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3月19日日曜 その7
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ゆっこはベンチから立ち上がった。そしてポニーテールの髪を解いた。その瞬間、僕はドキリとした。なんなんだ。この感覚。彼女の髪は優しくなびくロングヘアに変身した。それが色気というものだと気づくのにはあと5年はかかった。当時、僕は大人の世界に染まってしまった部分と、子どものようにウブな部分が同居していた。この相反する二面性は、思春期が深まり、青年期へと至るまでの僕の心を悩ませる事になる。さらに、広島への旅立ち、心が乱れていく要素は限りなく多かった。ゆっこが、その時期に僕のそばにいてくれれば…
「行こう。」
僕は、ゆっこの手を取った。彼女の手は、ためらいながら、僕の手を握り返した。よし。それでいい。デパートのベンチから離れ、僕は彼女を4階のアクセサリー売り場に連れて行った。意外な場所に驚いたが、彼女はためらいながらも付き合ってくれた。
「お母さんに買って行くのね。本当にお母さん思いなのね。いいの選んであげる。」
今度はゆっこがトボけている。僕は握った手に力を入れた。
「いたいいたい。」ゆっこが悲鳴をあげた。
「ゆっこ、しらけること言うなって…。」
「え、どういうこと?」ゆっこは手を振りながら、ドギマギしている。…しかも今、呼び捨てにされた。
「アクセサリー、好きなの選んでくれ。ゆっこが欲しいのを選ぶんだ。」
「え、ちょっと待って、私、お母さんに、ツー君に多目に払わせちゃダメだって言われているの。」
「そんなの黙ってりゃいいじゃないか。俺らだけの秘密を作ろうぜ。」
ゆっこは息を呑んだ。…今度はさっきと立場が逆転している。ここで断ったら、今度こそムードが決定的にしらける。しかもなんか、ツー君が強引だ。いつものおとなしくて紳士で堅実なツー君じゃない。「俺」だし。「ゆっこ」だし。
ゆっこは心を決めた。この強引な王子様と、親にも言えない秘密を作ろう。
「じゃ、このペンギンの顔のついたネックレス。」
「ゆっこちゃんらしい。」
「高くない?」
「ふふ、何度も言わすな。黙ってりゃいいんだ。」
しかし、2000円だった。小学生にとって、決して高くもなく、安くもなかった。夏目漱石のお札が2枚、出て行った。
ゆっこは、ネックレスを首からかけてみた。彼女の栗色の瞳は、喜びに満ち満ちていた。
「かわいいですよ。お嬢さんによく似合っています。」アクセサリー売り場の店員は、たかだか2000円のネックレスを買っただけなのに、万単位のネックレスを買った客と同じ扱いをゆっこにしてくれた。僕はさっきの勢いが失せると急に小心になった。
「…すみません、こんなに大げさにしていただいて。」
「いえいえ、あのお嬢さんが、大きくなって、ボクのお嫁さんになったら、またアクセサリーを買いに来てくださいね。」
そう言って、大柄な年配の女性店員は僕の頭を撫でた。僕はゆっこがお嫁さんになる、と聞いて顔を赤くした。
「かわいい彼氏さん、毎度ありがとうございました。」
「行こう。」
僕は、ゆっこの手を取った。彼女の手は、ためらいながら、僕の手を握り返した。よし。それでいい。デパートのベンチから離れ、僕は彼女を4階のアクセサリー売り場に連れて行った。意外な場所に驚いたが、彼女はためらいながらも付き合ってくれた。
「お母さんに買って行くのね。本当にお母さん思いなのね。いいの選んであげる。」
今度はゆっこがトボけている。僕は握った手に力を入れた。
「いたいいたい。」ゆっこが悲鳴をあげた。
「ゆっこ、しらけること言うなって…。」
「え、どういうこと?」ゆっこは手を振りながら、ドギマギしている。…しかも今、呼び捨てにされた。
「アクセサリー、好きなの選んでくれ。ゆっこが欲しいのを選ぶんだ。」
「え、ちょっと待って、私、お母さんに、ツー君に多目に払わせちゃダメだって言われているの。」
「そんなの黙ってりゃいいじゃないか。俺らだけの秘密を作ろうぜ。」
ゆっこは息を呑んだ。…今度はさっきと立場が逆転している。ここで断ったら、今度こそムードが決定的にしらける。しかもなんか、ツー君が強引だ。いつものおとなしくて紳士で堅実なツー君じゃない。「俺」だし。「ゆっこ」だし。
ゆっこは心を決めた。この強引な王子様と、親にも言えない秘密を作ろう。
「じゃ、このペンギンの顔のついたネックレス。」
「ゆっこちゃんらしい。」
「高くない?」
「ふふ、何度も言わすな。黙ってりゃいいんだ。」
しかし、2000円だった。小学生にとって、決して高くもなく、安くもなかった。夏目漱石のお札が2枚、出て行った。
ゆっこは、ネックレスを首からかけてみた。彼女の栗色の瞳は、喜びに満ち満ちていた。
「かわいいですよ。お嬢さんによく似合っています。」アクセサリー売り場の店員は、たかだか2000円のネックレスを買っただけなのに、万単位のネックレスを買った客と同じ扱いをゆっこにしてくれた。僕はさっきの勢いが失せると急に小心になった。
「…すみません、こんなに大げさにしていただいて。」
「いえいえ、あのお嬢さんが、大きくなって、ボクのお嫁さんになったら、またアクセサリーを買いに来てくださいね。」
そう言って、大柄な年配の女性店員は僕の頭を撫でた。僕はゆっこがお嫁さんになる、と聞いて顔を赤くした。
「かわいい彼氏さん、毎度ありがとうございました。」
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