転生少女は大戦の空を飛ぶ

モラーヌソルニエ

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薄っぺらい戦闘機オタクが大戦の狭間に転生すると起きること

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 私は死んだらしい。
 ごく一般的な飛行機オタクだった私は飛行機とは全く関係ない事故に遭いこの世を去った。
 そして真っ暗な水の中で目が覚めたかと思うと次の瞬間、凄まじい圧力と共に別の土地で生まれ落ちた。

 明らかにヨーロピアンな顔をした新しいお母さんとお父さんに愛情をたっぷり注がれて育った私は2度目の子供時代を謳歌した。
 齢10歳になった頃、いくつか気付いたことがある。一つはここがヨーロッパの中でも特に寒い北欧のスオミという小国だということ、もう一つは今が激動の1930年代ということ。
 割と絶望的。だってうかうかしていたら第二次世界大戦が始まってしまうもの。
 この極寒の北国で家を失ったらそれだけで死ねてしまう。早くも人生2周目終了だ。
 前世ではこの時代の戦闘機が好きでしたがマゾではないので大好きな飛行機に殺されたくはない。
 でも大戦中の戦闘機を生で見れるかもと思うとちょっとだけワクワクしている自分もいる。実に現金な話である。

 さてこの時代、飛行機に触れるハードルは80年後より結構低い。
 民間の飛行機クラブが軽飛行機のパイロットを養成していたりお金持ちは自分で自家用機を持っていたりしている。
 私は金持ちではなかったが後者だった。父が第一次世界大戦のあと、タダ同然の値段で投げ売りされていたスパッドS.XIIIを購入すると私が生まれる前にあった内戦で偵察に襲撃にと飛び回り戦いを終えた後は知人の経営する飛行場に機体を置いて農薬散布や趣味で飛ばしていたのだ。
 よちよち歩きで飛行場に足を踏み入れた幼児期からその姿を見ていた私はたまらない。だってWW1の名機を家族が飛ばしているのだ。そのときの興奮はきっと一生忘れない。内なるオタクの血を抑えられない私は、父に「乗りたい」としつこくおねだりしきちんと勉強しある程度体力が付いたら飛ばせてやると約束を取り付けた。

 やった!転生万歳!パパ愛してる!

 父は一度交わした約束は必ず守ることを知っていた私は士気爆上がりで人生2週目のアドバンテージをフルに活かして知識ブースト状態で猛勉強を繰り返した。
 その甲斐あって中学を卒業する頃には学年1位の成績簿を手に父の元へ向かうことが出来た。体力面もバッチリ、成長期が訪れた私はシルバーブロンドの髪が眩しい健康優良銀髪碧眼少女になっていた。
 はい、そうです。不肖私、生まれた瞬間から息子にサヨナラしていました。ちなみに今の名前は『テューネ・ピーリ』、テューネが名前でピーリが苗字。


 約束の朝、私は母が夜なべして編んでくれた毛糸のマフラーと父のお下がりのウィンターコート、そして私が少ないお小遣いを全額叩いて買ったグローブを身に着け父の友人が営む名もない小さな飛行場に立っていた。
 滑走路には保管用の防水シートが剝がされたスパッドS.XIII複葉戦闘機が私を待っている。

「良いかいテューネ。空に上がったらお前は一人だ。無事に帰るにはどんな時でも冷静さを失わないことだ」
「うん分かってるよパパ。座学でいつも言ってるもの」

整備を終えた父が私に操縦の注意点を伝えます。操縦法を教えているときに決まって言っている文句、「冷静さを失ったものは帰れない」を今日も口酸っぱく言って優しく頭を撫でる父に苦笑しながら私はスパッドのコクピットに座った。

 幾つかコクピットの装備を復習した後、父は機体の前に立ちプロペラを手で押し回す。エンジンに火が灯り凄まじい音と共にプロペラが勢いよく回りはじめる。父は慣れた様子で機体から離れると私にGOサインを出した。
 スロットルを押し込みエンジンの回転数を上げ機体を前進させます。スパッドはぐんぐんと速度を上げやがて滑走路の地面を蹴って飛び上がった。

「やった!」

 操縦桿を引き寄せると機首が上がり地表がみるみる遠ざかっていく。高度を安定させ周りを見た私はその景色に圧倒されました。どこまでも広がるスコッチ・パインの森、点在する万を超える湖沼、向こうに見えるのは海かな。

 私はこの瞬間、恋に落ちた。飛行機という存在に。生前のオタク魂よりも強く深く飛行機に焦がれた。そしてある思いが私を支配した。

「もっと高く、速く飛びたい。自由に飛びたい!」

 私の針路は決まった。この国で一番速く自由に飛ぶパイロットになること。
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