初恋エンジン‼︎ー武蔵社宅の少年少女の日々ー

藤沢 南

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対峙

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   翌日は、37度1分まで熱が引いたが、大事をとって休む事にした。小5になってからでは最初で最後の病気欠席だった。NHKの教育放送をぼんやり見ていたが、目が疲れたので、ラジオをつけてもらうよう母に頼んだ。母は荷造りはすでに一段落していたのか、編み物をしていた。
     午後はモチとりんごを母が用意してくれた。すでに平熱に戻っていた。それでも寝てなさいと母が言うので、僕は仕方なく寝ていた。「孝典、この埼玉に来た時には、もっとよく病気していたのに、本当に強くなったね。」母の声がする。「武田君の事もそうだけど、ここまでいい友達に恵まれたのは、あなたの成長でもあるのよ」僕は、もう耳をふさいでいた。照れ臭い。そして、嫌でもこの第三小学校の友人との別れを意識しないといけないから…。つらくなった。

その日の4時ぐらいだろうか。
「ピンポン、」
うちの呼び鈴が鳴った。「あら…!まぁまぁ…!」
母が突然の珍客に驚いて喜んでいるようだった。変に大声だった。
「はじめまして。5年2組の満川です。」「同じく石坂です」
可愛いランドセルを背負った少女が2人、僕の宿題を届けてくれたようだ。
「それと、昨日、津山くんが借りた本です。2冊、図書室に忘れていたようなので。お届けしました。」
満川が淡々と報告する声が聞こえた。
「まぁ、本当にありがとうございます。孝典は慌て者だから、ごめんなさいね。」
満川は少しだけ表情を変えた。…自分が余計な事を言ったから、津山くんが動揺したのだ。この本を届けるのは、私の義務だ。母は、満川という少女の、真剣な表情を見つめていた。目があった瞬間、満川の視線は、廊下の片側に積み上げた段ボールに移っていた。
「ごめんなさいね、引っ越しの準備で、散らかっていて。…孝典が元気な時に、また遊びにいらして下さいね。」母がその視線に気づいたようだ。慌ててタペストリーで段ボールを隠した。
「おばさま、津山くんは、お熱は大丈夫ですか。」石坂が、こわばった表情の満川に代わり、母に質問した。
「もう大丈夫よ。明日には、学校に行けるから。」
「お大事になさって下さい。」
石坂が、とても上品な感じで母に挨拶して、2人の少女は辞去して行った。満川は、頭を深く深く下げた。その真剣で上品なお辞儀に、母でさえもたじろいだらしい。あとで聞いた。

   帰り道、少女達は僕の住む社宅の敷地から出て行った。「津山くんの社宅、一番遠いよね。」「そうね。」石坂は当たり障りのない話題を選んでいた。僕の社宅があるQ街区を出て行ってから、「津山くんのお母様、キレイな人だったね!」石坂は浮き立つような話題をぶち込んだが、満川はここで初めて口を開いた。
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