プリンス・オブ・メランコリー

百瀬圭井子

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 この冬、ヨーロッパ屈指といわれるアルプスの小公国ホーフェンシュタイン侯爵家の絵画コレクションが、初めて日本のナショナル・ギャラリーで公開されることになった。
 その視察を目的として、外務省をはじめとする関係団体の招きで、ホーフェンシュタイン侯爵家の人間が来日することが決定する。
 現在、ヨーロッパの王侯貴族の中で最も金持ちといわれているホーフェンシュタイン侯爵家は、日本ではあまり馴染みはないが、大陸を巻き込んだ数度の戦争をくぐり抜けた生え抜き・・・・の実力と長い歴史を誇る名家だ。
 時の大公や皇太子(候世子)は、日本の皇族が関わる重要な行事に参加するため、幾度か来日したことがある。
 とはいえ、経済大国である日本とヨーロッパの小国との関係は薄い。日本からの旅行先の一つとして、観光面でわずかにある程度だった。
 長く国政を司っていた現在の大公は、数年前に息子である皇太子に政務の全権を委譲し、今は名目上の大公としてほぼ引退状態にある。
 大公はもちろん、多忙な皇太子であってもいざ来日するとなれば、日本側は相手を元首として「国賓」扱いをしなければならない。
 それだとかかる費用が桁違いになってしまうため、関係省庁は協議の末、男子世襲制の侯爵家で、皇太子に次ぐ侯位継承権の持ち主である「皇太子の長男・アルフレート王子」に招聘の白羽の矢を立てることにした。
 二十代も半ば過ぎの、この青年王子の母親は日本人女性だ。
 すでに十数年前に亡くなっているが、それよりさらに十年近く前、侯爵家の次男で、当時は侯位継承権第二位だった現皇太子と日本人女性の結婚はさすがに当時の日本でも騒がれた。
 一般の日本人だった女性は婚姻により王子妃となり、男の子を一人出産して若くして亡くなった。
 侯爵家では次いで当時の皇太子だった長男が亡くなり、彼には子どもがいなかったため、継承権第一位はその弟、現皇太子へ移行することになった。
 そんなわけで、ホーフェンシュタイン侯爵家皇太子の長子で、今回来日が決まったアルフレート王子には、半分日本人の血が流れていた。
 しかも、美形揃いで有名な侯爵家の血を引き、さらにはオリエンタルな美貌も併せ持つアルフレート王子は───本人が滅多に公の場に姿を現さないことも手伝い───今や知る人ぞ知る、ヨーロッパ社交界注目のVIPの一人といわれていた。
 公式・非公式を問わず、王子に関する資料は圧倒的に少ない。
 本場の事情には疎いはずの日本のマスコミの、いったいどこから火がついたのか………。
 主催のナショナル・ギャラリー、国営放送、新聞社は、率先してヨーロッパの大貴族の末裔であるプリンスの来日と、侯爵家秘蔵のコレクション展の開催をPRし始めた。
 それと同時に“日本の血を引く美貌の貴公子”の存在もまたマスコミで大々的に報じられるようになった。
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