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1章

愛しい面影

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 元旦の正午、私は家族で初詣に来ている。
母の実家に行くついでに立ち寄った神社は、思っていたよりも混んでいた。



「ほら、由梨香!おみくじ引くよー」



 お母さんに呼ばれ、おみくじ売り場に行く。
おみくじをそれぞれ引いて、せーのの合図で3人同時に開いた。



「あー私は大吉!お父さんお母さんは?」



「お父さん中吉」



「お母さんも中吉だったわー」



 家族の中で私だけが大吉だった。
嬉しくてニコニコしながら、書いてある文章を眺める。

 えーっと恋愛は…待てば吉、と書かれてある。
何を待てば…??
 
 私は、早速透也におみくじの報告をした。



【(私)今年は大吉でしたー】



 手に持ったおみくじの画像と共に送信。
透也の返信は、いつだって早い。



【(透也)まじ!オレも大吉だったぜー】



 文章と共に画像が送られてきたが、おみくじとは全く関係の無い透也の決め顔の自撮り写真だった。
 予想外の画像で、思わず笑ってしまった。



【(私)なんでおみくじじゃなくて自撮りなのさ笑】


【(透也)そろそろ俺の顔見たいかなと思って笑】


【(私)はいはい。ありがとー笑】



 「由梨香、そろそろ行くよー!」



 お母さんに呼ばれ、急いで2人の元へ走る私。
私って透也と話していると、つい周りが見えなくなってしまうんだよなぁ。



「よーし、お母さんの実家に向かうぞ」


「運転、お願いしまっす!」



 道中、お父さんの運転の心地良い揺れのせいで、私はうたた寝をしていた。

 その時に、短い夢を見た。
透也と私が付き合っている、なんとも自分に都合の良い内容の夢。
夢の中で、あぁこれは夢なんだなってなんとなく実感していた。

だって透也が、今まで見た事ないような顔で、あまりにも愛おしそうに私のことを見ているから…。
これが正夢になればいいのに…。

 そんな内容の夢だったが、着いたよとお父さんに起こされてしまった。
 夢の中では透也といて幸せな気分だったのに、夢から覚めて目を開いた瞬間、メガネで無精髭の見慣れた父の顔が目の前にあったからちょっと嫌だった。


 お母さんの実家に入ると、飼っている犬2匹が大歓迎してくれる。
 子犬の時から可愛がっていた2匹も、今では老犬。
 顔面をこれでもかというくらい舐められた。



「わぁ!くすぐったい!元気だねぇ君たち」



 犬たちと戯れていると、お婆ちゃんが出迎えてくれた。



「由梨香、元気してたかい?」


「お婆ちゃん、あけましておめでとう!元気だよー」



 お婆ちゃんに挨拶を済ませ、母方の祖父は私が幼い頃に他界していたので、仏壇に手を合わせておいた。



「ウィース、ばあちゃん、あけおめー」



 そう言いながら入ってきたのは、従兄弟の蓮くん。
私の2つ年上で、昔はよく一緒に遊んでいたっけ。
蓮くんは、私のことを「ゆり」と呼ぶ。



「あれ、ゆりも来てたの、あけおめ」


「あけましておめでとう、蓮くん久しぶりだねー」


「おー、たしかに久しぶりか」


「あれ、1人?叔父さんと叔母さんは?」


「しらん。多分家にいる」



 そっか、とりあえず蓮くんだけ来たのかな?
 叔母さんは私のお母さんの3つ上の姉で、お婆ちゃんの家から徒歩5分くらいのところに住んでいる。
 


「そういえば蓮くん彼女とまだ付き合ってるの?」


「うん、もう3年くらいになるか?」


「いいなぁ幸せそう」



 蓮くんは高校生のときから付き合っていた彼女と、まだ続いているらしい。
 一度だけ会ったことがあるが、めちゃくちゃ美しい感じの人だった。



「そういうゆりは?」


「前の人とは、夏休み中に別れた」


「あははウケる、振られたんだろ」


「ウケるとは何よ!…まぁ振られたけど」



 蓮くんに振られたことを当てられてしまい、ぐうの音も出ない私。



「…でもねでもね、聞いて?私今、めちゃくちゃ好きな人がいるの!」



 大人には聞こえないように小声で蓮くんに教える。



「ガチ!どんな人?」


「もうとにかく顔がまずカッコよくて、優しくてたまに意地悪なこと言ってくるけどすごく私と仲良くしてくれてるの」


「写真とかないの?」


「ある!4人で撮ったやつだけど、この1番右の人」



 そう言いながら、私は柚たちとデートに行った日に撮った写真を蓮くんに見せびらかした。



「うっわまじのイケメンじゃん、これは苦労しそうだね、ゆり」


「そ、そうかなあ?」



 たしかに、頭の良さ的にも透也は一筋縄では攻略できなさそうだけれど…。



「それでね、その人1月25日が誕生日なんだけど、何したらいいかなぁ?」


「ゆりせっかく絵描くの上手いんだから似顔絵描いてあげたら?プライスレスだし」


「…え、嬉しいかな」


「少なくとも俺は女の子からそれ貰ったら嬉しいと思う。それ描いてる間、その子が俺の事ずっと考えてくれてたってことじゃん?」



 たしかに蓮くんの言うことも一理あるな。
あわよくば透也に私の気持ちを間接的に伝えることができるかも。



「じゃあ私、似顔絵描いて渡してみようかな…!」


「うん、頑張って描きなよ」



 透也の誕生日までにどうにか仕上げなくちゃ!
どんな姿の透也を描こうか、ワクワクした。
 透也に私の描いた絵を見せるのは初めてだった。
 喜んでくれるといいなぁ。そんなことを考えていると蓮くんに言われた。



「由梨香!あっちでばあちゃん餅焼いてる!食べに行こ」


「え!食べたいー!」



 みんなでお餅を食べ、改めてお正月を実感する私。
透也も今頃お雑煮とか食べてるのかなぁ。

 全く、私の頭の中はいつだって透也が8割を占めていて困ってしまう。
 透也と話したくなって、連絡してみる。



【(私)透也今何してるの?私はお餅食べたとこ】


【(透也)あ、オレもさっき食べたわ笑
        あんまり食べすぎると太るぞーー!】


【(私)まぁお正月に太るのは仕方ないよね!笑】


【(透也)冬休み終わって由梨香に会っても
      大きくなりすぎてて気づけないかもな…】


【(私)え!ひっど!笑】



 はあ、やっぱり透也から返信が来るだけで心が満たされた感じがする。
 
 …透也はいつまで、こんな他愛もない話でメッセージのやり取りをしてくれるかな?
 卒業したら、パッタリと連絡来なくなったりして。
疎遠になっちゃいそうで、寂しいなぁ。


 中学の卒業時には絶対また遊ぼうねって、連絡するねって言ってくれていた友人だって、実際には何人残っている?

 今に至るまで仲良くしてくれている中学の子達なんて、ほんの一部だった。
 それを寂しいと感じることすら忘れてしまうほど、1度疎遠になると簡単に人の縁は切れてしまうのだ。

 そして私もまた、別の人に無意識に同じことをしてしまっているかもしれない。 
 大人になっても、ずっと仲良しでいる人は本当にひと握りなんだろう。

 もちろん、進学先や就職先での新たな出会いもあるだろう。
 ただ、青春時代を共にした友達は、かけがえの無いものだと思うのだ。


 年明け初の沈む太陽を眺めながら、そんなことをぼんやりと考えていた。

 


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