1 / 1
ケイ
しおりを挟む
「ケイ、もう帰っちゃうの?」
「ん~?」
脱ぎ散らかした衣服の中、自分の分だけを器用に拾い集めながら、まだ甘ったるさを含んだ声音をさせる女に、チラリと視線を走らせる。
もう二度と会うつもりはない。
たまたまよく行くバーで飲んでいたところに、酒を奢ってきた女だった。
目を見れば、『今夜はいける』かどうかくらい、直ぐにわかる。
その後は女の話に適当に耳を傾けつつ、適度に考えられない程度酒を入れ、そのまま猫目が特徴的な、一夜限りの女の家へと、しけ込んだ。
それからは、大人の男女であれば、きっと誰でも想像がつく。
『暗黙の了解』で、部屋に入ってからベッドへ雪崩れ込んだ。
「ねぇ、また会える?」
余程、女側は具合が良かったのか、髪を手で梳きながら、俺にそう尋ねる。
「そんなに楽しかった?」
「ええ、とっても」
「それは良かった」
ニコリと笑えば、明確な答えを返さない俺に焦れたのか、女は口を少し尖らせる。
「バーにはよく行くの?」
「そうだね」
嘘ではない。
ただし、これからはしばらく行かないだろう。
行きつけのバーなら、幾らでもある。
一つくらい使えなくなっても、特には困らない。
「分かったわ」
何を勘違いしたのか、女はひどく満足そうに微笑んだ。
「それじゃ、俺行くから」
「またね、ケイ」
第一、『ケイ』は偽名だ。
女の家から出ると、3月になったばかりの空気は、まだ少し肌寒かった。
汗で張り付くシャツと、それを撫でる外気に、『シャワーを浴びれば良かった』と少し後悔したが、あの女の家でシャワーを借りる気には、あまりなれなかった。
幸いなことに大通りに近いことは、来る途中把握している。
『ケイ』は、ポケットから煙草とライターを取り出した。
一本取り出して、肺まで深く吸い込んだ後、ゆっくりと吐き出す。
タクシーを拾うまで、星さえ見えない真っ暗な道のりを、ほんの少しの不快感と、それから煙草の匂いとともに歩いた。
それが、『ケイ』という男だ。
「ん~?」
脱ぎ散らかした衣服の中、自分の分だけを器用に拾い集めながら、まだ甘ったるさを含んだ声音をさせる女に、チラリと視線を走らせる。
もう二度と会うつもりはない。
たまたまよく行くバーで飲んでいたところに、酒を奢ってきた女だった。
目を見れば、『今夜はいける』かどうかくらい、直ぐにわかる。
その後は女の話に適当に耳を傾けつつ、適度に考えられない程度酒を入れ、そのまま猫目が特徴的な、一夜限りの女の家へと、しけ込んだ。
それからは、大人の男女であれば、きっと誰でも想像がつく。
『暗黙の了解』で、部屋に入ってからベッドへ雪崩れ込んだ。
「ねぇ、また会える?」
余程、女側は具合が良かったのか、髪を手で梳きながら、俺にそう尋ねる。
「そんなに楽しかった?」
「ええ、とっても」
「それは良かった」
ニコリと笑えば、明確な答えを返さない俺に焦れたのか、女は口を少し尖らせる。
「バーにはよく行くの?」
「そうだね」
嘘ではない。
ただし、これからはしばらく行かないだろう。
行きつけのバーなら、幾らでもある。
一つくらい使えなくなっても、特には困らない。
「分かったわ」
何を勘違いしたのか、女はひどく満足そうに微笑んだ。
「それじゃ、俺行くから」
「またね、ケイ」
第一、『ケイ』は偽名だ。
女の家から出ると、3月になったばかりの空気は、まだ少し肌寒かった。
汗で張り付くシャツと、それを撫でる外気に、『シャワーを浴びれば良かった』と少し後悔したが、あの女の家でシャワーを借りる気には、あまりなれなかった。
幸いなことに大通りに近いことは、来る途中把握している。
『ケイ』は、ポケットから煙草とライターを取り出した。
一本取り出して、肺まで深く吸い込んだ後、ゆっくりと吐き出す。
タクシーを拾うまで、星さえ見えない真っ暗な道のりを、ほんの少しの不快感と、それから煙草の匂いとともに歩いた。
それが、『ケイ』という男だ。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
姉の引き立て役の私は
ぴぴみ
恋愛
アリアには完璧な姉がいる。姉は美人で頭も良くてみんなに好かれてる。
「どうしたら、お姉様のようになれるの?」
「ならなくていいのよ。あなたは、そのままでいいの」
姉は優しい。でもあるとき気づいて─
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
蝋燭
悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。
それは、祝福の鐘だ。
今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。
カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。
彼女は勇者の恋人だった。
あの日、勇者が記憶を失うまでは……
友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった
海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····?
友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる