KEY

Iris

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ケイ

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「ケイ、もう帰っちゃうの?」

「ん~?」

脱ぎ散らかした衣服の中、自分の分だけを器用に拾い集めながら、まだ甘ったるさを含んだ声音をさせる女に、チラリと視線を走らせる。

もう二度と会うつもりはない。

たまたまよく行くバーで飲んでいたところに、酒を奢ってきた女だった。

目を見れば、『今夜はいける』かどうかくらい、直ぐにわかる。

その後は女の話に適当に耳を傾けつつ、適度に考えられない程度酒を入れ、そのまま猫目が特徴的な、一夜限りの女の家へと、しけ込んだ。

それからは、大人の男女であれば、きっと誰でも想像がつく。

『暗黙の了解』で、部屋に入ってからベッドへ雪崩れ込んだ。

「ねぇ、また会える?」

余程、女側は具合が良かったのか、髪を手で梳きながら、俺にそう尋ねる。

「そんなに楽しかった?」

「ええ、とっても」

「それは良かった」

ニコリと笑えば、明確な答えを返さない俺に焦れたのか、女は口を少し尖らせる。

「バーにはよく行くの?」

「そうだね」

嘘ではない。

ただし、これからはしばらく行かないだろう。

行きつけのバーなら、幾らでもある。

一つくらい使えなくなっても、特には困らない。

「分かったわ」

何を勘違いしたのか、女はひどく満足そうに微笑んだ。

「それじゃ、俺行くから」

「またね、ケイ」

第一、『ケイ』は偽名だ。

 

女の家から出ると、3月になったばかりの空気は、まだ少し肌寒かった。

汗で張り付くシャツと、それを撫でる外気に、『シャワーを浴びれば良かった』と少し後悔したが、あの女の家でシャワーを借りる気には、あまりなれなかった。

幸いなことに大通りに近いことは、来る途中把握している。

『ケイ』は、ポケットから煙草とライターを取り出した。

一本取り出して、肺まで深く吸い込んだ後、ゆっくりと吐き出す。

タクシーを拾うまで、星さえ見えない真っ暗な道のりを、ほんの少しの不快感と、それから煙草の匂いとともに歩いた。

それが、『ケイ』という男だ。
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