異世界転生 ごくごく普通の私がイケメン『たち』に囲まれる生活なんて信じられません

Iris

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6話

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「ふぅ…」

思わずため息がこぼれたがそれもそのはず。
粗方読み終わったが、大体が夫ジョージ・ルコックの愚痴であり、ばあやであるミセス・クロムウェル、その他メイドのメアリーやタチアナ、エレオノーラの悪口ばかりだった。

やれ政略結婚が嫌だ、クロムウェルが礼儀についてうるさい、メイドは皆私のことが嫌いできっとこぞって悪口を言っているに違いないなど文面を見るに、あくまで私の想像だが、表現するなら「絵に描いたような我儘おじょうさま」が一番しっくりくる。

その友だちのことは信用していたのか、それとも自分のストレスをぶつけても良い捌け口とでも思っていたのか、果たしてこれを交換日記と呼んでも良いかさえ分からなかった。

ちなみに交換日記の相手の名前はイザベラ。
おそらく彼女も貴族のおじょうさま。

けれど、「ねぇベス、ジョージはきっと良い人よ。もう少しお互い寄り添ってみたら?」などと進言しているあたり、少なくとも彼女、いや今は「私」よりも常識人に思えた。

そうそう、大きな発見がもう一つ。
私の名前は「エリザベス」。

ひどく出過ぎた名前のようにも感じられたが、今私がこの世界で生きていくにあたって、与えられた名前がそれなのだから仕方がない。

(当面、欲しい情報は手に入ったわ)

大学時代のバイトで培った、名前を一度聞いただけでうっかり忘れてしまった人と小一時間会話を続ける対処法である、ねぇ、だとか、あの、で話を乗り切ることにもそろそろ限界を感じていた。
何より彼の名前が分かったことも大きい。

…別にやましい気持ちからではない。
彼と一番、これから関わりがあるのであろうから、名前を知っていて損はない。
それに、彼を不安にさせたくはなかった。

この感情に嘘はない。

私は交換日記をパタリと閉じるとともに、今はこの難題と向き合うべきではないと、そっと蓋をした。

(いつ戻れるか、分からないんだもの)

深く知れば知るほど、人が交われば交わるほど失うことが怖くなる。
知らなくても良かったことを知ったとき、覚えるのは後悔だ。

(昔みたいに、戻れたら良いのに…)

学生時分には当たり前のようにできたことが、働くようになって、周囲との関係が希薄になるにつれて、できなくなっていたように思う。

言いたいことや、したかったことが自分からどんどん遠ざかっていく。

失うくらいなら、最初から無い方がマシだ。期待するのは疲れる。

そこまで考えたとき、私は頭を振った。

(ダメダメ、気まで滅入ったら、乗り切れなくなる)

こちらの世界に来れたのだから、きっといつか戻れる。
有難いことに生活には困らないのだから、必要なのことは適応力と精神力だ。

(頑張らなきゃ…)

私は異世界に来ても現実と変わらない激励を私に送っていたのだった。
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