解雇(クビ)にされた細工師が自分の価値を知る【リ】スタート冒険者生活~ちまたで噂されてる伝説の職人の正体は、どうも俺らしい~

安野 吽

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【第二章 第一部】

第十話 ろくでもない男

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 デュゴルさんと会った次の日から俺は、彼のアドバイスを元に、まず低級冒険者向けのアクセサリーを作り始めた。

 今までは自分の腕を最大限発揮する作り方でやっていたが、それでは初めたての冒険者が手に取れるような値段に合う品質にならないことを、デュゴルさんに伝えられたためだ。

 手を掛ける部分を最低限にし、付与する能力を弱めに抑えた物をデュゴルさんの元へいくつか持っていく。

「どうだ……? これなら比較的安価で販売できるんじゃないかと思うんだけど」
「ふむ……悪くないの」

 ルーペでそれらを子細に眺めた後、デュゴルさんは満足したように頷く。

★★★レア 魔銀の指輪(装飾品)》
 スロット数:1 
 基本効果:魔力+10、精神力+10
 追加効果:【魔力自動回復(極小)】

★★★レア ボーンピアス(装飾品)》
 スロット数:1 
 基本効果:力+10、体力+10
 追加効果:【物理耐性(小)】

★★★レア シルバーサッシュ(装飾品)》
 スロット数:1 
 基本効果:素早さ+10、器用さ+10
 追加効果:【視野拡張(小)】

「大体ひとつ辺り10金貨程で買い取れるじゃろう」
「それだと販売額が十二、三金貨ってとこか……? ちょっとEランク辺りの冒険者には厳しくないか?」
「じゃがこれ以上は値段を下げられんぞ。これくらいなら、こつこつやれば手の届く範囲じゃ。なりたての冒険者には心強い旅の味方となるからちょうどええじゃろう」

 これくらいの品質のものなら一日にひとつかふたつは製造できるので、安定した収入源にできるはずだ。

「外側からも見えるよう窓際に置いてみるかの」
「カウンター付近の方が手に取りやすいんじゃないか?」

 俺とデュゴルさんが置き場所を探して試行錯誤するのを、セインはカウンターに腰掛けながらぼんやりとしかし、なんとなく羨ましそうに見ていた。

「どうかしたか?」
「なんでもねーよ……」

 こちらから声を掛けてやると、彼は小さく舌打ちし、つまらなそうな顔をして店を出ていく。

「ジジイがいるならいいだろ、俺ちょっと出てくる」
「あ、おいセイン! 全く……あの聞かん坊め」

 デュゴルさんは額を押さえながらこちらに詫びる。

「すまんな。わしの家系は鑑定アビリティを受け継いで生まれてくる者が多く、わしもあやつの父親もそれで飯を食っておる。じゃが……孫のあやつだけがそれを受け継がずあんな風にヒネてしまってのう」
「ふ~ん? でも、まだわかんないんじゃないの? アビリティは後天的に得る場合が多いし」

 通常スキルと違い、アビリティは自らの才能と行動に応じて習得する。同一の家系で同じアビリティが発現する場合があるのは有名で、単純に同じ物に触れたり行動パターンが似ているからではないかとかいろいろな説がある。習得時期にも個人差があるし、彼はまだ子供だ。そこまで悲観することは無いと思うのだが……。

「それもそうなんじゃが……わしらの家系のものはほとんどが十になる前にそれを得ておるからな。あやつはもう十三になるがそれを授からず、父と喧嘩しこちらへ送られて来た。内心の不満と将来への不安が溜まっておるんじゃろ。気持ちはわからんでもないが、最近あまり治安の良くない場所に出入りしているようで、少し心配での」

 家族にはありがちな悩みだが、なら覚えてもいないアビリティより今現状得ているスキルの方をどうにかすべきじゃないのかと、俺は尋ねた。

「スキルは持ってるんだろ? そっちはどうなんだ? 使いづらいのか?」
「商術というスキルでそれに関しては本人も色々試したらしいが、なんの効果もないゴミのようなスキルだと嘆いておった」
「商術ねえ……俺もよく知らないな」

 字面から商売を有利にするスキルだと予想できるが、戦闘系のスキルでも生産系のスキルでもないこういった特殊なスキルに関しては、俺にも活用の仕方やレベルの上げ方がわからず、アドバイスできそうなことはない。
 デュゴルさんはカウンターに腰を下ろすと、額に指を当てため息を吐く。

「父親はあやつが謝りに来るまで許すことは無いじゃろうし、それならば将来あやつにこの店を継がせようかとも思っておるのじゃが……あれではさすがに任せられん。貴金属関係についてはそれなりに目が利くんじゃが、もっと真剣に打ち込む心を持たねばな。……こんな話をお主にしても仕方ないの。すまなかった……」

 それは俺も同意だ。冷たいようだが、本人からなにか頼まれてもないのに首を突っ込む義理も無い。

 俺も自分が十代半ばだった頃のことなんて、自慢できることなど皆無だ。今思えば無駄なことばかりやっていたから、若い頃なんてあんなものだろうと思う。これからどうなってゆくのかは彼次第だろう。
 
 ――その後デュゴルさんと簡単な打ち合わせをし、店を去った俺はとある場所で足を止めた。商店街の路地裏に倒れている人影に見覚えがあったからだ。

(ありゃ……魔物料理店の、店主か?)

 確か、マジロとかいう名前の男だったか。どうも誰かと喧嘩でもしたのか、顔をひどく腫らして苦しそうに呻いている。

(ピピのことも有るしな……)

 俺は小さく舌打ちすると、男の元に近寄り肩を揺さぶった。

「おい、あんた生きてんのか?」
「ウゥッ、くそ。あいつら……ゲホッ。ここは……?」
「中層街商業区の路地裏だよ。自分のいる場所も分かんなくなってんのかよおっさん、大丈夫か?」
「……うるせぇな。オレは……金が……。そうだ、あんた金を、金を貸してくれねえか。金がっ、いるんだよ!」

 マジロは表情を一変させると、いきなり初対面に近い俺に縋りついて来る。ピピの知り合いでなかったらそのまま蹴り倒し気絶させて放置しているところだが、異様な必死さに思わず聞き返してしまった。

「はぁ!? 金って……なにに使うんだよ」
「増やすんだよ! 時間がねえんだ……頼む!! 頼むって、なぁ!」

 なにかと思えばギャンブルか……? ピピには悪いが、あの店の信用度が俺の中で著しく低下する。マジロは目の前の地面に頭をこすりつけるようにして頼もうとしたが、そんなもの、はいそうですかと渡せるわけがない。

「ざけんなおっさん。真っ当な使い方すんならともかく、増やすって……どうせろくな使い方じゃないだろ。あんた、あそこの店主なんだろうが。従業員を心配させんな」
「従業員……ピピ、か? あいつは……いや、いい。クソが、格好からしてどうせろくに金もねえんだろうが……ハァ、貧乏人に構っても時間の無駄だ」

 言いたい放題言ってふらつきながら立ち上がったマジロは、そのまま背中を向けたが、どうしてか途中で振り返って、俺を強い視線で見つめる。

「お前にその気があんなら、ピピを連れてすぐに……。 いや……お前みてえな小僧に頼ろうなんて、どうかしてたな。あの店には、二度と来るんじゃねぇ。じゃぁな」
(……なんだあいつ)
 
 言葉を途中で止め、捨て台詞を残し肩を押さえて路地裏を抜けていくマジロ。
 妙な必死さが気に掛かったが、わけもわからずけなされただけの俺は気分が悪くなり、損した気分で地面の小石を蹴飛ばした。
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