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第123話 闇の獣人、シャイターン達を教育しようかと悩んで本人達から要望を聞く

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 あれから神々と話し合ってみたんだが、動物の姿に変えて違った人生を生きてみてはどうかという考えもあった。

 だが冥界の神の代理人としてやってきた、灰色のローブを着た双頭のクマの頭部を持ったラルフィアンという死神は、フンと鼻を鳴らしてその考えを一蹴した。

 「そもそもあのような異形の姿になったのは、彼等の前世で犯した悪行が原因だ。だからこそ全員が捨て子として生まれ、邪悪な儀式魔法の実験台になったのだ。何の原因もなく、結果は生まれない。彼等には真実を話して、罪人である事を自覚させて、その罪を償うためにラフィアス殿に協力させるべきだ」

 「いやちょっと待てよ、ラルフィアンさん。その罪を話してやるのはいいけど、嘘だと言って真実を認めようとしないんじゃないか? それが真実で彼等が前世でやっていたことを証明できる方法でもあればいいんだろうけど、そんな方法でもあるのか?」

 ラルフィアンという双頭の熊の死神は、何を言っているんだ? と大きく目を開いて俺を見ている。え? 俺がその方法知ってるの?

 よくわからないので、腕に巻き付いているアナントスに視線を向けると、彼女は俺の耳元にまで伸びあがって小声で教えてくれた。

 「真実の鏡のアビリティじゃよ。あれは冥界の神のアビリティじゃからな。そしてあ奴は真実を司る神でもあるからの。あの鏡に命じれば、今世だけじゃなく、前世の行いも全て映し出すことが可能なのじゃ」

 えぇーっ!? 今世だけじゃなくて前世も映しだすの!? マジで凶悪なアビリティだな! 半端じゃない威力だって。

 で、善は急げで早速こいつらを一人ずつ「真実の鏡」の前に立たせて、前世での行いを見てみたんだが…。

 はっきり言ってロクなもんじゃなかった。虐待されていたからって、仕返しに村に火を放って村ごと火事にして滅ぼしたり、ろくに調べてもいないのに、家族が俺を利用していると親友に騙されて、両親や兄弟を殺した後で親友に役人に密告されて処刑された後で、その金を親友に奪われたりと、騙される方も悪いが、それ以上に酷いことをしていたのがこいつらの前世だった。

 こりゃシャイターンの姿にされてしまってもおかしくないな。悪いけどこいつらには同情の余地なし。

 まさか被害者だと思っていた自分達が、どうしてこんな姿になったのかを鏡に映った映像で思い知らされたのだろう。中にはいくつか見覚えがある情景も映っていたようで、それはこの五人を見れば一目瞭然だった。

 こうしてこいつらの前世を見せて何故、こんな異形にされたのかを徹底的に思い知らせたまではよかったが、そうなったらなったで、今度はこいつら全員が鬱状態になってしまった。

 もともと生きる気力なんてあまりなかったらしい。そりゃこの姿だとな。嫌でも田舎の方で生きないといけないから寂しいだろうし。

 それでこいつら、全員が膝を抱えてこのまま死なせてくれと言うようになってしまった。

 無気力状態を通り越して、今度は自殺願望か…。だがそれだとこの姿になった意味がない。

 生きて償えといっても、ろくな返事が返ってこない。

 もうこうなったら薬で洗脳でもするか? 他にいい方法が浮かばない。第一、薬で麻薬漬けにしても、その麻薬がないと生きていけない状態になったら、本末転倒だ。
 
 大体、麻薬中毒は副作用が強すぎる。

 とりあえず「超・修復」で全員の精神状態を修復しておいたが、それでも時間の問題でまた鬱症状になって、自殺願望とか出る可能性は濃厚だった。

 そこでこうなったら鳥やかわいい犬に変化させてやった。これならペットとして来世はいい飼い主にありつけるだろうと。

 だが元の姿に戻したら、全員から帰ってきた返事は否定的だった。

 曰く、「いい飼い主に巡り合えるとはかぎらない」とか…。

 曰く、「どうせいやな飼い主に引き渡されて虐待される人生に決まっている」とか…。

 曰く、「いい飼い主にあってもモンスターに殺されて、自分も絶望して死ぬ運命に決まっている」とか…。

 
 自分達が前世で行った事で限りなくネガティブになっているらしい。俺がしょっちゅう「超・修復」のアビリティをかけているから、精神自体強くなっているようなんだが、それでも自殺願望を口にしないだけで、積極的に腰を上げようとしないのは相変わらずだった。
 
 そんな否定的な考えは相変わらずだった。ならば食で釣るか? おいしい食べ物とか沢山食わせてやれば、その味に魅了されて積極的になるかもしれない。

 だがそれは止めた方がいい、とアナントスとセレソロインに諭された。

 こいつらの事だから、そのうまい食事がなければ泣いて暴れてわめきだすに違いないと。

 それにその食事を巡って奪い合いになったり、人間達から盗んだり、俺の目を盗んで非合法な方法をとって飯目当てにろくでもないことをしでかす可能性が高いと。

 ならばそうしないように誓約させればいいだろうが、誓約も絶対じゃないからなあ。

 それならやっぱり薬か? だがアンネリーザに念話で聞いたら(幸い、即座に返事が返ってきた。アナントスが俺の婚約者だったのが大きかったらしい)、薬物中毒になるから止めておけ、というものだった。

 今の所、精神的に恍惚とさせる薬は多く出ているが、一時的なものであって、すぐに効果が切れてしまうらしい。

 とくにシャイターンほどの存在となると、生半可な量では気持ちよくなることはないので、大量の薬物が必要になることは間違いないそうだ。

 しかも体が慣れてしまうので、二回目からは更に多くの薬が必要になる。

 そうしてさらに強い効果のある薬を求めるようになって、体が薬に蝕まれていって身も心もボロボロになってしまうのだという。

 いくらシャイターンでも毎回、毎回と強力な薬を打ち続けていれば体に不調を来す。

 特に怖いのが精神上の変化が起きやすくなる。それもマイナスの方向に。

 ま、俺がパーフェクトヒールかアルティメットヒールで治療すれば臓器の再生なんて簡単にできるんだが。

 それでも一時的な効果しか出ないこの麻薬の常用はこいつらの為にはならない。

 後はこいつらの才能を見出してその才能を伸ばすことだが、不幸なことにこいつら5人全員が特に突出した才能をもっているわけじゃなく、器用貧乏というかどの才能も平均的で特に優れた才能は見つからなかった。

 シャイターンになって強い魔力と生命力と長い寿命を得られたから、何か一つくらいは得意分野とか見つかりそうだが、こいつらの場合はそこまでさせる気力自体が湧かないのだから、この方法もボツだな。

 暗示とかをかけようにも、普通の人間ならまだしも、こいつら元・人間とはいえ悪魔化しているから、生半可な暗示なんてまず通用しない。

 そうなったらもう打つ手がない。未だに打ちひしがれている連中を前に、俺は一旦こいつらを石化の魔眼で石に変えて時間稼ぎをすることにした。



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