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第28話 闇の獣人、己の秘密の一部を話し出す
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俺は局長の言葉で自分の秘密を話す決意を明らかにせざるを得なかった。俯いていた顔をどうにかして上げてレヴィンとヴェルゼの二人を見ながら話しだす。
ほんと、今の俺ってどういう顔しているんだろうな。真摯? それとも緊張?
まあいいか。この二人なら俺が円満家庭なんて作れない理由を知っても、今まで通り付き合ってくれると思うし。駄目なら駄目でそれまでだったということだ。暗殺者ギルドにいた時も「恋人や友人を作っても、いつまでもお前の側にいてくれると思うなよ? 人間はいろんな理由で別れたりする。だから己を磨く努力をしろ。他人に必要以上に期待するな」って何度も何度も言われてたしな。
「実は局長の言ってたことなんだけどさ。俺、暗殺者ギルドで育ったってことは二人とも知っていると思う。そこで俺、13歳の時から性教育を受けて実践とかしていたんだ。まあ具体的には相手の女とヤることなんだけど。教官達からは相手を喜ばせることができれば、今はそれでいいって言われてさ。俺、自分で言うのもなんだけど、結構テクニシャンで精力があるから、相手の女達を逝かせて喜ばせるのが嬉しくてたまらなかったんだよ」
そこで言葉を切って、視線を両ひざの上に置いた両手を見つめながら続ける。
「でも本当はそうじゃなかった。暗殺者ってのは優れた後継者を残す為に女を買って子供を産ませるんだ。俺の場合も優れた素質をもっているってことで、早目に女達をあてがって妊娠させていったんだけど、どういうわけか俺の精子を植え付けられた女達が産んだ子供って…半年くらいしか生きられなかったんだ。長くても一年が限界で。俺が調べた限りでは8人の女が産んだ俺の子供が、全員一年以内に死んでいた」
そこで局長が俺の方を見る。視線を感じた俺は頭を上げると彼女の何か言いたいことがあると視線と雰囲気で理解した。ゆっくりと頷くと局長は一瞬、辛そうに目を閉じたがすぐに目を開いて俺の発言をフォローするようなことを言い出した。
「まずラフィアスは好きで女達と性交したわけではない。私も調べてみたが、彼は教官達から命じられたことをやっていただけであって、性教育を受けてうまくいったから次々に女を希望して孕ませたわけではないということを、二人にはわかってもらいたい」
「それは十分にわかっておりますわ。ラフィアス様は好みの女性だからってすぐに手を出すような方ではありません。それは彼と会って確信しましたもの」
「そうだな。逆を言えば必要があれば躊躇なく誘惑したり、性行為に及ぶというわけだが。私の場合は彼に恩があったし、この王城で生活する為に必要な事だったからね。それに彼を抱いて愛というものを知ったわけだから文句や不満はないよ。…だが彼の子供が全員、一年以内に死んでいるというのは何故かね? 死因はわからないのかい?」
どうやら二人には俺が尻軽男じゃないと理解してくれているようだった。そりゃ確かに親衛隊の連中やレヴィンに俺を抱かせるような事をしたのは事実だけどさ。しょうがないだろ? 暗殺や暴力行為が十八番(おはこ)の俺がそういった事をなしでこの王城で生活しろっていうんだからさ。味方を作って増やすしか方法が浮かばなかったんだよな。魔法とか薬物だといつ効果が切れるかわからなくて怖くて使えなかったし。
金で買収しようにも、それ以上の金額で他の奴に買収されたらって考えるとこれもボツだしな。だからセックスで俺に惚れさせて味方にするのが一番いい方法だったんだよな。
…なんて考えている間に局長が続けて説明してくれている。普段は怖いけど、こういう時はありがたい存在だと思うな。
「死因は不明だ。ラフィアスが妊娠させた女は15人。その15人が出産した子供が全員、一年以内に死亡している。共通しているのは全員、眠るように目を閉じたまま死亡していること。そして生誕から死亡に至るまで、全員が頭が良くて優しく理解力があり、母親を困らせることは滅多にしなかったことが挙げられる。
そしてあまりにも早すぎる死に納得いかない母親もいた。彼女は遺児の遺体をそのまま埋葬せずに、ずっとベッドの上に置いておいたらしい。すると三日ほどで赤子の遺体は黒い炎に包まれて産着を残して焼失してしまったという報告がある。他に二人ほど埋葬するのをためらった母親がいたが、やはり三日ほどで黒い炎に包まれて赤子の遺体は消えてしまったそうだ。産着には焦げ跡一つついていない。私も実物を見せてもらったが、特に何の変哲もない普通の産着だったな」
さすがは調査局の局長。俺が知らないことまで沢山知っていらっしゃる。だけど赤子の遺体が焼失?
しかも黒い炎だって? そんなの俺がしる限り一人、いや一柱しかいないじゃないか。
そんな俺の顔を見て何か知っているのかと思ったのだろう。局長が鋭い目で俺をみる。隠してないで全部話せという時にする表情だ。
「何か知っているようだな、ラフィアス。そこの二人は君の味方なんだから、この際、全て知っていることを話してしまった方がいいぞ?」
ため息をつくと、俺は三人の顔を順繰りに見渡していく。どの顔も深刻だったり、緊迫感に満ちた顔をしている。
「実は俺が生まれつき闇の魔法を使えるのは、闇の女神様の加護があるからなんですよ。詳細はまだ言えませんけどね。突拍子もなくて前例がないようだし。まあ詳しくは言えませんが、闇の女神様は俺以外の強者は望んでいないようですね。でなきゃ俺の血を引く子供が全員、これほど早く死ぬわけない。そりゃそうですよね。俺みたいな存在が世間に溢れたら、暴力に満ちた世界になる。だから女神としては放置できないといった所だと思います。黒い炎なんて、闇属性でない限り出せませんからね」
信じてもらえただろうか? また三人の顔を見るがあからさまな猜疑心を抱いているようには見えない。腹の中ではどうなっているかわからないが。アークリッチから吸収したアビリティのマインドリーディングを使えば、全員が何を考えているのかわかるようになるが、今はとてもそんなアビリティを使う気分になれない。
「なるほど。確かに君の言う通りだな。私が女神の立場ならそうするだろう。だから君の子供は全て一年以内に死亡するということだな?」
「はい。確証はありませんが大体はそうだと思います。だからな、レヴィン。ヴェルゼ。俺は普通に結婚して子供作って、円満家庭を築けるなんてことは不可能なんだよ。さすがに15人も妊娠させて、その子供が全員死亡していたなんてことは、俺も初めて知ったけどさ…せいぜい8人くらいと思っていたけど、15人だったなんて。これ本当に俺の妻になったら不幸路線まっしぐらだよな。ハハハ…」
局長に同意してからレヴィンとヴェルゼに言う。あ、自分で言っておいてなんだけど、思いっきりバッドな気分だわ、今の俺。
「だからな、ヴェルゼ。俺との結婚は不可能だから今の内に、別の男とか探した方がいいと思うんだが――」
「嫌です! 私にはラフィアス様しかおりませんわ! 生まれた子供が一年以内に死ぬ? なら子供なんて産まなければいいだけの話ではありませんか!? 子供がいなくて侯爵家の跡継ぎがいないのなら養子をとればいいだけのことです。実家の両親も今は亡きあの人の実家の者達にも、ラフィアス様とお付き合いすることに誰にも文句は言わせませんわ!
すでに私は周囲の思惑に乗せられて二度も夫を失いましたわ。もう、これ以上振り回されるのは沢山です! 残りの人生、私の好きなようにさせてもらいます。だから私は、あなたの側から絶対に。ええ、神々に祟られるようなことがあっても離れませんわ!」
「私だってヴェルゼ嬢と同じだよ、ラフィアス。君は私の病気を治療してくれた上に、過去のしがらみから解放してくれたじゃないか。その君が誰とも愛せない。平凡で円満な家庭が築けないことに苦しんでいた。なら一生をかけて君を愛することでその苦しみを癒さないといけないじゃないか。これで君と別れて私が別の女性を探すなんて、そんな事はできないよ。すでに君という人がいるんだからね。君が別れたいと言っても私は君から離れない。死ぬまで君を愛し続ける。それが私の決意だよ、ラフィアス」
ヴェルゼが席を立ってまくしたてると、今度は穏やかに席を立って俺への愛を再度宣言するレヴィン。
何だか諦めさせようとするのが、かえって俺への恋心を募らせてしまったというか。これがいわゆる逆効果ってやつなんだろうなー。
しかも二人とも左右から俺にしがみついて、涙目になって愛しているとか離れないとかうるさいし。
いやありがたいんですけどね。でもさ、二人とも貴族なんだから、そこはもうちょっと落ち着いて静かに愛を囁くってのはできないのかな?
局長に救いを求めるようにして正面に座る彼女を見る。すると彼女は小さく吹きだすと、視線をティーカップの影に向ける。それが終わると、次はティーポットの影に。…ああ、なるほど。従魔を使うか、闇魔法使えってことですね。さすがは局長。こんな時も冷静でいらっしゃる。
闇魔法を使って転移は…ムリだな。二人とも俺の体に接触しているし。これだと二人一緒に転移してしまう。
となると…従魔だな。俺と契約しているから声に出さなくても大丈夫だろう、多分。
『おい、レオンフレイム。聞こえるか? 聞こえたら俺だけに聞こえるようにして会話しろ』
目を瞑って頭の中で囁くと、即座に返事が返ってきた。
『もちろん聞こえるぞ、我が主よ。それで我に何を望む? 察する所、主を悩ませているこの連中をどうにかしろということのようだが。 いっそ二人まとめて吹き飛ばした方がいいか? 主が命じればすぐに実行できるぞ?』
『いやそこまでしなくてもいいって! 離れた影の所から現れて、もうちょっと冷静になれって軽く諫める程度でいいから!』
『わかった。主がそう言うのならそうしよう』
そう言うと、離れたベッドの影からレオンフレイムがその上体を上げて、すぐに全身が柔らかな絨毯の上に現れる。相変わらずでかい図体だな。体の大きさは調整できるようだけど、今のこいつって3メートルくらいはあるように見える。
いや、いくらレヴィンの部屋が広いからってなにもこんなでかさで現れなくても。
なんて俺が思っていると、レオンフレイムはのしのしと俺達の方に近寄ってきた。白銀の獅子が近くに来ると威圧感というか圧迫感がすごい。俺に同情して騒いでいたレヴィンとヴェルゼの動きがピタリと止まった。
『貴様らの気持ちはわかるが、もう少し冷静にならんかこの馬鹿者共が。貴族というのは人間や獣人の中でも上位に属する者なのだろう? なのに貴様らがそんなに騒いでどうするのか。見よ、我が主が困惑しているではないか』
「余計なお世話だ! ラフィアスには私が、いや私達がいる。君のような社会に詳しくない戦闘しか取り柄のない獣はひっこんでいたまえ!」
「そうですわ。ダンジョン内や敵の襲撃や見張りにはあなたが最適です。それは認めますわ。
しかし宰相閣下の言う通り、この王都について全く何も知らないあなたに、そんな事は言われたくありません」
カチン、ときたのかレオンフレイムは先程までのなだめるような態度から一変して、刺々しい雰囲気を全身から放出しはじめた。
『やかましいわ、折角の我の忠言をないがしろにしおって! 貴様らのような100年も生きていない小僧や小娘は年長者である我の言う事を素直に聞けばいいのだ! これ以上、我の大切な主を困らせるようであれば、貴様ら二人まとめて部屋の外に放りだしてくれようぞ!』
そう言いながら閃光と共に全裸の獅子の獣人に変身する。うん、それって逆効果だからね、レオンフレイム。
やたらとムキムキした筋肉でできた獣人のボディ。これで服を着ていたら文句なしなんだが、全裸だとなあ…。
実際に局長も、ヴェルゼも、宰相もその表情を見ればわかる。全員一致で「へ、変態だー!」という表情だ。
「いやっ! それ以上近寄らないでくださいな!」
「そうだとも。変身するのは大した能力だと思うが、全裸で下着一つ付けていないのはいかがなものかと思うのだがね? やはり君は所詮は戦うことしか能のないケダモノだということだよ!」
『ふっ…寿命も、力も、そしてこの全身を覆うこの毛並みの美しさも、全てにおいて我に劣る貴様らにはこの我のセクシーボディの魅力はわからないであろうな』
「普段のあなたの姿ならまだ理解できなくはないですが、今の人型のあなたの事などわかりたくありませんわ! というよりもわかってしまったら人間としておしまいという気がしますの! そういうわけであなたには早くラフィアス様の影に戻ってもらいたいものですわね!」
「全くだ。ラフィアスには我々がいる。もう一度言うが、人と獣人の世界のことについて無知な君に、ラフィアスを守りきれることなどできはしない。ここには敵などいないのだから、ヴェルゼ嬢の言う通り影の中にさっさと戻ったらどうかね?」
だんだん空気が険悪なものになってきている。レオンフレイムVSレヴィン&ヴェルゼ連合の言い争いになってしまった。
「どーすりゃいいんだよ、これ…?」
この場をどうにかする為にレオンフレイムに頼んだのに、かえって火に油を注いでしまった。…うん、レオンフレイムって調停役には向いてないわ。別の従魔とかにふさわしいのがいたら、そいつを俺の下僕、もとい部下にしようと、俺は目の前で繰り広げられる言い争いを見ながら、強く決心した。
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
後書きです。どんなに強い力があってもラフィアスには子孫を残すことはできません。
つまり彼だけの一世代だけなんですね。だから同僚達が結婚できて幸せな家庭を作ることが
できることを応援しつつ、内心、羨ましいと思っています。その事を知るのはシャルミリア局長と
ごく一部の局員だけですが…。
ほんと、今の俺ってどういう顔しているんだろうな。真摯? それとも緊張?
まあいいか。この二人なら俺が円満家庭なんて作れない理由を知っても、今まで通り付き合ってくれると思うし。駄目なら駄目でそれまでだったということだ。暗殺者ギルドにいた時も「恋人や友人を作っても、いつまでもお前の側にいてくれると思うなよ? 人間はいろんな理由で別れたりする。だから己を磨く努力をしろ。他人に必要以上に期待するな」って何度も何度も言われてたしな。
「実は局長の言ってたことなんだけどさ。俺、暗殺者ギルドで育ったってことは二人とも知っていると思う。そこで俺、13歳の時から性教育を受けて実践とかしていたんだ。まあ具体的には相手の女とヤることなんだけど。教官達からは相手を喜ばせることができれば、今はそれでいいって言われてさ。俺、自分で言うのもなんだけど、結構テクニシャンで精力があるから、相手の女達を逝かせて喜ばせるのが嬉しくてたまらなかったんだよ」
そこで言葉を切って、視線を両ひざの上に置いた両手を見つめながら続ける。
「でも本当はそうじゃなかった。暗殺者ってのは優れた後継者を残す為に女を買って子供を産ませるんだ。俺の場合も優れた素質をもっているってことで、早目に女達をあてがって妊娠させていったんだけど、どういうわけか俺の精子を植え付けられた女達が産んだ子供って…半年くらいしか生きられなかったんだ。長くても一年が限界で。俺が調べた限りでは8人の女が産んだ俺の子供が、全員一年以内に死んでいた」
そこで局長が俺の方を見る。視線を感じた俺は頭を上げると彼女の何か言いたいことがあると視線と雰囲気で理解した。ゆっくりと頷くと局長は一瞬、辛そうに目を閉じたがすぐに目を開いて俺の発言をフォローするようなことを言い出した。
「まずラフィアスは好きで女達と性交したわけではない。私も調べてみたが、彼は教官達から命じられたことをやっていただけであって、性教育を受けてうまくいったから次々に女を希望して孕ませたわけではないということを、二人にはわかってもらいたい」
「それは十分にわかっておりますわ。ラフィアス様は好みの女性だからってすぐに手を出すような方ではありません。それは彼と会って確信しましたもの」
「そうだな。逆を言えば必要があれば躊躇なく誘惑したり、性行為に及ぶというわけだが。私の場合は彼に恩があったし、この王城で生活する為に必要な事だったからね。それに彼を抱いて愛というものを知ったわけだから文句や不満はないよ。…だが彼の子供が全員、一年以内に死んでいるというのは何故かね? 死因はわからないのかい?」
どうやら二人には俺が尻軽男じゃないと理解してくれているようだった。そりゃ確かに親衛隊の連中やレヴィンに俺を抱かせるような事をしたのは事実だけどさ。しょうがないだろ? 暗殺や暴力行為が十八番(おはこ)の俺がそういった事をなしでこの王城で生活しろっていうんだからさ。味方を作って増やすしか方法が浮かばなかったんだよな。魔法とか薬物だといつ効果が切れるかわからなくて怖くて使えなかったし。
金で買収しようにも、それ以上の金額で他の奴に買収されたらって考えるとこれもボツだしな。だからセックスで俺に惚れさせて味方にするのが一番いい方法だったんだよな。
…なんて考えている間に局長が続けて説明してくれている。普段は怖いけど、こういう時はありがたい存在だと思うな。
「死因は不明だ。ラフィアスが妊娠させた女は15人。その15人が出産した子供が全員、一年以内に死亡している。共通しているのは全員、眠るように目を閉じたまま死亡していること。そして生誕から死亡に至るまで、全員が頭が良くて優しく理解力があり、母親を困らせることは滅多にしなかったことが挙げられる。
そしてあまりにも早すぎる死に納得いかない母親もいた。彼女は遺児の遺体をそのまま埋葬せずに、ずっとベッドの上に置いておいたらしい。すると三日ほどで赤子の遺体は黒い炎に包まれて産着を残して焼失してしまったという報告がある。他に二人ほど埋葬するのをためらった母親がいたが、やはり三日ほどで黒い炎に包まれて赤子の遺体は消えてしまったそうだ。産着には焦げ跡一つついていない。私も実物を見せてもらったが、特に何の変哲もない普通の産着だったな」
さすがは調査局の局長。俺が知らないことまで沢山知っていらっしゃる。だけど赤子の遺体が焼失?
しかも黒い炎だって? そんなの俺がしる限り一人、いや一柱しかいないじゃないか。
そんな俺の顔を見て何か知っているのかと思ったのだろう。局長が鋭い目で俺をみる。隠してないで全部話せという時にする表情だ。
「何か知っているようだな、ラフィアス。そこの二人は君の味方なんだから、この際、全て知っていることを話してしまった方がいいぞ?」
ため息をつくと、俺は三人の顔を順繰りに見渡していく。どの顔も深刻だったり、緊迫感に満ちた顔をしている。
「実は俺が生まれつき闇の魔法を使えるのは、闇の女神様の加護があるからなんですよ。詳細はまだ言えませんけどね。突拍子もなくて前例がないようだし。まあ詳しくは言えませんが、闇の女神様は俺以外の強者は望んでいないようですね。でなきゃ俺の血を引く子供が全員、これほど早く死ぬわけない。そりゃそうですよね。俺みたいな存在が世間に溢れたら、暴力に満ちた世界になる。だから女神としては放置できないといった所だと思います。黒い炎なんて、闇属性でない限り出せませんからね」
信じてもらえただろうか? また三人の顔を見るがあからさまな猜疑心を抱いているようには見えない。腹の中ではどうなっているかわからないが。アークリッチから吸収したアビリティのマインドリーディングを使えば、全員が何を考えているのかわかるようになるが、今はとてもそんなアビリティを使う気分になれない。
「なるほど。確かに君の言う通りだな。私が女神の立場ならそうするだろう。だから君の子供は全て一年以内に死亡するということだな?」
「はい。確証はありませんが大体はそうだと思います。だからな、レヴィン。ヴェルゼ。俺は普通に結婚して子供作って、円満家庭を築けるなんてことは不可能なんだよ。さすがに15人も妊娠させて、その子供が全員死亡していたなんてことは、俺も初めて知ったけどさ…せいぜい8人くらいと思っていたけど、15人だったなんて。これ本当に俺の妻になったら不幸路線まっしぐらだよな。ハハハ…」
局長に同意してからレヴィンとヴェルゼに言う。あ、自分で言っておいてなんだけど、思いっきりバッドな気分だわ、今の俺。
「だからな、ヴェルゼ。俺との結婚は不可能だから今の内に、別の男とか探した方がいいと思うんだが――」
「嫌です! 私にはラフィアス様しかおりませんわ! 生まれた子供が一年以内に死ぬ? なら子供なんて産まなければいいだけの話ではありませんか!? 子供がいなくて侯爵家の跡継ぎがいないのなら養子をとればいいだけのことです。実家の両親も今は亡きあの人の実家の者達にも、ラフィアス様とお付き合いすることに誰にも文句は言わせませんわ!
すでに私は周囲の思惑に乗せられて二度も夫を失いましたわ。もう、これ以上振り回されるのは沢山です! 残りの人生、私の好きなようにさせてもらいます。だから私は、あなたの側から絶対に。ええ、神々に祟られるようなことがあっても離れませんわ!」
「私だってヴェルゼ嬢と同じだよ、ラフィアス。君は私の病気を治療してくれた上に、過去のしがらみから解放してくれたじゃないか。その君が誰とも愛せない。平凡で円満な家庭が築けないことに苦しんでいた。なら一生をかけて君を愛することでその苦しみを癒さないといけないじゃないか。これで君と別れて私が別の女性を探すなんて、そんな事はできないよ。すでに君という人がいるんだからね。君が別れたいと言っても私は君から離れない。死ぬまで君を愛し続ける。それが私の決意だよ、ラフィアス」
ヴェルゼが席を立ってまくしたてると、今度は穏やかに席を立って俺への愛を再度宣言するレヴィン。
何だか諦めさせようとするのが、かえって俺への恋心を募らせてしまったというか。これがいわゆる逆効果ってやつなんだろうなー。
しかも二人とも左右から俺にしがみついて、涙目になって愛しているとか離れないとかうるさいし。
いやありがたいんですけどね。でもさ、二人とも貴族なんだから、そこはもうちょっと落ち着いて静かに愛を囁くってのはできないのかな?
局長に救いを求めるようにして正面に座る彼女を見る。すると彼女は小さく吹きだすと、視線をティーカップの影に向ける。それが終わると、次はティーポットの影に。…ああ、なるほど。従魔を使うか、闇魔法使えってことですね。さすがは局長。こんな時も冷静でいらっしゃる。
闇魔法を使って転移は…ムリだな。二人とも俺の体に接触しているし。これだと二人一緒に転移してしまう。
となると…従魔だな。俺と契約しているから声に出さなくても大丈夫だろう、多分。
『おい、レオンフレイム。聞こえるか? 聞こえたら俺だけに聞こえるようにして会話しろ』
目を瞑って頭の中で囁くと、即座に返事が返ってきた。
『もちろん聞こえるぞ、我が主よ。それで我に何を望む? 察する所、主を悩ませているこの連中をどうにかしろということのようだが。 いっそ二人まとめて吹き飛ばした方がいいか? 主が命じればすぐに実行できるぞ?』
『いやそこまでしなくてもいいって! 離れた影の所から現れて、もうちょっと冷静になれって軽く諫める程度でいいから!』
『わかった。主がそう言うのならそうしよう』
そう言うと、離れたベッドの影からレオンフレイムがその上体を上げて、すぐに全身が柔らかな絨毯の上に現れる。相変わらずでかい図体だな。体の大きさは調整できるようだけど、今のこいつって3メートルくらいはあるように見える。
いや、いくらレヴィンの部屋が広いからってなにもこんなでかさで現れなくても。
なんて俺が思っていると、レオンフレイムはのしのしと俺達の方に近寄ってきた。白銀の獅子が近くに来ると威圧感というか圧迫感がすごい。俺に同情して騒いでいたレヴィンとヴェルゼの動きがピタリと止まった。
『貴様らの気持ちはわかるが、もう少し冷静にならんかこの馬鹿者共が。貴族というのは人間や獣人の中でも上位に属する者なのだろう? なのに貴様らがそんなに騒いでどうするのか。見よ、我が主が困惑しているではないか』
「余計なお世話だ! ラフィアスには私が、いや私達がいる。君のような社会に詳しくない戦闘しか取り柄のない獣はひっこんでいたまえ!」
「そうですわ。ダンジョン内や敵の襲撃や見張りにはあなたが最適です。それは認めますわ。
しかし宰相閣下の言う通り、この王都について全く何も知らないあなたに、そんな事は言われたくありません」
カチン、ときたのかレオンフレイムは先程までのなだめるような態度から一変して、刺々しい雰囲気を全身から放出しはじめた。
『やかましいわ、折角の我の忠言をないがしろにしおって! 貴様らのような100年も生きていない小僧や小娘は年長者である我の言う事を素直に聞けばいいのだ! これ以上、我の大切な主を困らせるようであれば、貴様ら二人まとめて部屋の外に放りだしてくれようぞ!』
そう言いながら閃光と共に全裸の獅子の獣人に変身する。うん、それって逆効果だからね、レオンフレイム。
やたらとムキムキした筋肉でできた獣人のボディ。これで服を着ていたら文句なしなんだが、全裸だとなあ…。
実際に局長も、ヴェルゼも、宰相もその表情を見ればわかる。全員一致で「へ、変態だー!」という表情だ。
「いやっ! それ以上近寄らないでくださいな!」
「そうだとも。変身するのは大した能力だと思うが、全裸で下着一つ付けていないのはいかがなものかと思うのだがね? やはり君は所詮は戦うことしか能のないケダモノだということだよ!」
『ふっ…寿命も、力も、そしてこの全身を覆うこの毛並みの美しさも、全てにおいて我に劣る貴様らにはこの我のセクシーボディの魅力はわからないであろうな』
「普段のあなたの姿ならまだ理解できなくはないですが、今の人型のあなたの事などわかりたくありませんわ! というよりもわかってしまったら人間としておしまいという気がしますの! そういうわけであなたには早くラフィアス様の影に戻ってもらいたいものですわね!」
「全くだ。ラフィアスには我々がいる。もう一度言うが、人と獣人の世界のことについて無知な君に、ラフィアスを守りきれることなどできはしない。ここには敵などいないのだから、ヴェルゼ嬢の言う通り影の中にさっさと戻ったらどうかね?」
だんだん空気が険悪なものになってきている。レオンフレイムVSレヴィン&ヴェルゼ連合の言い争いになってしまった。
「どーすりゃいいんだよ、これ…?」
この場をどうにかする為にレオンフレイムに頼んだのに、かえって火に油を注いでしまった。…うん、レオンフレイムって調停役には向いてないわ。別の従魔とかにふさわしいのがいたら、そいつを俺の下僕、もとい部下にしようと、俺は目の前で繰り広げられる言い争いを見ながら、強く決心した。
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後書きです。どんなに強い力があってもラフィアスには子孫を残すことはできません。
つまり彼だけの一世代だけなんですね。だから同僚達が結婚できて幸せな家庭を作ることが
できることを応援しつつ、内心、羨ましいと思っています。その事を知るのはシャルミリア局長と
ごく一部の局員だけですが…。
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さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
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