樹属性魔法の使い手

太郎衛門

文字の大きさ
60 / 68
王都魔法学校再入学編

護衛依頼

しおりを挟む
「──そっちはそっちで大変だったね。 しかしさ、そんな友好的な魔族がいるなんてビックリだね」

 そう言いながら、ピュールさんは椅子に腰を深く座り直した。
 ギィと音が鳴る。
 それを見て、ピュールさんの向かいのベッドに座っている俺も居住まいを正した。

 この部屋にはベッドと簡易テーブルに椅子が一脚あるのみ。
 荷物もほとんどなく、殺風景で簡素な造りのここは俺が借りている宿の一室だ。
  
 あのままギルド内で感動の再会を続けるには、周囲がうるさすぎた。
 冒険者の目も気になって仕方ないしね。

 というわけ、会って早々に場所をここへと移したのだ。
 俺の部屋をチョイスしたのは、単にピュールの宿よりも近くにあったからってだけ。

 それと、俺の部屋に来づらいのか、空気を読んだのかは知らないけど、ピュールさんと一緒にいたドンナーとかいう若者は来ていない。
  
「そうなんです。 気の良い奴らばっかりで…まぁ魔族全員ってわけじゃないですけどね」
「ああ…。三王だっけ? よくもまぁ……ヴェルはほんとに人間なのかい?」
  
 俺は転移してからのことを洗いざらいピュールさんへ話した。
 三王の配下と戦い勝ったこと、五年後には再戦が待っていることを。
  
「もちろん人間ですよ? …まぁ運がよかったんです」
「いやいや、 初めて会ったときから人間離れしてたからね。実は自分で分かってないだけで、人間やめてんのかもね!」

 ハハハ!と笑うピュールさん。
 笑いのツボがよく分からない。
 笑えはしないけど、確かにこの世界基準で言えば、人間の領域を越えてるのかな。
 空飛べるし!
 俺は空の王!
  
 ピュールさんには愛想笑いを返しておく。
  
「で、ピュールさんのほうもローブの奴のことは何一つ分からないんですよね? 」
「うん…、五年もあったのにすまない……」
「いえ。 いいんです、いいんです。 そっちはギルドや国も動いてくれているので、見つかるのも時間の問題でしょう」
  
 と、俺は自分で言いながらも、そうは思っていなかった。
 五年経っても手掛かりさえ見つかっていないとピュールさんは言っていた。
 年月が経てば経つほどに、より見つけることは困難を極めるだろう。
  
 しかし、直接的な被害を受けたギルドは動いているが、国は動いているのだろうか?
 ここ数日調べ回ったが、そんな事実はどこにもなかった。
 素振りも見つけることはできなかった。
 ましてや、王殺しの件も既にドライ先生へと責任を転嫁し、真犯人探しなどしていないようだ。

 ドライ先生……ローブの奴……王族殺し……国……。
  
 分かんないな。
  
「どうだろうな…。 とりあえず、引き続きローブの奴と王族殺害事件について調べるよ。 それと、君の師匠のことも探ってみる 」
「はい、宜しくお願いします」
「うん。 ……あのさ、唐突なんだけど、君はもう学校はいいの?」

 そう言うと、ピュールさんは真剣な顔になった。

「というのは?」
「ごめん、言い方が悪かったね。君は、また学校に通いたくないかい?」
「ああ、ええまぁ。 できることなら行きたいとは思いますけど……」
「よしっ、なら俺が手配してやる!」
「えっ? できるんですか?」
「ああ、再入学させてあげる。 ちょっと伝があってね。 だけど、入学にあたり一つ条件というかお願いがあるんだけど、聞いてもらえるかい?」

 ピュールさんは、人差し指をピンと立てながら俺の目から視線を外さない。
 そして俺が「はい」と答えると、真顔になり声のトーンを落とした。

「──よかった。 あのね、君に学校内でのある人の警護を頼みたいんだ」
「警護?ですか?」
「そうなんだ。 今は、ドンナー…えっと、さっきギルドで一緒にいた奴なんだけど、アイツが一人で護ってくれているだ…といっても、この五年で命に関わるようなことが起こったことはなく、目を光らせているだけ、といったとこなんだけどね」
「……では、なぜ俺が? そもそも護衛対象は誰なんです?」

 ピュールさんはそこで一度、口をキュッと結んだ。
 そして神妙な面持ちで再び話を始めた。

「王族殺害事件は全員死亡で目撃者無しなのはしってる?」
「ええ」
「実はあれには……目撃者がいる」
「──え?」
「生き残りがいるんだよ」
「……それが護衛対象ですか」
「そう。 君の、ヴェルのお友達のマホンだ」
  
 俺はこの時初めてマホンが無事にいることを知った。
 ここに来て数日色々調べてはいたが、それは世間に大々的に広まっている話だけだった。
 何故か賞金首にされてしまった俺は、自分の正体を誰に打ち明けていいのかも分からなかった為に、家族のことやピュールさん、マホンのことを詮索することができなかったのだ。

 学校もギルドも信用に足るのか今の俺には調べようがなかったからね。

「マホン…ですか? 自分の身を自分で守れないんですか? アイツ、そこそこやるはずですけど?」
 そんな俺の質問に、ピュールさんはゆっくりと事の顛末を語ってくれた。

 そして、それを聞き終えた俺。
 驚愕の事実に顎が外れそうだった。
 少し外れてたか。
 だってさ、あのマホンが女だってよ?
 誰もそんなん思わないよな。
 イカくせーし。
 それでね、記憶喪失だとさ。
 しかも、俺のことは覚えていないらしい。
 笑っちゃうよな。
 あんなに一緒に死線を乗り越えたのに。
 笑って顎外れそうだよ。
 ああ、悲しき事実。

 そして、そのマホンちゃん?が、事件の生き残りだという情報が一部漏れたっぽいとかなんとか。
 恐らく、記憶喪失の治療に当たっていた医師、もしくはその関係者辺りからだという。
 それもあくまで推測の域ではあるのだけど。
 犯人が記憶が戻る前に口封じをする可能性があるわけだ。

 なぜ、情報が漏れたっぽいなのか?
 なぜ、恐らくなのか?

 それは、主治医も関係者も急に連絡がとれなくなったと思ったら、暫くして遺体で発見されたからだ。
 そして、その死因が殺人だったこと、拷問の痕跡が見られたこと、殺されたのがマホンの治療に関わりのあった者だけということが決定打になった。
 それが事件の犯人による犯行なのかは実際のところ不明だが、恐らく黒。
 それにより、一刻も早くマホンの警備を強化したいというのが父親の意向であった。
  
 一応、ドンナーが警護をひっそりと行っているわけだが、常に目を光らせていられるわけでもなく、しかも、盗賊の一件で父親は早急の強化を願い出たらしい。
 マホンの友人であるピュールさんにね。

 ピュールさんは、バンディートのような大盗賊なみに力のある者に襲われても、それを退ける力が自分にないことは分かっているし、ドンナーだけでももちろん力不足であると思っている。
  
 そこへ仮面ブラックの噂とタイミングよく現れた俺。
 そして三王の話を聞き、何かを悟ったピュールさんだった。
  
「──というわけで、お願いできるか?」
「……はい。分かりました」
「おお、良かった! では、頼んだよ? それと、本人に警護してることがバレないようにね。 嫌がるからさ。  
 ……あ、あと入学の際は『ヴェルデ』ではなく、別人で手続きを済ませておくね。 学校側は、君の師匠が君を入学させたのを知っているから、君が弟子の三人のうちの一人って知ってるだろうからね。学校を全面的に信頼はできないし。けど、事件が解決できれば、後からでも辻褄は合わせられるから──まぁそこは今はいいか」
「分かりました。 ご配慮ありがとうございます。 じゃあ、あの、手続きのときの名前なんですけど──」
  
 それを聞いたピュールさんはニヤリとする。
  
「分かった。 では、それで今から手続きしてくるよ。──じゃあ、早急で悪いんだけど明日から頼んだよ?  あ、それと編入ってことにするから、試験みたいのあるかもしれないけど……まあ君なら大丈夫か」
  
 ピュールさんはそう言うと、席を立ち、俺の肩をパンパンと二回叩き部屋をあとにしたのだった。
しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...