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第23話 闇の獣人、侯爵夫人の身の上を聞いている間に瀕死の怪我人達の治療を依頼される
しおりを挟む俺の精液入り紅茶を飲んでレヴィン宰相とヴェルゼの二人は落ち着いたようだった。
新たな仲間となったヴェルゼラート侯爵夫人。いい機会だったので、俺は彼女の身の上話を聞いてみることにした。貴婦人の中でも特に美しい外見をもつヴェルゼ。なのに何故黒のドレスを着ているのか。普通は疑問に思うだろう。答えたくなければ答えなくていい、といったにも関わらず、彼女はポツリ、ポツリと己の事を話し始めた。
彼女は伯爵家の生まれで12歳の時に同じ貴族階級のランジリーニ伯爵と結婚した事があるらしい。
12歳というと早すぎるという声が聞こえそうだが、貴族社会ではこの程度の年齢での婚約・結婚は珍しいことではないんだとか。中には8歳で結婚する令嬢もいたりするんだそうだ。
さて伯爵のことだが…実は伯爵がコレクションにしていた壺や絵画といった美術品に悪魔が憑りついていたらしい。
ごく稀に芸術品の中には、いわゆる呪われた絵や宝石といったものがある。その芸術品に執着する生きている者の執念や、権力者によって殺された所持者達の恨みの念がこびりついているのだ。
だがランジリーニ伯爵が手に入れた絵画は正真正銘、魔界の悪魔を封じたものだったという。
そして伯爵は金にものを言わせてその封印を解く方法を手に入れてしまい、自分の下僕として使役しようとしたのだとか。
だが魔術に関する素人が悪魔を使役できるわけがない。封印を解かれた悪魔はランジリーニ伯爵の生気を奪い取って高笑いと共に魔界へと帰っていったという。
最初はヴェルゼラートが遺産目当てに夫を殺したのではないかと、伯爵の実家から嫌疑をかけられたが、その疑いもすぐに晴れた。
というのも、伯爵の死体が死後数百年は経っているんじゃないかと見た者が思ってしまうほど悲惨な状態だったからだ。
干物かミイラと思われるような枯れ果てた遺体を見て、誰もが悪魔の仕業だと納得することしかできなかった。
こうして疑いが晴れたヴェルゼラートだが、それから二年後の十四歳の時に彼女はマリフェクト侯爵と結婚することになった。
しかし彼は政略結婚と伯爵令嬢という外側でしかヴェルゼラートを見ようとしなかった。
そして愛人の娼婦と一緒に特別性の馬車の中で淫らな事をしている間に山賊達に襲われて、護衛も次々に殺されていき、御者が馬車の操縦を誤ってしまった為、車内で淫らな交わりをしていた全裸の侯爵と愛人もろとも、曲がり角を曲がり切れずに崖下に落ちてしまったのだとか。
こうして侯爵家の遺産は彼女が引き継ぐことになった。マリフェクト侯爵の実家の者達もヴェルゼラートを差し置いて愛人と一緒に全裸で死んでいるマリフェクト侯爵のあまりに恥ずかしい死にざまにほとんど口を挟む者がいなかったという。
ヴェルゼラートの実家も、半ば強引にマリフェクト侯爵と結婚させた手前、これ以上彼女を他家に嫁がせるわけにもいかず、彼女の夫の死にざまは貴族界の中でも恰好の嘲笑と嘲弄のネタにされた。
彼女はその事については反論せず、夫の死後から今に至るまで常に黒いドレスをまとって夫に捨てられた(または弄ばれた)妻として振る舞うことにしたそうだ。
彼女が喪服を連想させる黒いドレスを纏う姿は周囲の者達に忌避感を抱かせた。特に彼女がランジリーニ伯爵と結婚していたが、悪魔によってその命を奪われたことを知っている者達は、彼女に同情すると同時になるべく関わりたくないという感情を持つようになったそうだ。
通称・黒哀(こくあい)の貴婦人。夫二人に先立たれた彼女は、常に悲しそうな顔をしており、最初はいろいろと根掘り葉掘り聞いてきた、他の貴婦人達もそのドレスと悲しみに満ちた彼女を笑い物にすることはためらわれた。
何よりも彼女に同情したフィラーレ女王とシャリアーナ姫が貴婦人達に余計なちょっかいを出す事を許さなかった。
ヴェルゼラート侯爵夫人については放っておくように。同じ貴婦人であるのなら彼女の身の上を理解して、彼女の方から話しかけてきたら協力するようにという厳命を出した。
特にゴシップ大好きで自分より不幸な者が大好きで、暇さえあれば他人を笑い物にするのが大好きなレヴイエーナ侯爵夫人に対してフィラーレ女王は激怒して、次に罪なき者に対して公然と笑い物にするのであれば、そなたを公衆の面前で鞭打ちの刑にすると警告した。そして少なくとも10年間はその事を宮廷内での語り草にすると宣言した。
さすがに自分が笑い物にされるのは嫌だったのか、彼女はフィラーレ女王の陰口を他の貴婦人に言うようになったが、その事を立ち聞きしていた女官達に聞かれて、彼女達の通報によって宰相自らがレヴィエーナ侯爵夫人に警告した。
この事実は宮廷内にその日の内に広まり、鞭打ちの刑の巻き添えになるのを恐れた他の貴婦人達は本当に必要な時以外は、レヴィエーナ侯爵夫人と会話するのを止めた。
そしてヴェルゼラートが悲し気な顔をしているのは、夫二人に先立たれたからだけではなかった。
彼女は不感症だったのだ。それも夫二人に死なれたことで精神的なショックを受けてからは、不感症はさらに強くなった。
他にもまだ何か言いたいことがあるようだが、あとは空になったティーカップを見ているだけの彼女に質問するのはためらわれた。
それは宰相も同じだったらしく、『今はそれ以上は聞かない方がいい』と俺に向けた目線で言ってきた。
聞いたのは俺なので、この重い空気を変えるのも俺ということになるな。
「それにしてもそのレヴィエーナ侯爵夫人だっけ? 自分が悪口言われたらどんな気分になるのかも考えもせずに他人の悪口を吹聴しまくるなんて許せないな。ヴェルゼ。もしもその性悪貴婦人がまだお前のことを虐めるようなら俺に言えよ? その時は俺がその性悪に制裁を加えてやるからな」
「制裁って…具体的には彼女にどういうことをするのかね?」
と、レヴィン宰相。もしも聞き忘れたり、聞き逃したりすれば大変なことが起きると彼の獣人の本能が告げていたからだ。
「どうって…別に? 俺は彼女を殺さないよ? ただ両手両足の骨をへし折って、わめかれたりしたらうるさいから喉は水銀で潰して、そのままダンジョンの中に放り込むだけだぜ? 女王陛下が宣言しても懲りずにレヴィンが警告したんだろ? それなのにまだ懲りない馬鹿は生きている価値なんてない。ダンジョン内のモンスターの餌にでもなればいいのさ」
「本気で言って…いるんだね。君の目を見ればわかる。さすがは暗殺者ギルドで教育を受けた者だね。敵と認めた者には容赦しない。しかも君は闇魔法の達人だ。彼女を始末するのも証拠を残さずにできるんだろう?」
「もちろん。元・暗殺者を舐めてもらっちゃあ困るな。あ、もちろんレヴィンもだぞ? 厄介な政敵とかいたら遠慮なく俺に言ってくれ。ダンジョン内のグールの群れの中に放り込んで餌にしてやるから戻ってくることないしな」
アンデッドの一種であるグールの群れと聞いて、さすがに二人とも青ざめた顔をしている。
「あ、ごめん。さすがにアンデッドの話題はふさわしくなかったかな。でもそれくらいの事はやるってことを言いたかっただけさ。もう二人共俺にとって身内みたいなもんだからな」
慌てて取り繕う俺に、二人共ほっとしたような満足したような顔になった。やっぱり身内といったのが効いたんだろうな。
また雰囲気が良くなってきたと思った頃、俺達のいるレヴィン宰相の私室のドアが勢いよく叩かれた。
せっかくいい雰囲気になったのにぶち壊しだと、顔をしかめた俺を余所に宰相は立ち上がって入れ、と少し大きい声で告げた。
たちまち外で見張っていた親衛隊員の一人が、慌ただしく室内に入ってくる。彼は敬礼をすると同時に背筋を伸ばして、緊急事態が勃発したと告げた。
「先程、地豹将軍ボルザヴァール様が配下の者達と共に城内に運び込まれました! ボルザヴァール様は右腕を骨折し、左足を損失しており、重傷であります! また将軍閣下の配下の地豹軍の兵士達も死者は出ていないものの、四肢の欠損が目立つ者が多く、城内は回復系の魔法が使える者達を緊急招集しております。
よろしければそちらにおられるラフィアス様にも御参加いただけないでしょうか。何卒、宰相閣下にお願いいたします! どうか、どうか将軍閣下と兵士達をお救いください!」
「いやちょっと待てよ。ミシェルから聞いたんだけどさ。確か地の将軍ってここの警護の為に残っていたんじゃなかったのか? なのに何で部下共々重傷なんて負っているんだよ!?」
と、俺が突っ込むと、レヴィンが見張りの親衛隊員に代わって答えてくれた。
「実は…ドラゴンスレイヤーが城に来たのなら、自分が王都を警護する必要はないんじゃないかと、それなら東の山脈に行って旅人や行商人に害する魔物達を退治してきます、という内容の置手紙を女王の部屋に置いて、東の山脈へと出兵してしまったのだよ…。どうも他の将軍がいろんな街に行って、犯罪者を取り締まったりしているのに、自分だけ王都でくすぶっている状態に我慢の限界が来たらしい。君がくる前日に彼は東の山脈へと出兵してしまったそうだ…」
頭痛をこらえる表情の宰相に俺は同情した。やっぱり兵士や将軍って個性の強い連中ばかりなんだね、と。
もちろん俺も人のこと言えないんだが…。ヴェルゼを見ると黒の扇子で顔の下半分を隠しているが、その目が露骨に物語っている。バカじゃないの? と。目は口ほどにものを言うとあるが、さすがの侯爵夫人も呆れかえっているようだった。
「俺、バカだけどさ。そのボル将軍だっけ? その人みたいに勝手に軍を動かして魔物がわんさかいる、東の山脈に出兵したりしないぜ? 置手紙って事は確信犯だろ? そんなアホ、治療するだけ無駄だと思うんだけどな。治してもまた、同じようなことするだろうし」
「私もラフィアス様の御言葉に同意見ですわ。勝手に軍を動かして東の山脈に行って、魔物達に返り討ちに遭ったということでしょう? そのような愚かな将軍に付き合わされた配下の兵士の皆様が可哀想ですわ。兵士の皆様は治療するのは当然ですが…将軍閣下の方は自業自得としか言いようがありませんもの」
扇子を優雅に折り畳んで辛辣な台詞を口にするヴェルゼ。でもそんな姿も綺麗なんだよな。と、言ったら顔を真っ赤にして俯いちゃうから言わないけどさ。
「君達の言いたいことはよくわかる。わかるが、アレでも結構強くて兵士達からの人望も厚い。戦闘バカと言ったらそれまでなんだがね。それでもボルザヴァールは私とは長年のと、いや腐れ縁の知り合いなんだよ。あいつが無茶な事をするのは確かに今回が初めてではないが、それでもここまでの重傷を負うほど弱くはないはずなんだ。だからどうか―-」
「あーわかった。わかった。俺が治療すればいいんだろ? そりゃ俺がやればボル将軍も配下の連中も全員、回復するけどさ。問題は王城きっての治療術師達の立場はどうなるんだよ? 俺がやったと知られたら、あいつら親衛隊の連中みたいに、俺をつけ狙ってくるぜ? あるいは逆に俺の弟子になりたいって信者の振りして俺を密かに探ろうとするかのどっちかだろうよ」
「それについては私が連中を抑えておくから心配するな。君には連中が近寄らないようにする」
「確かにあんたなら連中を抑えておくことができるだろうな。だが女王陛下が多くの重傷者を治療した者について詮索しないと思うか? そうなったらいくらあんたでも俺の事を庇いきれないんじゃないか? 相手はあんたの上司の女王様なんだぜ? 彼女が俺をヒーローにして大々的にこの国きっての大英雄にするなんて言ったら、俺は恥ずかしくてもう外を歩けないよ。俺に届けられた招待状にもそんな事ぜんぜん書かれていなかったし…」
「要するに…。 治療しても表向きには君の名は出さない。仰々しいセレモニーや式典も止めてほしい。女王陛下にも目立つような真似は一切しないでほしい、と私から頼んでほしいということだね?」
「まあそういう事だな。それじゃ治療院だっけ? 貴族や王族専門の医療施設があるんだろ? そこへ転移するからレヴィン、捕まって―」
「待ってください! わ、私も行きますわ! もしかしたら侯爵家の威光がラフィアス様の御役に立つかもしれませんもの!」
必死に俺の右腕にすがりつくヴェルゼ。お願いだから連れていって、とその目は語っている。
「わかったよ。じゃあヴェルゼも一緒に捕まれ。それじゃ見晴らしのいい場所へ転移するからビビるなよ?」
と、言うなり俺はあらかじめ調べておいた王城の中でも特に高い尖塔に時空魔法で転移する。
まだ日は高いのに、闇魔法なんて使ったら目立ってしょうがないからだ。
「うおっ!?」 「きゃあっ!?」
異口同音に尖塔に備え付けられたバルコニーをとっさに掴んで姿勢を正す宰相とヴェルゼ。
「それで? 医療施設はどこら辺だレヴィン?」
「それは、ああ、あそこだな。遠くて見えにくいだろうが、あそこまで転移すれば――」
「あそこの方角だな。しかし、ボル将軍とその配下達だけを治したんじゃ噂になって、他の怪我人とか病人とかも治してくれとか言われそうだな。いちいちそんなの相手にしてられないし。急いでいるから…それじゃまとめて治療していくぞー」
いや待て! とレヴィンが言ったような気がしたが俺は構わずにここから治療院を中心にして範囲を一気に拡大してから、竜王の息吹をかけた。
全てを癒すような優しい光が一瞬で、治療院を中心に湧き上がって王城の敷地内全てに広がっていく。
遠視のアビリティをアクティブにする必要もない。多くの人々が仰天し、担架の上にかつぎこまれていた兵士達が下りて、担架を運んでいた兵士達と一緒に踊っていたり、抱き合ったりしている。
「それじゃレヴィン。ヴェルゼと一緒に後のフォローよろしく。くれぐれも俺の事は表に出さないでくれな。んじゃ俺は王都に付いてきた魔物達の掃除と、ついでに東の山脈に行ってくるから。夕飯はテーブルの上に置いといてくれ」
「待ってください! わ、私を置いていくのですか? ラフィアス様!」
俺は彼女の両手をそっと掴むと、キスでもできそうなくらい顔を近づけて言った。
「違う。君にはぜひともやってもらいたい事がある。それは女王陛下と姫様。あとは王城全体に回復魔法を展開したから、今日中に調査局の局長。つまり俺の上司が来ると思うんだ。いや絶対に来る。
どうも東の方からいやな気配がするから、時間がないので一気に範囲拡大してまとめて治療した。火急の要件で仕方なくやったということをシャリアーナ局長に力説しておいてほしい。レヴィンも頼む。あの人は女王陛下と同じくらい、怒らせると非常に恐ろしい女性になるからな。そういうわけでお前ら二人には女王陛下や俺の上司に、うんと時間かけて説明しておいてほしい。その間、俺はボル将軍を追ってきた魔物達を始末しておくから」
これは本当だった。王都の東に魔物特有の感じがする。それも時間が経つにつれて少しずつ増えていってるのだ。
「わかった。ボルザヴァールの尻ぬぐいをさせるのは心苦しいが、君ならそれほど心配しなくても大丈夫かもしれないな。だが気をつけろ。ボルザヴァールも将軍の一人だ。その彼が重傷を負ったという事はそれほどの数の魔物を相手にしたか、強大な力をもつ魔物がいるということだ。あるいはその両方かもな」
「わかってる、わかってる。それじゃ二人とも。目立たない場所に移動するから、また掴まって」
俺の右腕にヴェルゼが。左の肩にレヴィンが掴まるのを確認すると、俺は尖塔の影に転移した。幸い、俺が施した範囲拡大ヴァージョンの竜王の息吹のおかげで、誰も俺達には気づいていない。
「じゃ、後はよろしくな二人とも!」
そう言うと俺は王都の東門を出た場所へと転移した。
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後書きです。いつもいつも性描写ばかりだと飽きられるので、今回はありません。
どんなに美味な料理も毎日続くと飽きます。同様にどんな名曲も毎日聞けば飽きてきます。
自分の小説が名曲や美味な料理と同等だと自惚れているわけではありませんが、マンネリ化を防ぐために
こういうお話もあるということです。皆さまのご理解とご協力をお願いします。
今回の主役は第二話でラフィアスが強姦の仕事をしてレイプしていた女性。彼女がヴェルゼラート侯爵夫人です。
今回は彼女の身の上話がメインになります。彼女もラフィアスを支える中核的な存在になっていくので、全部ではありませんが、ある程度までなら必要だと思い、書く事にしました。黒哀(こくあい)の貴婦人と呼ばれた彼女も18歳。まだまだ恋する乙女です。ラフィアスの為なら自分の命も惜しまないほど激しい思いを抱いています。
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