33 / 58
【第二章 第一部】
第五話 臨時パーティー
しおりを挟む
「ヒョーゲル鉱山へ入りたい、ですか」
武器屋ドムリエルの後に訪れた、ハルトリア冒険者ギルドの受付嬢――名札にレノン・ヒ―シュとある彼女は、俺たちの言葉を聞くなり冷たい目をして眼鏡を押し上げた。
「ああ……ちょっと手に入れたいものがあって……」
「――止めておいた方がいいかと思われます」
きちりと頭の上で髪をまとめた気真面目そうな雰囲気の受付嬢は、そのイメージにたがわず、俺の話を斬りつけるように鋭く、途中で否定する。
「仕事を受ける際はご自身の実力を鑑みていただきたいものです。Dランク程度の冒険者にそうそう取って来られるようなものなら、稀炎晶は高値で取引されたりしていませんよ」
目的まで見透かされていたようだ……。おおかたこう言った一攫千金に挑戦する冒険者は後を絶たないのだろうし、うんざりするのもわかる。しかしチロルとリュカのためだ、一応俺も食い下がってみた。
「俺は元Aランクだが、それでもダメか?」
「元Aランクだと言うなら、なおさら認められません。あなたが多少無茶をして押し通せても、他のメンバーはそういう訳にはいかないかも知れないんですよ? 希望のアイテムは手に入れられたが、最後に立っているのはあなただけだった……なんてことにはなりたくないでしょう?」
厳しいが、彼女の言うことはもっともだ。
仲間を残して俺だけが生き残るなんて事態にさせるつもりはないが、魔物の棲み処では最悪を想定するのが基本……くわえて彼女からすれば俺たちは単なる下位冒険者の集まりに過ぎない。遺跡攻略の実績などを話に出しても、信用してはもらえまい。
「魔物はどの程度のランクのものが出るんだ?」
「確認されているだけでも、第一層でCランク・スケルトンソルジャー、同ランク・ベノムスパイダ。第二層ではそれらに加え、Bランクのゴーストメイジ……そして交戦記録はありませんが、リッチがうろついていたという話もあります。第三層以降は潜って帰ってきた者はいません」
俺の問いかけに、レノンは神妙そうに答える。なかなか厄介そうな面子だ。スケルトンソルジャーはまだいいとして、ベノムスパイダはかなり強い毒を持っている。ゴーストメイジは物理攻撃が通用せず、そしてリッチは……俺も戦ったことはないが、魔力と生命力を吸い取って自分の力に変えるという話だ。神聖系の魔法などによる攻撃手段が無いと、まともに戦えもしないと聞く。
「わかってもらえましたか? ギルドからの正式な依頼でもない以上、私がとやかく言う話でも本来はないのですが……いたずらに死亡者を増やすような事態は見逃したくないのです。もしどうしても侵入したいというのであれば、最低でもCランクに皆さんが到達してからにしてください。それでぎりぎり、第一層の探索ならば認め、地図などを手配しますから」
「Cランクか……しばらくかかりそうだな」
どうやら、鉱山周辺は王国軍の見張りも置かれているらしく、むりやり強硬手段を取って侵入することも難しそうだ。
「わかった。あんたの言う通り地道にやるよ……取りあえず今日のとこは、俺たちでも受けられるような依頼をいくつか頼む」
「お預けかぁ……」「でも、安全第一が長く続ける秘訣だと思うのです!」
肩を落とすリュカに続き、なんとなくそれらしいことを言ったチロルに、レノンさんは表情を少し緩めた。
「それがいいと思います。では……DからCランク下位の依頼を渡しますから、しばしお待ちください」
フォルダから数枚の依頼が取り出され、俺たちは揃ってそれを覗き込む。
【E:ハルトリアの街のでの配送業務補助×10 報酬:5銀貨】
【D:ローベルト湖にて聖水の汲み上げ・運搬作業 報酬:人数×8銀貨】
【C:ファイアバードの討伐×10 報酬:1金5銀貨】
「ミルキアとあんま代わり映えしないな~……」
「こらリュカ、文句言うな」
「無理にとは言いませんが、長く滞在されるのでしたら広い街ですから一度とは言わず何度でもご自分の足で回ってみることをお勧めしますよ。では、お気を付けて」
「ああ、助かる……ありがとう、レノンさん」
Eランクの依頼、配送業務補助は彼女からの気遣いだ……しょんぼり気味のリュカを注意し、有難くそれを受け取っておく。
そしてファイアバードの討伐……。あのフリットのジューシーな味わいが口に蘇り、俺は生唾を飲み込んだ。どうもなんとなく縁があるような気がして来たところ、開いた入り口扉の方へリュカが走っていく。
『あっ、ピピだ! こんちは~!』
『どうも……あなたたちも依頼?』
『そうなのです! ハルトリアの街での初依頼……頑張るのです!』
『先輩として色々話を聞かせてもらえると嬉しいわ。よろしくね?』
『ん……よろしく』
俺が依頼の手続きを済ます中、他のメンバーもそちらに向かい囲まれるピピ。
こういったことに慣れていないのか、質問攻めに合う彼女は若干目が死んでおり、困った様子で俺の姿を探した後、ゆっくりと近づいてきた。
「よっ。こないだ言ってた食材の仕入れってやつか?」
「そう。切れた食材は補充しないといけないから……ファイアバードとかね?」
ほらきた、ファイアバード……。
こないだのことを気にしたか……少し申し訳なさそうな顔をするピピはなかなか可愛らしい。
「この依頼か?」
俺がたった今受けた依頼票を見せてやると、彼女は素直に頷く。
「そうそれ。どうせ狩るならついでに稼ぎたいし」
「ふ~ん……だって、レノンさん」
カウンター越しに受付嬢の顔を見たが、彼女は困った様子だ。
「すみません。依頼票、どうやらそれが最後だったみたいで……」
依頼の発注数は発生規模などを考えて、ギルドが判断している。
よって希望する依頼が受けられないことはままあるが……それを聞いたピピの表情はたちまち沈んでしまった。
「そう……それじゃ仕方ない。狩りには行くけど、依頼の方は諦める……」
本当にファイアバードだけを狩るために来たらしく、肩を落として歩き去ろうとした彼女を慌てて俺は呼び止めた。
「ちょっと待て。これが無いと困るんじゃないのか? ……やるよこれ」
書きかけていたサインを消してピピに押し付けると、それは不思議そうな顔と共に押し戻される。
「……なんで? それが無いとあなたたちが困る。受け取れない」
「別に困らん。いや……むしろ受け取ってくれない方が困るな」
「どういうこと?」
意味が分からないと眉を寄せる彼女に、俺は苦笑して答える。
「こないだのアレ美味かったからさ…………また食いたいんだよ、すぐにでも」
すると、ピピの顔が少しだけほころぶ。
「そう……じゃあ一緒にやる? 手伝ってくれるなら、依頼が終わった後、一食分くらいはご馳走してあげてもいい」
「おぉ、ちょっとどうやって狩ってるのか興味はあるが……でもいいのか? 普段パーティーは組まないんだろ?」
「珍しいですねピピ……あなたがそんなことを申し出るなんて」
目を丸くしたレノンの言葉に、ピピは軽くうなずく。
「なんとなく。あんな小さな子たちも懐いているから、あなたは悪い人ではないと思った」
「ふ~ん……」
チロルやリュカたちも言うほど幼くはないんだが……獣人はどうも混じっている動物のサイズにやや体の大きさが引きずられる傾向があり、そのせいで少し幼く見えるかもしれない。そこを突っ込むと恐らく、また子供扱いしてと俺が悪者にされるので、無難に頷いておく。
それよりも、うまい食事屋の従業員と仲良くできるこの機会、逃す手はない……日々の食事は冒険者の大きな楽しみのひとつなのだ。すぐに仲間たちに承諾を取る。
「お~い、お前らもいいか?」
「わぅ! おいらはいいぞ。美味しいご飯楽しみ!」
「ライラさん……テイルさん、また女の子引っ掛けてますですよ? どうしましょう……」
「仕方ないやつねえ……。私も別にいいけど」
(俺がいつそんなナンパみたいな真似をしたんだよ……)
チロルの奴の心外な言い分は置いておき、全員笑って了承してくれたので、晴れてピピは臨時的にパーティーの一員となる。
「そんじゃ、今日のところはよろしくな」
「きゃほぅ、仲間が増えた!」
「リュカちゃん、先輩さんなのでお行儀よくするです! ……今後ともなにとぞよろしくお願いいたしますのです……」
「ご丁寧にどうも……」
「それはちょっと堅苦しすぎるわよ……。よろしくね、ピピ」
きっちりと向かい合って挨拶するチロルとピピの姿に、微妙な顔を見せるライラ。まあ、人懐こいリュカもいるし、すぐに打ち解けるだろう。
挨拶も済み、いざ出発……というところで俺は大事なことを思い出した。
「ほら、チロル。聞いとかなくていいのか?」
「ふぇ、なにをでしょうか?」
首を捻るチロルに俺はやれやれと肩をすくめた。
「お前、なんのために冒険者になったのか忘れたのか?」
「……ほわっ、そうでした!! お姉さん、もしご存じでしたら教えていただきたいことがあるのですっ! こ、こんな人がここに来たことはありませんか!?」
飛び跳ねながら彼女は受付台に突進し、かぶり付くようにして尋ね人について説明する。気真面目そうなレノンは、それを紙に書き写すとしばし唸っていたが、結局首を振った。
「……ごめんなさいね。少なくともここ二、三年の間でそのような方が訪れた覚えは……私の知る限りですがありません。一応、他の職員にも聞いてみますから、なにかわかったらまたお伝えしましょう」
「……お、お願いしますのです……」
意気込んでいた表情がたちまちしぼみ、チロルは両手をだらんと下げた。
俺はがっかりしたその背中を叩き、レノンに礼を言って受付から離れていく。
「ほら、んなくらいでいちいちしょげてたらキリないぞ。気を取り直して依頼依頼……そんじゃピピ、案内頼むな」
「わかったけど……いいの、あれ?」
「チ~ロ~ル~……元気出せ~。美味しいご飯が待ってるぞ~」
「はぅ~ん……」
なかなか動こうとしないチロルを、リュカが首根っこ掴んで強引に引きずるが、俺はあえて慰めも掛けずギルドを出る。
こんな広い大陸からヒトひとりを見つけ出そうと言うのだから、見つかったらラッキーくらいの気持ちで大きく構えていて欲しい。熱意が本物なら、こんなもので消えたりしないはず。この程度のショックは早く慣れてもらわないと困るのだ。
武器屋ドムリエルの後に訪れた、ハルトリア冒険者ギルドの受付嬢――名札にレノン・ヒ―シュとある彼女は、俺たちの言葉を聞くなり冷たい目をして眼鏡を押し上げた。
「ああ……ちょっと手に入れたいものがあって……」
「――止めておいた方がいいかと思われます」
きちりと頭の上で髪をまとめた気真面目そうな雰囲気の受付嬢は、そのイメージにたがわず、俺の話を斬りつけるように鋭く、途中で否定する。
「仕事を受ける際はご自身の実力を鑑みていただきたいものです。Dランク程度の冒険者にそうそう取って来られるようなものなら、稀炎晶は高値で取引されたりしていませんよ」
目的まで見透かされていたようだ……。おおかたこう言った一攫千金に挑戦する冒険者は後を絶たないのだろうし、うんざりするのもわかる。しかしチロルとリュカのためだ、一応俺も食い下がってみた。
「俺は元Aランクだが、それでもダメか?」
「元Aランクだと言うなら、なおさら認められません。あなたが多少無茶をして押し通せても、他のメンバーはそういう訳にはいかないかも知れないんですよ? 希望のアイテムは手に入れられたが、最後に立っているのはあなただけだった……なんてことにはなりたくないでしょう?」
厳しいが、彼女の言うことはもっともだ。
仲間を残して俺だけが生き残るなんて事態にさせるつもりはないが、魔物の棲み処では最悪を想定するのが基本……くわえて彼女からすれば俺たちは単なる下位冒険者の集まりに過ぎない。遺跡攻略の実績などを話に出しても、信用してはもらえまい。
「魔物はどの程度のランクのものが出るんだ?」
「確認されているだけでも、第一層でCランク・スケルトンソルジャー、同ランク・ベノムスパイダ。第二層ではそれらに加え、Bランクのゴーストメイジ……そして交戦記録はありませんが、リッチがうろついていたという話もあります。第三層以降は潜って帰ってきた者はいません」
俺の問いかけに、レノンは神妙そうに答える。なかなか厄介そうな面子だ。スケルトンソルジャーはまだいいとして、ベノムスパイダはかなり強い毒を持っている。ゴーストメイジは物理攻撃が通用せず、そしてリッチは……俺も戦ったことはないが、魔力と生命力を吸い取って自分の力に変えるという話だ。神聖系の魔法などによる攻撃手段が無いと、まともに戦えもしないと聞く。
「わかってもらえましたか? ギルドからの正式な依頼でもない以上、私がとやかく言う話でも本来はないのですが……いたずらに死亡者を増やすような事態は見逃したくないのです。もしどうしても侵入したいというのであれば、最低でもCランクに皆さんが到達してからにしてください。それでぎりぎり、第一層の探索ならば認め、地図などを手配しますから」
「Cランクか……しばらくかかりそうだな」
どうやら、鉱山周辺は王国軍の見張りも置かれているらしく、むりやり強硬手段を取って侵入することも難しそうだ。
「わかった。あんたの言う通り地道にやるよ……取りあえず今日のとこは、俺たちでも受けられるような依頼をいくつか頼む」
「お預けかぁ……」「でも、安全第一が長く続ける秘訣だと思うのです!」
肩を落とすリュカに続き、なんとなくそれらしいことを言ったチロルに、レノンさんは表情を少し緩めた。
「それがいいと思います。では……DからCランク下位の依頼を渡しますから、しばしお待ちください」
フォルダから数枚の依頼が取り出され、俺たちは揃ってそれを覗き込む。
【E:ハルトリアの街のでの配送業務補助×10 報酬:5銀貨】
【D:ローベルト湖にて聖水の汲み上げ・運搬作業 報酬:人数×8銀貨】
【C:ファイアバードの討伐×10 報酬:1金5銀貨】
「ミルキアとあんま代わり映えしないな~……」
「こらリュカ、文句言うな」
「無理にとは言いませんが、長く滞在されるのでしたら広い街ですから一度とは言わず何度でもご自分の足で回ってみることをお勧めしますよ。では、お気を付けて」
「ああ、助かる……ありがとう、レノンさん」
Eランクの依頼、配送業務補助は彼女からの気遣いだ……しょんぼり気味のリュカを注意し、有難くそれを受け取っておく。
そしてファイアバードの討伐……。あのフリットのジューシーな味わいが口に蘇り、俺は生唾を飲み込んだ。どうもなんとなく縁があるような気がして来たところ、開いた入り口扉の方へリュカが走っていく。
『あっ、ピピだ! こんちは~!』
『どうも……あなたたちも依頼?』
『そうなのです! ハルトリアの街での初依頼……頑張るのです!』
『先輩として色々話を聞かせてもらえると嬉しいわ。よろしくね?』
『ん……よろしく』
俺が依頼の手続きを済ます中、他のメンバーもそちらに向かい囲まれるピピ。
こういったことに慣れていないのか、質問攻めに合う彼女は若干目が死んでおり、困った様子で俺の姿を探した後、ゆっくりと近づいてきた。
「よっ。こないだ言ってた食材の仕入れってやつか?」
「そう。切れた食材は補充しないといけないから……ファイアバードとかね?」
ほらきた、ファイアバード……。
こないだのことを気にしたか……少し申し訳なさそうな顔をするピピはなかなか可愛らしい。
「この依頼か?」
俺がたった今受けた依頼票を見せてやると、彼女は素直に頷く。
「そうそれ。どうせ狩るならついでに稼ぎたいし」
「ふ~ん……だって、レノンさん」
カウンター越しに受付嬢の顔を見たが、彼女は困った様子だ。
「すみません。依頼票、どうやらそれが最後だったみたいで……」
依頼の発注数は発生規模などを考えて、ギルドが判断している。
よって希望する依頼が受けられないことはままあるが……それを聞いたピピの表情はたちまち沈んでしまった。
「そう……それじゃ仕方ない。狩りには行くけど、依頼の方は諦める……」
本当にファイアバードだけを狩るために来たらしく、肩を落として歩き去ろうとした彼女を慌てて俺は呼び止めた。
「ちょっと待て。これが無いと困るんじゃないのか? ……やるよこれ」
書きかけていたサインを消してピピに押し付けると、それは不思議そうな顔と共に押し戻される。
「……なんで? それが無いとあなたたちが困る。受け取れない」
「別に困らん。いや……むしろ受け取ってくれない方が困るな」
「どういうこと?」
意味が分からないと眉を寄せる彼女に、俺は苦笑して答える。
「こないだのアレ美味かったからさ…………また食いたいんだよ、すぐにでも」
すると、ピピの顔が少しだけほころぶ。
「そう……じゃあ一緒にやる? 手伝ってくれるなら、依頼が終わった後、一食分くらいはご馳走してあげてもいい」
「おぉ、ちょっとどうやって狩ってるのか興味はあるが……でもいいのか? 普段パーティーは組まないんだろ?」
「珍しいですねピピ……あなたがそんなことを申し出るなんて」
目を丸くしたレノンの言葉に、ピピは軽くうなずく。
「なんとなく。あんな小さな子たちも懐いているから、あなたは悪い人ではないと思った」
「ふ~ん……」
チロルやリュカたちも言うほど幼くはないんだが……獣人はどうも混じっている動物のサイズにやや体の大きさが引きずられる傾向があり、そのせいで少し幼く見えるかもしれない。そこを突っ込むと恐らく、また子供扱いしてと俺が悪者にされるので、無難に頷いておく。
それよりも、うまい食事屋の従業員と仲良くできるこの機会、逃す手はない……日々の食事は冒険者の大きな楽しみのひとつなのだ。すぐに仲間たちに承諾を取る。
「お~い、お前らもいいか?」
「わぅ! おいらはいいぞ。美味しいご飯楽しみ!」
「ライラさん……テイルさん、また女の子引っ掛けてますですよ? どうしましょう……」
「仕方ないやつねえ……。私も別にいいけど」
(俺がいつそんなナンパみたいな真似をしたんだよ……)
チロルの奴の心外な言い分は置いておき、全員笑って了承してくれたので、晴れてピピは臨時的にパーティーの一員となる。
「そんじゃ、今日のところはよろしくな」
「きゃほぅ、仲間が増えた!」
「リュカちゃん、先輩さんなのでお行儀よくするです! ……今後ともなにとぞよろしくお願いいたしますのです……」
「ご丁寧にどうも……」
「それはちょっと堅苦しすぎるわよ……。よろしくね、ピピ」
きっちりと向かい合って挨拶するチロルとピピの姿に、微妙な顔を見せるライラ。まあ、人懐こいリュカもいるし、すぐに打ち解けるだろう。
挨拶も済み、いざ出発……というところで俺は大事なことを思い出した。
「ほら、チロル。聞いとかなくていいのか?」
「ふぇ、なにをでしょうか?」
首を捻るチロルに俺はやれやれと肩をすくめた。
「お前、なんのために冒険者になったのか忘れたのか?」
「……ほわっ、そうでした!! お姉さん、もしご存じでしたら教えていただきたいことがあるのですっ! こ、こんな人がここに来たことはありませんか!?」
飛び跳ねながら彼女は受付台に突進し、かぶり付くようにして尋ね人について説明する。気真面目そうなレノンは、それを紙に書き写すとしばし唸っていたが、結局首を振った。
「……ごめんなさいね。少なくともここ二、三年の間でそのような方が訪れた覚えは……私の知る限りですがありません。一応、他の職員にも聞いてみますから、なにかわかったらまたお伝えしましょう」
「……お、お願いしますのです……」
意気込んでいた表情がたちまちしぼみ、チロルは両手をだらんと下げた。
俺はがっかりしたその背中を叩き、レノンに礼を言って受付から離れていく。
「ほら、んなくらいでいちいちしょげてたらキリないぞ。気を取り直して依頼依頼……そんじゃピピ、案内頼むな」
「わかったけど……いいの、あれ?」
「チ~ロ~ル~……元気出せ~。美味しいご飯が待ってるぞ~」
「はぅ~ん……」
なかなか動こうとしないチロルを、リュカが首根っこ掴んで強引に引きずるが、俺はあえて慰めも掛けずギルドを出る。
こんな広い大陸からヒトひとりを見つけ出そうと言うのだから、見つかったらラッキーくらいの気持ちで大きく構えていて欲しい。熱意が本物なら、こんなもので消えたりしないはず。この程度のショックは早く慣れてもらわないと困るのだ。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
義妹がピンク色の髪をしています
ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流@3/19書籍発売!
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる