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29.マナーレッスン
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ひらひらのドレス。肩までのつやっつやの髪の毛。ちょっとお化粧は派手かなと思うけど、綺麗な顔。
しかし、間違いない。
絶対男の人だ。
180センチメートルの背丈に、声も男の人のように低く太い。
「初めまして、エルシー様。ワタシ、ジェローム・アビントン。ジェロームって呼んで。こう見えても竜騎士なの」
その人はドレスの裾を持ちあげ、再度礼をして来た。
思わず見惚れてしまうような美しい仕草だった。
「あの、エルシーです。どうぞよろしくお願いします」
私もドレスの裾を持ち上げ、礼する。
上手く出来ただろうか?
ジェローム様は艶然と微笑んだ。
「オカマ、初めて見た?」
「あっ、はい。すみません、初めてです。じろじろ見てすみません」
「謝らなくて良いわよ。ワタシ、エルシー様には感謝してるの。王子に妃殿下来て、ようやくこっちに帰ってこれたんだから」
「えっ?」
「こんなナリでしょう?王子が万一欲情したら困るって地方に回されていたの」
「はあ、大変でしたね」
「それに王子に迫られたら、断る自信ないもん」
「美形ですからね、王子」
ジェローム様は目をキラキラさせながら、私の手を取る。
「そうよね。がたいは良いし顔も良いし、一回くらいわねぇ、してみたいわ。十代の頃は王子、本当美少年で可愛かったのよぉ」
はーっとジェローム様は熱いため息を吐いた。
「……という邪心を見抜かれて、地方に行かされたの。だから帰ってこられたのはエルシー様のおかげ」
「そうだったんですか、お疲れ様です」
オネエ様の他に年下で可愛い感じの小姓も王子のお側付きから排除されたらしい。
そういえば離宮で見かける侍従の方はほぼ中年以上の男性。後は騎士様しかいない。
確かに王子が男性にクラッと来たらこの国は終わりだが、それにしても不憫だな、王子。
ジェローム様は王子より三つ年上らしい。つまり、二十九歳。
「全然そうは見えません!お綺麗です!」
「おほほっ、エルシー様、超良い子ね。気に入ったわ」
「それで、男だとエルシー様のお側付きはちょっと問題あるでしょう。そこでオネエのワタシが、エルシー様の付添人するってわけ」
付添人というのは話し相手や教育係を務める同性の女性のことだ。先生というよりは、雇われた友達の様な人で、家の中だけではなく、観劇や外出も付き合って貰う。
他に女性の姉妹がいない貴族の令嬢のため雇われるが、四人姉妹の私達はそういう人は必要なかったので我が家ではいない。
「ですが、私の付添人にわざわざ竜騎士様が?」
「付添人はずっとエルシー様の側にいるわけじゃない?だけど女性の付添人だとゲルボルグが嫌がるかも知れないでしょう。その点、私は一応性別は男だし、竜騎士だし、あとぶっちゃけちゃうけど、エルシー様、子爵子女でしょう。それでぐだぐだ言う奴がまだいるの。だから箔付けのため、めんどいでしょうけど、ちょっと我慢してね」
「いえ、こちらこそ、ご面倒をおかけ致します」
「ううん。そんなことない。ワタシらも王子のこと心配だったの。だからお嫁さん出来て本当に嬉しいのよ。だから守らせてね」
「で、ワタシもエルシー様の教育係の一人なの。ワタシの担当はマナーの半分と周辺国の歴史、ついでに竜のこと、今から竜、見に行きましょう」
マナーの半分?
いや、それより。
「竜見れるんですか?」
「ええ、もちろんよ。エルシー様、妃殿下なんだから王子のお仕事知ってね」
うわーい。楽しみになってきた。
***
竜舎は離宮からほんの数分の距離にあった。
でっかい馬小屋のような建物だ。
ただ、高さは段違いに高い。
「ここに竜が?」
「ええ。今は十六頭住んでいるわ。竜は縄張りを持つ習性があってね、定期的に縄張りを見回りをするの。そして彼らはどんなに遠くても自分の縄張りが荒らされると分かるのよ。例えば自分の縄張りの中に大量の見知らぬ匂いのする人間が入り込んできたり、山火事があるなんてこともすぐ気付くの」
「へぇ、賢いんですね」
「王子が急に出て行ってびっくりしただろうけど、ゲルボルグが見回りをしたがったからなの。悪いけど、しょうがないと思って」
なんだ。
でも、そうならそうって言ってくれたら良かったのに。
「どこまで行ったんですが、王子?」
「西に向かったけど、長ければ帰ってくるのに四日はかかるんじゃないかしら。国の端だから」
「ゲルボルグの縄張りってそんなに広いんですね」
「ええ、国全土だから」
広い。なんたる広さ。
「竜がいるからうちの国、国防費安いの」
「……ですね」
しかし、間違いない。
絶対男の人だ。
180センチメートルの背丈に、声も男の人のように低く太い。
「初めまして、エルシー様。ワタシ、ジェローム・アビントン。ジェロームって呼んで。こう見えても竜騎士なの」
その人はドレスの裾を持ちあげ、再度礼をして来た。
思わず見惚れてしまうような美しい仕草だった。
「あの、エルシーです。どうぞよろしくお願いします」
私もドレスの裾を持ち上げ、礼する。
上手く出来ただろうか?
ジェローム様は艶然と微笑んだ。
「オカマ、初めて見た?」
「あっ、はい。すみません、初めてです。じろじろ見てすみません」
「謝らなくて良いわよ。ワタシ、エルシー様には感謝してるの。王子に妃殿下来て、ようやくこっちに帰ってこれたんだから」
「えっ?」
「こんなナリでしょう?王子が万一欲情したら困るって地方に回されていたの」
「はあ、大変でしたね」
「それに王子に迫られたら、断る自信ないもん」
「美形ですからね、王子」
ジェローム様は目をキラキラさせながら、私の手を取る。
「そうよね。がたいは良いし顔も良いし、一回くらいわねぇ、してみたいわ。十代の頃は王子、本当美少年で可愛かったのよぉ」
はーっとジェローム様は熱いため息を吐いた。
「……という邪心を見抜かれて、地方に行かされたの。だから帰ってこられたのはエルシー様のおかげ」
「そうだったんですか、お疲れ様です」
オネエ様の他に年下で可愛い感じの小姓も王子のお側付きから排除されたらしい。
そういえば離宮で見かける侍従の方はほぼ中年以上の男性。後は騎士様しかいない。
確かに王子が男性にクラッと来たらこの国は終わりだが、それにしても不憫だな、王子。
ジェローム様は王子より三つ年上らしい。つまり、二十九歳。
「全然そうは見えません!お綺麗です!」
「おほほっ、エルシー様、超良い子ね。気に入ったわ」
「それで、男だとエルシー様のお側付きはちょっと問題あるでしょう。そこでオネエのワタシが、エルシー様の付添人するってわけ」
付添人というのは話し相手や教育係を務める同性の女性のことだ。先生というよりは、雇われた友達の様な人で、家の中だけではなく、観劇や外出も付き合って貰う。
他に女性の姉妹がいない貴族の令嬢のため雇われるが、四人姉妹の私達はそういう人は必要なかったので我が家ではいない。
「ですが、私の付添人にわざわざ竜騎士様が?」
「付添人はずっとエルシー様の側にいるわけじゃない?だけど女性の付添人だとゲルボルグが嫌がるかも知れないでしょう。その点、私は一応性別は男だし、竜騎士だし、あとぶっちゃけちゃうけど、エルシー様、子爵子女でしょう。それでぐだぐだ言う奴がまだいるの。だから箔付けのため、めんどいでしょうけど、ちょっと我慢してね」
「いえ、こちらこそ、ご面倒をおかけ致します」
「ううん。そんなことない。ワタシらも王子のこと心配だったの。だからお嫁さん出来て本当に嬉しいのよ。だから守らせてね」
「で、ワタシもエルシー様の教育係の一人なの。ワタシの担当はマナーの半分と周辺国の歴史、ついでに竜のこと、今から竜、見に行きましょう」
マナーの半分?
いや、それより。
「竜見れるんですか?」
「ええ、もちろんよ。エルシー様、妃殿下なんだから王子のお仕事知ってね」
うわーい。楽しみになってきた。
***
竜舎は離宮からほんの数分の距離にあった。
でっかい馬小屋のような建物だ。
ただ、高さは段違いに高い。
「ここに竜が?」
「ええ。今は十六頭住んでいるわ。竜は縄張りを持つ習性があってね、定期的に縄張りを見回りをするの。そして彼らはどんなに遠くても自分の縄張りが荒らされると分かるのよ。例えば自分の縄張りの中に大量の見知らぬ匂いのする人間が入り込んできたり、山火事があるなんてこともすぐ気付くの」
「へぇ、賢いんですね」
「王子が急に出て行ってびっくりしただろうけど、ゲルボルグが見回りをしたがったからなの。悪いけど、しょうがないと思って」
なんだ。
でも、そうならそうって言ってくれたら良かったのに。
「どこまで行ったんですが、王子?」
「西に向かったけど、長ければ帰ってくるのに四日はかかるんじゃないかしら。国の端だから」
「ゲルボルグの縄張りってそんなに広いんですね」
「ええ、国全土だから」
広い。なんたる広さ。
「竜がいるからうちの国、国防費安いの」
「……ですね」
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