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番外編

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「……旭陽」
 食い入るように見つめてくる男に笑って、自分の唇も舌で拭う。

 手が伸びてきたのを、逆に手首を捉えて引き寄せた。
 指先に唇を押し当てれば、肩から腕が揺れたのが伝わってくる。

「どう思う」
「……な、にが?」

 じっと口元を凝視している男に声を掛ける。
 視線を動かさないまま、晃が遅れて反応を返してきた。
 分かりやすいなァ、おまえは。

「おまえ以外の懐から取って同じことしてたら、どう思う?」

 この問い自体にまず怒るだろうが。
 反応を思い浮かべながら尋ねれば、即座に飴色の眉が跳ね上がった。

「っ」
 大人しく掴まれていた手首を捻り、おれの手中から抜け出して腕を掴んでくる。

 無意識であろう力が、ギリギリと締め上げてきた。
 人間だと下手すりゃ骨イくんじゃねえのか、これ。

「……旭陽」

 瞳が縦に広がり、重い眼差しで貫いてくる。
 はっ。分かっちゃいたが、仮定だけで反射的にキレんだから随分と我儘になった。

 まあこれで怒らなきゃ、おれがキレてただろうが。
 どんどんおれ好みになってくんだからよォ、晃は。

「気分好くねえ理由、理解したかよ」
「……え? あ、ご、……ごめ、ん」

 ふっと締め付けてくる力が緩む。自分が込めていた力に気付いたらしい。
 まあもっと強え力で押さえ付けてきてる時も多いがな。
 理性ぶっ飛んでる晃は悪くねえし、それは別に今のままで良い。

 多少赤くなった肌を撫でて、晃がしょんぼりと眉を垂らした。
 微かに視線を彷徨わせながら、丁子染が緩々と歪んでいく。

 チリ、と空気の焦げる音が僅かに響いた。
 架空の想像だけでそこまで妬くんだからなァ、おまえは。かあわい。

「晃」
「……なんだ」

 顎先を掬い上げてやると、歪んだままの瞳がおれを見上げた。
 想像に対する苛立ちと、おれにそんな不快感を与えてしまったという狼狽が双眸に宿っている。

「……旭陽。どうすれば、気分が良い?」

 贖えるとは思わないけど、せめて。そう言いたげな目で、晃が真剣な声音を発した。
 唇におれが齧った部分が欠けている果実を押し付ければ、深刻げな眼差しをしていた瞳が丸くなった。

「あ、旭陽?」

 不思議がる声を無視して、空いた手で喉を擽ってやる。
 少しの沈黙を挟んで、晃がそっと唇を開いた。
 瑞々しい音を立て、おれが齧った跡を晃が更に噛み取る。

「で? どうすんだ」

 口の前から果実をズラして笑いかけてやる。
 考えを巡らせるだけの間は置かず、即座に腕が伸びてきた。

「っん……」

 項を白い掌で包み込み、強引ではないが有無を言わさない力で引き寄せてくる。
 引かれるままに顔を下げると、噛み付くように口を塞がれた。

 拒まずに唇を開けば、甘い血を纏った舌が押し入ってくる。
 舌と一緒に果実の欠片が押し込まれ、諸共に絡め取られた。

「ン……ッ、ふ、っぅ、んっァ……ッ」
「あさひ……」
 
 舌の根元から先端まで巻き付かれて、ずりずりと強く擦り合わされる。
 晃の味を念入りに擦り込まれる動きに、腰が浮いて小刻みに震えが走った。

 好き勝手に動く舌に挟まれた果実が何度も転がり、舌腹に慣れねえ硬い刺激を与えてくる。
 甘え……
 晃の甘さ以外に感じるもんはねえが、晃の味と交わりゃ話は別だ。
 震えが大きくなっていく腰を抱き寄せられ、膨らんでいる場所を押し付けられる。

「っぁ、ふ、ッン……ッぁ、んん……っ」

 下肢が浮かびそうになる度、腰を優しく撫でられては晃の上に引き下ろされる。
 甘ったるい晃の味に、おれと果実の味も混じっていく。

 この国の果物は、大半が熱に弱く溶けやすい。
 何度も互いの舌を擦り合わせていると、熱い咥内で果肉が解けていくのが伝わってきた。

 大抵は膝が砕けたおれが甘い唾液を飲み込まされるが、今は仰向けの晃におれが跨っている。
 口端から溢れ出した二人分の唾液は、白い頬を伝って晃の輪郭を滑り落ちていった。

「あさひ……」

 とろりとした瞳が、食らい付きたいと欲情を露わに見据えてくる。
 甘ったるい目ぇしやがって。食ってやりたくなるなァ、それ。
 すぐに唇へ噛み付いてやりたい気分になるが、人気を感じて動きを止めた。

「旭陽?」

 顔を寄せ掛けて止まったおれに、晃が不思議そうな声を発する。
 唇を歪めてやれば、今度は何事だと眉をひくつかせるのが見えた。

「起きろ、晃」
「ん?」

 それでも、襟元に指に引っ掛けてやれば素直に上半身を起こす。

 押し倒してきたのはそっちだろ、なんて言い返してくることもねえ。
 言い返してくりゃ揶揄ってやろうと思ったんだが。

「ん」

 大きめに噛み切って顔を寄せれば、目を細めて唇を開いてくる。
 口を塞げばすぐに晃から舌を伸ばしてきて、また根元から絡め取ってきた。

「ッふ、ぅ、んぁ……っ」
「……っは……」

 背凭れに背中を預ける姿勢になった男の膝に乗り上げ、のしかかるような状態で深い口吻けを交わす。
 触れ合った場所から上擦った吐息が伝わってきて、ぞくぞくと背筋が粟立った。

「っん……?」
「ンッ、ぁ、ん……っ」

 ふと晃が瞼を持ち上げ、入り口に視線を向けたのを感じる。
 ああ、やっと部屋へ近付いてきてる足音に気付いたのか。

 離れようとした顔を捉え、項を包み込んで逸らせないように固定する。
 晃が動きを止めた。

 不思議そうにしている気配には構わず、長い舌へ吸い付く。
 すぐに疑問の気配が薄れ、晃からも絡み合った舌を吸い上げられた。
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