1 / 10
プロローグ
しおりを挟む
この冬、ヨーロッパ屈指といわれるアルプスの小公国ホーフェンシュタイン侯爵家の絵画コレクションが、初めて日本のナショナル・ギャラリーで公開されることになった。
その視察を目的として、外務省をはじめとする関係団体の招きで、ホーフェンシュタイン侯爵家の人間が来日することが決定する。
現在、ヨーロッパの王侯貴族の中で最も金持ちといわれているホーフェンシュタイン侯爵家は、日本ではあまり馴染みはないが、大陸を巻き込んだ数度の戦争をくぐり抜けた生え抜きの実力と長い歴史を誇る名家だ。
時の大公や皇太子(候世子)は、日本の皇族が関わる重要な行事に参加するため、幾度か来日したことがある。
とはいえ、経済大国である日本とヨーロッパの小国との関係は薄い。日本からの旅行先の一つとして、観光面でわずかにある程度だった。
長く国政を司っていた現在の大公は、数年前に息子である皇太子に政務の全権を委譲し、今は名目上の大公としてほぼ引退状態にある。
大公はもちろん、多忙な皇太子であってもいざ来日するとなれば、日本側は相手を元首として「国賓」扱いをしなければならない。
それだとかかる費用が桁違いになってしまうため、関係省庁は協議の末、男子世襲制の侯爵家で、皇太子に次ぐ侯位継承権の持ち主である「皇太子の長男・アルフレート王子」に招聘の白羽の矢を立てることにした。
二十代も半ば過ぎの、この青年王子の母親は日本人女性だ。
すでに十数年前に亡くなっているが、それよりさらに十年近く前、侯爵家の次男で、当時は侯位継承権第二位だった現皇太子と日本人女性の結婚はさすがに当時の日本でも騒がれた。
一般の日本人だった女性は婚姻により王子妃となり、男の子を一人出産して若くして亡くなった。
侯爵家では次いで当時の皇太子だった長男が亡くなり、彼には子どもがいなかったため、継承権第一位はその弟、現皇太子へ移行することになった。
そんなわけで、ホーフェンシュタイン侯爵家皇太子の長子で、今回来日が決まったアルフレート王子には、半分日本人の血が流れていた。
しかも、美形揃いで有名な侯爵家の血を引き、さらにはオリエンタルな美貌も併せ持つアルフレート王子は───本人が滅多に公の場に姿を現さないことも手伝い───今や知る人ぞ知る、ヨーロッパ社交界注目のVIPの一人といわれていた。
公式・非公式を問わず、王子に関する資料は圧倒的に少ない。
本場の事情には疎いはずの日本のマスコミの、いったいどこから火がついたのか………。
主催のナショナル・ギャラリー、国営放送、新聞社は、率先してヨーロッパの大貴族の末裔であるプリンスの来日と、侯爵家秘蔵のコレクション展の開催をPRし始めた。
それと同時に“日本の血を引く美貌の貴公子”の存在もまたマスコミで大々的に報じられるようになった。
その視察を目的として、外務省をはじめとする関係団体の招きで、ホーフェンシュタイン侯爵家の人間が来日することが決定する。
現在、ヨーロッパの王侯貴族の中で最も金持ちといわれているホーフェンシュタイン侯爵家は、日本ではあまり馴染みはないが、大陸を巻き込んだ数度の戦争をくぐり抜けた生え抜きの実力と長い歴史を誇る名家だ。
時の大公や皇太子(候世子)は、日本の皇族が関わる重要な行事に参加するため、幾度か来日したことがある。
とはいえ、経済大国である日本とヨーロッパの小国との関係は薄い。日本からの旅行先の一つとして、観光面でわずかにある程度だった。
長く国政を司っていた現在の大公は、数年前に息子である皇太子に政務の全権を委譲し、今は名目上の大公としてほぼ引退状態にある。
大公はもちろん、多忙な皇太子であってもいざ来日するとなれば、日本側は相手を元首として「国賓」扱いをしなければならない。
それだとかかる費用が桁違いになってしまうため、関係省庁は協議の末、男子世襲制の侯爵家で、皇太子に次ぐ侯位継承権の持ち主である「皇太子の長男・アルフレート王子」に招聘の白羽の矢を立てることにした。
二十代も半ば過ぎの、この青年王子の母親は日本人女性だ。
すでに十数年前に亡くなっているが、それよりさらに十年近く前、侯爵家の次男で、当時は侯位継承権第二位だった現皇太子と日本人女性の結婚はさすがに当時の日本でも騒がれた。
一般の日本人だった女性は婚姻により王子妃となり、男の子を一人出産して若くして亡くなった。
侯爵家では次いで当時の皇太子だった長男が亡くなり、彼には子どもがいなかったため、継承権第一位はその弟、現皇太子へ移行することになった。
そんなわけで、ホーフェンシュタイン侯爵家皇太子の長子で、今回来日が決まったアルフレート王子には、半分日本人の血が流れていた。
しかも、美形揃いで有名な侯爵家の血を引き、さらにはオリエンタルな美貌も併せ持つアルフレート王子は───本人が滅多に公の場に姿を現さないことも手伝い───今や知る人ぞ知る、ヨーロッパ社交界注目のVIPの一人といわれていた。
公式・非公式を問わず、王子に関する資料は圧倒的に少ない。
本場の事情には疎いはずの日本のマスコミの、いったいどこから火がついたのか………。
主催のナショナル・ギャラリー、国営放送、新聞社は、率先してヨーロッパの大貴族の末裔であるプリンスの来日と、侯爵家秘蔵のコレクション展の開催をPRし始めた。
それと同時に“日本の血を引く美貌の貴公子”の存在もまたマスコミで大々的に報じられるようになった。
0
あなたにおすすめの小説
白花の檻(はっかのおり)
AzureHaru
BL
その世界には、生まれながらに祝福を受けた者がいる。その祝福は人ならざるほどの美貌を与えられる。
その祝福によって、交わるはずのなかった2人の運命が交わり狂っていく。
この出会いは祝福か、或いは呪いか。
受け――リュシアン。
祝福を授かりながらも、決して傲慢ではなく、いつも穏やかに笑っている青年。
柔らかな白銀の髪、淡い光を湛えた瞳。人々が息を呑むほどの美しさを持つ。
攻め――アーヴィス。
リュシアンと同じく祝福を授かる。リュシアン以上に人の域を逸脱した容姿。
黒曜石のような瞳、彫刻のように整った顔立ち。
王国に名を轟かせる貴族であり、数々の功績を誇る英雄。
【全10作】BLショートショート・短編集
雨樋雫
BL
文字数が少なめのちょこっとしたストーリーはこちらにまとめることにしました。
1話完結のショートショートです。
あからさまなものはありませんが、若干の性的な関係を示唆する表現も含まれます。予めご理解お願いします。
《完結》僕が天使になるまで
MITARASI_
BL
命が尽きると知った遥は、恋人・翔太には秘密を抱えたまま「別れ」を選ぶ。
それは翔太の未来を守るため――。
料理のレシピ、小さなメモ、親友に託した願い。
遥が残した“天使の贈り物”の数々は、翔太の心を深く揺さぶり、やがて彼を未来へと導いていく。
涙と希望が交差する、切なくも温かい愛の物語。
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
ジャスミン茶は、君のかおり
霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。
大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。
裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。
困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。
その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。
王太子殿下に触れた夜、月影のように想いは沈む
木風
BL
王太子殿下と共に過ごした、学園の日々。
その笑顔が眩しくて、遠くて、手を伸ばせば届くようで届かなかった。
燃えるような恋ではない。ただ、触れずに見つめ続けた冬の夜。
眠りに沈む殿下の唇が、誰かの名を呼ぶ。
それが妹の名だと知っても、離れられなかった。
「殿下が幸せなら、それでいい」
そう言い聞かせながらも、胸の奥で何かが静かに壊れていく。
赦されぬ恋を抱いたまま、彼は月影のように想いを沈めた。
※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。
表紙イラストは、雪乃さんに描いていただきました。
※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。
©︎月影 / 木風 雪乃
鈴木さんちの家政夫
ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。
林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる