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4話
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「昼飯ってどうする?」
チャイムが鳴った後すぐ足早に教室を後にする者もいれば、まだ慣れない雰囲気に戸惑いを覚えつつも、新しいグループに馴染もうとする者もいた。
俺は、やや後者寄りで。
今日は部会も無いから、部室か外に行っても良いし、クラスのメンバーと食べても良い。
そんな感じだった。
「あー…」
「あ、ごめん。誰かと食うなら別に」
重くならないよう、注意を払って聞いてみて正解だったかもしれない。
友だちだからと言って、毎食をともにする必要も感じない。
ましてや、出会ってまもない間柄なら尚更だ。
今野たちでも誘ってみるか、と携帯を手にした時だった。
「屋上でも行く?」
玲二からの返答は予想外で、そして何故だか、いくらか素っ気なく映って見えた。
「え?」
「ごめん、誰かと予定あった?」
思わず聞き返せば、困ったように眉毛をハの字にした玲二と目が合う。
特にイヤな感じはしない。
「いや、どっちでも」
「そっか」
「そっちは?」
どうしたいとは言わない男に尋ねれば
「俺、いっつも…絵描いてんだよね」
---
「別に良くないか?」
弁当だけでは足りなくて、毎朝貯金を泣く泣く切り崩しながら買う、けれど好物の、いつもの惣菜パンを頬張りながら俺は言う。
「根暗に見えるじゃん」
言葉ではそう返しながらも、気にした様子もなく、キャンバスに鉛筆を走らせていた。
俺たちは美術室に場所を移していた。
そこは、グラウンドの喧騒から少し離れて、春の木漏れ日が心地よく感じられる、ひっそりとした空間だった。
誰も居ない弓道場に少し似ている。
描いた絵は持ち帰っているらしいから、過去の作品は分からなかったが、少なくとも今目の前ででき上がっていく線画と、迷いなく動く道具、それから手捌きは、上手いと手放しに言って、良いように見える。
もちろん、俺の芸術のセンスなど、測った試しなんて無いけれど。
つまるところ、素人目に見て上手かった。
「人のこと、裏で『根暗』って言う奴の方が、よっぽど根暗だろ」
「…そうだね」
しばしの沈黙の後、玲二は肯定した。
「…お前、飯は?」
「あー…、それ」
俺のことも、指を刺した方角にも目を向けず、俺だけ指さされた方に目を向ければ、ポツンとビニール袋が置かれていた。
「…後20分だぞ」
「うん。…5分で食えるよ」
よっぽど直向きなのか、応答の間も手が止まることはない。
俺は腹が膨れたことと、どこからともなく眠気を誘う空間に、自然と瞼が重くなるのを感じて…気がついたら眠ってしまったらしい。
昼休みの終わりを告げる3分前、玲二に揺り起こされるまで、俺が目を覚ますことはなかった。
静けさに呑まれた、「人の気も知らないで」の呟きを、俺は知る由もない。
チャイムが鳴った後すぐ足早に教室を後にする者もいれば、まだ慣れない雰囲気に戸惑いを覚えつつも、新しいグループに馴染もうとする者もいた。
俺は、やや後者寄りで。
今日は部会も無いから、部室か外に行っても良いし、クラスのメンバーと食べても良い。
そんな感じだった。
「あー…」
「あ、ごめん。誰かと食うなら別に」
重くならないよう、注意を払って聞いてみて正解だったかもしれない。
友だちだからと言って、毎食をともにする必要も感じない。
ましてや、出会ってまもない間柄なら尚更だ。
今野たちでも誘ってみるか、と携帯を手にした時だった。
「屋上でも行く?」
玲二からの返答は予想外で、そして何故だか、いくらか素っ気なく映って見えた。
「え?」
「ごめん、誰かと予定あった?」
思わず聞き返せば、困ったように眉毛をハの字にした玲二と目が合う。
特にイヤな感じはしない。
「いや、どっちでも」
「そっか」
「そっちは?」
どうしたいとは言わない男に尋ねれば
「俺、いっつも…絵描いてんだよね」
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「別に良くないか?」
弁当だけでは足りなくて、毎朝貯金を泣く泣く切り崩しながら買う、けれど好物の、いつもの惣菜パンを頬張りながら俺は言う。
「根暗に見えるじゃん」
言葉ではそう返しながらも、気にした様子もなく、キャンバスに鉛筆を走らせていた。
俺たちは美術室に場所を移していた。
そこは、グラウンドの喧騒から少し離れて、春の木漏れ日が心地よく感じられる、ひっそりとした空間だった。
誰も居ない弓道場に少し似ている。
描いた絵は持ち帰っているらしいから、過去の作品は分からなかったが、少なくとも今目の前ででき上がっていく線画と、迷いなく動く道具、それから手捌きは、上手いと手放しに言って、良いように見える。
もちろん、俺の芸術のセンスなど、測った試しなんて無いけれど。
つまるところ、素人目に見て上手かった。
「人のこと、裏で『根暗』って言う奴の方が、よっぽど根暗だろ」
「…そうだね」
しばしの沈黙の後、玲二は肯定した。
「…お前、飯は?」
「あー…、それ」
俺のことも、指を刺した方角にも目を向けず、俺だけ指さされた方に目を向ければ、ポツンとビニール袋が置かれていた。
「…後20分だぞ」
「うん。…5分で食えるよ」
よっぽど直向きなのか、応答の間も手が止まることはない。
俺は腹が膨れたことと、どこからともなく眠気を誘う空間に、自然と瞼が重くなるのを感じて…気がついたら眠ってしまったらしい。
昼休みの終わりを告げる3分前、玲二に揺り起こされるまで、俺が目を覚ますことはなかった。
静けさに呑まれた、「人の気も知らないで」の呟きを、俺は知る由もない。
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