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番外編

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「っん、ン! っぁ、ふ……っ」

 根元から絡め取られ、じゅっと強く吸い付かれる。
 快感に腰が震えると、吸い付いてくる力が微かに弱まった。

「んっ、ぁ……?」

 なんだ……?
 伏せかけていた目を開いて、目の前の顔を見る。
 見つめてきていた視線とぶつかり、ほっと柔らかに綻ぶ始終を眺めることになった。

 おれに嫌がられてないかを気にしていたらしい。
 相変わらず鈍いやつ。
 嫌なら最初から跳ね除けてるっての。

「ん……」

 触れている指で頬の輪郭をなぞってやる。
 腰へ腕が巻き付いてきて、そっと撫で上げられた。

「っは……」
 ぞくりと腰が疼き、細く呻く声が溢れる。

「あさひ……」
 何度も舌に淡く吸い付きながら、晃が喜びと懸念が入り混じった声でおれを呼んだ。

 拒まれなくて嬉しいけど、さっき不満にしてたことが何なのかも気になるって声だ。
 おれの指の動きを辿るように、頬に触れてそっと輪郭をなぞってくる。

 機嫌を取ろうってわけじゃねえな、それ。
 ただ話してくれる気になったかと、こっちの気分を測ってるだけだ。
 そういう気遣いはできるくせに。

「鈍い」
 声に出して詰ると、晃がしょんぼりと眉を垂らした。

「だって……旭陽以外に触れてなんか、……」

 血が流れる指を見下ろしながら、男が首を傾げようとする。
 その途中で、ふと動きを止めた。
 やっと思い至ったのか。遅えよ。

「…………旭陽? あれは、別に触れたとかじゃ……!」
「知ってる」

 さっと顔色を悪くした男に、肩を竦めてみせる。
 たまたま一瞬おれから離れてた時に目の前で倒れかけたやつを、反射的に受け止めてやっただけだろ。
 その程度、見誤ったりしねえ。

 見間違いや早とちりを起こすほど鈍間じゃねえよ、おれは。
 今だって、不味い場面を見られたなんて焦りじゃなく、余所見をしたとおれに僅かでも勘違いされる可能性に焦ってるってことくらいは見りゃ分かる。

 有り得ない勘違いを起こしゃしねえし、そんな光景が仮に広がってたらその場で相手を消して晃は部屋に繋いでやってる。
 そうじゃねえんだよなァ。

「……嫌だったか?」
「好い気分ではねえな」
「ごめん……」

 僅かに視線を彷徨わせた後、真っ直ぐに視線を向けてくる。
 眉を上げてみせると、血が流れる指でまた頬を撫でられた。

 すぐに顔を寄せて、今自分で撫でたばかりの場所を舌でなぞってくる。
 赤を拭った舌が頬を舐め下ろし、おれの唇の表面も辿った。

 口を開いてやると、熱い舌が滑り込んでくる。
 歯を押し当てれば微かに丁子染が揺れ、一瞬動きを止めた。

 すぐにぬるりと口腔をなぞり、奥へーーおれの歯に挟まれる位置へと、舌を伸ばしてくる。
 噛まれるって分かってて差し出してきてんな、これ。

「ッぐ、!」

 長い舌に思いきり犬歯を食い込ませた。
 苦痛の呻き声が上がり、ひくりと舌が跳ねたのを感じる。

 眉が寄るのを眺めていれば、また視線がぶつかった。
 頬から項に指が滑っていき、皮膚をゆっくりと撫でられる。

「……あきらぁ」
「ッン゛……、ん、っ?」

 顎から力を抜き、歯を触れさせたまま傷口を舌でなぞる。
 痛みに顔を歪めながら、男が微かに首を傾げた。

 なに、と仕草で尋ねてくる。
 すぐには続けず、おれが傷付けた場所を舌先で抉って溢れる甘い血を飲み込んでいく。

「っ、ぅ……」

 痛みに息を詰めながら、晃が何度も短く息を吐いた。
 痛がっているが、嫌がってはいねえ。昔からだったが、今は以前にも増しておれにされるなら何でも喜ぶ男だ。
 まあおれも、晃が嬉しそうなら大体はどうでも良くなるんだが。対象がおれなら、だ。
「おれが見てねえ場所で、他のモンに触れて良いと思ったのかよ」
 果物の甘さが纏わりつく舌に、晃自身の血を塗り込みながら囁く。
 一瞬何の話かと丸まった瞳が、すぐに理解の色に染まった。
 まだ疑問は抜けてねえみてえだが。

「っ……さ、きに、味見……ッん」
 味見すべきじゃないのか、と尋ねかけた声を、舌先に吸い付くことで遮った。
 晃に他意がねえのは知ってる。晃に果物を貢いだ民に下心がねえのも分かってる。
 助けられた礼で差し出し、おれと食べようと思って受け取った。それだけだろ。
 だがなァ。他のやつから受け取ったもんを、おれの前にくるより先に口に入れるのは気に食わねえんだわ。
 おれの好みがどうか、先に確認したかったんだろうが。心がけは悪くねえが、そのくらい一目で見抜けるようになれ。
 おまえはおれのだろうが。まあ世の大半はおれのもんだし、おれのもん同士が触れ合ってたところでどうも感じねえがーーおまえは、別だろ。

「ばあか」
「ッ」
 唇に噛み付いてやれば、ひくりと震えたのが伝わってくる。
 何度も柔く歯を立てながら、晃の上衣に手を入れて赤い果実を取り出す。
 男の服に表面を擦り付けてやれば、視線が手の動きを追いかけてきた。
 この世界は、植物自体が魔力を持っている。魔力を帯びている果物や野菜は、自分が必要としない汚れは全て弾く。
 食物も、植物の繊維で縫われた衣服も共に汚れはしねえ。拭ったのは汚れを落とす為じゃなく、晃を煽ってやる為だけだ。

「旭陽…………」
 晃の纏う布で表面を拭った果物に、唇を触れさせてゆっくりと歯を突き立てる。
 赤い皮を食い破り、瑞々しい果実を歯で千切り取る。
 蜜が溢れ出し、指を伝い落ちた。
 舌で手首から指までをなぞり上げれば、眼下の喉がひくりと震えた。
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