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01.王子のお妃選び
王宮のお庭でズラリと並ぶは着飾った妙齢の娘達。
ここは今王国の王子のお妃選びの真っ最中だった。
「それにしてもおかしな話ね、王子妃を竜が選ぶだなんて」
前に並ぶ淡い黄色のドレスを着た子が、一緒に来たらしい友達に囁く。
「そうね」
とその子も頷いた。
長い行列の先には巨大な竜がいた。
その竜が、王子の妻を選ぶというのだ。
この国は竜に守られた竜の国。
王国の初代の王は、竜騎士エステル。
王国はその王からずっと竜を駆る竜騎士達に守られてきた。
この度お妃を選ぶ王子様も国一番という竜騎士だった。
竜というのは、大層繊細で気高い生き物で、気に入った人間しか側に寄せ付けないそうだ。
そして匂いにもとても敏感で、当然竜騎士の一番側に居る妻の匂いにも気を高ぶらせるのだという。
王子様は今二十六歳。
竜が気に入る娘がおらず長く独身だったが、兄である王様には二人の女の子しかいない。
そこで一大お妃様選びが始まった。
国中の貴族の娘が集められて、私、エルシー・ヴィリアーズもその一人。
子爵の四女、十六歳。
ここにいる女の子達は皆、期待に胸を弾ませている。
本当なら王子様は伯爵以上の高貴なご身分の姫君ととっくに結婚しているはず。
こんなことがないと王子様のお嫁さん選びに関わるような身分じゃないし、この王都に住んでいても、王宮に来る機会なんてない。
かくいう私もその一人……というほどうぬぼれてはいない。
というか、うぬぼれるところがない。
顔立ちは平凡だし、スタイルも良くない。頭もあんまり良くないし、これという特技も趣味もない。
フツーフツーフツーの貴族の娘が私。
家も普通。
子爵と特別に位は低くはなく、それなりの歴史もあり、さりとて名家ではなく、生活に困窮しているわけでもないが、金持ちでもない。
四女だから特に誰にも期待されてないけど、その分自由だし、家族も溺愛はされてないけど、仲は悪くない。
我ながらとっても普通なのだ。
いつか王子様が……と思う要素はない。
大体私は楽して生きたい。
王子様と結婚なんてないないづくしの私には荷が重い。
ここに来たのは強制全員参加なのと、王宮なんて滅多にこられないから来たとそれだけ。
まあ、選ばれるわけないんですけどね。
そうこうしているうちに竜が近づいてきた。
娘達の列は長く随分先かと覚悟していたが、思ったより早く順番が来そうだ。
私は内心ホクホクしていた。
この竜にお目通りの更に先にはガーデンパーティーが用意されている。
王宮、お菓子美味しいらしいよ!
グオオオッ。
前方からものすごい咆吼が聞こえてくる。
竜は気が立っている様子で、ずっとこんな感じだ。
どの女の子も竜を前にすると近寄りもせず足早に去って行く。
そりゃそうだろう、この国は竜の国と呼ばれていたが、普通に暮らしていれば竜を間近で見る機会なんてないのだ。
騎乗出来る竜はこの王国でも三〇に満たないそうだ。
せいぜい、遠くで飛んでいく姿を見るくらい。大きな翼を羽ばたかせ天空を舞う姿はそれはそれは勇壮だ。
一回くらいは近くで見たいと思ったけど、怒っている竜はちょっと怖い。
「でも綺麗……」
私は思わず呟いた。
竜は人間を背中に乗せられる程巨大な大型竜、グレイトドラゴンだ。
その竜は、目は金色で青緑のうろこをしていた。
いよいよ私の番が来る。
私が竜の前に立つと、竜は吠えるのをピタリと止めた。
そして、首を伸ばして近づいて来ようとする。
「えっ……」
大きな姿に怯んだが、やっぱり珍しいし、よく見るとなんか可愛いし。
私は竜の側に立つ騎士らしい人に聞いた。
「触っても良いですかね」
「…………」
その人は答えなかったが、その人の側に居たやっぱり騎士らしい人が大声で私に言った。
「どうぞ、お近づき下さい」
うひー。
触れるのか。
お許しが出たので私は竜に近づく。
竜は、顔を私に近づける。私は竜の鼻におそるおそる触れた。
「あっ……」
「どうですか?」
さっきの騎士が側まで来て私に聞く。
「可愛いです。名前はなんて言うんですか」
「ゲルボルグだ」
答えたのは別の人だった。
印象的な美しい声色に私は思わず振り返った。
そこにいたのは青い髪をしたハッとするほど美貌の男性だった。
騎士らしく長身で鍛え上げられている体躯。
『王宮騎士って格好いいなー、この人竜騎士かなー』
「ゲルボルグですかー。名前格好いいですね」
あー、ええもん触った。美形とも話しちゃったし。
帰ったら弟に自慢しよう。
姉ちゃん、竜、触っちゃったよ。
「じゃあ、失礼しまーす」
ニコニコで立ち去ろうとする私にその男はその瞬間、ものすごい勢いで駆け寄り、羽交い締めした。
「ようやく見つけた」
「は?」
ここは今王国の王子のお妃選びの真っ最中だった。
「それにしてもおかしな話ね、王子妃を竜が選ぶだなんて」
前に並ぶ淡い黄色のドレスを着た子が、一緒に来たらしい友達に囁く。
「そうね」
とその子も頷いた。
長い行列の先には巨大な竜がいた。
その竜が、王子の妻を選ぶというのだ。
この国は竜に守られた竜の国。
王国の初代の王は、竜騎士エステル。
王国はその王からずっと竜を駆る竜騎士達に守られてきた。
この度お妃を選ぶ王子様も国一番という竜騎士だった。
竜というのは、大層繊細で気高い生き物で、気に入った人間しか側に寄せ付けないそうだ。
そして匂いにもとても敏感で、当然竜騎士の一番側に居る妻の匂いにも気を高ぶらせるのだという。
王子様は今二十六歳。
竜が気に入る娘がおらず長く独身だったが、兄である王様には二人の女の子しかいない。
そこで一大お妃様選びが始まった。
国中の貴族の娘が集められて、私、エルシー・ヴィリアーズもその一人。
子爵の四女、十六歳。
ここにいる女の子達は皆、期待に胸を弾ませている。
本当なら王子様は伯爵以上の高貴なご身分の姫君ととっくに結婚しているはず。
こんなことがないと王子様のお嫁さん選びに関わるような身分じゃないし、この王都に住んでいても、王宮に来る機会なんてない。
かくいう私もその一人……というほどうぬぼれてはいない。
というか、うぬぼれるところがない。
顔立ちは平凡だし、スタイルも良くない。頭もあんまり良くないし、これという特技も趣味もない。
フツーフツーフツーの貴族の娘が私。
家も普通。
子爵と特別に位は低くはなく、それなりの歴史もあり、さりとて名家ではなく、生活に困窮しているわけでもないが、金持ちでもない。
四女だから特に誰にも期待されてないけど、その分自由だし、家族も溺愛はされてないけど、仲は悪くない。
我ながらとっても普通なのだ。
いつか王子様が……と思う要素はない。
大体私は楽して生きたい。
王子様と結婚なんてないないづくしの私には荷が重い。
ここに来たのは強制全員参加なのと、王宮なんて滅多にこられないから来たとそれだけ。
まあ、選ばれるわけないんですけどね。
そうこうしているうちに竜が近づいてきた。
娘達の列は長く随分先かと覚悟していたが、思ったより早く順番が来そうだ。
私は内心ホクホクしていた。
この竜にお目通りの更に先にはガーデンパーティーが用意されている。
王宮、お菓子美味しいらしいよ!
グオオオッ。
前方からものすごい咆吼が聞こえてくる。
竜は気が立っている様子で、ずっとこんな感じだ。
どの女の子も竜を前にすると近寄りもせず足早に去って行く。
そりゃそうだろう、この国は竜の国と呼ばれていたが、普通に暮らしていれば竜を間近で見る機会なんてないのだ。
騎乗出来る竜はこの王国でも三〇に満たないそうだ。
せいぜい、遠くで飛んでいく姿を見るくらい。大きな翼を羽ばたかせ天空を舞う姿はそれはそれは勇壮だ。
一回くらいは近くで見たいと思ったけど、怒っている竜はちょっと怖い。
「でも綺麗……」
私は思わず呟いた。
竜は人間を背中に乗せられる程巨大な大型竜、グレイトドラゴンだ。
その竜は、目は金色で青緑のうろこをしていた。
いよいよ私の番が来る。
私が竜の前に立つと、竜は吠えるのをピタリと止めた。
そして、首を伸ばして近づいて来ようとする。
「えっ……」
大きな姿に怯んだが、やっぱり珍しいし、よく見るとなんか可愛いし。
私は竜の側に立つ騎士らしい人に聞いた。
「触っても良いですかね」
「…………」
その人は答えなかったが、その人の側に居たやっぱり騎士らしい人が大声で私に言った。
「どうぞ、お近づき下さい」
うひー。
触れるのか。
お許しが出たので私は竜に近づく。
竜は、顔を私に近づける。私は竜の鼻におそるおそる触れた。
「あっ……」
「どうですか?」
さっきの騎士が側まで来て私に聞く。
「可愛いです。名前はなんて言うんですか」
「ゲルボルグだ」
答えたのは別の人だった。
印象的な美しい声色に私は思わず振り返った。
そこにいたのは青い髪をしたハッとするほど美貌の男性だった。
騎士らしく長身で鍛え上げられている体躯。
『王宮騎士って格好いいなー、この人竜騎士かなー』
「ゲルボルグですかー。名前格好いいですね」
あー、ええもん触った。美形とも話しちゃったし。
帰ったら弟に自慢しよう。
姉ちゃん、竜、触っちゃったよ。
「じゃあ、失礼しまーす」
ニコニコで立ち去ろうとする私にその男はその瞬間、ものすごい勢いで駆け寄り、羽交い締めした。
「ようやく見つけた」
「は?」
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