようなら、君達をここに置いて行くしかないけど?」
「くっ…」
彼らは渋々馬車に乗り込んだ。サイモンと香織も後に続く。
「さて、まずはカオリから話を聞かせてもらえるかい?無理しなくていいからね。」
「は、はい。えっと…トイレの帰りにキースさんに遭遇して、野営地まで送ってもらう途中で押し倒されました。馬乗りのまま腕を捻られ、マントも剥ぎ取られました。その後は気絶してしまったのか、次に気がついたら野営地に寝かされていました。」
「そうか…怖かっただろう。話してくれてありがとう。」
「いえ…」
「な、何言ってんだよ…!お前、お前が…っ、ギャアアア!!痛い!いだい!!!」
「キース、またか…これでは話もできない。カオリ頼めるかい?」
「は、はい。『鎮静』」
「い、いたい、いたい…」
「キース、落ち着いたか?あの夜何があったんだ?」
「俺は…俺は、何も知らない、俺は…痛い、痛いんだ。話そうとすると、玉が…」
「ケリーとジミーは…」
「ひぃ!ご、ごめんなさい!ごめんなさい!だから、痛くしないで!」
「話にならないな…うーん、まるでカオリに怯えているような…」
「え?わ、私ですか?」
(どうしようー!流石にここまで怯えられたら犯人は私ですって言ってるようなものだよ!)
『お任せください。今から私の言うことをそのまま復唱してください。』
(う、うん。)
「えっと…彼らは何か幻覚を見たのではないでしょうか…私は確かに魔法の腕には自信がありますが、彼らほどの冒険者を3人相手にして勝てる自信はありません。…あと、手口も意味わからないと言いますか…」
「そうだよねえ。キース達はその実力があるから護衛に雇ったんだし。カオリが一人で勝てる相手ではないと思うんだ。」
「あ、あれが幻覚だったと言うのですか!?私達は確かにっ、アアアァア!!!」
「えっと…なんかすいません、『鎮静』」
「いた、いたい…痛い…」
鎮静をかけても鎮痛ではないから痛みが消えることはない。キースもケリーも、叫ぶことで痛みを逃すことも出来ず、取り乱し気絶することも叶わず、ただただその痛みに耐えていた。二人の惨劇を間近で見ていたジミーが、怯えた眼のまま口を開いた。
「ぼ、僕達…僕達、本当に幻覚を見たのかも…ねえ、そうなんでしょう?だって僕達がカオリ一人に負けるわけないもん。」
「そうですね、キースさんが一人でも抵抗できませんでしたから。」
「そ、そうだよね…だとしたら、僕達は魔物かなにかに襲われたって事?」
「誰もその姿を目撃してませんが、その可能性が高いのではと皆さん言っていました。」
「そ、そう…悪いけど、僕達もその姿は見てないよ。きっとカオリの姿を借りた魔物だったんだ…」
「仲間の幻覚を見せて攻撃する魔物…かなりの脅威だね。新種の魔物だとするなら、トルソンの街に着いたらギルドに報告する必要があるね…」
「ぼ、僕達、ちゃんと証言するよ。」
『どうやらジミーは痛みのカラクリに気がついているようですね。』
(じゃあジミーに任せておけば一安心かな。)
「さて、君達の身に起きた悲劇には男として同情するけど、カオリを襲った事はまた別問題だ。幸い未遂で終わったけど、僕の取引相手に手を出した事に変わりはない。契約違反だ。それ以前に犯罪だし。『ドラゴンスレイヤー』はトルソンの街で解雇する。」
「う、うん。分かったよ。」
「話は以上だ。もう戻って良いよ。出発までにはまだ少し時間があるから、それまで休むと良い。」
「うん…ほら、キース、ケリー、行くよ。」
「痛い、歩くと響く…」
「テントで寝てて良いから!とにかく早く出るよ!」
「痛いんですが…」
ジミーはキースとケリーを馬車から引きずり下ろしてテントに帰っていった。
「…ふう。」
ジミー達が退室したのを見て、香織は脱力した。
「悪かったね、わざわざ同席してもらって。」
「いえ、必要な事でしたから…大丈夫です。あの、護衛減っちゃいましたけどこれからどうするんですか?」
「うーん、トルソンの街で募集してみるけど、決まるかな…キース達の二の舞は避けたいから人柄も見たいけど知らない街の冒険者だからなあ、人となりもわからないしね。最悪、今のメンバーで王都に帰る事になるかもしれない。」
「えっと、それ危なくないですか?」
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