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何人なんだ?!

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引越したとはいえ仕事は変わってない。相変わらず忙しいが任される仕事のレベルが上がった。
2年間毎日勉強して来たおかげかそこそこ上達した英語をいかせとばかりに、海外の提携先から派遣される役員の案内兼接待兼営業の三役をやらされる事に。
それに合わせて海外営業部長に昇進した。
部員は自分1人というお寒い限りだが、肩書きだけでも相手に合わせないとならない事情も分かる。
いつにも増して英語をもう勉強し迎えた初対面の日。
目の前に金がかった茶髪で瞳がグレーで肌が浅黒いデカい男が真ん中にいる5人組が現れた。
その中の真ん中が、

はじめまして、カーターです。 高村さん宜しくお願いします。

と流暢な日本語で挨拶された。

アメリカ人じゃなかったの?ヨーロッパ系なのか?何人なんだ??疑問ばかり。

は、はじめまして高村です。これからよろしくお願いします。日本語お上手なんですね。

そう答えると、

スラム育ちだからね。色んな言葉を少しずつ話せる。

、、、そんなもんか?相当頭良いんだろうな。

日本語に面食らったが、カーターはめちゃくちゃガタイがいい。ちゃんと確認したら203センチ105キロ、アメフトの選手もしてたそうだ。できる事なら横に並びたく無い。俺だって日本人の中じゃ平均だ!と心の中で叫んでおいた。

役員だから短期で行き来すると思いきや、長期滞在というか日本支部長的な立場を作りたいらしく、部屋もホテルじゃなく賃貸で借りているらしい。

カーターさん、とりあえず打ち合わせは予定通り3日後で大丈夫ですか

と確認した。すると、

とりあえずとはどういう事ですか?仮なんですか?その程度の予定だと思ってるんですか?

やられた。ガタイのデカさに気を取られて迂闊な発言をしてしまった。

申し訳ありません。私のミスです。重要な打ち合わせだと認識しています。3日後の午後2時に当社でお待ちしております。

頭を45度下げた。あっちは会社の人間5人。対して俺は1人。馬鹿にしてるように受け取られても仕方がない状況に加えての失言。まずは先制パンチを食らったようなもんだ。
役員の派遣人数に始まって仕入れ製造工場など戦わなくてはならない項目は多々あるのに最初でつまづいてしまったのは痛い。
それを表すように打ち合わせは激しい戦いになったが、通訳をする俺は正に板挟みになってしまった。
親睦を深めようと2人で飯に行っても気まずいまま。
そんな雰囲気のまま2ヶ月が過ぎたある日、昼休みに電話が鳴った。
電話の主は大学剣道部の同期、西浜だった。
出ようか悩んだが、カーターが

昼休みだからご自由に

と言うので出てみた。内容は大学のOB主催の市民大会をやるから出て欲しいというものだった。久々に竹刀を握るのも悪くない。が、今は目の前のカーターという難敵をどうにかしなければならないと思い、主催者の先輩が誰かを聞き、自分でお断りを入れるよと言い電話を切った。
まさかこの電話が運命を変えるとは思ってもみなかったが。

電話を終え席に戻るとカーターから

何の電話だったんですか?楽しそうに話してましたね。

と声を掛けられた。
なぜそんな事が気になるんだろうと思ったが隠す事でもない。

大学の友人から大会に出ないかと誘われたんです。今は仕事が立て込んでるからと断ったんですけどね。

何をやってたんですか?ベースボール?

個人的な事を初めて聞かれた。今みではこっちから聞いても、ノーコメントって言ってたくせに!と少しイラッときたが、

剣道です。子供の頃から少しやってたんです。

カーターの目が大きく開いた。

ケンドー!いいですね!高村は武士なんですね!試合いいじゃないですか!試合見たいですね!

こんな興奮するなんて思ってもみなかったが、確かな欧米はお金持ちに剣道好きが多いとか聞いたかもしれない。ならば、

私が試合に出たら見に来ますか?
都内の体育館借りるみたいなので近いと思います。おいそがしかった

言い終わる前に、

良いんですか!見たいです!いつですか予定空けましょ!

と言うくらいに乗り気だった。
その場で先輩に電話して参加する事と日程、カーターが見学しても良いか確認した。
2週間後の日曜日だそうだ。ほとんどが大学のOBとその友人と先生が参加するという。
カーターの前で恥晒せないなぁ。
少し気が重たい気もするが、それでも久々の大会は心が躍った。

大会当日は朝が早いため家からでも間に合うが贅沢して近くのホテルを取ってやろうと決めた。仕事仕事で休めてなかったから気分転換だ!
そう思っていたんだ、ホテルチェックイン31時間前までは。
防具と着替えだけ持って移動してると電話が。カーターからだ。明日の予定は伝えてあるのに。確認かな?と出てみた。すると、

鷹!明日は朝早いか、ホテル泊まらないか!僕がよく使うホテルが近くにあるから!僕も今日はそこに泊まるから!

なんだこのテンションは。友達か?どちらかというと俺に冷たいのに。しかし無下にも出来ない。まぁホテルここぐらいしか無いから俺もホテルだと伝えたら、分かった!と言うなり電話は切れた。どうしたんだ??

ホテルに着くとカーターが待っていた。
声をかける前に、

鷹、部屋キャンセルしておいた。
グレードアップしておいたからそっちに泊まって!

とルームキーを渡された。が、、、最上階じゃないか、この部屋!
断ろうにも俺の防具を奪い取ってエレベーターに進むカーター。
追いかけるしか無く、そのまま部屋に入るとスイートルーム。剣道の試合しに行くだけでスイート泊まる奴いねーよ!とツッコミたかったが、ぐっと堪え、

カーター、こんな高い部屋は泊まれないよ。こんな高級取りじゃないよ、僕は。

あぁ、大丈夫。もう支払いは済んでるから。

どうしてこんなにしてくれるんです?

僕はね剣道の試合を見たかったし、試合に出る人と知り合いになりたかったんだ!武士だもの!最高さ!鷹と知り合えて最高さ!そのお礼!

興奮して英語やら何語か分からない言語でまくしたててきた。
まぁ、剣道好きなのは分かった。もう一つ気になる事が。

カーターはどこに泊まるんです?

そう。これが気になってた。

カーターは振り向く事もなく、

この部屋さ。ホテルにスイート1つしかないって言うからね。

まじすか。
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