初恋エンジン‼︎ー武蔵社宅の少年少女の日々ー

藤沢 南

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喧騒

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   翌朝、僕は元気になって登校した。新聞を配る余裕もあった。古河に昨日の配達のお礼を言った。「気にすんな。俺も津山には世話になっている。」過去形で話さないところが、古河の優しさだと受け取った。

   隣の3組がなんだかざわついていた。「武田くんが出て来たんだろう。」そう思って、3組を覗いた。図書委員会の奥寺が出て来た。津山くん、ちょっと…。「どうした。」「こんな落書きが。」
「2組の津山孝典は、2組の満川侑子と1組の保川景子と二股かけている。」
ご丁寧に相合傘まで2組分用意してあった。僕は笑ってしまった。「おい、本人登場だ。」3組のやんちゃな少年が、僕を皆にわかるように大声を出した。「こりゃ贅沢だな。」僕は、怒りを通り越して、自分のノートにその落書きをスケッチし始めた。しかし、落書きは消され始めた。
「津山くんに迷惑だろう!」
なんと、出て来たばかりの武田だった。彼は皆を一喝して、黒板消しでその落書きを消し始めた。その時期に、世に出始めた蛍光色のチョークは、とても消すのに苦労がいるようだった。いつも斜に構えている古河も、武田とともに消し始めた。3組の前黒板、後ろ黒板と、廊下の伝言板まで似たような落書きがあった。
「武田くん、古河っち、ありがとう。」僕は薄笑いを浮かべて、彼らにお礼を言った。特に武田には、肩を叩き、「かっこよかったよ。」と言い捨てて、3組を後にした。奥寺が、心配そうな顔をした。「これ、…先生に言った方が。」「ははは。これも第三小学校の思い出の1ページだよ。」と僕は返して、小柄な奥寺の頭を撫でた。奥寺は「子ども扱いしないで。」とふくれた。

この事件は、満川にも保川にも知らされることは無かった。僕が握りつぶしたからだ。来年も第三小学校にいるのなら、放置もできない。だけど、もう広島へのカウントダウンは始まっていた。僕1人、我慢すればいいこと。

『結構しぶとい。でもこれで、今のあなたの状況がわかったでしょう。さぁ、どちらを選ぶのかな。』

   こんなくだらない落書き事件より、僕の周りにはたくさんの蒔いた種が芽を出してくれていた。それを確認するだけで嬉しい作業だった。そう、いろいろと周りに働きかけて来た事が、2月中旬頃から、形になっていくのを感じた。3組の武田も2月後半に出てきてからは一日も休まなかった。2学期途中に転校して来た3組の奥寺も、図書委員会の司書も助手もこなせるようになった。久保田園長先生とは、週末に僕の家族と武田の家族と交流を持てることになった。武田の顔は、より明るくなった。これで一安心だった。なによりも、彼は落書き事件を勇気を持って収めてくれたのだ。
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