27 / 58
【第一章】
第二十話 長い旅の始まり
しおりを挟む
遺跡攻略が終わり、俺達はレイベルさんから多額の謝礼を頂いてミルキアに戻った。
その額何と、金貨にして千枚。それと、リュカが使っていたあの短剣もそのまま持っていていいと言われた。それほど彼にとっては最奥で見つけた指輪は魅力的だったのだろう。
四人で分けても一、二年は何もせず暮らせる位の額の報酬。しかし、当面は使い道も無いので……共有財産として銀行に保管しておくことにして、俺達はギルドに依頼完了報告をしてしばし体を休めていた。
そんなある日、郵便受けに入れられていた手紙に気づき、俺達はシエンさんの営む不動産屋を訪れた。どうも改まった話があるようなのだ……。
そして今――。
「――ええぇぇぇっ!! あのお家……買う方が現われてしまったのですか!?」
……頭を下げたシエンさんが言った言葉に驚き、チロルがびっくりした悲鳴を上げたところだ。
「済まない、そういうことなんだ……こちらも商売なので断ることは出来なくてね」
「そんなぁ……せっかく色々揃えて、おいら達の家になって来てたのに~……」
リュカもがっかりした顔をする。
実は今回の報酬などを溜めて、じきにあの家を正式に買い取るということも考えていた位、チロルやリュカはあの家に愛着が湧いていたらしい。
「こらこら、仕方ないだろ。好意で住ませてもらってたんだから文句言うな」
俺はそんな二人を軽く叱る。
気持ちはわかるが、元々そういう話だったからシエンさんに非は無い……むしろ、今までただで済ませてもらっていたのを感謝するべきなのだ。
だが、心なしかライラも残念そうに言う。
「それじゃあ、また他で家を探さないといけないわね。丁度いいからシエンさんに良い物件を紹介してもらいましょうよ」
「ん? このまま一緒に住むでいいのか?」
「え、別々に住むの?」
当然の様に俺を見つめていた彼女は、自分の言ったことを反芻して、しだいに顔色を紅くしていく。
「ち、違う……! これはどうしてもあなた達と住みたいとかじゃなくて! これまで問題も無かったし、生活のスタイルが変わるのが面倒ってだけで……決して寂しいからとか、そういうのじゃないって……!」
「そうか~……なるほどな、わかったわかった。寂しいんだな」
「ちょっと、違うから! ちゃんと聞いて! 聞きなさい!」
言い訳を重ねて自分で墓穴を掘りだすライラの言葉に俺がうなずくと、嬉しそうに彼女の左右から獣人娘二人が飛びつく。
「おいらも、ララ姉がいないと寂しいからやだ!」
「わたしなのです~!」
「……もう、やだ……」
恥ずかしい気持ちのやり場を失くしたライラは、かがんでチロルの体に顔を埋める。いつもはしっかりしてるからか、たまに失敗するとこういうところを見せてくれるのはちょっと可愛い。
「と、いう訳なんで……なんかいい家ありますか? 多少金も入ったし、これからはちゃんと家賃も払えると思いますんで」
「ははは、ずいぶん仲良くなったんだね。そんな君達に提案と言ってはなんなんだが、良かったらここミルキアから離れて、ハルトリアという大きな街に移住して見ないか?」
俺が尋ねると、シエンさんは地図を書棚から取り出し、拡げて見せてくれた。
「ここから馬車で大体十日位の場所にある街だ。丁度エルスフェリア王国の真ん中にある街だから、人の出入りも多いし、情報も集まりやすいと思う。確か、そっちのウサギちゃんは人探しをしているんじゃ無かったかな?」
「は、はいなのです……。恩人の方に一目会ってお礼を言いたくて」
以前シエンさんには、チロルの探し人について相談したことがある。
物知りの彼なら、風の噂にでもそういう人物のことを聞いたことがあるかも知れないと思ったのだ。
その時は残念ながら情報を得ることは出来なかったのだが、ずっと気にかけてくれていたのだろう……シエンさんはチロルを穏やかに諭した。
「なら、こんな小さい街でずっといたって、少しも進展しないと思うよ? 幸い僕はあっちの街にもいくつか物件を持っていてね。知り合いもいるから色々融通してあげられると思う。ライラ君にしても、ここよりは同族に話を聞ける機会は増えるだろう。記憶が蘇るきっかけになるかも知れない」
「う~ん……」
復活したライラも、口に指を添えて考え込む。ようやくこの街に慣れてきたところだったのに、という表情だ。
悩む二人に取り残されたような気分になったのか、リュカが勢いよく手を挙げる。
「は、はいっ! お、おいらは? おいらはなんかないの?」
「ワンちゃんは……ま、ここの冒険者ギルドよりか優秀な人材も多いだろうし、色々強い人に出会えるかもね。成長したいなら、他の人から学ぶべきことは多いと思うよ」
「そうなのか~……興味はあるな」
彼女もちょっと心を惹かれた様子である。
俺としては別にミルキアの街に固執するつもりはない。別に生家があるわけでもなく……前の冒険の後ここに戻って来たのも、単なる成り行きだったし。でもチロルの願いをかなえてやりたいのは本当だ。だからその意見を皆に素直に伝える。
「俺はこの街を離れてもいいと思ってるけど、皆はどうだ? チロルと俺は、どの道いつかはこの街を出ることになると思うけど……皆が嫌だっていうのならそれはしばらく遅らせてもいいし、別行動するのも有りだ。どうする?」
皆は顔を見合わせる。
だが、そこは阿吽の呼吸。少し見ただけでなんとなくお互いの意志を察したようで、同時に頷いて笑った。
「行こ!」「い、行くです?」「行きましょうか」
三人の意志が固まったなら、もう迷うことも無い。
シエンさんにその意思を伝える。
「それじゃ俺達、そのハルトリアって街に行ってみることにします」
「そうか……なら、一週間くらい後までに、荷物をまとめておいてくれるかな? 後で馬車で送ってあげよう。知り合いに手紙を送っておくから、ハルトリアに着いたら花屋のレティシアという女性を訪ねてみるといい。彼女が新しい家に案内してくれるからはずだ。当分はそこを拠点として、気に入らなかったら住み替えてくれてもいい」
「何から何までありがとうございます」
「いやいや、こちらの都合で悪いことをしたからね、これ位はさせてくれ。こちらでも何か情報が見つかったら手紙で送ろう。ウサギちゃん、その人物の容姿とか名前とかは分かるかい?」
「ええと……正確なお名前は知らないのです。お連れの方がフレアって呼んでました。後は冒険者だってことしか……ええと、人なんですけど、長いお耳をしてまして、長い金髪と青い瞳、真っ白な肌をしたとっても綺麗なお姉さんで……」
シエンさんは、メモを取り出すと特徴をサラサラと書き留める。
「ほうほう……聞いた感じ、エルフ族だろうね、珍しい。冒険者でエルフのフレアって愛称の娘さんか。わかった……なにか分かれば知らせるよ」
「お願いしますのです」
チロルが小さく頭を下げ……シエンさんは彼女の肩を叩いて励ましてくれた。
「うん、これだけ情報があれば、何らかの手掛かりはきっといつか見つかるだろう……頑張って。それじゃ皆さん、これからの旅の無事と幸運を祈らせてもらうよ。またこの街に戻ることがあったら、是非声を掛けてくれ」
「色々お世話になりました、ありがとうございました」
口々に俺達はお礼を言い、黒眼鏡の奥でにっこり微笑むシエンさんの不動産屋を後にする。しかし……いずれはと思っていたが、こんな早くにこの街を出ることになるとは。
ミュラにも挨拶しておいた方がいいだろう。彼女は俺達の活躍を喜んでいてくれたから、ちょっと申し訳ない気もするけど……こればかりは足踏みしていても仕方がない。またこの街に来たら、酒でも飲みに連れ出してやろう。
「ハルトリア……どんな街なんでしょうか、テイルさん」
「ああ、大きな街だよ。ここなんかとは比べ物にならない位。国でも三本の指に入る位なんじゃないかな。楽しみにしとけ、色々面白いものが見られると思うしな」
「美味しいものも食べられるかな!?」
「ああ、もちろん。大陸のあちこちから色んな食材が集まってくる市場とかもあるからな」
「ほわぉお~……やぁったー!」
リュカは色気より食い気で、今から妄想を膨らまし、口の端から涎を垂らしそうな勢いで喜ぶ。チロルもその姿を見て、口元がほころんでいる。
ただ、ライラは少し考え込んでいるようだった。
「ライラ、大丈夫か? 何かあるなら言ってくれていいんだぞ? 急な話だったし……」
「ううん……ちょっとね。大丈夫よ、私もちゃんと楽しみにしてるから。他の魔族に会えるかもしれないしね」
あれから彼女が何かを思い出したという話はない。
皆気を遣って聞かないようにしているから、弱音を吐かない彼女の心中は推し量れないが、俺達がかろうじて出来るのは少しでも記憶を思い出さなくていい位、楽しい毎日が送れるよう一緒にいて支えてあげることだと思う。
俺は努めて明るく聞こえるように言った。
「それじゃ帰って、家を片付けちまうか。あんまり荷物が多くなり過ぎないように、要らないものは処分すること! チロルは本、リュカはぬいぐるみを最近買いすぎてんだから、半分位は捨てるかあげるかしろよ! 」
「ほ、本は大事なのです! 先人の偉大な知識の集積ですので、持って行かせて下さい! なにとぞ、なにとぞ~っ!」
「おいらのぬいぐるみ達だって大事な家族なんだもん! 背負ってでも連れてくんだから!」
「そういうならあちこちに散らかすのやめろよ! ったく、ライラもなんか言ってやってくれよ」
「……そうねぇ。でも、テイルだって作業に集中してる時、色んなものをほったらかしにしてるんだから。人のことばっかりは言えないと思うわよ?」
「げ……そうか? すまん……」
思わぬところからの反撃に、俺はバツの悪い顔をして頬を掻く。
自分で自分の欠点ってのは気づかないから、確かにそう言われると無視はできない。
「いいんじゃない? あなたがわたし達を助けてくれてるように、私達だってあなたのこと支えたいもの。出来ないことはお互いに教え合って、補い合って足並み揃えて進んで行くのが私達。それでいいと思うわ」
「さすがララ姉、いいこというね!」
「でしょ……でもリュカも、チロルもちゃんと自分が悪いと思ったら直す努力をしなさい。じゃないとちゃんと大人になれないわよ?」
「「は~い!」」
二人の返事を聞いて嬉しそうに頭を撫でるライラ。
その表情は明るかった。
気が付けばすっかり、皆このパーティーに馴染んでしまっている。
きっと、求めている物……自分の居場所を見つけられたからだと俺は思う。
「あっ、テイルさん……見て下さい! 《星降り》です!」
突然チロルが指さした彼方の空。
そこには紫の光が幾つも空に広がるのが見える。
《星降り》――吉兆とも、凶兆とも言われる謎の現象。地面に落ちたあの光がどこへ行くのかは誰にもわからない。たった数秒だが、幾筋も細長く尾を引く光が落ちていく様は、妙に幻想的なものだった。
「……数年ぶりか」
「キレイなのです……きっと、わたし達の旅立ちをお空の神様が祝福してくれていると思うのです」
「おいらはどうせなら、おにくを降らせて欲しかったなぁ……」
(リュカのはさておき、ずいぶんと都合のいい解釈だな……)
もし、神様なんてものがいたとして、こんなちっぽけなパーティーひとつを応援する程暇ではあるまい。
でも、こいつらのきらきらと輝いた瞳を見ていると……そんな風に思うのも悪くはない。何に希望を見出すかは、自分次第だから。
「ま、そういうことにしておくか」
チロルの尋ね人や、リュカの成長した姿も見たいし、ライラが記憶を取り戻したら、一緒に魔族の国に行ってみるのもいいかもしれない。エニリーゼ達、前のパーティーの奴らとまた会うこともあるだろうし、今より強くなればきっと遺跡で見たあの指輪より良い物が作れるようになるかも知れない。
他の誰のものでも無い俺達の新たな冒険は、きっとまだ始まったばかり。
それを一番楽しみにしているのは、きっと……俺自身だ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
すみません、こちらの手違いで最終話、投稿ボタンが押せておらずお届けするのが遅くなりました、お詫び申し上げます。
先の話でも述べさせていただいたのですが、次章がいつ始められるか分からないということで一旦完結の形とさせていただきます。
誤字脱字のご指摘や、ご感想、お気に入りに入れていただく等、読者様方には本当に助けられました。
読んで頂いた皆様にこの場をお借りして感謝申し上げます……ありがとうございました!
その額何と、金貨にして千枚。それと、リュカが使っていたあの短剣もそのまま持っていていいと言われた。それほど彼にとっては最奥で見つけた指輪は魅力的だったのだろう。
四人で分けても一、二年は何もせず暮らせる位の額の報酬。しかし、当面は使い道も無いので……共有財産として銀行に保管しておくことにして、俺達はギルドに依頼完了報告をしてしばし体を休めていた。
そんなある日、郵便受けに入れられていた手紙に気づき、俺達はシエンさんの営む不動産屋を訪れた。どうも改まった話があるようなのだ……。
そして今――。
「――ええぇぇぇっ!! あのお家……買う方が現われてしまったのですか!?」
……頭を下げたシエンさんが言った言葉に驚き、チロルがびっくりした悲鳴を上げたところだ。
「済まない、そういうことなんだ……こちらも商売なので断ることは出来なくてね」
「そんなぁ……せっかく色々揃えて、おいら達の家になって来てたのに~……」
リュカもがっかりした顔をする。
実は今回の報酬などを溜めて、じきにあの家を正式に買い取るということも考えていた位、チロルやリュカはあの家に愛着が湧いていたらしい。
「こらこら、仕方ないだろ。好意で住ませてもらってたんだから文句言うな」
俺はそんな二人を軽く叱る。
気持ちはわかるが、元々そういう話だったからシエンさんに非は無い……むしろ、今までただで済ませてもらっていたのを感謝するべきなのだ。
だが、心なしかライラも残念そうに言う。
「それじゃあ、また他で家を探さないといけないわね。丁度いいからシエンさんに良い物件を紹介してもらいましょうよ」
「ん? このまま一緒に住むでいいのか?」
「え、別々に住むの?」
当然の様に俺を見つめていた彼女は、自分の言ったことを反芻して、しだいに顔色を紅くしていく。
「ち、違う……! これはどうしてもあなた達と住みたいとかじゃなくて! これまで問題も無かったし、生活のスタイルが変わるのが面倒ってだけで……決して寂しいからとか、そういうのじゃないって……!」
「そうか~……なるほどな、わかったわかった。寂しいんだな」
「ちょっと、違うから! ちゃんと聞いて! 聞きなさい!」
言い訳を重ねて自分で墓穴を掘りだすライラの言葉に俺がうなずくと、嬉しそうに彼女の左右から獣人娘二人が飛びつく。
「おいらも、ララ姉がいないと寂しいからやだ!」
「わたしなのです~!」
「……もう、やだ……」
恥ずかしい気持ちのやり場を失くしたライラは、かがんでチロルの体に顔を埋める。いつもはしっかりしてるからか、たまに失敗するとこういうところを見せてくれるのはちょっと可愛い。
「と、いう訳なんで……なんかいい家ありますか? 多少金も入ったし、これからはちゃんと家賃も払えると思いますんで」
「ははは、ずいぶん仲良くなったんだね。そんな君達に提案と言ってはなんなんだが、良かったらここミルキアから離れて、ハルトリアという大きな街に移住して見ないか?」
俺が尋ねると、シエンさんは地図を書棚から取り出し、拡げて見せてくれた。
「ここから馬車で大体十日位の場所にある街だ。丁度エルスフェリア王国の真ん中にある街だから、人の出入りも多いし、情報も集まりやすいと思う。確か、そっちのウサギちゃんは人探しをしているんじゃ無かったかな?」
「は、はいなのです……。恩人の方に一目会ってお礼を言いたくて」
以前シエンさんには、チロルの探し人について相談したことがある。
物知りの彼なら、風の噂にでもそういう人物のことを聞いたことがあるかも知れないと思ったのだ。
その時は残念ながら情報を得ることは出来なかったのだが、ずっと気にかけてくれていたのだろう……シエンさんはチロルを穏やかに諭した。
「なら、こんな小さい街でずっといたって、少しも進展しないと思うよ? 幸い僕はあっちの街にもいくつか物件を持っていてね。知り合いもいるから色々融通してあげられると思う。ライラ君にしても、ここよりは同族に話を聞ける機会は増えるだろう。記憶が蘇るきっかけになるかも知れない」
「う~ん……」
復活したライラも、口に指を添えて考え込む。ようやくこの街に慣れてきたところだったのに、という表情だ。
悩む二人に取り残されたような気分になったのか、リュカが勢いよく手を挙げる。
「は、はいっ! お、おいらは? おいらはなんかないの?」
「ワンちゃんは……ま、ここの冒険者ギルドよりか優秀な人材も多いだろうし、色々強い人に出会えるかもね。成長したいなら、他の人から学ぶべきことは多いと思うよ」
「そうなのか~……興味はあるな」
彼女もちょっと心を惹かれた様子である。
俺としては別にミルキアの街に固執するつもりはない。別に生家があるわけでもなく……前の冒険の後ここに戻って来たのも、単なる成り行きだったし。でもチロルの願いをかなえてやりたいのは本当だ。だからその意見を皆に素直に伝える。
「俺はこの街を離れてもいいと思ってるけど、皆はどうだ? チロルと俺は、どの道いつかはこの街を出ることになると思うけど……皆が嫌だっていうのならそれはしばらく遅らせてもいいし、別行動するのも有りだ。どうする?」
皆は顔を見合わせる。
だが、そこは阿吽の呼吸。少し見ただけでなんとなくお互いの意志を察したようで、同時に頷いて笑った。
「行こ!」「い、行くです?」「行きましょうか」
三人の意志が固まったなら、もう迷うことも無い。
シエンさんにその意思を伝える。
「それじゃ俺達、そのハルトリアって街に行ってみることにします」
「そうか……なら、一週間くらい後までに、荷物をまとめておいてくれるかな? 後で馬車で送ってあげよう。知り合いに手紙を送っておくから、ハルトリアに着いたら花屋のレティシアという女性を訪ねてみるといい。彼女が新しい家に案内してくれるからはずだ。当分はそこを拠点として、気に入らなかったら住み替えてくれてもいい」
「何から何までありがとうございます」
「いやいや、こちらの都合で悪いことをしたからね、これ位はさせてくれ。こちらでも何か情報が見つかったら手紙で送ろう。ウサギちゃん、その人物の容姿とか名前とかは分かるかい?」
「ええと……正確なお名前は知らないのです。お連れの方がフレアって呼んでました。後は冒険者だってことしか……ええと、人なんですけど、長いお耳をしてまして、長い金髪と青い瞳、真っ白な肌をしたとっても綺麗なお姉さんで……」
シエンさんは、メモを取り出すと特徴をサラサラと書き留める。
「ほうほう……聞いた感じ、エルフ族だろうね、珍しい。冒険者でエルフのフレアって愛称の娘さんか。わかった……なにか分かれば知らせるよ」
「お願いしますのです」
チロルが小さく頭を下げ……シエンさんは彼女の肩を叩いて励ましてくれた。
「うん、これだけ情報があれば、何らかの手掛かりはきっといつか見つかるだろう……頑張って。それじゃ皆さん、これからの旅の無事と幸運を祈らせてもらうよ。またこの街に戻ることがあったら、是非声を掛けてくれ」
「色々お世話になりました、ありがとうございました」
口々に俺達はお礼を言い、黒眼鏡の奥でにっこり微笑むシエンさんの不動産屋を後にする。しかし……いずれはと思っていたが、こんな早くにこの街を出ることになるとは。
ミュラにも挨拶しておいた方がいいだろう。彼女は俺達の活躍を喜んでいてくれたから、ちょっと申し訳ない気もするけど……こればかりは足踏みしていても仕方がない。またこの街に来たら、酒でも飲みに連れ出してやろう。
「ハルトリア……どんな街なんでしょうか、テイルさん」
「ああ、大きな街だよ。ここなんかとは比べ物にならない位。国でも三本の指に入る位なんじゃないかな。楽しみにしとけ、色々面白いものが見られると思うしな」
「美味しいものも食べられるかな!?」
「ああ、もちろん。大陸のあちこちから色んな食材が集まってくる市場とかもあるからな」
「ほわぉお~……やぁったー!」
リュカは色気より食い気で、今から妄想を膨らまし、口の端から涎を垂らしそうな勢いで喜ぶ。チロルもその姿を見て、口元がほころんでいる。
ただ、ライラは少し考え込んでいるようだった。
「ライラ、大丈夫か? 何かあるなら言ってくれていいんだぞ? 急な話だったし……」
「ううん……ちょっとね。大丈夫よ、私もちゃんと楽しみにしてるから。他の魔族に会えるかもしれないしね」
あれから彼女が何かを思い出したという話はない。
皆気を遣って聞かないようにしているから、弱音を吐かない彼女の心中は推し量れないが、俺達がかろうじて出来るのは少しでも記憶を思い出さなくていい位、楽しい毎日が送れるよう一緒にいて支えてあげることだと思う。
俺は努めて明るく聞こえるように言った。
「それじゃ帰って、家を片付けちまうか。あんまり荷物が多くなり過ぎないように、要らないものは処分すること! チロルは本、リュカはぬいぐるみを最近買いすぎてんだから、半分位は捨てるかあげるかしろよ! 」
「ほ、本は大事なのです! 先人の偉大な知識の集積ですので、持って行かせて下さい! なにとぞ、なにとぞ~っ!」
「おいらのぬいぐるみ達だって大事な家族なんだもん! 背負ってでも連れてくんだから!」
「そういうならあちこちに散らかすのやめろよ! ったく、ライラもなんか言ってやってくれよ」
「……そうねぇ。でも、テイルだって作業に集中してる時、色んなものをほったらかしにしてるんだから。人のことばっかりは言えないと思うわよ?」
「げ……そうか? すまん……」
思わぬところからの反撃に、俺はバツの悪い顔をして頬を掻く。
自分で自分の欠点ってのは気づかないから、確かにそう言われると無視はできない。
「いいんじゃない? あなたがわたし達を助けてくれてるように、私達だってあなたのこと支えたいもの。出来ないことはお互いに教え合って、補い合って足並み揃えて進んで行くのが私達。それでいいと思うわ」
「さすがララ姉、いいこというね!」
「でしょ……でもリュカも、チロルもちゃんと自分が悪いと思ったら直す努力をしなさい。じゃないとちゃんと大人になれないわよ?」
「「は~い!」」
二人の返事を聞いて嬉しそうに頭を撫でるライラ。
その表情は明るかった。
気が付けばすっかり、皆このパーティーに馴染んでしまっている。
きっと、求めている物……自分の居場所を見つけられたからだと俺は思う。
「あっ、テイルさん……見て下さい! 《星降り》です!」
突然チロルが指さした彼方の空。
そこには紫の光が幾つも空に広がるのが見える。
《星降り》――吉兆とも、凶兆とも言われる謎の現象。地面に落ちたあの光がどこへ行くのかは誰にもわからない。たった数秒だが、幾筋も細長く尾を引く光が落ちていく様は、妙に幻想的なものだった。
「……数年ぶりか」
「キレイなのです……きっと、わたし達の旅立ちをお空の神様が祝福してくれていると思うのです」
「おいらはどうせなら、おにくを降らせて欲しかったなぁ……」
(リュカのはさておき、ずいぶんと都合のいい解釈だな……)
もし、神様なんてものがいたとして、こんなちっぽけなパーティーひとつを応援する程暇ではあるまい。
でも、こいつらのきらきらと輝いた瞳を見ていると……そんな風に思うのも悪くはない。何に希望を見出すかは、自分次第だから。
「ま、そういうことにしておくか」
チロルの尋ね人や、リュカの成長した姿も見たいし、ライラが記憶を取り戻したら、一緒に魔族の国に行ってみるのもいいかもしれない。エニリーゼ達、前のパーティーの奴らとまた会うこともあるだろうし、今より強くなればきっと遺跡で見たあの指輪より良い物が作れるようになるかも知れない。
他の誰のものでも無い俺達の新たな冒険は、きっとまだ始まったばかり。
それを一番楽しみにしているのは、きっと……俺自身だ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
すみません、こちらの手違いで最終話、投稿ボタンが押せておらずお届けするのが遅くなりました、お詫び申し上げます。
先の話でも述べさせていただいたのですが、次章がいつ始められるか分からないということで一旦完結の形とさせていただきます。
誤字脱字のご指摘や、ご感想、お気に入りに入れていただく等、読者様方には本当に助けられました。
読んで頂いた皆様にこの場をお借りして感謝申し上げます……ありがとうございました!
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
義妹がピンク色の髪をしています
ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流@3/19書籍発売!
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる