転生少女は大戦の空を飛ぶ

モラーヌソルニエ

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自立という名の家出

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 私はそれから進学し高校と家と飛行場を回る日々を過ごした。ちゃんとした立派なパイロットになる為には平均以上の学力と体力、何より経験が必要だ。
 いくら前世で既に習った分野もあるとはいえそれは授業をサボってもいい言い訳にはならない。重ねて言うがパイロットは並み以上の頭脳と身体が大事なのだ。
 学校で飛行機を飛ばすのに必要な数学や物理を学びクラブ活動で体力をつけて休日になれば父と一緒に空を飛ぶ毎日。
 目まぐるしく流れる日常についていけるように健康にも気を配り早寝早起き朝ごはんを徹底することにした。
 実に喜ばしいことに私の血の滲むような努力は実を結びトップレベルとまではいかないものの平均以上の学力と体力を身に着けることが出来、暇を見つけては飛んだおかげで飛行技術もちょっとしたアクロバットくらいならお手の物になった。

 だが同時に父との関係がギクシャクし始めていた。私の進路について思うところがあるようだった。
 私としては高校を卒業したら民間航空会社か空軍に入るつもりだったのだが、この時代まだまだ航空機の信頼性には疑問符が残っていることを良く知っていた父はそれを許さず顔を合わせれば口論をすることが増えていった。

 親の心子知らずというべきか、もうスパッドでは満足できずにより速く身軽な飛行機に乗りたくて仕方がなかった私は父の諫言が疎ましく遂には志願下限年齢の17歳になった瞬間、親に黙って空軍に願書を出してしまうに至った。
 しかし仮にも国の機関に対する手続きが内緒で済むわけもなく空軍からの採用通知が自宅に届いてしまいそれを見た母は卒倒し父は倒れた母を介抱しながら激怒した。

「なぜ黙ってこんなことをしたんだ!」
「だってパパに言ったら絶対に許してくれないもん!あたしの人生はあたしが決めるわ。それで怪我をしても本望よ!」
「なんてことを言うんだ!」

 これまで娘に手を上げることはなかった父だったがこの時ばかりは激情を抑えきれず私の頬を平手打ちした。
 張られた右頬がジンジンと熱くなり涙ぐむと同時に頭に血が上った。

「もういい、パパなんてもう知らない!」

 そう叫ぶと私は身分証と最低限の荷物を持って家を飛び出した。浅はかにもこの時の私はこれで上手くいくと思っていた。一目散に軍の事務所まで行き入隊手続きを終わらせるとそのまま軍の宿舎に入営を済ませてしまった。
 後悔がないわけではない。これからしばらく経てば第二次世界大戦が勃発するのに第一線に飛び込む空軍に入るなんて自殺志願者にも等しい。
 しかしそれでもこの時代の最前線で活躍する軍用機に乗れるかもしれないという魔性の誘惑には勝てなかった。
 それに私は戦史に詳しいわけではないが、こんな何も無い田舎の小国にわざわざ攻め込んでくる物好きな国はいないだろうという打算もあった。

 こうして私の軍隊生活は幕を開けた。適正試験の結果、熱意が伝わったのか要望通り戦闘機パイロットの候補生になることができた私は、最初は海の向こうの連合王国製のブリストル ブルドッグ複葉戦闘機で飛行訓練に明け暮れた。この機体は非常に素直で複葉機であることからスパッドとも操縦特性が似ており難なく乗りこなすことができた。
 上昇、降下、旋回、そして射撃と戦闘機乗りとしての基礎的技術をスオミの寒空の下で伸ばしていった。

 1939年、秋

 高度1000メートル。雲量は少なめ。晴天。
 この日もブリストル ブルドッグ戦闘機の開放型コクピットの中で寒さにぶるぶる震えながら私はいるはずの標的を探して周りに目を凝らしていた。

「いた!」

 向かって右、100メートルほど下方に長い吹き流しをたなびかせた標的曳航機が見えた。緩く旋回しながら降下し標的曳航機に横から交差する位置に着く。

「いただきよっと」

 操縦桿の発射ボタンを押せば機首のエンジンカウリング内に据え付けられていた2丁の7.7ミリ機銃が火を噴き標的曳航機が引いている吹き流しに無数の穴が開く。
 感覚的には全弾命中。猛訓練の成果かそこまで接近していなかったのに脅威の命中精度を叩き出していた。
 標的曳航機の横に機体を滑らせコクピットに座っている教官にサムズアップしてエルロンロールしながら離脱する。
 気流に煽られた教官が慌てて機体を安定させるのを見て少しふざけすぎたかとも思ったが命中数の新記録の気配に高ぶる気持ちを抑えられなかった。

 数十分後、私は格納庫の一角に座らされていた。見上げると目じりを釣り上げた教官が腰に手を当て大きく息を吐いている。

「不必要な異常接近と周囲を危険に晒す曲芸飛行、何か申し開きはあるか?」
「ありません…」

 肩を落とし答える私に教官は言い渡した。

「格納庫掃除、1週間。それが済むまで飛行禁止だ」
「そんな殺生な!ちょっと遊んだだけじゃないですか!」
「バカモンが、貴重な機体を壊すかもしれなかったし、下手すればお前も俺も死んでいたかもしれなかったんだぞ」
「うぅ。で、でも…」
「反論は認めん。さあ行け」

 その後しばらくの間、意気消沈しながら格納庫をモップ掛けする私の姿が名物になった。
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