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ペットになります1
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「おい。そろそろ起きろ。」
「う、ん…」
徐々に意識が浮上してくる。ゆっくりと目を開けると、目の前には知らない男の顔があった。
「ぴえ」
「起きたか。お前、なぜあんな所にいた。どうやって侵入した。」
「…」
褐色の肌に、漆黒の髪。頭からは山羊のようなツノが二本生えている。金色の瞳は瞳孔が縦に裂け、口からは牙が覗いている。
そして何よりでかい。常識外れにでかい。3メートルくらいはあるのではないだろうか。多分デコピンされたたけでも死ねる。
私が恐怖でフリーズしていると、褐色の巨人の背後から声が聞こえた。
「魔王様、その様に前のめりになっては人間が恐れます。」
「む、そうか。」
巨人は姿勢を正し、一歩引いた。彼の背後には青白い肌をした、これまた巨人。
巨人二人に穴が開くほど見つめられているものの、少し離れてくれたおかげで威圧感が和らぎ、私は少し冷静になれた。
「ここは…私、死んだんじゃ…」
「サムエルが治した。ここは客間だ。」
そこでやっと自分がフカフカのベッドに寝かされていることに気がついた。広いベッドだ。キングサイズかな。というかこの部屋、家具も何もかも一回り大きい。やはりここは巨人の家なのか。ペロリと食べられちゃうんだろうか。
布団をギュッと握りしめ、体を縮こませる。あれ?服着てない…裸だ!慌ててシーツで身体を隠そうとしたところで、違和感を覚えた。
手が小さい。胸がない。おまけに毛もない。ペタペタと顔を触って確認する。この大福みたいなプニプニのほっぺ。間違いない、幼女だ!
私が思考を巡らせ一人でアタフタしているのを、じっと観察する巨人二人。いや、巨人じゃないのかもしれない。幼女の私からしたら巨人に見えるけど、実際は2メートルいくかいかないかくらいなんじゃないかな。巨人は言い過ぎだった。
「…終わりましたか?」
「あ、はい、すみません。」
どうやら彼らは私が落ち着くのを待っていてくれたようだ。
「魔族を見て泣き叫ばない人間の子供なんて珍しいですね。」
「はあ…」
なるほど、魔族か。異世界っぽい。
「あなたはなぜあんな所に?どうやって入ったのですか?」
「分かりません。気がついたらあそこにいました。」
「どこから来たのですか?スリチア王国?」
「日本です。」
「ニホン…聞いたことがない国ですね。少なくとも属国ではありません。どのあたりの国か分かりますか?」
「えっと…東の、島国です。」
「大陸の外ですか…」
考え込んでしまった青白い男に代わって、褐色の男が口を開いた。
「お前、転移魔法が使えるのか。」
「使えません。」
「狼達の報告では、お前はいきなりあの場に現れたと。」
「狼…」
私はあの時のことを思い出した。自分に向かってくる大きな口、月明かりを反射した鋭い牙。燃えるように熱い痛み。私の身体は私の意思に反して、ブルブルと震えだした。
「うう…」
堪えようとしても勝手に涙が溢れてくる。そうだ、子供って涙腺が緩いんだった。ボロボロ零れ落ちる涙が握りしめたシーツを濡らしていく。
「泣くな。」
いや泣くだろ。こちとら死にかけたんじゃい。
「ふええ…」
目を閉じても涙は止まらない。私が堪えきれず声を上げた瞬間、身体がグワンと持ち上がった。あまりの勢いに首が折れるかと思った。何事かと目を開けると、目の前には褐色の男の厳つい顔。どうやら私は彼に抱き上げられたようだ。全裸だけど。
「魔王様…何をしているのです?」
青白い男が呆れ顔で聞く。
「人間の赤子は抱き上げれば泣き止むと聞いた。」
「彼女は赤子ではありませんよ。泣き止みましたけど。」
「ふふん。」
確かに驚いて涙は止まった。今私はドヤ顔の男に両脇に手を差し込まれてブランブラン浮いている。全裸で。褐色の男は私の身体を上から下までまじまじと眺めた。
「雌だな。」
「うう…!」
私は羞恥で再び泣き出した。
ーーーーーーーーー
「あなた、名はなんというのです。」
「恵理奈…」
あの後、魔王様にベッドに戻され、私は体にシーツを巻いて応対している状態だ。というか魔王様、魔王様ってあれか?ラスボスの魔王様?
「魔王様、なんですか?」
「そうだ。俺が魔王だ。」
「自己紹介がまだでしたね。こちらはレオナール魔王陛下。私は宰相のサムエルです。ご存知かもしれませんが、ここは魔王様の治める大魔王国、その王城です。」
「大魔王国…」
なんか厨二病っぽいワードが出てきたぞ。
「お前、大魔王国も知らないのか。今まで何してたんだ。」
「何って…普通に働いてましたけど。」
「働いてたのか?お前が?」
「はい。」
「まだ赤子ではないか。」
「ですから魔王様、彼女は赤子ではありませんよ。この大きさですと、恐らく4、5歳かと。」
「赤子ではないか!」
「幼女ですよ。」
「細かいことはどうでも良い。」
「はあ…。しかし彼女は嘘を言っていませんね。真実の宝玉が反応していませんから。」
嘘ついていたらバレるのか。よかった、本当の事しか言わなくて。嘘をつかなくても、自分が異世界から来たことを隠すことくらいできる。ようは大事なことは言わなければ良いのだ。この世界での異世界人の扱いが分からない今、私がそうであることは知られない方がいい気がする。他にも異世界から来た人がいるのか、彼等はどのような扱いを受けているのか。それを知るまでは黙っておこう。
「ではこいつは赤子のくせに労働をし、ニホンという国から知らないうちにここまで飛ばされたということか?」
「彼女の話を纏めるとそうなりますね。」
「ふむ…」
深刻そうに考え込む魔族2人。私はだんだんと不安になってきた。ここは大魔王国、魔族の国。テンプレ通りなら、魔族は人間と敵対関係にある。ならば人間の身で魔王の城に侵入を果たした私は殺されてしまうのではないか?
「あの…私は殺されるんですか?」
「む?何故そう思う。」
「人間だから…」
「あなたの住む国では人間と魔族は敵対していたのですか?」
「…魔族はいませんでした。」
「なるほど。では安心してください。魔族と人間は敵対しあってはいません。敵対しあっていた時代もありましたが、今は人間は我々魔族に従属しています。」
「従属?」
「この大陸にある人間の国は全て我ら大魔王国の従属国です。人間というのは実に愚かで弱いですからね。我々が管理しないと、いつまでも人間同士、殺し合う。」
なるほど。戦争が絶えないのはどこの世界でも同じか。まあこれで私は命の危機にはないということがわかって一安心だ。もう夜も遅いから子供は寝る時間ですとサムエルに言われ、私は大人しく布団に潜り込んだ。
「あなたの処遇について話し合うのはまた明日にしましょう。それではおやすみなさい。」
「おやすみなさい。」
枕元のランタンを手に、魔王とサムエルは部屋を後にした。窓を見ると、カーテンの隙間から青白い月明かりが漏れている。
「あんな風におやすみなさいって言ってもらえるのはいつぶりだろう。フカフカのベッドで寝るのも…」
ここは夢か現実か。私はこの後どうなるのか。考えることはたくさんあった。でも子供の身体はすぐ眠くなる。私はいつの間にか深い眠りについていた。
「う、ん…」
徐々に意識が浮上してくる。ゆっくりと目を開けると、目の前には知らない男の顔があった。
「ぴえ」
「起きたか。お前、なぜあんな所にいた。どうやって侵入した。」
「…」
褐色の肌に、漆黒の髪。頭からは山羊のようなツノが二本生えている。金色の瞳は瞳孔が縦に裂け、口からは牙が覗いている。
そして何よりでかい。常識外れにでかい。3メートルくらいはあるのではないだろうか。多分デコピンされたたけでも死ねる。
私が恐怖でフリーズしていると、褐色の巨人の背後から声が聞こえた。
「魔王様、その様に前のめりになっては人間が恐れます。」
「む、そうか。」
巨人は姿勢を正し、一歩引いた。彼の背後には青白い肌をした、これまた巨人。
巨人二人に穴が開くほど見つめられているものの、少し離れてくれたおかげで威圧感が和らぎ、私は少し冷静になれた。
「ここは…私、死んだんじゃ…」
「サムエルが治した。ここは客間だ。」
そこでやっと自分がフカフカのベッドに寝かされていることに気がついた。広いベッドだ。キングサイズかな。というかこの部屋、家具も何もかも一回り大きい。やはりここは巨人の家なのか。ペロリと食べられちゃうんだろうか。
布団をギュッと握りしめ、体を縮こませる。あれ?服着てない…裸だ!慌ててシーツで身体を隠そうとしたところで、違和感を覚えた。
手が小さい。胸がない。おまけに毛もない。ペタペタと顔を触って確認する。この大福みたいなプニプニのほっぺ。間違いない、幼女だ!
私が思考を巡らせ一人でアタフタしているのを、じっと観察する巨人二人。いや、巨人じゃないのかもしれない。幼女の私からしたら巨人に見えるけど、実際は2メートルいくかいかないかくらいなんじゃないかな。巨人は言い過ぎだった。
「…終わりましたか?」
「あ、はい、すみません。」
どうやら彼らは私が落ち着くのを待っていてくれたようだ。
「魔族を見て泣き叫ばない人間の子供なんて珍しいですね。」
「はあ…」
なるほど、魔族か。異世界っぽい。
「あなたはなぜあんな所に?どうやって入ったのですか?」
「分かりません。気がついたらあそこにいました。」
「どこから来たのですか?スリチア王国?」
「日本です。」
「ニホン…聞いたことがない国ですね。少なくとも属国ではありません。どのあたりの国か分かりますか?」
「えっと…東の、島国です。」
「大陸の外ですか…」
考え込んでしまった青白い男に代わって、褐色の男が口を開いた。
「お前、転移魔法が使えるのか。」
「使えません。」
「狼達の報告では、お前はいきなりあの場に現れたと。」
「狼…」
私はあの時のことを思い出した。自分に向かってくる大きな口、月明かりを反射した鋭い牙。燃えるように熱い痛み。私の身体は私の意思に反して、ブルブルと震えだした。
「うう…」
堪えようとしても勝手に涙が溢れてくる。そうだ、子供って涙腺が緩いんだった。ボロボロ零れ落ちる涙が握りしめたシーツを濡らしていく。
「泣くな。」
いや泣くだろ。こちとら死にかけたんじゃい。
「ふええ…」
目を閉じても涙は止まらない。私が堪えきれず声を上げた瞬間、身体がグワンと持ち上がった。あまりの勢いに首が折れるかと思った。何事かと目を開けると、目の前には褐色の男の厳つい顔。どうやら私は彼に抱き上げられたようだ。全裸だけど。
「魔王様…何をしているのです?」
青白い男が呆れ顔で聞く。
「人間の赤子は抱き上げれば泣き止むと聞いた。」
「彼女は赤子ではありませんよ。泣き止みましたけど。」
「ふふん。」
確かに驚いて涙は止まった。今私はドヤ顔の男に両脇に手を差し込まれてブランブラン浮いている。全裸で。褐色の男は私の身体を上から下までまじまじと眺めた。
「雌だな。」
「うう…!」
私は羞恥で再び泣き出した。
ーーーーーーーーー
「あなた、名はなんというのです。」
「恵理奈…」
あの後、魔王様にベッドに戻され、私は体にシーツを巻いて応対している状態だ。というか魔王様、魔王様ってあれか?ラスボスの魔王様?
「魔王様、なんですか?」
「そうだ。俺が魔王だ。」
「自己紹介がまだでしたね。こちらはレオナール魔王陛下。私は宰相のサムエルです。ご存知かもしれませんが、ここは魔王様の治める大魔王国、その王城です。」
「大魔王国…」
なんか厨二病っぽいワードが出てきたぞ。
「お前、大魔王国も知らないのか。今まで何してたんだ。」
「何って…普通に働いてましたけど。」
「働いてたのか?お前が?」
「はい。」
「まだ赤子ではないか。」
「ですから魔王様、彼女は赤子ではありませんよ。この大きさですと、恐らく4、5歳かと。」
「赤子ではないか!」
「幼女ですよ。」
「細かいことはどうでも良い。」
「はあ…。しかし彼女は嘘を言っていませんね。真実の宝玉が反応していませんから。」
嘘ついていたらバレるのか。よかった、本当の事しか言わなくて。嘘をつかなくても、自分が異世界から来たことを隠すことくらいできる。ようは大事なことは言わなければ良いのだ。この世界での異世界人の扱いが分からない今、私がそうであることは知られない方がいい気がする。他にも異世界から来た人がいるのか、彼等はどのような扱いを受けているのか。それを知るまでは黙っておこう。
「ではこいつは赤子のくせに労働をし、ニホンという国から知らないうちにここまで飛ばされたということか?」
「彼女の話を纏めるとそうなりますね。」
「ふむ…」
深刻そうに考え込む魔族2人。私はだんだんと不安になってきた。ここは大魔王国、魔族の国。テンプレ通りなら、魔族は人間と敵対関係にある。ならば人間の身で魔王の城に侵入を果たした私は殺されてしまうのではないか?
「あの…私は殺されるんですか?」
「む?何故そう思う。」
「人間だから…」
「あなたの住む国では人間と魔族は敵対していたのですか?」
「…魔族はいませんでした。」
「なるほど。では安心してください。魔族と人間は敵対しあってはいません。敵対しあっていた時代もありましたが、今は人間は我々魔族に従属しています。」
「従属?」
「この大陸にある人間の国は全て我ら大魔王国の従属国です。人間というのは実に愚かで弱いですからね。我々が管理しないと、いつまでも人間同士、殺し合う。」
なるほど。戦争が絶えないのはどこの世界でも同じか。まあこれで私は命の危機にはないということがわかって一安心だ。もう夜も遅いから子供は寝る時間ですとサムエルに言われ、私は大人しく布団に潜り込んだ。
「あなたの処遇について話し合うのはまた明日にしましょう。それではおやすみなさい。」
「おやすみなさい。」
枕元のランタンを手に、魔王とサムエルは部屋を後にした。窓を見ると、カーテンの隙間から青白い月明かりが漏れている。
「あんな風におやすみなさいって言ってもらえるのはいつぶりだろう。フカフカのベッドで寝るのも…」
ここは夢か現実か。私はこの後どうなるのか。考えることはたくさんあった。でも子供の身体はすぐ眠くなる。私はいつの間にか深い眠りについていた。
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