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夕景
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「私、津山くんのお母様にお目にかかるのは初めてなんだけど、…うまく言えないけど、前から知っている気がしたの。」
もちろん、津山が満川の弟、孝太君を保護したことは石坂にも伝えていない。満川の母親が、津山の母親にお礼を言いに会いに行こうとしたが、救急車で津山の母が運ばれたところまでは何かの折に母親から聞いた。そして、「津山くんが、悩んだり、困っていたりしたら。話を聞いてあげて。」と満川は母に言われたのだった。でも、彼女は3年生に上がっても、4年生になっても、津山くんと同じクラスになる事はないまま、ようやく5年生で同じクラスになった。よそのクラスから見た津山くんは、あまり悩みもなく、楽しそうに学校生活を送っているように思えた。初めて彼の顔を見たのは2年生の頃。2年3組との合同授業で、第三小学校の中の鎮守の杜へ入って行った。偶然、りんどうの花を見つけた子が、津山くんだった。「この男の子か…。」でも、満川は、その時、津山と話すこともなく、2年4組の仲間の中に戻って行った。
「じゃあね。」
社宅L街区の入口で、満川は石坂と別れた。
「ただいま。」
「お帰りなさい。」
母は夕食の準備をしていた。「侑子、今日は時間ある?」「うん、習い事はない日だけど。」「じゃあ、手洗いうがい終わったら、これこねてくれない?」母にボウルを渡された。今日の夕食はハンバーグのようだった。
満川は黙々とこね始めた。「今日、学校はどうだった?」「いつも通り。」満川家は、こんな感じでいつも学校の事を話し合うようだった。しかし、満川侑子はいろいろと考えて、思い切って母親に話し始めた。
「今日、津山くんが休んで、私が、宿題をお家まで届けに行った。」
母が手を止めた。満川侑子は、たたみかけた。
「満川くんのお母様、結構キレイな人だったよ。でも、色白で、あまり丈夫ではなさそう。」
「…そう。」
母親は迷っているようだった。侑子には確か、昔、津山くんのお母様に会いに行って、会えなかった事を話したはずだ。お礼をいう話は、ずっと満川母の頭にあった。でも、それは、こないだの夜、夫から津山父親に、津山くんへのお礼をしてもらう事で決着がついたはず。迷った末に、満川母は、侑子には何も言わなかった。
「…そう。侑子、こね終わったら、フライパン用意して。手を洗ってからでいいよ。」
「…はぁい」
食器用洗剤でハンバーグの種の汚れを落とした後、彼女はフライパンに油を引いた。
「侑子、ありがとう。もう夕食まで好きにしてていいよ。」
満川侑子は、思い切って母親に打ち明けたが、母親は事務的な対応だった。もう、4年前のあの事は父親同士のやりとりで済ませるようだ。満川侑子は、母親に津山くんへのお礼を託してもらえると思って、敢えて打ち明けたのだった。「お母さんに頼まれたの。4年前のお礼を。」そう言って津山くんにお礼を渡す。そんな場面を想像していた。それなら私も、それに便乗して、彼に何かお別れの品ぐらいは渡せるかもしれない。彼と図書室当番が一緒だった時は、とても楽しかった。御礼ぐらいはしたいし。津山くんが広島に行ってもこれからも友達でいたい。でも、きっかけがない…。図書室当番はあと一回3月に一緒になる。その場所で、自分から何かお礼を渡せる口実が欲しかった。
もちろん、津山が満川の弟、孝太君を保護したことは石坂にも伝えていない。満川の母親が、津山の母親にお礼を言いに会いに行こうとしたが、救急車で津山の母が運ばれたところまでは何かの折に母親から聞いた。そして、「津山くんが、悩んだり、困っていたりしたら。話を聞いてあげて。」と満川は母に言われたのだった。でも、彼女は3年生に上がっても、4年生になっても、津山くんと同じクラスになる事はないまま、ようやく5年生で同じクラスになった。よそのクラスから見た津山くんは、あまり悩みもなく、楽しそうに学校生活を送っているように思えた。初めて彼の顔を見たのは2年生の頃。2年3組との合同授業で、第三小学校の中の鎮守の杜へ入って行った。偶然、りんどうの花を見つけた子が、津山くんだった。「この男の子か…。」でも、満川は、その時、津山と話すこともなく、2年4組の仲間の中に戻って行った。
「じゃあね。」
社宅L街区の入口で、満川は石坂と別れた。
「ただいま。」
「お帰りなさい。」
母は夕食の準備をしていた。「侑子、今日は時間ある?」「うん、習い事はない日だけど。」「じゃあ、手洗いうがい終わったら、これこねてくれない?」母にボウルを渡された。今日の夕食はハンバーグのようだった。
満川は黙々とこね始めた。「今日、学校はどうだった?」「いつも通り。」満川家は、こんな感じでいつも学校の事を話し合うようだった。しかし、満川侑子はいろいろと考えて、思い切って母親に話し始めた。
「今日、津山くんが休んで、私が、宿題をお家まで届けに行った。」
母が手を止めた。満川侑子は、たたみかけた。
「満川くんのお母様、結構キレイな人だったよ。でも、色白で、あまり丈夫ではなさそう。」
「…そう。」
母親は迷っているようだった。侑子には確か、昔、津山くんのお母様に会いに行って、会えなかった事を話したはずだ。お礼をいう話は、ずっと満川母の頭にあった。でも、それは、こないだの夜、夫から津山父親に、津山くんへのお礼をしてもらう事で決着がついたはず。迷った末に、満川母は、侑子には何も言わなかった。
「…そう。侑子、こね終わったら、フライパン用意して。手を洗ってからでいいよ。」
「…はぁい」
食器用洗剤でハンバーグの種の汚れを落とした後、彼女はフライパンに油を引いた。
「侑子、ありがとう。もう夕食まで好きにしてていいよ。」
満川侑子は、思い切って母親に打ち明けたが、母親は事務的な対応だった。もう、4年前のあの事は父親同士のやりとりで済ませるようだ。満川侑子は、母親に津山くんへのお礼を託してもらえると思って、敢えて打ち明けたのだった。「お母さんに頼まれたの。4年前のお礼を。」そう言って津山くんにお礼を渡す。そんな場面を想像していた。それなら私も、それに便乗して、彼に何かお別れの品ぐらいは渡せるかもしれない。彼と図書室当番が一緒だった時は、とても楽しかった。御礼ぐらいはしたいし。津山くんが広島に行ってもこれからも友達でいたい。でも、きっかけがない…。図書室当番はあと一回3月に一緒になる。その場所で、自分から何かお礼を渡せる口実が欲しかった。
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