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第19話『街バル』で街興し2 ー街興しの前準備ー

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[お店としても実行委員としても参加します]

土谷さんにそうメッセージを送ると、すぐにフェイスブックの[バルグループ]に招待された。その[バルグループ]の中には寛和さんもいた。
寛和さんもいつも街の衰退には危惧を抱いていた。

[いつかはやらねばなるまい、、だがしかし、、大変だという思いとの葛藤がありました。お手を上げて頂き感謝いたします。]
のコメントがあった、寛和さんもやはり大分迷ったのだろう

土谷さんから[一回顔合わせをしましょう]というコメントが入ると、すぐさまみんなそれ呼応し、集まることとなった。会場は言い出しっぺで実行委員長となった土谷さんのお店『ハゲみ家』総勢15名のメンバーが集まった。その中には三木の講習に来ていたお店の経営者達もいた。

簡単な自己紹介が終わると、まずは『バル』の名前をみんなで決めた。

「温泉街だからさ、なんか温泉街っぽい名前にしたいよね。」
と土谷さんが言うと、みんな大きく頷く。

「『湯の街バル』とかどうですか?」
寛和さんから提案がでると、みんなからいいねという声が上がる。

「食べ物のイベントなので『ほおバル』とかにしたらどうかと思うのですがいかがでしょう?」
とスタッフの一人が言うと

「なんかリスみたいだけど覚えやすくていいね。」
と土屋さんが言い、店の中に笑い声が響いた。

和やかな雰囲気のまま話は進み、正式名称が『湯の街ほおバル』に決定した。みんな意気揚々としたものだった。
これから行われる街興しの話に胸躍らせ、成功を夢見て、

「凄いことにになっちゃうんじゃない?」
と、口々に言い合っていた。

ところが話も中盤になると現実に突き当たる。広告の方法について話し合う時間になったときの事だ。
この[バルグループ]はフェイスブックだけで集まった寄せ集めなので、どこの団体にも所属していない。したがって、予算がない。何を作ろうにもお金がないのだ。

デジタルはホームページ、フェイスブック、ツイッター、ブログとやることにした。幸いにしてデジタルに強い人間ばかりだし、フェイスブック、ツイッター、ブログはタダ。

唯一お金のかかるホームページも専門の者がメンバーにいることから安価で出来ることになった。しかし印刷物はそうは行かない。金額もけっこうな物になる。売上げから販促物を作るとしても、最初はみんなの持ち出しになる。必要のないものは作ることが出来ない。

スタッフのみんなで最低限何を作るかを話し合った。

「この『バル』というイベントはチケットと交換でドリンクとフードが出てくるって事はチケットは絶対必要でしょ。」

「地図を片手に街歩きをするイベントな訳だから、マップが無いわけには行きませんよね。」

この二つには異論が出るはずもなく、絶対に必要な物として制作することに決まった。

「でも、まるきっり宣伝をしないってわけにはいかないでしょう。」

「広告はネットだけでやればいいじゃん。」

「いやいや、せめてポスターとチラシぐらいは作らないと、、、」
 
議論が白熱する。

「ちょっと見積もりだけでも取ってみますよ」

メンバーの一人が知り合いのデザイナーに連絡するとすぐに金額が来た。それを受け取り寛和さんがすぐに計算に入った。

「チケットはわかりづらいのでこれから五枚綴りのもの表す場合は『一冊』、一枚一枚のチケットを表す場合は『一枚』と表現することにします。
チケットの販売目標は1000冊、5000食分とします。他の街の販売実績とこの街の人口を考えたら、これぐらいは売れると思います。
販売価格は、これも他の街にならい前売り1冊 3,500円。当日1冊4,000円にします。
ほとんどの人が前売りで買うでしょうから、1枚あたりの販売金額は700円になります。とりあえず印刷物はポスター、チラシ、チケット、マップ、あとホームページを作るとして、いただいた見積もりから換算すると、全額を販促費にあてるとしても150円をお店の方からいただく事になります。」

と、寛和さんが言った。

「実質550円でアルコールを含めたドリンクと、食べ物を出さなければならないのかあ、、」

飲食店経営のスタッフが声に出した。そのいい方には“きつい”といったニュアンスが含まれていた。自分に置き換えてみてもそれは感じた。お客様が700円払うということは1000円ぐらいのパンを用意しなければならないだろう。じゃないとお得感は感じられない。

しかし、いただける金額は550円。利益はほとんど出ない。これで本当に参加してくれる店舗があるだろうかと、思わない部分もないとは言えなかった。でもやるしかない。

顔合わせを含めた会議が終わり、最後に土谷さんから挨拶があった。

「この『湯の街ほおバル』成功の為には二つの大きな壁があります。一つは『参加店』を集めること。お料理を出してくれる、お土産を出してくれるお店の数が集まらないと開催は出来ません。

そして、もう一つの壁はチケットを買ってくれる『お客様』を集めること。どちらも大きな壁です。ですが、皆さんと力を会わせて乗り越えて行きたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。」

誰からともなく拍手が起こった。

「まずは最初の壁『参加店』を集めるところからですね。とりあえず、説明会をやりましょう」

と、寛和さんが言うと、土谷さんが

「いいですね。やりましょう。まだまだ『バル』というものがわかってないでしょうし、すみません、柳原さん、その説明会のチラシを作ってもらってもいいですか?」
と言ってきた。

「わ、、、わたくしがですか?」

「はい、パソコンも詳しそうなんで、、」

多分三木がやっていることを自分がやっていると勘違いされてるが、断る訳にもいかず、解りましたと応えた。
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