解雇(クビ)にされた細工師が自分の価値を知る【リ】スタート冒険者生活~ちまたで噂されてる伝説の職人の正体は、どうも俺らしい~

安野 吽

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【第一章】

第三話 ウサビトの魔法使い

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「んにゅ……」

 身じろぎの音がしてそちらに目を向けると、木にもたせ掛けた少女が身を起こしていた。頭巾からたれる緩く編んだ三つ編みは美しく輝く純白で、目は濃い赤。

「目が覚めたか?」
「はぅ~……?」

 少女はぼんやりした目をこすると、こちらに顔を向け、ほよんと少し考えるような仕草をして……次の瞬間飛び上がった。

「わ、わわ……ひぇ……何、が」
「落ち着け、肩と足にポーション塗っただけで、後は何もしてない。深呼吸……まず深く息を吸って~吐いて~」
「ははははい、すぅ~はぁ~……すぅ~はぁ~」

 す~は~す~は~。
 しばしそれを繰り返すうちに、少女は落ち着いて来たらしく、こちらに向き直って礼をした。

「お、思い出しました。あ、あの、危ない所を救って下さって、ありがとうなのです」

 記憶が蘇ったのか、こちらが助けたことは分かってもらえたようだ。

「おう、気にすんな。でも危ないぞ~単独ソロは。時々ああいう事があるしな」

 俺は顎をしゃくって一際大きい灰の塊をさす。
 もう面影も無いが、それはかつてあのレッドウルフの亜種だったものだ。

「は、はい……びっくりしました。二匹までは相手にできたのですが、いきなり取り囲まれてしまって……お兄さんが来てくれなかったら、死んでいたかも知れないのです」
「かもな……。これにこりて今度はちゃんとパーティー募集しろよ? あっ、そうだ」

 俺はレッドウルフ共の遺骸から集めておいたアイテムと魔石を押し付けた。

「やるよ。どうせあんたも依頼で来たんだろ? 持って帰りな」
「ええっ!? 駄目なのです……助けて頂いたのに、こんな物まで」

 そこには亜種の落とした赤狼の鋭爪も入れてある。ちょうど二本あったので一本は俺がもらった。レッドウルフの牙も三本確保できたし、残りは要らない。

「ま、そう言わずに受け取ってくれよ。その方が嬉しいしさ」

 なるべく警戒しないよう笑顔で言うと、彼女は慌ててもう一度お辞儀をする。

「じゃあ……本当にありがとうなのです。あの……さぞかし高名な冒険者様なのですよね? 良かったらお名前を聞かせて頂きたいのです。私の名前は、チロル・チュークリフといいますのです」
「ぷっ……」
「な、なにかおかしかったですか?」

 彼女が不思議そうにしたので、俺は鞄から採取したチロル草を取り出した。

「いや、なんか奇遇だなって、名前の由来か?」
「なのです……髪の色が似ているからということで」
「なるほどね……悪い、こっちも名乗らなきゃな」

 彼女が両手を合わせて大きな瞳で見つめて来るので、俺は頬を掻いて答える。

「高名とかそんな大層な奴じゃないけど、経験者だ。ちょっと事情があって最初っからやり直してる。テイル・フェインってのが俺の名前だ」
「ご丁寧に……よろしくなのです」

 俺が冒険者カードを差し出すと、彼女も同じように自分のものを見せてくれた。

【冒険者名】チロル・チュークリフ 【年齢】15 
【ランク】E 【ポジション】後衛

《各ステータス》

 体力 (E)  18
 力  (E)  16
 素早さ(E)  33
 精神力(D)  66
 魔力 (C) 132
 器用さ(E)  31
 運  (E)  12

《スキル》魔法技術:火炎系統(10)   
《アビリティ》なし

 いかにも魔法使い、といったようなステータスをしている。
 魔力値においてはかなり優秀だが、あの程度の魔物に手こずっていた所を見るとおそらく戦闘に慣れておらず魔法の扱いが上手くないのだろう。

 火炎魔法の使い手らしい、ちょっと短めの赤いローブが可愛らしい彼女は、俺のカードを見てきらきらと目を光らせている。

「ふわぁぁ……! 生産すごいのです……プロの方ですか?」
「そう俺ってば、細工のプロ」

 ちょっと調子に乗って格好つけた俺は、さっきの装飾品を見せてあげる。

「あの動きも、半分以上はこれのおかげなんだ。戦闘スキルが無くたって、意外と戦えるもんなんだぜ?」
「わぁぁぁぁ……こういうのがあったら、わたしももっと……。いいなぁぁ……」
「そういえばお前さん、杖はどうした? 魔法使いつったら杖だろ」
「つえ……杖ですか?」
 
 彼女はきょとんとした。

 《魔法技術》スキル持ちは確か例外なく、低レベルの内に杖を装備することで魔法の威力が増幅する《杖装備時能力補正》という技能を取得できるはずだ。それにより魔法の威力や操作性が上がる為、大抵の魔法使いは杖を装備している。

「わたし、杖なんてもっていません。そんなに重要なものなんですか?」
「……スキルが発現し始めて、何年経つ?」
「三年です」

 スキルの発現には個人差があり、概ね10歳から15歳位にかけてといったところだ。大体の人間がその頃から半年ごとに鑑定士へ人物鑑定を依頼し、それで判明することが多い。

 俺も細工スキルを授かったのは、14かそこらの年だったから適性の範囲内だが……。

「師匠とかについてもらったか?」
「いいえ……自分で練習しました。魔法のことよく知らないからちょっと大変でしたけど、でもどうしても冒険者になりたくて……」

 スキルの内、魔法というのは特殊な部類に入る。習得しただけではうまくコントロールできず、ちゃんとした師に着いて魔力自体を知覚し操作する訓練から、徹底的に数年教え込まれてやっとモノになると聞く。

 それを自身だけで成し遂げたのだから、ちょっとどころの努力では済まなかっただろう。

 やっていることは無茶で、親や友達であれば怒ってやる所なのかも知れないが、会ったばかりの俺にそんな権利は無い。釘はさっき差した分で十分だろう。

「わたしもいつか、テイルさんのようになれるでしょうか……」 

 だが、あんな目に遭ったくせに……純粋な瞳で羨ましそうに指輪を眺めているチロルを見ると、先輩として俺はちょっとお節介を焼いてやりたくなった。

「これはちょっとやれないけど、良かったら有り合わせのものでなんか作ってやろうか?」
「欲しいのです!! でで、でも……わたし、金欠でして……。装飾品なんて、安いものでも金貨数枚はすると思うのです。そんなお金とても……」

 彼女は眉を悲しそうに下げたが、俺はもちろん金など取るつもりは無い。

「金なんていいんだよ。冒険者なんて下の者の面倒を見れるようになってナンボだって、連れも良く言ってたし。強くなってさ、今度はチロルが他の人を助けられるようになれればい~の。だから今は、どんどん頼っとけ。ほら、これでも食って元気だしな」
「……はぁぃ」

 なけなしの金で買っておいた保存食――乾燥ベリの実を渡すと、少し嬉しそうにはにかんだチロル。それを見て俺は久々の誰かの為の仕事にはりきって臨み出した。

 仕事道具を用意して、彼女の手首のサイズを測り、シートの上に座り込んでアクセサリー作りを始める。

(丁度さっき手に入った赤狼の鋭爪があるから、これとゴブリンの牙で腕輪でも作ろうか……)

 俺の仕事道具は魔銀ミスリル金剛鉄アダマントの合金でできた特注のものだ。大抵の素材は問題なく加工できる。

「すごい手際なのです。そんな細かい所まで……」

 牙を滑らかにやすりで整えて錐で穴を開け、同じように赤い爪も加工し、耐劣化材を塗り込んで乾燥させ、銀のチェーンでつなぐと、小一時間ほどでそれは完成した。

 その間チロルは紫の実を口に運びつつぼんやりと俺の手元を眺め、自分の身の上を語った。

 彼女がローブのフードを取ると、そこにあらわになったのは、力なく垂れた二つの長い耳だ。

「わたし、ウサビト族の出で……ある人を探して冒険者になったのですが、気味悪がられたりしてあまり馴染めなかったのです。魔法は使えますけど、低レベルのものばかりで下手ですからあまりお役に立てないし。その内お金も無くなって、村にも帰りづらくて……どうしたらいいかわからなくなっていたのです」
「人に頼るの下手そうだもんな、お前」
「うぅ……その通りなのです」

 彼女は目を潤ませたが、懸命にそれを見せないように顔を俯けてこらえていた。
 しばらく小さな嗚咽の音を聞きながら、そのまま俺は作業を続け……やがてチェーンを止め終わり、腕輪の本体が完成する。

 最後に、俺は精神を集中して、ある魔法を詠唱した。

「さて、仕上げだ……《付与(エンチャント)》!」
「きゃっ!」

《付与(エンチャント)》は、そのスキルに対応した装備品に任意の追加効果を与えることが出来る技能だ。

 装備品の希少価値レアリティや、術者のレベルによって与えられる効果は異なっていく。今回はその内、魔法使い向けのものを選択した。

 俺の右手が発した金色の光が、腕輪へと吸い込まれ、パッと強く輝く。
 さっそく鑑定を用いて、俺はその腕輪を確認する。
 
★★★★エピック 赤狼の加護(装飾品)》
 スロット数:2 
 基本効果:魔力+30、火炎耐性+10
 追加効果:【消費魔力減少(小)】【魔力+30】

 その場で作ったにしては悪くない出来だ。
 俺はそれを渡して、彼女の頭を軽く叩いた。

「ほら、元気出せ。しんどい時はこらえ時。またなんかあったら手伝ってやるから」
「…………にゅ」

 彼女は返事ともつかない妙な呻きを上げ、ごしごし目をこすってそれを受け取ると、左手にはめて宙にかざす。

「うわぁ……きれい」

 彼女の容姿と同じ色合いのそれは、良く似合っているように思う。

「……テイルさん」
「なんだよ?」

 感動した様子でしばらくそんな風に見上げた後……彼女はなにやら決意を込めた表情で俺を強く見つめて来た。

 そして、ちょっと引いた俺にこう言う。

「わたしを……弟子にして下さいっ!」
「嫌だ」

 即答後、すぐきびすを返す俺にしかし彼女は慌てて追いすがって来る……。

「い、一年でいいのです! いや、半年! 三カ月はどうですかっ!?」
「はいはいだめだめ、無理無理――」

 またずいぶんと高く見積もられたが、せっかく自由になったのに弟子とか師匠とか……そんな堅っ苦しい関係真っ平ごめんだ。

 俺は耳を塞ぐと、根気よくねばる彼女の言葉に首を振りながら街への帰り道をたどった。
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