1 / 1
ファストフード店での話
しおりを挟む
「たとえばさ、私が付き合って、って言ったらどうする?」
全国チェーンのファストフード店で、向かい合った座席に気怠く座る、明るい髪をした女は俺のことを胡乱げに見やりながらそう尋ねた。
多分、彼女は俺からの答えなんか気にしていない。
きっとこう答える。
「聞いてみただけ」
ほらな、当たった。
それに、食べ物を口に咥えながらの告白だなんて、情緒もヘチマもへったくれも無さすぎて、たとえ気のある女からであっても願い下げだ。
一気に興が醒めてしまう。
「何、彼氏と別れたの?」
聞きたくもないけれど、聞かないとこの場は動き出しそうにもないから、そう自分に言い訳をしつつ、尋ねてみる。
「ううん」
なんだそりゃ。
じゃあどうして俺に対して、「付き合ってって言ったらどうする?」だなんて聞いたんだ。
舐めるのも大概にして欲しい。
第一『彼氏さん』に対しても失礼じゃないか。
なんだ、『彼氏さん』って。
いくら、幼馴染で家が隣同士で、物心つく前から一緒だった関係とはいえ、とにかく何でもかんでも知り合っている関係とはいえ、少しは気配りというものを、いい加減覚えて欲しいものである。
「だって、最初から彼氏なんかいないもん」
それにそんな居ないものを、あたかも、さも当然のように居るように振る舞われても、こちらだってどう反応したら良いか困ってしまうではないか。
うん、ちょっと待てよ。
「今、何て言った」
「もう、恥ずかしいんだから、何回も言わせないでよ」
ちょっと待ってよ。
大事なことなので2回言いました、ちょっと言い回しを変えて。
その少し頬を染めて、俯き加減で、涙目にしながらチラッチラこちらを見てくる感じは、いやいや圧倒的にズルくないですか?
いくら、何でも知っている関係だとはいえ、そんな顔、人生で初めてみたよ、僕。
一人称が思わず変わってしまうくらい驚いた。
おいおい、こりゃ参ったぞ。
脈大ありじゃねぇか、マジかよ、神様ありがとう、俺生きててよかった、ジーザス感謝感激雨霰。
「え?別に恥ずかしがることなくね?」
俺は、チラッチラッと彼女に視線を送りながらそう答えた。
別に鼻の下なんか伸びてないし。
多分。
「え?そうかなぁ…」
「お、おう。だって俺も彼女いないし」
チラッチラッ。
あーあー、誰か彼女欲しいなぁ。
どこかに、実はコッソリ俺が昔から好きで、最近はちょーっとチャラくなって、なーんか、男の影があるような気がしてて、わりとその寂しかったじゃないけど、確かに俺もツンケンしちゃってたところはあるかもしれないけど、でもやっぱり、お前がいいなぁってさっき分かって、なぁ、俺なんかどう?っていう想いを込めながら。
すると、カッと彼女の目が急に見開いた。
「え?じゃあ、その年で童貞ってこと?!」
彼女のあけすけのないそのワードは、これまた恥じらいのない音量で、店に響き渡った。
え、ちょっと待ってよ。
今日、このセリフ言うの3回目なんだけど。
もう随分前に似たような決め台詞流行ったけど、あれは俗に言うイケメンが発するから世間ウケが良いのであって、俺が発しても何の効力も。
いや、そんなことはどうでもよくて!
ここ、店の中ぞ!
しかも、昼間のファストフード店!
ほ、ほらー、周りの人のチラチラした視線感じるよぉ…
あー、あいつ童貞なんだ、かわいそーみたいな…
哀愁漂ってるわ、みたいな…
漂ってねぇよ、別に…
一体何が全体どうなっているんだ…
俺は、幼馴染にいつものごとく呼び出されて、そしてこれまた、いつもと同じように、何故か有無を言わさない態度に押されて、自然と驕る形になっていた…
俺も、当たり前のように驕ってんじゃねぇよ、だからいつもこいつのせいで財布すっからかんなんじゃねぇか…
第一知り合いが居たらどうしてくれるつもりなんだ、明日からクラスで人権無いどころの話ではない…
くそ…何でこんな奴好きなんだ、おかしいだろ俺。
童貞という名のレッテルに負け、目から涙が零れ落ちそうだ、そんな時だった
「なんだ、仲間だったんだ…」
「え?」
「私もハジメテまだだから恥ずかしくてさ…」
「ぇ」
「友だち皆もう彼氏と、って言ってるから、私も合わせないとさ、女って色々あるし…」
「ぅん…」
「あのね、相談なんだけど…」
彼女は急に顔を寄せ、耳元でこう囁いた
「あげても良いよ。私のハジメテ」
そこから先はあまり覚えてない。
けれど、次の日からも教室内での俺の沽券が保たれたことと、
「今日も一緒に帰ろっ」
欲しかった彼女が手に入ったことだけは、未だに実感はないが、どうやら本当らしかった。
全国チェーンのファストフード店で、向かい合った座席に気怠く座る、明るい髪をした女は俺のことを胡乱げに見やりながらそう尋ねた。
多分、彼女は俺からの答えなんか気にしていない。
きっとこう答える。
「聞いてみただけ」
ほらな、当たった。
それに、食べ物を口に咥えながらの告白だなんて、情緒もヘチマもへったくれも無さすぎて、たとえ気のある女からであっても願い下げだ。
一気に興が醒めてしまう。
「何、彼氏と別れたの?」
聞きたくもないけれど、聞かないとこの場は動き出しそうにもないから、そう自分に言い訳をしつつ、尋ねてみる。
「ううん」
なんだそりゃ。
じゃあどうして俺に対して、「付き合ってって言ったらどうする?」だなんて聞いたんだ。
舐めるのも大概にして欲しい。
第一『彼氏さん』に対しても失礼じゃないか。
なんだ、『彼氏さん』って。
いくら、幼馴染で家が隣同士で、物心つく前から一緒だった関係とはいえ、とにかく何でもかんでも知り合っている関係とはいえ、少しは気配りというものを、いい加減覚えて欲しいものである。
「だって、最初から彼氏なんかいないもん」
それにそんな居ないものを、あたかも、さも当然のように居るように振る舞われても、こちらだってどう反応したら良いか困ってしまうではないか。
うん、ちょっと待てよ。
「今、何て言った」
「もう、恥ずかしいんだから、何回も言わせないでよ」
ちょっと待ってよ。
大事なことなので2回言いました、ちょっと言い回しを変えて。
その少し頬を染めて、俯き加減で、涙目にしながらチラッチラこちらを見てくる感じは、いやいや圧倒的にズルくないですか?
いくら、何でも知っている関係だとはいえ、そんな顔、人生で初めてみたよ、僕。
一人称が思わず変わってしまうくらい驚いた。
おいおい、こりゃ参ったぞ。
脈大ありじゃねぇか、マジかよ、神様ありがとう、俺生きててよかった、ジーザス感謝感激雨霰。
「え?別に恥ずかしがることなくね?」
俺は、チラッチラッと彼女に視線を送りながらそう答えた。
別に鼻の下なんか伸びてないし。
多分。
「え?そうかなぁ…」
「お、おう。だって俺も彼女いないし」
チラッチラッ。
あーあー、誰か彼女欲しいなぁ。
どこかに、実はコッソリ俺が昔から好きで、最近はちょーっとチャラくなって、なーんか、男の影があるような気がしてて、わりとその寂しかったじゃないけど、確かに俺もツンケンしちゃってたところはあるかもしれないけど、でもやっぱり、お前がいいなぁってさっき分かって、なぁ、俺なんかどう?っていう想いを込めながら。
すると、カッと彼女の目が急に見開いた。
「え?じゃあ、その年で童貞ってこと?!」
彼女のあけすけのないそのワードは、これまた恥じらいのない音量で、店に響き渡った。
え、ちょっと待ってよ。
今日、このセリフ言うの3回目なんだけど。
もう随分前に似たような決め台詞流行ったけど、あれは俗に言うイケメンが発するから世間ウケが良いのであって、俺が発しても何の効力も。
いや、そんなことはどうでもよくて!
ここ、店の中ぞ!
しかも、昼間のファストフード店!
ほ、ほらー、周りの人のチラチラした視線感じるよぉ…
あー、あいつ童貞なんだ、かわいそーみたいな…
哀愁漂ってるわ、みたいな…
漂ってねぇよ、別に…
一体何が全体どうなっているんだ…
俺は、幼馴染にいつものごとく呼び出されて、そしてこれまた、いつもと同じように、何故か有無を言わさない態度に押されて、自然と驕る形になっていた…
俺も、当たり前のように驕ってんじゃねぇよ、だからいつもこいつのせいで財布すっからかんなんじゃねぇか…
第一知り合いが居たらどうしてくれるつもりなんだ、明日からクラスで人権無いどころの話ではない…
くそ…何でこんな奴好きなんだ、おかしいだろ俺。
童貞という名のレッテルに負け、目から涙が零れ落ちそうだ、そんな時だった
「なんだ、仲間だったんだ…」
「え?」
「私もハジメテまだだから恥ずかしくてさ…」
「ぇ」
「友だち皆もう彼氏と、って言ってるから、私も合わせないとさ、女って色々あるし…」
「ぅん…」
「あのね、相談なんだけど…」
彼女は急に顔を寄せ、耳元でこう囁いた
「あげても良いよ。私のハジメテ」
そこから先はあまり覚えてない。
けれど、次の日からも教室内での俺の沽券が保たれたことと、
「今日も一緒に帰ろっ」
欲しかった彼女が手に入ったことだけは、未だに実感はないが、どうやら本当らしかった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる